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短編もしくはただのアイデア集シリーズ

異世界に転移してしまった僕ですが、勇気を出して言ってみます。 山賊頭「おい。いくら返り討ちにした冒険者だからって●イプするなんて可哀想だろ? 止めようよ!

作者: 佐の輔



「おい。いくら返り討ちにした冒険者だからって●イプするなんて可哀想だろ? 止めようよ!



 照明が松明だけのほの暗い洞窟の中。自身の発した言葉で先ほどまで響いていた女達の悲鳴と怒声がピタリと止む。装備をひん剥かれてあられもない姿になった彼女達を穢そうと取り押さえていた山賊達までもがキョトンとした顔でコチラを見ている。



 思わず後先考えずに言ってしまったが…仕方ないだろう。女性達が男達に襲われているのを見て黙って見ていられなかったんだ。



 さて、どうしたもんだろう。



 ※



 突然だが、僕はラノベ界隈では至極当然のように存在する転生者だ。


 ここは僕が居たはずの世界とはまるで違うゲームのような世界…いわば異世界とも呼べるものだろう。何せ、ここには剣と魔法はあっても電気も無ければガスも無い。水道も無いから飲料水は遠くの河から汲んできた水か雨水を沸かしたものだ。ギリギリでトイレと呼べるものが存在したものが唯一の救いだろうか。

 この世界の名前なんて知らない。気付いたら、僕は洞穴で山賊数十人を部下に持つ山賊の頭だったのだから。アジトである洞穴はどうやらどこかの山の中腹当たりにあり、見渡す限り周囲は森だらけで文明の兆しはほぼ見られない。まるで陸の孤島に立たされたような気分だ。

 つまり、転生と言うよりは転移ってヤツかな?


 ちなみに、僕は転移先のこの肉体の本名も年齢も知らなければ親の名前、部下の名前すら知らない。僕がこの肉体に転移した際に完全に記憶が上書きされてしまったのだろうか? 


「お頭!お頭ぁ~!」


 この世界に来て早くもひと月。ボンヤリと外の景色や、部下の山賊達が自慢気に狩ってきた獲物(多分、モンスターの(たぐい))の解体ショーを眺めて過ごしていたのだが、ある日の昼前くらいに僕の側近、仮に山賊Aとしておこう。彼と他の山賊数名が椅子に仕方なくふんぞり返る僕の下へと駆けてきた。山賊Aである彼はこの山賊団でもかなりの古株のベテランらしい。僕の次に発言力がある。


「どうした?」

「へい!斥候の奴らかの報告で街の方角からこの山を目指して冒険者共がやってきているそうで」


 冒険者!? 話に聞いてはいたし、こんな剣と魔法のファンタジー世界なんだからそんな連中が居たとして何らおかしくも無いか…。

 街…なんて本当にあったんだな。見渡す限り森ばかりなんだが、余程遠くから遠路遥々やってきたのかな?


「へへへっ…何でも綺麗な女ばかりの街でも評判で人気のあるパーティらしいですぜ?」

「大方、俺達の首で更に名声を得ようって腹積もりなんだろうが。グヒヒ…久々に腕が鳴るぜえ」

「ああ。最近は俺達に怯えてこの辺に滅多に大物が来なくなっちまったからなあ~」


 山賊Aの後ろで僕の部下の山賊達がそれぞれ下卑た笑みを浮かべている。正直キモイ。


「女だけだか何だか知らんが、仮にも冒険者なんだろう? 俺達に回復魔法の使い手はいないんだ。俺はお前達が怪我をしないか心配だ。ポーションの備蓄も少ないしな。相手が毒を使ってきてもヤバイから」

「「お、お頭…!」」


 僕は単に冒険者という存在にビビって発言しただけなんだが、何故か部下から尊敬の眼差しを受けてしまった。


「フッ…若は先代の頭と違ってえらくお優しい方だからな。お前らも用心しな。若の親父殿である先代も小さな毒の傷から結局は命を落とされたんだからな…」


 ……そうだったの? そもそも僕はコッチの親の顔すら知らないんだが?


