28話 凱旋の足跡と預言者の知恵
「昇級?」
「ああ、まあ昨日の戦いを考えれば不思議なことでもない」
外界の侵略者との激戦とメリャンコラのステージという二大イベントのあった日から一夜明け、ヒカリたちはアーユグラにある傭兵ギルドの中で昨日の戦いの報酬関係の話をしていた。
「初めは金貨も大量に受け取るはずだったが、エラヴロからの依頼金とカレスデルフとの和解金で十分な実入りができたからな。その代わりと言ってはなんだが、君の階級をより早く上げるよう話を付けておいたんだ」
「ヒカリさんはつい先日ドゥナダスの街中に現れた魔獣を倒した件の功績で下級から三流になることが決まっていましたが、今回の戦いにおける功績と確認できる限りでのヒカリさんの強さを考慮して、今回の分でなるはずの中級を一段飛ばして、二流にまで昇級させる異例の措置が取られることになったのですよ」
「(あ、そういえばこんな人居たわね)」
※
《へー》
《どれがどれ?》
《日本語でおk》
《異例の昇格スピードは主人公の特権》
ドゥナダスから同行しているギルド職員も含めて詳細を聞くことになったヒカリは、ドゥナダスの件は正確に言えば傭兵になる前にやったことなのだが、その後で登録した自分に昇級が適用されていいのかという少しズレた部分が気になっていた。
そして今まで始まりの階級である下級であった彼女、ドゥナダスの件で一つ、今回のアーユグラでの戦いで二つ分、計三つ分の飛び級を果たすことになったようだ。
二流といえば、七つあるギルド傭兵の階級の内ちょうど真ん中に当たるところであり、一般的には普通の常人がここまで辿り着ければ、貴族等の上流階級の依頼を受けることもあるかなり箔の付いた地位と言われている。
それにギルドへ登録してからたった数日しか経ていない時期になってしまうことは異常なことなのだが、当のヒカリ自身はそんなことを知りもせず、知っていたとしてもどうでもよいという心境は変わらなかっただろう。
「じゃあねヒカリさん! イズナちゃん! ラブちゃん! アダムちゃん! 今度はミレスターにまでぜったい私に会いに来てねっ☆」
「もちろんよ。いつか必ず行かせてもらうわ」
「呼び方がおかしくないか?」
※
《またねー》
《次のライブいつですか?》
《アダムちゃんは草》
《パイセンちゃんwww》
ギルドに訪れた後にヒカリたちは先に街を発つメリャンコラたちとの別れを済ませた。
彼女らはいわゆるワールドツアーのような活動の途中だったらしく、赤翼大陸のミレスターから始まり北東に海を越えてこのアーユグラへやってきた。
次はまた北側へ海を越え、黒鱗大陸のグランリーゼ王国の人々に歌を届けにいくらしい。
ヒカリたちはまたいずれ彼女と巡り会い、その歌を聴く日を楽しみに思いながら出立する一行を見送る。
そして彼女らもまた疲れの残る体を押してドゥナダスへの帰路についた。
「フムフム、アレがあのお方がおっしゃっていた”特異点の一つ”……確かに興味深い。なかなか面白くなってきましたなぁ」
*
帰り道の四日間、彼女たちの乗る馬車は特段何にもその歩みを阻まれることなくドゥナダスがある火山地帯へ到着した。
道中の三日目に小さな魔獣が一匹ほど現れはしたが、どこか以前よりも調子がよさそうなアダムが文字通り一瞬で処理してしまった。
イズナの体調も二日目には完全回復。
ヒカリがノアへと頼んで撮影してもらい、彼女の持つタブレットへ転送したメリャンコラのステージの映像をエラヴロと共に見返すなどして、笑みを浮かべて骨を折った甲斐があったというような様子を見せていた。
「それにしても驚いたっスよ。まさかヒカリさんが別の世界からやってきた人だなんて! おとぎ話でもそんなの聞いたことないっス!」
「教えてもよかったのか?」
「私の来歴くらいならいいんじゃない? 別に知られたって不都合ないと思うけど、ねぇ預言者さん?」
※
《預言者:そうだな、私としても特に異論はないよ。君が伝えてもいいと考える相手になら構わないだろう》
「いやぁ通りでどこか浮世離れしてるような雰囲気があると……もしかして元いた世界では割とやんごとなき身分のお嬢様だったり?」
「あはは、そんな大層なものじゃないわよ。まあ両親は二人とも世界一尊い存在ではあるけど、立場自体はいたって普通よ」
※
《でた親コン》
《好きすぎやんwww》
