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1話 異界との邂逅と運命の出逢い

 

 世界がまだ世界と呼べるようなものではなく、大いなる樹と虚無が広がるばかりであった頃。


 虚無は無限に広がる形なき器、樹はただ虚無の中心としてある限りのない力の源に過ぎなかった。


 だがいつしか樹は枝を揺らし、そこから三枚の葉が振り落とされた。


 葉は永い時を経て姿を変え、精神を得てその役割を満たし始めた。


 世界の王。時間の王。そして命の王。


 世界の王は樹に実を成し、その中に無数の空間を造った。


 時間の王は実に過ぎゆく流れを与え、進化と衰退の法則をもたらした。


 命の王は樹から新たに葉を二枚()み、それを糧として二つの存在を生み出した。


 母性と父性を持って生まれたそれぞれは光と闇を生み出した。


 対となる二つは互いを拒み、一度目の衝突によって実の中に星々の光と影の暗闇が生まれ、二度目の衝突によって最初にできた以外の十の実が混ざり合った。


 母は光り輝く樹の頂上に座し、父は暗く深い樹の根元を彷徨った。


 途方もない時の果て、実の中ではあらゆる生命が生まれ繁栄を始めた。


 そして王達は、やがて自らの役割に終わりが来ることを感じた。


 命の王は最初の実の中に身をひたした。


 時間の王は樹を見守るように身体を分かち、世界の王は樹から離れた。


 そして父と母は己が意思のままに新たな生命を生み出し始めた。


 時間の王の意思が消え去った世界は時の流れるまま自然が誕生し、やがてそこから新たな王が生まれ、台頭する者共が混ざり合った実の世界を支配した。


 そして世界が無数に生まれる。


 歴史が始まり。


 時代が始まり。



 やがて人の世界が始まったのだ。






 *






「……うん! 今日も私は美しい!」


 ここは日本国東京都のとある住宅地の一角、その内の一つとなる家の中で洗面台の鏡に映る自分を見つめて毎朝恒例の自画自賛をするのは、今歳十七、身長178㎝体重63.2kgの女子高生”御山 光纚(みやま ひかり)”であった。