「ところで、冒険者の人数は?」


 僕の問いに「8人です」という答えが返って来た。全部で非戦闘員も含めて30人足らずの山賊団を潰すのにその人数は妥当なのかそれとも少数なのかは判別できない。

 僕は思わず、椅子の背もたれに寄り掛かり唸る。


 僕の表情にハッとした山賊Aが口を開く。


「相手は女冒険者が8人ですが、その中で先行するエルフと獣人がいたとか。そいつらを含めて軽装・準重装が5人。前衛か護衛役と思わしき最重装が3人だそうで」

「何? エルフと獣人?」


 うお!マジか!? やっぱりこの世界にはそういうファンタジー種族も居るんだな。

 普通にテンション上がったけど、ちょっと待てよ…?


「なあ。やはり森の中じゃエルフと獣人は厄介か? お前はどう思う」

「……はい。8人の冒険者の中には私に匹敵する程のレンジャーは居ないと思われます。先行している獣人とエルフは種族的な能力も高く障害物の多い森では流石に手こずるかと…」

「「うわあっ」」

「…お前。戻って来てたら普通に部屋に入ってこねえか!イチイチ背後に立つなよ!」

「すまん。癖でね…」


 山賊A達の背後からニュっと出て来たのは背の高い大男、仮に山賊Bとしておこう。彼は山賊達の中でもトップクラスの隠密能力を持ったレンジャーだ。常にアジトの周辺を張っていてくれる非常に頼りなる僕らのだ。


「じゃあそのエルフと獣人が斥候。残りが前衛と魔法使いが居るか」

「はい。ですが、エルフも魔法を使用しておりました。恐らく重装3名に守られている者も魔法を使えるようです。その護衛の者は剣。エルフと獣人は無手。後は斧と弓でした」


 魔法使いが少なくと2人か。問題はどの程度のレベルの魔法を使えるかどうかだろう。ちなみに、僕の部下である山賊達にも魔法が使える者は居る。しかも、僕もある程度は使えた。この世界に来てから僕が魔法を使える事に気付いてから数日間はずっと魔法の特訓をしていたからね。

 恐らくだが、僕の魔法の腕はこの山賊団で2番目(・・・)である自負がある。まだ、この世界に来てからそんなに日が経ってないが、僕の魔法の先生である人物がそう太鼓判を押してくれていた。

 しかし、先行する奴が無手って…何考えてんだ?


「流石だな。引き続き監視を頼む。上手いことアジトまで誘い出してくれ。できればアジトには近づけたくなかったが、森での戦闘が少しでも不利ならここでケリを着けた方が良いだろう」


 山賊Bは僕の言葉に納得がいったのか、口の端を少し持ち上げて身を引いていった。


「ようし、お前らも持ち場に着きなあっ!冒険者共に舐められるんじゃねえぞ!」

「「うおおっ!!」」


 意気揚々と山賊Aと他の山賊達が雄叫びを上げながら部屋から去っていった。


「さて、どうなることか…」


 僕は初めての訓練ではない対人戦闘にただただ不安になっていた。

 場合によっては酷い殺し合いに発展するやもしれない…。

 僕の部下は山賊だし、そりゃあ見た目からしてこの世界の悪役だ。だが、決して根っからの鬼畜の人殺しでもない。と、思う。そりゃあ山賊だから強奪家業がどうしてもメインになる。この世界に正義があれば、それらに淘汰されて当り前なのかもしれない。法があれば裁かれて当然なのかもしれない。それでも同じ釜の飯を喰らう仲間ではあるんだよな…。