《さすがに親側はウザそう》
《こいつの親がそんな許容量少ないわけないだろ》
ヒカリは依頼主と傭兵という関係だったはずのエラヴロともすっかり友人のように親しげに接している。
彼はメリャンコラのステージを生で鑑賞したことで、まるで人生最大の目標を達成したかのような、歓喜と幸福の感情が傍目から伝わってくるほどに満ち足りた様子になっていた。
そのおかげかどうか、それ以前まで存在した彼の方から他者との間に一線を引いたような緊張というべきか、半ば無意識なのだろう精神的な隔たりらしきものが完全に消え去っていた。
だからこそヒカリたちに対して遜ったり過剰にしない、いい意味で言葉を選ばずに話すようになったことで、彼女らもようやくこの男と正しく友人として接するようにしたのだった。
「やっと帰ってきたわね〜……改めて考えると、この世界に来てからは、まだ短い間とはいえ街の中にいる時間より外で移動してる時間の方がずっと長いわよね……傭兵ってのも忙しい仕事だわ」
「普通の傭兵は仕事で他の街に遠出するなんて滅多にないっスよ。一度でも魔獣に出会したらほとんどの場合おしまいっスからね……小さいやつでも魔獣を倒せるってだけでそうじゃない人とは扱われ方の丁重さが別格っていうか。そういう人の中には都市や国の間を移動するための護衛を専門にする、どこにも定住しない風来坊みたいな生活をしてる傭兵もいるって聞いたことあるっス」
「ふぅん。じゃあアダムとトリィって結構偉いのね」
「君も既に同じようなものだろう」
※
《そういえばそうね》
《よく考えると街同士で離れすぎじゃね?》
《↑できる限り魔獣が寄ってこない立地じゃないと住めないから仕方なくこうなってるらしい》
《はえー》
《思ったよりシビアな世界や》
《パイセン照れてるなこれww》
そうして彼女らは以前初めてやってきた時のように九日ぶりにドゥナダスの門を抜けて帰ってきた。
街道を進むヒカリたちは以前と比べれば静かなものだが、手を振ったり声をかけてくる住民たちに応えながらギルドへ直行。
そこで依頼主のエラヴロを交えてアーユグラで起きたことについての会議が開かれた。
彼女らはガルムボーグやバロンダルクの存在を、「正体不明で人間と同等の知性を持つ強大な魔獣」として報告する。
二体がこの世界を滅ぼそうとする存在によって送り込まれたのだという事実は、世界中の人々が実感としてそんな状況を信じられる準備ができていないという預言者の考えによって今はまだ明かさずにおくということになった。
しかし上記の特徴を持つ魔獣というだけでも非常に脅威的な存在であることには変わらず、このことは傭兵ギルド・ドゥナダス支部局長のダイーノ・カンザンが責任を持つ案件として、四大陸にある全てのギルドとそこに所属する傭兵にこの情報を共有することになった。
そのための連絡はある魔術的に作り出された道具によって行われる。
それは遠く離れた地にある、事前に相互の繋がりを設定されたもう一つの端末と触れている紙に、こちら側の端末の紙に書かれたものと同じ文字を複写するという機能の魔道具だった。
これはドゥナダスから最も近いコールズという街との連絡にも半日ほどと時間は掛かるのだが、街から出ることなく多くの街や他国と安全に情報のやり取りができるということで、生産されるものは全て国が厳重に管理しているほど重要な道具だった。
ほとんどのギルド職員はこれからしばらくの間数多くの国との連絡のため、寝る暇もない極めて多忙な日々を送ることになるだろうと容易に察せられたことで、大半の職員は今から既に顔を青ざめさせていたのだが、ヒカリたちにできるのは内心で彼らに同情と励ましの念を抱くことぐらいだった。
「それじゃあ俺はこの辺で! みなさんほんとにありがとうございましたっス! この恩は一生忘れないっス!」
「そんなに大袈裟に言わなくていいわよ。同じ街に住んでるんだから、ナツィラに来ればいつでも会えるし。まああなたも元気でね」
そうしてギルドを出たところでエラヴロとも別れることになった。
「ヒカリちゃんお久々ー! バタバタしてたと思うたらあっという間に出かけてしもてずっと帰ってこおへんから寂しかったわー!」
「ただいまユリさん。今日からしばらく遠出する予定はないから安心してちょうだい?」