「それじゃあ、行ってきます!」


 先の言葉に表れているような自信に満ちた凛々しい表情を浮かべ、灰色の髪と瞳を輝かせる彼女はすっかり着慣れた制服を身に纏い、靴を履いて玄関に立った彼女だったが……。


「ん……? なに、これ?」


 ふと視界の下側から光が差していることに気付き自らの足下に目を向けると、今彼女が立っている土間の床に怪しい黒魔術の儀式で見られるような魔法陣が現れていた。


「うっ……!?」


 突然のことに困惑して次の行動に移る二の足を踏んでいると、魔法陣が放つ光がより一層強まり、すぐに周りの景色が見えなくなるほど彼女の視界が白んでいった。






 *





「……ええ、全部予定通りに進んでます……はい、わかりました。それじゃあ始めます……」






「……配信、開始」






 *







『……ざ……よ…………が……』


 彼女が初めに感じたのは不思議な声だった。


 光を感じ音が聞こえる。

 しかしそれらは脳が情報として処理しているのではなく、肉体…あるいは心に直接染み渡るかのように感じていた。


『……ざめ…………わが……』


 そんな状態で真っ暗闇に一筋の光が差し込むように声が頭の中で反復する。

 まるで心臓の鼓動のように優しく安心を与えてくるそれに彼女の意識は少しづつ湧き上がってきた。


 母の(ハラ)から顔を出す幼子のように覚醒し、目を開けて初めて彼女はその世界に存在しているのだと気がついた。


『目覚めよ、我が運命』


「……っ!」


 そうして目を開いたヒカリの目の前には、今までに見たことも聞いたこともないような光景が広がっていた。


 空は隅で塗りつぶしたかのような漆黒だが、そこに地上を照らす月や星々の光は一つとして輝いていなかった。

 金銀の輝かしい材質による建築物の数々と、広場の中心で巨大な(さかずき)に灯された白い炎がその(まばゆ)い発光を強く主張していた。


「……?」


 絶句しているわけではないにも関わらず声を発することができないことに驚く暇もなく、ヒカリは眼前で燃え盛る白炎の向こう側にいる存在に目を奪われていた。


 それは鋭い鉤爪の生えた強靭な四つ足を折りたたんで胴を地につけ、その長い首を(もた)げてこちらに黄金を宿す瞳を向けていた。

 王冠の様な雄大に生え揃う角と体を覆う純白の鱗が周囲の黄金とその美しさを高め合っている。

 背の部分から伸びる大きな翼には鮮やかな七色の羽根が揺れて、ソレは自慢するように一つその翼をいっぱいに広げてみせた。


「……っ!?」


 その存在はヒカリ自身の知識の限りでは、間違いなく()()()()と称される存在だった。

 液晶の向こう側でもなく、絵画や彫刻などでもない。

 実際に目の前で身体を動かし、彼女を見つめ、呼吸をする確かな命を感じさせる生き物がそこにいた。


 それを目の当たりにした彼女は、その巨大な生命力に圧倒され上下も左右もわからない宇宙空間に放り出されたかのような、大き過ぎる存在感に呑み込まれるかのような感覚の中その視界は暗転していった。






 *






「…………ぅ……っ」

 ※

 《あ、始まった?》

 《キター!》

 《なんだなんだ》

 《飛んでる?》

 《映画っすかこれ?》

 《おお、美女登場や》


「ん……んんぅ……はっ!」


 光に飲まれて気を失っていたらしいヒカリが目を覚ましたのは、鳴り続ける風切音と身体を打ちつける風の肌寒さによってだった。


 肝が冷えていく浮遊感と目を開けた途端前方に広がる青空に驚き、身を(よじ)って周囲を見回すと、今自分はどことも分からない上空を落下している真っ最中であると理解するのにそう時間は掛からなかった。


「な、なによこれぇぇぇぇぇ!!?」

 ※

 《草》

 《ですよねー》

 《こっちが知りたいわ》

 《初めはこうなるのか》

 《個人制作かー?この役者知らんわ》

 《まあありきたりな導入だな、まだ様子見》


 最初はおかしな夢でも見ているのかと思ったヒカリだが、咄嗟に頰を(つね)ると鈍い痛みを感じたことで本格的に焦りを覚え始めた。

 なにせ青空を自由落下しているのだ。

 地面までまだ数百メートルはあるもののそれもあっという間に落ち切ってしまう。


 次第に彼女の耳には自分の身体が風を切る音が、死神の鎌が己の首に振り下ろされるような音のように錯覚し始めた。


 そうして突然訪れた命の危機に混乱していると、背中を向けている下の方から誰かが自分の背中と足に手を添えて支えてくるのがわかった。


「おい大丈夫か。魔力切れか?」

「わぁっ!? へ、なに……!?」

 ※

 《誰?》

 《助かったー》

 《はいはい魔力魔力、いつもの異世界転生ですねー》

 《顔はヨーロッパ系っぽいな、どこで撮ってんだ?》

 《映画好きだけどまた知らない俳優だな 特殊メイクしてるし顔も変えてる?》

 《↑にしては中国語ネイティブだけど なにこれ》


 ヒカリを横抱きにして空中に静止している人物は、紫紺(しこん)の髪に白桃(はくとう)色の瞳の男性であり、本物か否か右目の後ろに当たる側頭部から竜などの角の様な骨らしき器官が後方へ流れるように生えていた。


 男は空から落ちてきた彼女を案ずるように目を向けていたが、突然上方に目を向けると急激に横へ移動し、それに驚く暇もなく彼女達がいた空間をなにか泥のような塊が通り過ぎていった。


「危なかったな……」

「今のは……!?」

()()の噴射物だ。強力な酸性で人体を数分で溶かす。おまけに泥のように粘度が高くて一度付着すると助かるのは難しいらしいな……」

 ※

 《こわい》

 《ひえっ》

 《ヤツってなんだよ》

 《急展開すぎてついていけん》

 《エル新の最新作で見たわ、パクリか?》

 《↑俺はノルウェー生まれだけどこいつら俺の母国語喋ってるぞ というか今もノルウェー語で打ち込んでるんだが どういう技術で『グゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!』


