43.それは嬉しい誤算
その日からしばらく、武器無しでの近接反応訓練が行われた。訓練は週末を除いて先生によって行われた。朝から昼までは近接の訓練、昼からは先生とともに研究と魔法符の製作が1日のスケジュールとなった。
途中から、僕が朝の時間は脳のパフォーマンスが高いと言ったので朝と昼の日程が入れ替わったが、変化といえばその程度だった。
因みに、先生の家に住み着いた当初の目標は達せられたものの、相変わらず僕は先生の家にお世話になっている。
そんなある日、僕と先生は相変わらず魔法符の制作を続けており、休憩を取っているときにそれは起こった。
「ヒューレン、ちょっと来てくれ!」
先生が、僕が使わせてもらっている部屋から僕を読んだ。何事かと思い駆けつけると先生は1枚の紙切れを片手に心中穏やかでない表情をしていた。
「これを見てくれ。」
先生はその片手に持っている紙をこちらに向けてきた。そこには、ギリギリ読めるか読めないかの崩れ具合の文字が綴られており、さながら怪文書のようだった。
しかし、その文書に羅列されている文字に特に意味などはなかった。というより、日本語に例えるなら「五十音順」のような形で表記されていた。
「これは、君が書いたわけでは無いよね?」
「はい、もちろん。」
「じゃあ一体誰がこれを?」
という話をしているとルナが机の上に乗ってきた。
「え、ルナ?」
そしてなんと、ルナはペンを触手で持ち、先程の怪文書の続きに文字を書き始めた。どうやらこの文書はルナが書いたものらしい。ちょっと待て…
「「なんでスライムが文字を書けるんだよ!(何故スライムに文字が書ける!)」」
「ちょっと待て、わけがわからない。ヒューレン、説明してくれ。契約者である君ならわかるだろう?」
「いえ、僕にもなんとも…。逆にこちらが聞きたいくらいですよ。なんせ、今までルナが文字を書いたことなんてありませんでしたから。」
「…そうか、じゃあこの光景を目撃するのはお互い初めてだということでいいんだな?」
「ええ、しかし、ルナが文字を書けるなんて…。ルナは特殊個体なのでしょうか?」
「その可能性が一番高いだろうな。」
魔物にも突然変異は例外なく出生する。そして魔物の場合、突然変異個体は原因は不明だが通常の個体より強力になる。そうして生まれた個体の総称を「特殊個体」と呼ぶ。
「見たところ、スライムに発声のための器官は見受けられないし、文字を書くことでルナは僕らとコミュニケーションを図ろうとしているのかもしれない。
ルナが特殊個体でコミュニケーションを図ろうとしていることは嬉しい誤算だし、ルナと会話ができる日を楽しみに待とうじゃないか。」
「ええ、そうですね。」
ルナが手(触手?)を休めたタイミングを見計らって撫でてやると、ほんのり赤くなって触手を僕の手に重ねてきた。