改めて思い出すとまだ二日しか泊まっていない内から依頼で街を離れたせいでまだ馴染みきれていない旅館へ帰り、実に九日ぶりに顔を合わせる客人に飛び付いてくる店主のユリカ・ランと接したりもした。
「さてと、まずはおかえりヒカリちゃん。初仕事、どうやら特に問題なくやり遂げられたようでボクも安心したよ」
「ありがとうトリィ。確かに大事ないのだけど……そういえば貰った衣装がボロボロになっちゃったのよね。MDさんごめんなさいね?」
※
《M/D:なんとなくこうなる予感してたから気にしてないよ!送ってくれたら直すし!また他のも着てください!》
《久しぶりのトリィや》
《やさしい》
《聖人や》
《別衣装も期待してます!》
旅館に寄った後ナツィラへとやってきた彼女らは、青い髪と体毛の四足歩行獣の下半身を持つヒカリたちと同じ傭兵のアトリエルの歓迎を受けた。
この店にいた期間は非常に短いはずだが、ヒカリにとってここは自分の世界を救う使命が始まった場所として少なくない愛着に近いものがあるようだった。
そして彼女が久々のアトリエルの毛並みを堪能したりしているうちに、店に数枚の書類を持ったランドロックも入ってきた。
「おう帰ってたか! お前らのところはなかなか面白いことになってたみたいだな!」
「まーね。そっちも随分忙しかったみたいじゃない。ギルドに行った時に聞いたわよ」
「ドゥナダスがある火山地帯の外周と言うべきか、街に近くはなくとも決して無視できない微妙な距離に何匹もの魔獣が断続的に現れてね。それを討伐するためにこの九日ほどボクやロックはあっちこっちへ行ったり来たりさ」
「俺サマはそのおかげで新兵器の実験台にゃ困らなかったんで文句はねぇがな!」
※
《おっロックやん》
《なんや嫌がらせみたいやな》
《さらっと魔獣倒しまくってて草》
《つよい(確信)》
《新兵器みせて》
預言者が明かした真実を知る者たちが揃ったところで、ヒカリたちはアーユグラで起きた出来事、現れた侵略者たちの正体等についての情報を二人にも伝えていった。
「ほぉ、例の世界の破滅ってやつはその世界の外から来るバケモノどもによって引き起こされるってのか」
「しかも話を聞く限りじゃ、恐ろしい能力を持つその子たちですら沢山いる神の眷属の一人に過ぎないってことだよね……どうして今回はその二人しか来なかったのかな? そしてその神とやらはどうして直接攻めてこないんだろう?」
※
《預言者:いい機会だからここで君たちの疑問にはいくつかちゃんと答えよう。先ず敵の大元となる神がこの世界へやってこないのは、其が外界の中でも最も遠く深い場所、全てが闇に染まった暗黒の深海の底から上の世界へ昇ってこようとは一切しないからだ。おそらくほんの僅かでも自分と対極の概念である光を浴びたくないからだと考えられる》
《ほーん》
《俺より根暗で草》
《それ平たくいえば引きこもりでは?》
《手下だけ送り込んでくるのキモいなw》
彼女らは預言者の言葉によって語られるいつか訪れる破滅の正体を知らされる。
字面からでもその神が自身にとって最も適した領域から出てくることのない性質を持っているのは分かるが、それがなぜこの世界を滅ぼそうとしているのか、さらにガルムボーグの口振からして、どうしてヒカリの元いた世界すら認識し狙っているのかと彼女らの知るべきことは山ほどあった。
※
《預言者:そして今回あの二体だけが現れた理由だが、はっきり言ってしまうと私にもわからないんだ。簡単に説明するが、この世界はある程度の高さの上空から四大陸を、その周りの海ごと覆い隠すようにある大規模な封印の魔術が施されていてね。その外側では封印を守るために日々戦っている者たちがいて、それらの目を潜り抜けた上で封印を破って侵入してくるというのは先ず考えられないことのはずなんだが、私は外側の様子を観測することはできないから、悪いが何故こうなったのかという疑問に答えることはできない》
「ふむふむ……とりあえずなんだけど、あなたにも他に世界を救うために協力する仲間がいたのね」
※
《預言者:彼らの大半とは会ったことすらないよ。あくまでも世界を守るという大義の下に己の役割を全うしている者同士という関係でしかない》
「お互い損得勘定なんかを捨てて同じ目標に向かって頑張ってるってことでしょ? それなら十分仲間だって言えると思うわよ」
※