 犠牲は出したくはないなあ…。



 ※※



 そして冒険者達は山賊である僕達の討伐依頼を受けて僕らのアジトへと乗り込んで来た。



 が。結果はあっけないものだった。


 簡潔に言うと弱かったのだ。とても。だが、訂正するならやはり先行してきたエルフと獣人は手強かった。山賊Aと山賊Bが相手をしてくれて正直助かった。

 やはり、彼女らの敗因はその他の6名か。…弱い。冒険者然とした斧使いと射手の彼女らは奮闘した方だと思うよ? ただ、相手が悪かった。彼女らを制したのは僕の部下の若手でも最も実力のあるふたり、仮に山賊Cと山賊Dにしておこう。ものの数分で彼らに打ち負かされてしまっていた。そして残りの4名は正直お荷物だった。何故なら重装である3人は前に出ず、ひたすらに真の護衛対象である少女を守るだけだった。だが、部下に退路を塞がれてしまった彼女らに為す術は無い。装備だけは妙に上等で山賊達の武器ではダメージが与えられなかったので、僕が防御を貫通するマジックアローの魔法を重装3名に数発ずつお見舞いしたら簡単に昏倒してしまったのだ。少女の顔は絶望に歪み、逆に部下からは割れんばかりの歓声とお頭コールだった。正直止めて欲しかった。


「ぐう…ギルドの連中め!山賊団の頭が急死して入れ替わった今がチャンスなどと…とんだ法螺を吹きよって!山賊達も素人の寄せ集めではなく訓練されている上に新しい山賊頭がこんな腕の立つ魔法戦士なんて情報なぞなかった!! …しかも、何故ダークエルフが山賊共に手を貸しているんだ!?」

「フン。キャンキャンと煩わしいヤツだ。エルフとしての慎みに欠けるな…? 隣の獣人族の方が余程大人しく躾けられているではないか」


 山賊Aに取り押さえれていたエルフが歯を食いしばりながら睨む先に呆れた表情で琥珀のパイプをふかす彼女が居た。彼女は痩身に青白い肌をした種族、ダークエルフだった。世間では最も醜いエルフなどと中傷されているらしいが、僕は一度もそんな事を思ったことはなかった。

 ちなみに、彼女がこの山賊団の中で魔法の知識・技量が群を抜いて一番だ。僕の魔法の師匠でもあるようで、僕の記憶にはひと月前からの彼女しか知らないが付き合い自体はとても長いらしい。


「余とていつものように奥で瞑想を続けていたかった。だが、余りにも騒がしいのでな。おまけに、お前の連れの小娘があろうことか…この狭い洞穴で広範囲高威力の炎熱魔法、ファイアーストームを使おうとしたのだぞ? ヤレヤレ…脆弱な人間族の身であの大魔法が使えるほどの魔力を有するとは流石に驚きはしたがな。余が止めねば今頃はあの小娘の自爆に巻き込まれ、皆仲良く手を繋いでヘカトンの谷の底に落ちるとこだったぞ? 感謝して欲しいものだ」

「くっ…」


 ヘカトンの谷とはこの世界で言う地獄みたいな場所らしい。ダークエルフである彼女はその卓越した魔法からサイレントとショックの魔法を繰り出して彼女らの魔法を封じた上に完全に無力化してくれたのだ。正直言って彼女ひとりいれば良かったんじゃないか?


 僕は少し気が抜けたのか中央奥に据え付けているいかにも、な感じの自分の席へとドカリと腰を降ろす。


「助かった」

「フン…お主ならこんな女どもを片付ける事なぞ造作もなかろう? では、余は奥へと帰るぞ。余は男共の愉しみに水を差したくはないのでな。……後始末は後で下女達にでも言いつけておく」

「ん?」


 ダークエルフは彼女ら一瞥すると短い溜め息を吐きながら部屋を出ていってしまった。


 俺はこれからどうしたものかと山賊Aに視線を送ると、笑みを深めて頷いた。


「よおし!このクソ生意気な女共に俺達に討とうとノコノコやって来た事を後悔させてやりなあ!! このエルフと獣人は奴隷商に高値で売るから駄目だが、残りは好きにしな」

「「うおぉぉ~!!」」

「うう…っ!」

「嫌ぁ!やめてえ!」

「うるせえ!直ぐに殺されないだけでもありがたく思え!」


 男共の野太い歓声に組み伏せられた女達の悔し気な声が混じる。

 彼女らはそれぞれ数人の半裸になった屈強な山賊達の囲まれてなじられる。鎧を外され鎧下を肌着ごと引き千切られ悲鳴を上げ涙を流す。


 わかってはいたんだよ。ここは僕が居たはずの前の世界なんかとは比べ者にならないほど弱肉強食の世界だと。彼女らは僕らを殺そうとここに押し掛けてきたんだから殺されて当然。生殺与奪はコチラが握っており、辱めを受けても致し方ないのだと。それが武器や魔法を携えた冒険者という職業に甘んじて就いた、またはそれに随行した彼女らの顛末なのだと…だが、やはり…それでも、僕はっ!僕は……!!



