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自殺しようとしているクラスメートを止めたら、「じゃあ私を抱けるんですか?」と迫られた  作者: 桜 偉村


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第21話 出発前の戯れ

 (かえで)もいつも以上に積極的で疲れてしまったのだろう。

 俺らは風呂から上がると、二人してベッドで寝入ってしまった。


 目を覚ましたとき、楓はまだ眠っていた。

 普段から敬語を使う人間にしては珍しく——というのはただの偏見だが——、彼女の寝相はあまりよろしくない。

 仰向けで寝ている今も、足はあぐらをかいたような状態になっており、シャツがめくれておへそが覗いている。


(やっぱりお腹っていいよなぁ……)


 すべすべとしたお腹の感触を堪能してから、シャツを元に戻してやる。

 あどけない寝顔って見ているとイタズラしたくなってくるよな。気持ちよさそうに寝てるから我慢するけど。


 楓はよく痴女ってくるが、今回のような家に帰ってすぐというのは最近では珍しかった。

 単純に溜まっていたのとテストの結果がお互いに良好であったこともあるだろうが、多分それだけじゃない。


 今日、楓に無理やり迫った一件で停学処分になっていた宮村(みやむら)が転校したという情報が流れたのだ。

 詳しくは聞いていないが、おそらくは通信制の学校ということだった。


 まず間違いなくあれだけの恥を晒したのが要因だろうが、単なる自業自得だ。

 逆恨みされる可能性がなくなってよかったという程度の感想しか思い浮かばないし、楓も心配事がなくなってハイになっていたというのもあったんだろう。


「……にしても、今日はさすがにパワフルすぎたけどな」


 後半はほとんど楓が主体になっていた。

 卓球部に入ってからというもの、積極性と体力がさらに増している気がするんだよな。


「……だとしたら半年後とかヤバそうだな」


 頬が引きつる。楓は部活を辞める気は今のところないと明言していた。

 万が一宮村が復帰してきた場合はやめるかもと言っていたが、転校したためその可能性はなくなっただろう。


 いじめの件はともかく宮村の一件は結構広まっていたためか、逆に過保護にされすぎてる気もしますと苦笑していた。

 部活を見学していると、たしかに大事に扱われていた。


 気を遣われているという側面もあるだろうが、それ以上にある種マスコット的に扱われている感じだった。

 エッチな気分になっていない楓はただの小動物味のある可愛い女の子だし、宮村に絡まれることがなくなってより伸び伸びと部活に取り組めているのも人気を高めている要因だろう。


「ん……」


 楓が身じろぎをした。


「楓、起きたか?」

「んー……」


 頬を突いてみると、喉を鳴らしながら恋人繋ぎをするように指を絡ませてきた。


「ふふっ……」


 薄目を開けて嬉しそうに笑った後、楓は再び瞼を閉じた——俺の手に頬をすり寄せながら。


(ったく、可愛すぎるだろ……!)


 叫び出したいのを必死に堪える。

 寝ぼけている楓って普段より何倍も素直に愛情表現してくるから、本当に心臓に悪いんだよな……。


 犬や猫を飼っている人なら、ソファーに座っているときに脚の上でスヤスヤ眠っている愛犬や愛猫が可愛すぎて立ちあがろうにも立ち上がれなかった経験があるだろう。

 それと同じであまりにも楓が可愛くて、ついでにまるで赤子のようなツルツルぷにぷにな頬の感触が気持ちよくて、手を引き抜こうにも引き抜けなかった。


 体勢がきついので、隣で横になって楓の寝顔を眺める。

 ——眠っている人を眺めながら心が穏やかなで状態ベッドで寝転がっていれば、結果は明らかだった。


「ふわぁ……」


 抗う理由はなかった。

 じわじわと襲ってくる睡魔に身を委ね、俺は瞳を閉じた。




 終業式の翌日——土曜日の午前中。


「おはよう」

「おはようございますっ」


 チャイムを鳴らした俺を、楓は眩しい笑顔で出迎えでくれた。ユニフォーム姿だった。

 別にそういうプレイをするわけじゃないぞ? この後練習試合があるってだけだ。俺も応援に行く予定だ。


悠真(ゆうま)君。本当に来てくれるんですか? 今日の会場、結構遠いですけど」


 楓は俺のことを心配してくれているようだが、それだけではない気がした。


「もしかして、行かないほうがいいか?」

「い、いえ、そんなことはありません! ただその……多分全然勝てないので、ちょっと見られるのが恥ずかしいというか」

「あー、なるほど。気持ちはわかるな」


 俺もできるだけ楓の前では格好良くありたいと思ってるし、向こうもそうなんだろうな。

 でも、楓が試合をしている姿を見たい身としては引くわけにはいかない。


「でもさ、プロになろうとしてるわけでもねえんだから、そんなに勝敗には拘らなくてもいいんじゃね? 勝ったら嬉しい、負けたら反省して次に活かすって感じでさ。少なくとも、俺は楓が頑張って楽しそうに卓球をしている姿が見られればそれで充分だし」