《預言者:なるほど、いつかこの戦いに終止符が打たれて世界を覆う封印が解かれる日がやって来たら、彼らと直接顔を合わせてそれを確かめることにするよ》
「素直になれない人ねぇ。今は私だってそうなんだからね? つまりあなたの仲間とは私も仲間! その時は私も一緒に会いに行かせなさいよ! あと名前も教えなさい!」
※
《なんかエモくね?》
《初めて預言者に人間味感じたわ》
《これには関係値好きなワイもにっこり》
その何気ない短い会話から、ヒカリは預言者に知恵と知識に富んでいながらも、人としての生き方に不慣れというちぐはぐな一側面があるように感じ取っていた。
そんな彼が口ではドライな関係であるように言う外界で世界を守るために戦う者たちへ、少ないようには思えない程度の感情を向けているところを見るとどうにもむずがゆいような親近感が湧いてきて、本来の話題とは少々脱線しつつも積極的に話しかけようという気分になっているようだった。
「……おほん!」
「よう、親睦を深めるのもいいけどよ。おめぇからは一番肝心なことをまだ聞いちゃいねえと思うがな」
そんな彼女らの会話は、それを周囲で静かに見守りつつもいい加減本題を進めたいと、痺れを切らしたアダムの咳払いとランドロックの遠慮のない物言いで中断された。
「なにをかしら?」
「そりゃおめぇ、世界を守るって大目的は分かったがよ。俺サマたち、特にこのヒカリは具体的に何をすりゃいいってんだよ?」
「あー……確かに気になる」
「仮に今回と同じように定期的に侵略者たちがこの世界にやってくるとして、察するにそれをまた同じように返り討ちにしているだけじゃ破滅を防ぐことはできないよね? まだこれからどれだけ大きな戦いが起こるのかもわからないボクたちだけど、預言者さんにはこの戦いに決着をつける方法を心当たりだけでもいいから聞かせてほしいな」
※
《預言者:とりあえず世界の破滅を防ぐことができたと確実に証明する方法はないと言っていいだろう。例の神が手を引くための条件がわからないからな。殺戮王たちを全員始末すれば可能性はあるかもしれないが、過去に彼らが倒したこともあるから絶対とは言えないな》
「だれそれ?」
※
《預言者:例の神が侵略のため遣わした四体の眷属の総称だよ。虐殺王サガボディス。暗殺王ヴェラ・モルトゥス。爆殺王ゴガギエル。呪殺王チョーハーカ。これらが今この世界へ侵攻している闇勢力の最高指揮官とでも言うべき存在だ。先日戦った二体はサガボディスの眷属だな》
《へえええ》
《四天王じゃん!》
《敵幹部キターーー》
《我らの中でも最弱なのどれ?》
《手下が噛ませだったしサガボディスでしょ》
「そいつらを倒せばいいわけ?」
※
《預言者:いずれはね。だが現時点での君の力ではまだまだ手が届く相手ではない。そこで思い出してほしいのだが、君が以前ノア君と話した内容は覚えているかな?》
「前に話したこと……」
預言者に促されてヒカリはノアから初めてこの世界に訪れる破滅の存在を聞かされた日のことを思い返す。
その中で自分の力で闇の勢力との戦いで勝敗を分ける鍵になる何かの情報がなにかあったかと記憶の山を掘り起こしていく。
「あ……」
そうして思い至った一つの可能性。
そうだという確証はないものの、もしそれが本当に実現する未来のことならば確かにと得心を覚えながらそれを口にする。
「私が、神様になること?」
※
《預言者:正解だ。やはりノア君にはある程度教えておいてよかったよ。まずこの世界において人間が人智を超えた上位存在となる方法は、意外だろうが複数ある。魔王への昇華、龍への変質、超越種への進化。それぞれの方法が全く異なる力をもたらし、それ以前とは文字通り次元の違う強さを手に入れられるのだ》
「そんなことが……」
「つまり、私がそのどれかになればいいってことか……」
※
《預言者: いや、全部やろう》
「え?」
※
《え?》
《ゑ?》
《ヱ?》
不意を打たれた驚きを示すその響きは、預言者の話を聞いていた全員の声が重なったものだった。
人の域を脱し超常的な存在になる方法。今の簡潔な説明を聞いて考えられる限りでは、一つの方法でいずれかの存在へと変化した後は他の方法を使うことはできないと想像することができた。
「こういうのって一つやったら終わりじゃないの?」
※