 ※※※



 ……やってしまった。


 いわゆる、賽は振って投げられたってヤツだ。

 涙を流して嫌がる彼女らを見てたら思わず声が出てしまったんだから仕方ない。


「頭ぁ…そりゃあ無いだろう。こんなの生殺しですよ?」

「まさか、頭が女共を独り占めする気かあ…?」


 すぐさま立ち上がって僕に剣呑な顔を向けてきたのは山賊Cと山賊Dだった。山賊団の中でも若く、そして戦闘にも長けており面構えもかなりの威圧感だ、正直言って怖い。


 だが、俺の前に居た山賊Aが速攻で近づいていってその青年ふたりの頭をぶん殴る。山賊Cはスピード重視の回避系だ。拳がクリーンヒットしてしまった山賊Cは呻き声を上げてしゃがみ込んだが、隣の山賊Dはビクともしない。彼は鎧要らずの異名をとるほど素の防御力が高く、頑丈さだけなら山賊団でピカイチだ。


「馬鹿野郎がっ!上っ面の半人前の分際で若になんて口を聞きやがる!? 俺の斧でその無駄に固いだけの頭を叩き割るぞっ!!ええっ!?クソガキが!」

「…………」


 顔を真っ赤にした山賊Aがそれでも睨み返す山賊Dに掴み掛かって腰の斧に手を掛ける。どうやら僕への彼の態度に大変オコらしい。


「んん゛っ!…ちょっと待て。そう怒ってやるな。ちゃんと俺の話を聞きな」


 僕は椅子のひじ掛け部分を嵌めたブレスレットで叩いて皆を振り向かせる。


「お前らふたりはその身体能力を買ってうちの団に入れてんだ。だが、お前らが単に金欲しさじゃなくて女が欲しいってのは俺もちゃんと知ってるさ?」

「「…………」」


 このふたりは山の麓に点在する隠れ村、つまり追放者や犯罪者が森に逃げ込んで勝手に築いた集落からスカウトした。そんな連中が山賊団に入る理由は大きく分けて3つ。ひとつはその日飲み食いするのも難しく、実質口減らしみたいな理由で山賊になる者。もうひとつは追放者は自分達を追放した国や街の連中に相当な恨みを持っている。僕達の団が襲うのは森を通り抜けるそういう街の連中だ。実際、部下の3割は分け前など気にしないで前線へと目を血走らせて駆けて行き、必要以上に仕事をしてくれている。そして、最後に女だ。僕の山賊団にも少人数ながら女性は在籍してるが、殆どはやはり男の山賊だ。そんな人数を相手などしてられない。一応山賊の相手をする娼婦もいるが、避妊なんて概念の無い世界なのだ。だから、当然すぐに子供が出来て体力を持て余す山賊達の相手ができなくなる。そうなると、腹を大きくした女達はアジトを離れて暫く麓も集落で世話になる。アジトに残っている女達もいるが、残念なのかめでたいのか…竈場で日夜飯の準備をしてくれている女達は全員腹が既に大きい。だが、これは山賊達とで合意の上だ。


「今日ここで楽しんで終わり…それだとまた直ぐに女日照りだぞ? だから、そこの冒険者ふたり…気の強そうな斧使いはお前に。お前は弓使いの方が気に入ってるみたいだから…それぞれに気に入った女をくれてやる」

