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奇跡のブリーフに選ばれ異世界転移した俺 レアスキルを手に入れてツインテール美少女妖精と旅に出る

作者: 仁嶋サワコ

 夏の暑さと蒸れの不快感に負け、ついに禁断のアレに手を出してしまった。

 俺はごくりと息を飲み込んだ。

 大丈夫だ。誰も俺のことなんて気にしやしない。


 一枚880円。二枚セットで1760円。


 有名ブランドの純白のブリーフは、厚紙を包み込むと同時に、自身は透明なビニール袋に包まれていた。


 どうしよう。やっぱりめちゃくちゃおっさん臭いぞ。


 二十代半ば、まだまだ若さを気取りたい俺にはハードルが高いかもしれない。

 でも、この夏が辛い! 灼熱のような太陽の元では、ボクサーパンツは天敵だ。下半身の蒸れを安価に解決するには、ボクサーパンツやトランクスよりもブリーフがいいとネット記事で読んだ。


 そう。もう買ってしまったのだから、引くことはできない。


 俺は勢いよく袋を破いた。


「よーし、履いてやるぞ!」


 叫んだその瞬間――

 袋から光が溢れた。


 

椿木つばきしょう、おめでとう! あなたは一千万分の一の奇跡のブリーフを手に入れたわよ!」


 カランカランという鐘の音と共に、そんな甲高い声が、俺の耳に降ってきやがった。




「……で?」


 鐘の音が終わった後、俺は正面でハンドベルの形状の鐘を持っている俺と同じくらいに見える少女に聞いた。

 ツインテールにしたピンク色の髪と、ややつり目の赤い瞳は気の強さを感じる。純白のチューブトップのタイトワンピースに同じ色の柔らかい布を天女の羽衣のように巻き付けている。タイトワンピースに沿って見える身体は凹凸のメリハリがついている。


 変な服は着ているし、気は強そうだけど、スタイルが抜群のめちゃくちゃ可愛い女の子だ。


 ……俺が買ってきたブリーフと同じくらいの背丈で、背中に白い蝶みたいな羽根がはえていなければ。


「で? って何? ショウ」


 気安く俺の名前を呼んだ後、そいつは羽根をパタパタと動かし、俺の顔に近づいてきた。俺の鼻のすぐ先で、チューブトップの境目からけしからん谷間が主張する。


「いや、どうもこうも、俺の目の前で動いて喋っているこの人形みたいな虫みたいなのはなんなんだ? って話だよ」


 俺が言うと、少女は顔を朱くし、頬を膨らませた。


「人形とか虫とかひっどーい! わたし、ヴィクトリア・ピーチって立派な名前があるの! ヴィッキーって呼んでよ!」


「長いよ。いいよピーチで」


「ヴィッキー!」


 鐘を持っていない方の手である左手で、ペシペシと俺の前髪を叩いてくる。めちゃくちゃくすぐったい。


「じゃあ、ヴィー」


「うぅ〜、もうそれでいいわよぅ。何よ!」


 俺のものぐさに負けたヴィーは半眼でこちらを睨む。俺は聞いた。


「一体この状況は何なんだ? 俺はただ自分の部屋にいただけのはずなのに、今いるこの白い空間は何なんだ?」


 俺は辺りを見渡す。辺り一面真っ白だ。地平線も水平線もありゃしない。

 今ここに存在するのは、俺とヴィーとあけたばかりの二枚のブリーフだけだ。

 ヴィーはにこりと笑って両手を広げる。カランと一回右手の鐘が鳴る。


「何って、ここはインナーズワールドのチュートリアルよ! あなたは奇跡の純白のブリーフを手に入れたことで、この世界のプレイヤーに選ばれたの! わたしはシークレットフェアリーのヴィクトリア・ピーチよ!」


「いや、状況が理解できないし、意味が分からない」


「もー、物わかりが悪いんだから!」


 唇を尖らせ、文句を言いながら、ヴィーは甲高い声で説明をし始めた。

 どうやらブリーフを開けた瞬間、俺は所謂異世界転移ってやつをしてしまったらしい。転生ではないので、ありがたいことにトラックには撥ねられていない。

 一千万分の一の確率で奇跡のブリーフを手に入れてしまった俺は、ここ、インナーズワールドに強制的に連れてこられてしまった。どうやら俺は、この世界でプレイヤーとして生きなくてはいけなくなったようだ。

 ヴィーは明るく左手の親指をグッとあげる。


「大丈夫よ! ラスボスを倒せば、元いた日時に何もなかったように戻れるから!」


「……それは、まあありがたいけど。今日纏めてみようと撮りだめていたアニメあるし」


「さ、まずはステータス作成しないとね! 右手をあげて、親指と人差し指をくっつけてみて! そうすると、ステータス画面が出てくるわ!」


 俺は言われたとおり右手を上げ、オーケーマークを作ってみたが、何も起きない。


「もー、世話がやけるんだから!」


 ヴィーが俺の右手の近くに飛んできて、親指と人差し指の位置を調整した。すると、黒地のステータス画面が出てきた。銀色と白に縁取りされ、四つ角には半円のようなマークがある。


 ……ブリーフか。


『ショウ・ツバキ 属性:ブリーフ 攻撃:0 防御:0 賢さ:0 素早さ:0 幸運:0 インナー:0 残りポイント60』


 どうやらこのポイントを各種ステータスに振り分けるらしい。最近流行りのアニメや小説で見たことのあるような設定だ。


「って、何だよ。この『インナー』って」


「インナースキルを覚えるのに必要なのよ。インナースキルが高いと、レベルアップの時にレアスキルを取得できる確率が高くなるから、縛りプレイをしたい訳じゃなければ高くするのをおすすめするわ!」


