61.天使は自らに問う
《Side:マギー(三人称)》
つい先程まで風が吹き荒れ、絶えず轟音が鳴り響いていた戦場に、突然突風が吹きつけ、その後すぐさま静寂が辺りを支配した。
「終わった…のか…?」
教え子の試練を見守るために、助けに入りたい気持ちを押し殺し続けていたマギーだったが、ついにその決着がついたことを悟り、咄嗟に立ち上がる。
ヒュー…
すると穏やかに風が吹き出し、辺りを覆って視界を塞いでいた魔力の霧が流されて行く。
淡い橙色の陽光が差し込み、赤紫色と青色の鮮やかなグラデーションが映える空が顔を覗かせる。
拳を握り締め、天に突き出す影が見える。その拳を薄明が淡く照らし、それは神々しくも見えた。
「ヒューレンッ!!」
段々と目が光に慣れてきた。そんなマギーの視界に映る拳は赤く、筋が走っていた。皮膚が剥がれ落ち、内側の肉が丸見えで、とても痛ましい。
教え子の…いや、友の身を案じ、マギーは走り寄る、ヒューレンのもとへ。
ルナがヒューレンの頭の辺りで小刻みに震えている。
「サンナティオ‼︎(中級回復魔法)」
マギーが呪文を唱え、ヒューレンに手をかざすと淡い緑色の魔法陣が現れ、緑色の光がヒューレンの腕を伝う。
「先生…僕、やりましたよ…Aランクモンスター、討伐…」
「ああ…ああ、よくやったよヒューレン… 君はよくやった。君は僕の…自慢の教え子だ」
「へへ…ありがとうございます…」
ヒューレンは小さく微笑みを浮かべ、そしてゆっくりと目を閉じ、寝息を立て始めた。
「お疲れ様、ヒューレン。今は眠れ、このことはフィーには黙っておくから」
ヒューレンを腕に抱え、髪を優しくかき撫で、顔を覗き込む。
マギーの顔は朝日に照らされ、髪やまつ毛が金色に輝く。透き通るような白い肌、光を取り込み、水色に輝いて見える宝石のような瞳。
羽織っている白い上着も相まって、その姿はさながら天使のようであり、あのヒューレンがブラッドオーガのような強力な魔物が跋扈しているかもしれない森の中で眠気に身を委ねることができたのも合点がいった。
「しかし…」
マギーは平静を装っていたが内心ヒューレンのことを褒めちぎりたい思いでいっぱいだった。ブラッドオーガとの戦闘中、実は途中からマギーにはヒューレンのことが見えていなかった。
マギーはこれでもヒューレンと同じくフィーに扱かれ、言わずもがな近接戦闘でもある程度の力量を持っている。
ヒューレンはまだ訓練を始めて日が浅い。ブーストを使った戦闘にもまだ慣れていないだろうとマギーは思っていたが、蓋を開ければどうだ?
ヒューレンの戦いには一切の無駄が無かった。まるで全ての行動を予め計画していたように、どれだけブーストをかけようが一切のもつれが無い。一瞬の隙も生まれない。
そしてマギーがヒューレンのことを視認出来なくなったのは、ヒューレンが一人ダガードッヂを始めてからだった。ダガーはもちろん見えないが、ヒューレンもUターン時以外見えなかった。
マギーは問う、今のヒューレンに自分は近接戦闘で勝てるか…と。答えは否。
目で追えない相手に勝とうなど無謀以外の何でも無い。そんなことマギーにもわかりきっている。
ヒューレンが助かることを悟ったルナはマギーの肩に飛び乗る。
マギー
「大丈夫だよ、ルナ。ヒューレンは疲れて寝ているだけだからね」