「うっ!るさ……っ!」

「……!いつの間にかかなり近づいていたか、先ずは君を安全なところに運ばないと……」


 その時突如として辺りに響き渡った轟音は大気をも震わせるほどに大きく、それを耳を塞ぐヒカリがとてつもなく巨大な生き物の鳴き声であると察するのは難しくなかった。

 轟音の出所を探そうと辺りを見渡すヒカリの目にその声の主はすぐに映り込んだ。


「な、に……あれ……」

「情報を確認してないのか? 昨日名付けられたんだ。噴泥竜(ふんでいりゅう)シャボナボ……西側の海から現れた新種のドラゴンだ」

 ※

 《うわ》

 《でけえええええ》

 《キモすぎで草》

 《あれでドラゴンw怪獣やろw》

 《CGの質は良いけどデザインがヤバいな》

 《最初はもっと普通のモンスター出せよ》


 その生物はヒカリたちからおおよそ東京ドーム一つ分以上は離れているというのに、その全体像が視界いっぱいに映るほどの巨体だった。

 そんな巨体を太い四つの足で支えており、ソレの皮膚はゴム質で溶けた後腐ったかのようにそこらじゅうで余った皮がだるんと垂れ下がっていた。


 なによりも目を引くのはその頭部であり、眼球が出目金(デメキン)のように出っ張っている。

 さらに下顎が異様に突き出ており開いた口元がまるで地獄の大釜ただというかのように上方向はその口腔(こうくう)を覗かせていた。


 そのドラゴン––––シャボナボは身を震わせながら蓋が空いた釜のような口から先ほどの泥と同じような噴射物を吐き出し、周囲に噴水のように撒き散らし始めた。


 そんなシャボナボに対して不意に炎や雷といった指向性のある砲撃のようなものが大量に襲いかかる。

 ヒカリがその軌跡を辿って地上に目を向けると、大勢の人間が集まってシャボナボへ攻撃を仕掛けているのがわかった。


「あれって、魔法!? あなたも魔法で飛んでるの!?」

「いや俺は械具(かいぐ)で……まあ今はいい。というかなにを驚いてる? そうでなきゃ君はどうやってここまで来た……とにかく一旦地上に戻るぞ」

「……魔法って本当にあったんだ……す、すごい!私も使いたいわ!」

 ※

 《呑気すぎて草》

 《すごい(小並感》

 《感情百面相かよ》

 《お前ならできる》

 《異世界アニメかと思ったけど違うのね、切ります》

 《なんでもいいから早く派手なアクション見せてくれー》


 魔法。

 何もないところから炎や水を出す力。

 生身で空を自在に飛ぶという不可能を可能にする力。

 その存在が目の前に現れたことでヒカリの心は湧き立ち、そんな未知の力を己の手で操ってみたいという衝動が彼女の全身を打ちのめしていた。


 そうしてヒカリは自分の胸の中に意識を集中させ、あるはずのない魔力という存在を感じようとしていた。

 すると紫髪の男の腕の中にいた彼女は不意にその支えから外れ、まるで重力の(かせ)が外れたかのように宙に浮き始めた。


 そして彼女の身体から(あわ)い光が発せられたかと思うと、次の瞬間その背中から白く光り輝く一対(いっつい)の翼らしきものが現れた。


「っ出来たわ!」

「これは……」

 ※

 《うおお》

 《すげーー》

 《綺麗ね》

 《マジでCGの出来はめちゃ良いんだよな ハリウッドとかじゃないのか?》

 《スカートめくれろw》

 《↑ハリウッド含め世界中の映像関係はみんな揃って関連否定してただろ》


「とにかくあのデカいのが敵なのよね! だったら私が倒してやるわ!」

「おいおい、一人で行く気か?」


 本来ならば使えるはずはないのだが、ヒカリはどういうわけか己の体の内側から溢れ出る魔力を直感で瞬時に制御し、空を飛ぶというイメージを具現化した翼の創造という(まご)うことなき”魔法”を実現してしまった。