「初回プレイから縛りプレイする趣味はないな」


 軽くそう返し、俺はインナーに35、その他のステータスは各5で振り分けることにした。

 こういう話の時は、大抵レアスキル持ちが無双する。ステータスの値よりも、いかにレアでチートなスキルを持っているかが大切なはずだ。

 ヴィーの言う通りに親指と人差し指を弾くと画面が送られ、鐘の音が鳴った。ヴィーが手に持っているものを鳴らしたらしい。


「うるさいぞ。ヴィー」


 耳を押さえる俺を無視して、ヴィーは捲し立てる。


「ショウ! おめでとう! レアスキルを手に入れることが出来たわ!」

 

「え?」


 ステータス画面を見ると『スキル:インナーカット、スキル:亀甲縛り を取得しました』と表示された。


「おい! 何だよこれ!」


「インナーカットは敵のインナー属性をカット、つまり無効に出来るの。亀甲縛りはレア中のレアなスキルよ! 緊縛方法の一つで、縄を入手すれば、相手の動きを封じるこめることができるの。そうして、相手を痛めつけることが出来るわ! 蝋燭とかで!」


「おい! そんなの女の子が気軽に言う言葉じゃないだろ!」


 気の強そうなツインテール美少女が「緊縛」なり「亀甲縛り」なり言っている状況について、俺は抗議した。こう言われてみても、ヴィーが女王様とは案外思えないし、現実味がない。いや、そもそもこのインナークエストとかステータスとか目の前の規格外の美少女の存在が訳分からないんだけどさ。


 ……これは、レベルアップしてからのレアスキル解放に期待をかけるしかなさそうだ。

 俺のため息も無視して、ヴィーは右手で何回か鐘を鳴らす。


「さあ、スキルも入手したし、これで旅立つ前の準備は残り一つだけよ!」


 ヴィーは右手に持っている鐘を下に向けた。そこには、俺が買ってきた白いブリーフが二枚落ちている。


「さ、ブリーフを履くのよ。ショウ」


「はあ?」


 そんな思ってもいない指示に、当然俺は戸惑う。すると、ヴィーはもっともらしい表情で説得し始めた。


「いい? ショウ。あなたは奇跡のブリーフに選ばれた属性ブリーフのプレーヤーなの。ここから話しを進めるためには、黒いボクサーパンツじゃなくて、純白のブリーフを履く必要があるのよ!」


「……いや、でも、ブリーフってさ、おっさん臭い」


 俺の言葉に、ヴィーはこちらに顔を近づけてきて、鐘を何回も鳴らした。


「バカ! 何言っているの! 白い綿製のブリーフの通気性は最高よ! しかも乾きやすい。肌触りも最高! 夏の猛暑の下半身の蒸れにも対抗できるわ!」


 ……まさに、その理由でブリーフを買ってこんなことになった訳だけど。


「お願い。ショウ。世界を救うためにも、ブリーフを履いて……!」


 鐘を持ちながら、小首を傾げ、朱い瞳を潤ませるヴィーはサイズは小さいけど、めちゃくちゃ可愛い。

 ……気の強いプロポーション抜群のツインテール美少女。

 正直、めちゃくちゃ好みだ。

 俺はついつい首を縦に振った。


「……ちょっと向こう向いていてくれよ」


 こんなところで可愛い女の子を背にして、自分がボクサーパンツを脱ぐ日が来るとは思っていなかった。

 まさか、ブリーフをはくために、女の子の後ろで脱ぐとは思ってなかったけど。

 しっかりとブリーフを履き、ハーフパンツも履いた。



 涼しい。



 想像以上の爽やかさと快適さだ。

 確かにブリーフは夏場に最高かもしれない。


「ショウ。似合ってるわ。ブリーフ履くのも悪くないじゃない?」


 ヴィーはにっこりと微笑んだ。

 黒いボクサーパンツでも、白いブリーフでも、外側には変わらず薄手のハーフパンツを履いているんだけどな。


「じゃあ、スタートよ! わたしもサポートするから、しっかり頑張ってよね! ショウ!」


 笑顔でヴィーは鐘を鳴らした。すると、この白い世界が崩れていく。


「わー!」


「落ち着いてよ! スタート地点へ行くだけだから!」


 カランカランという鐘の音と共に景色が変わり、『はじまりの町』という看板が見えてきた。

 俺は呆然として、その看板を見上げる。

 その向こうには、本当にアニメで見たような、いわゆるRPGの町みたいな風景が待っていた。

 自分がこんな目に合うとは思っていなかった。


 しかし……とにかく進もう。そうしないと今日見たかったアニメの続きも確認できない。


 俺は足を前に踏み出した。


 この物語を始めるために。


 そしてこれは、かけがえの仲間との貴重な出会い、宿敵との邂逅、強敵との戦い、ヴィーとの別れと再会――色々な物語の始まる最初の一歩だった。




 しかし、このときの俺はそんなこと全く分かっちゃいなかったし、それはまた別の機会に話そうと思っていたりは、する。

ちょいエロコメディという普段書いたことのないものにチャレンジしてみました!

評判が良ければ連作短編にするかもしれません(笑)

気に入って下さった方は評価、ブックマーク等いただけると嬉しいです!


普段はお色気のないコメディファンタジー書いてます(宣伝)

本作気に入っていただけた方は是非どうぞ!

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