「っ……!」


 楓が唇を噛みしめた。

 それがネガティヴな意味合いでないことは、すっかり熱を持っている頬を見ればわかった。


「応援、行っていいか?」

「……もうっ」


 楓が胸に倒れ込んでくる。ぷくっと頬を膨らませ、不服そうな表情で、


「悠真君はずるいです。そんなこと言われたら、何も言えなくなっちゃうじゃないですか」

「はは、悪い悪い」

「全然気持ちが込もってませんっ」


 楓が上半身をあちこちつねってくる。痛くはなかった。


「込めたつもりなんだけどな」


 頭を撫でてやると、膨らませたままだった頬が風船から空気が抜けていくように緩んでいった。

 不満を表したかったのに笑みを浮かべてしまったからだろう。透き通るような白色を取り戻しつつあった楓の頬は、再びグラデーションのように赤く染まっていった。


 潤んだ瞳で睨みつけてくる。


「……まったく、すぐそうやって誤魔化すんですから」

「っていう割には、頭撫でられるの拒まないよな」

「っ……もう〜!」


 楓がやり場のない感情を発散するように、頭をぐりぐり押し付けてきた。


「し、仕方ないじゃないですかっ! 悠真君に触ってもらうの好きですしっ、すごく幸せな気持ちになれるんですから!」

「っ……!」


 ヤケクソではあったが、いや、だからこそ楓の本心であることに疑いの余地はなかった。

 俺の心臓は容易く撃ち抜かれてしまった。


 楓にも、俺の動揺は伝わったのだろう。

 赤面しつつもニヤニヤと笑いながら頬を突いてくる。


「あれ、悠真君。顔が赤いですよ? お熱ありますか?」

「な、ないから安心してくれっ」

「でも、耳まで真っ赤ですよ? これは一度お熱を測っておきましょう」


 楓の顔が接近してくる。

 彼女は俺のおでこに自分のそれを押し当て——、

 そのまま唇を押し付けてきた。


「なっ……!」


 チュッというリップ音を立てた彼女は、イタズラが成功した子供のように笑って、


「奇襲成功ですっ」

「勘弁してくれ……」


 怒涛の攻撃に心臓がもたず、俺はソファーに崩れ落ちた。


「あれれ、悠真君? 大丈夫ですか?」


 楓が含み笑いをしつつ顔を覗き込んでくる。

 普段よりもかなり積極的だ。自分の攻撃が面白いように決まって調子を良くしているのだろう。


 ベッドの上では負けているのだ。平場まで負けてたまるか。

 妙なプライドを原動力に、俺は上半身を起こすや否や背後から楓を抱えてソファーに座った。


「ずいぶんとおちょくってくれたな楓さん」

「ひゃっ……!」


 ユニフォームの中に手を差し入れて脇腹をさすれば、楓は可愛らしい声をあげた。

 途端に顔を真っ赤にしてぷるぷる羞恥に震えるので、少し溜飲が下がった。


 このままあんなところやそんなところも触りたいが、やめておこう。

 さすがに練習試合前に本番をするわけにはいかないからな。


 邪な気分には蓋をして、脇腹からおへそまでを往復する。

 お腹の柔らかくしなやかな感触を堪能していると、楓が振り返った。


「お腹なんて触って面白いんですか?」


 俺が変なところに触る気配を見せないからだろう。

 口調はやや落ち着きを取り戻していた。


「面白いというか、気持ちいいって感じだな。すべすべだし、見た目よりも筋肉あるから柔らかさの中にも押し返してくる強さが感じられるし……」

「見た目よりも筋肉あるのは悠真君もですけどね」


 楓が膝の上でモゾモゾと動いた。

 体勢を斜めにして、腹筋に触れてくる。


「私と違って硬いです……筋トレはしてないんですよね?」

「おう」

「そのわりには薄っすら割れてません? 腹筋」

「どうだろう。割れてるっていうより痩せてるから浮き出てるって感じじゃねえかな」

「あっ、なるほど」


 楓はその後、服の中に手を入れて胸筋に触れてきた。

 こっちも意外と分厚いですよね、などと嬉しそうに指で押し込んでくる。


 そういうことができない今、俺は彼女の胸を触るわけにはいかないため、代わりに背中に手を回す。

 楓も同じようにしたため、自然と抱き合う体勢になった。


「幸せだな……」


 ポツリとつぶやけば、楓はポッと音がしそうな勢いで頬を染めつつも口元を緩めてうなずいてくれた。

 彼女への想いが限界突破したため、衝動に従って力強く抱きしめる。


 楓の腕にも力が入った。俺の首筋に顔を埋めてきた。

 頭に頬を寄せると、彼女はくすぐったそうに小さく笑った。


 出発時間になるまで、どちらも離れようとはしなかった。


「……そろそろだな」

「そうですね……」


 お互いに名残惜しいのがバレバレだった。

 俺たちは顔を見合わせて笑い合った。

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