《預言者:普通の人間ならばそうだ。しかし私としても完全に想定外でね。こればかりは奇跡としか言いようがない。君がこの世界にやってきてから直接観察させてもらって初めて分かったのだが、君に限って先に述べた三つの方法を全て同時に行える条件が、本当に奇跡的に揃っていたんだよ。ある時までは現実的ではないと考えていたんだが、できてしまうのだから全部やってやるべきだろう?》
《なんか草》
《それはそう》
《その条件を言えよ》
《そうかな…そうかも…》
《これは面白くなってきましたwww》
「……あっははははは! いいじゃないの! あなたも案外面白い人ね! いいわ、一度やると決めたことは絶対貫き通す! 魔王だろうと龍だろうと神だろうとなんにだって成ってやるわよ!!」
「……大丈夫、なんでしょうか」
「とりあえずは預言者に悪意らしきものは感じられないかな」
「まあなんとかなるだろ! こういうことはいちいち頭捻っても前には進めねぇからな。立ちはだかる壁を越える一番手っ取り早い方法は力ずくでぶち破ることだ! あいつならそいつで最後までやり切れちまうだろうさ」
「そう、かもしれんな……」
未来の自分が一体どんな生き物になっているかもわからないというのに、自身を取り巻く状況を嵐のように揺れ動かす情報量に対してむしろ楽しむようにヒカリは笑みを浮かべていた。
一方アダムたちの方は未だに預言者の言動を信じ切れない部分もあり、目の前にいる少女に待ち受ける運命が彼女をどのような存在へと変えてしまうのかと憂う感情を禁じ得なかった。
しかし同時に彼女ならあるいは、どんな無理難題や過酷な戦いもその素質と自信で難なく乗り越え、いずれ本当に世界を滅亡の未来から救う女神へとなってしまうのではないかという、期待感や神秘性、そしてわずかな恐れも含めた畏敬のような感覚も覚えていた。
「で、どうすれば私は進化できるのかしら?」
※
《預言者:それは進化すべき時が来たら伝えよう。今君は世界を守りながらただ思いのままに生きて力と精神を磨くことだ。それが一番自然な形で進化への準備を整えることに繋がるからな》
「ふぅん。じゃあしばらくこの話の続きはお預けってことね」
※
《ノア:盛り上がってるところ悪いが御山さん。今回の仕事を始める時この配信に投げられたギフチャットの総額を確認するって言ってたの覚えてるか?既に集計は終わってるからいつでも見れるんだが》
《おお》
《覚えてるぞ!》
《あー言ってたな》
「あぁ、そういえばそんなこともあったわね。ぜひ見せてちょうだい。たしかこっちのお金にも換えられるのよね。それってどうやって用意するのかしら?」
※
《預言者:私の魔術で作った硬貨をそこに転送する。既存のものと素材も形状も完全に同じものなので細かい心配は必要ない。それと、これはついでのようなものだから詳細な換金レートなども設定しないぞ。ノア君はそういうシステムのように言っていたが、あくまでも君に対して送られた気持ちを、私の独断の感覚でこちらの世界での金銭に換える特別サービスと思ってくれ。あとギフチャットで集まった地球側の金の使い道はヒカリ君が決めてくれたまえ》
「いいの? それじゃあ全部父さんたちの会社に投資とか」
※
《草》
《やばww》
《もろマッチポンプで草》
《ノア:それは遠慮しておく、だとさ》
《そりゃそうだ》
《税金はどうすんの?》
《ノア:100パー日本国民の生活に還元されるのが証明できるならくれてやるよ》
《アッハイ》
「それで? 大体でいいからいくらか教えてちょうだい」
※
《ノア:ざっくり言うと2億6000万ぐらいだな、円で》
《???》
《うせやろ?》
「……は?」
※
《ノア:まあ世界中から何百万もの人間が見てて、そのごく一部とはいえ数万もの人数が九日に渡って1,000円以上のギフチャ投げてきたらそりゃこうなるわな》
《預言者:では少し近くの卓上に金貨を送らせてもらうぞ》
その預言者の言葉を皮切りに、ナツィラの中にある食卓の一角に何もない空中から突然小さな滝のように、金貨が耳障りな音を立てて積み上げられていく。
「…………」
「…………」
「…………」
ヒカリや視聴者たちは円の金額に、アダムたちはこんもりと積み重なった金貨の小山に呆気に取られて半ば放心しているような状態となっており、いつも無口で表情の固い店の主人でさえ目を丸くしている。
そこから少しの間、ナツィラの中は混乱する人々の騒がしい声が響き続けることとなった。