 そんなことを成し得たヒカリは遠くで汚物を撒き散らすシャボナボを見据え、湧き上がる力と全能感から挑戦的な笑みを浮かべながら巨竜へと向かっていく。


『ガブァァァァァァァァァ!!』


 向かってくるヒカリに気付いたのか否か、シャボナボは正面にいる彼女を巻き込む形で嘔吐(おうと)するように泥のような噴射物を吐き出し始めた。

 ヒカリはそれを飛び上がって余裕ある様子で(かわ)したが、通り過ぎた泥の放物線上には地上からシャボナボへ攻撃を仕掛ける人間の集団がいた。


 このままでは泥の洪水に呑み込まれて大惨事になるかと思われたが、集団の中の一人である男が空に手をかざすと高速で渦を巻く水の巨大な盾が現れた。

 さらにその内側に岩を、そして外側には同じように渦を巻く暴風を重ねることで、シャボナボの泥が人間達に降り注ぐという事態を完璧に防いで見せたのだった。


「へぇ、アイツなかなかやるじゃない」

 ※

 《偉そう》

 《どういうポジション?》

 《お前はさっきまで使えなかったんじゃないのか笑》


「おい!あれは誰だ!?」

「ヤツの真上に昇っていくぞ! なにをする気だ!?」


 地上の人々が泥をやり過ごしたのを見届けると、ヒカリは改めてシャボナボの頭上へと飛翔していく。

 煌めく翼を羽ばたかせながら空高く舞い上がる彼女の姿に、地上から巨竜を見上げていた人々やシャボナボすらもそれに目を奪われていった。


 そして巨竜の直上にたどり着いたヒカリは自分の魔力を総動員で攻撃の準備を始め、自分のすぐ下に砲弾を撃つイメージを元にひたすら巨大な魔法陣を形成していく。


 それを見るシャボナボもそれを迎え撃つためか己の口元に魔力を集中させ始めた。


「これでも……喰らってなさいっ!!」

『ゴバァァァァァァァァァァァァ!!』


 攻撃は同時だった。


 シャボナボの口からは溶岩のように熱せられた泥の塊が噴火するかのように吐き出される。

 ヒカリが手をかざした巨大な魔法陣からは、神の怒りを体現する裁きの鉄槌が振り下ろされるが如く、(まばゆ)い輝きを放つ光線が流星のように巨竜へと降り注いでいった。


 ※

 《すげえええ》

 《うおっまぶしっ》

 《スケールがデカすぎる》

 《ビームの押し合いだ!これで間違いなく日本人の作品だというのはわかったぞ!》


「おいアイツすげぇな! どこから来たやつだ!?」

「んなこたぁどうでもいい! とにかくデカブツ野郎の土手っ腹は今隙だらけだ! おまえら援護も兼ねて好きなだけぶち込んでやれ!」


 シャボナボの噴射とヒカリの光線が衝突し拮抗している間、地上の人々もただ見ているだけではなく、巨竜が上を向いて胴体等かお留守になっているのを見逃さず、皆で一斉に攻撃を仕掛け始めた。


「よっしゃあ! 俺サマの発明品が火を吹くぜぇ! 追尾性超爆炎砲弾・ドラグーン・ボンバー! 発射ァ!!」


 その中の一人である大柄な男はそばに置いてある砲台のようなものから竜の頭を模した炎の塊をいくつも打ち上げ、それは火を吹きながら次々と巨竜の身体に命中し大爆発を起こしていった。


 ※

 《すげええ》

 《ミサイルじゃねぇか!》

 《やはり日本の作品には爆発を愛するキャラが必ず1人はいるんだな》

 《あんま効いてなくね?》

 《あのシャブやってる怪獣がデカすぎるわ》

 《ヤクやってんのはお前の耳だ兄弟》


 地上戦力による攻撃は巨竜に対して決定的な打撃とはならなかったものの決して成果を得られていないわけではなく、ヒカリの放つ魔法との撃ち合いで吐き出す泥の勢いが少しづつ弱まり始めたようだった。


