肖像権過激派
何と無く思いついて、勢いで書きました。
発端はSNSに投じられた、なんて事もない一言だった。
~学校で肖像権って習ったけど、戦国武将とか女体化したり魔王にされたり、すでに過去の偉人だから肖像権が無いって言うけど、子孫の人には権利ないの~
どうやら中学生男子らしいアカウントから発せられた素朴な疑問は、本人が予期せぬ形で拡散し、議論を巻き起こした。
アニメ、ゲーム製作関係者が法的な問題は無く、既に権利関係の諸々は消滅していると書き込むと、これに対して故人への冒涜行為では無いか、という論調の炎上があちらこちらで起きた。
マスコミメディアの中では民放キー局や週刊誌など、現存する偉人たちの子孫へと質問を送る流れが出来ると、一様に「現在の自分たちとは遠すぎる先祖のこと、問題になるとは思いません」といった回答が軒並みであった。
しかして、この回答は反対に騒動を大きくしていったのだ。
偉人たちの名誉回復と冒涜行為を断罪する。
そう銘打ったスレッドが立つと、瞬く間に書き込みが溢れ、更には現在する子孫の中で、「問題ない」と回答したとされる人物の特定までも行われるようになっていく。
とある地方都市の中央通りにて、数人の男女がプラカードを掲げて、声を張り上げる。
「故人を冒涜し、偉人たちを辱しめるゲーム会社、アニメ会社に鉄槌をっ!! 」
「AIによる再現で新作をつくったなどと宣い、人格を傷つける者たちに断罪をっ!! 」
「生命倫理を逸脱して、金儲けの道具にすることは許されないっ! 」
「ご先祖様方に申し訳ないと思わんのかっ! 」
彼ら彼女らは口々に叫んでは練り歩く、こうした活動は各地で頻発しており、戦国武将を題材として多くの作品を手掛けた大手ゲームメーカーは、この流れをうけて「作品の大幅な修正」を宣言。
このことにゲームファンたちは嘆きや怒りを爆発させ、カウンターデモが開催されることにもなる。
法的な専門家も、当初は問題はないとコメントしていたが、過激な反対派が実力行使で警察沙汰になる事案が発生すると、声をあげる者は少数になった。
少年はアカウントを削除していた。
罪悪感とか恐怖ではなく、単純に面倒になったからだ。本当に単純な疑問であったし、テレビで子孫の人が「問題ないと言っていた」と知れば、「へー、そうなんだ」くらいで解決していた。
なのに、なんかやたら持ち上げられて、凄いとか凄くないとか、頭がいいとか、いやとんでもないバカだとか、好き勝手言われて、本当に面倒になっただけだった。
なので、叩かれて自殺した子孫の人のこととか、メーカーに突撃かけて捕まった人とか、反対に暴言吐いて謝罪することになったメーカーの偉い人のことを聞きに来ても、知らないし興味ないんだよ。
そう彼は思っていたし、存外に図太いと自己評価していた自分が擦りきれていくことに、焦りと恐怖を感じていたのだ。
だからだろうか、彼の死体は自殺と他殺で意見が割れている。
感想お待ちしてます。