 度重なる攻撃を受け続けたことで肉体へのダメージが確実に蓄積し活動に支障をきたし始めているているのだろう。

 それを直感的に察知したヒカリは一気に勝負を決めるためさらに気合を入れて身体から莫大(ばくだい)な魔力を捻出(ねんしゅつ)し始めた。


「い……っけェェェェェェェェェェェェッ!!」

『ガアァァァァァァァァァァァァ!!』


 そうして天より降り注ぐ光線は際限なく力強さを増していく。

 ついには吐き出される泥を押し返してしまい、光線はシャボナボの豪快に開け放たれた口腔の中に叩き込まれていった。


 内部から圧倒的な魔力の奔流(ほんりゅう)による破壊を受けたシャボナボは手足を暴れさせてもがき苦しんでいたが、眼孔(がんこう)などの穴という穴から光が溢れ出した。


 やがて力が抜けていった巨竜の身体は糸の切れた操り人形のようにその体躯を傾けていった。


「た、倒れるぞぉ!」

「うおお! 誰だか知らんがやりやがった!」

 ※

 《うおおおおお》

 《やるやん》

 《主人公っぽいのが女なのはなんで?》

 《映像の出来よすぎじゃね?無名の個人制作とかありえんだろ》

 《私tueeew》

 《いきなり説明もなしに戦い始めたのは不安だったけどなかなかクールだったよ》


 あまりにも巨大なこの怪物を魔法による純粋な力押しで倒してしまった謎の戦士に地上の人々は湧き立ち賞賛を贈る。

 大きな地響きを鳴らしながら他に倒れ伏せる巨竜の体は山そのものだとしても違和感がなかった。


「……や、ったぁ……! あ、れ……?」


 そうして魔法も戦闘も初めてばかりであるというのに、一撃で強大な敵を討ち取るという快挙を成し遂げたヒカリはその勝利を噛み締めるため腕を振り上げようとした。

 しかし突然視界がボヤけて意識も朦朧(もうろう)とし出し、身体から力が抜けていき宙に浮く状態を維持できずにはるか上空から落下し始めた。


 さらに落ちていく彼女に向かって本物の翼を広げて接近する影があった。


『––––––!』

 ※

 《なんか来てるううう》

 《鳥か?飛行機か?さっきの男か?》

 《どう見てもバケモンじゃい》

 《おっとマズイ デスフロムアバヴだ!》


「おいおいヤバいぞ魔力切れか!? 誰かあの魔獣撃ち落とせるか!?」

「遠すぎるな、もっと高度が下がればなんとか……」

「その前にアイツが食われちまうぜ!」

「おい! あれ見ろ!」


 それはコウモリのような翼に(タコ)などの軟体動物の触手が無数に生えた異形の飛行生物だった。

 その生物は翼長がおおよそ30メートルを超える大きさであり、落下しながらほぼ気を失いかけているヒカリを丸呑みにでもしようと急降下して彼女へと追い(すが)る。


「フゥッ……!」

『––––!?』


 その触手がもう少しで彼女に触れようかというところで、突如飛行生物の背中に何者かが衝突し、その勢いで()()ったソレの分厚い首を、手に持った長剣を思いきり振り切ることで完全に両断してしまった。


「っしゃあ! いいぞアダム!」

 ※

 《うわ》

 《つよい》

 《助かったー》

 《ありがとうアダム》

 《さすがだな》

 《今のは純粋な腕力か?それともタツジンソードの技なのか?》

 《↑設定資料集の公開を待て》

 《少しタテがシンプルすぎるけど それが逆にリアリティを醸し出してるね 気に入ったよ》


 それからアダムと呼ばれた男は瞬時に急降下し、落下していたヒカリの体を再び受け止めた。


「あ、なた……」

「よくやった。もう君は少し休め……あとは俺たちに任せろ」


 かろうじて意識を保っていたヒカリの視界は、人間の顔を認識したことで緊張の糸が(ほど)けたかのように暗転し、彼女を緩やかな眠りへ(いざな)っていった。


 それからアダムは滑空程度の速度で下降し地上にいる人々の元に戻っていった。 


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