「「っ!?」」


 僕の提案に今度は蹲っていた山賊Cも飛び上がって目を輝かせる。まあ、無理もないか。何せ自分だけ好きにできる女が手に入ったんだから。

 山賊Cと山賊Dがやや膨れっ面で仕方ないと件の使い物ならなかった鎧3人と自爆未遂者の少女の方へと移動していく。


「ただし、無理矢理は駄目だ。先ず3日は様子を見る」


 僕の声に今度はこの世の終わりのような顔を浮かべ、それを見た山賊Aに指を指されて笑われていた。


「…まあ何だな。女、女と夢中になっているのいいがな。俺はお前らふたりにそれなりに期待してるんだが。だから、どうだ…? ここはひとつ腹を決めて女のひとりくらい幸せにしてやったらどうだ?」

「「それは…」」


 僕が山賊Aに目配せすると山賊Aは薄笑いを浮かべて頷いた。


「よし!若もこうして言われておられる。アジトの近くの使ってない小屋をお前らにそれぞれくれてやるぞ。…若があそこまで期待して下さったんだ。若がお前らの結果に満足なされたんならお前らが新しい頭の片腕候補だろうぜ」


 山賊Aに肩を叩かれ二人は目を見開くと、俺の前に来て土下座する。ひらの山賊で家を与えられることなどほぼ無い。これは実質幹部への昇格と言っても過言ではないだろう。幹部は基本アジトに家族でかその一部とで暮らす。


「じゃあ、ふたりは未来の嫁さんになるかもしれない大事な女を愛の巣まで連れていけ。…だが、さっきも言ったが今日は兎に角話し合って互いの事をよく知るんだぞ? もし、明日検めて無理矢理手籠めにしたのがわかったら玉抜きの刑にして追い出すからな…?」

「「うっ…!?」」


 僕達の団はいくつかの集落を支配下に置いているが、正式な取引や承諾なしに村の女に手を出した男は玉を抜いて放逐するという鉄の掟が先々代の頃から根付いている。山賊にも仁義はあるのだ。


 僕は女を担いだ二人…いや二組の若いカップルを見送った後、面倒臭い残りの4名を見る。既にエルフと獣人は山賊Bによって牢へと連行済みだ。


「さて、じゃあ残念だが…お前達はどう見ても冒険者、もとい平民じゃあないよな? 無事に帰しても面倒臭そうだし。悪いがここで死ぬまで部下の相手をして貰う」


 何故か頑張って戦っていた他の4人に比べて彼女らにそこまで情は湧かなかった。僕の声に先ほどまで不満顔だった山賊達が笑顔になる。彼らもまた最近山賊家業が滞ってフラストレーションが

溜まっているようだしね。


「ま、待て!」

「我らはロトカス家の者だぞ!手を出せば貴様らともいえど一貫の終わりだ!」

「早く我らを解放し!姫様を無事に街へと御返ししろ!さすれば助命も叶うやもしれんぞ?」

「「……ロトカスぅ~?」」


 山賊Aを筆頭に数名の山賊達も女達への欲情が掻き消えるほど顔を歪めて嫌悪感を露わにする。

 ロトカス…? 知らん。兎に角、逆さまに呼んではいけないことだけは判った。


「おい」

「ええ…ええ…!間違い、ありやせんぜ。最後に顔を拝んだのはもう10年も前だが、この小娘…ロトカスの三女ですぜ。…忘れもしねえ!まだ街を追い出される前の近衛兵だった俺の妻と可愛いざかりの息子二人を馬車で轢き殺しやがったあの糞領主の娘ですぜ!」

「俺は冒険者だった父親に無理な依頼を押し付けれて殺されて…その賠償だとオフクロとアネキを奴隷商に売られた…チクショウ!」

「コイツが俺達家族に濡れ衣を被せて街から追い出した領主の…!!」


 流石にロトカスの名を出して強きに出た護衛達も山賊A達のギラギラした殺意に当てられ顔を青ざめさせる。なるほど件の悪徳領主がそのロトカスで、この少女がその領主の娘だと…。


「殺すな。…3人はこの場に残れ。お前ら、コイツ等を牢に連れていけ。この領主の娘だとかは利用価値があるやもしれん。残りの3人は無理をしない程度になら好きにしな」

「へ、へい…!」」

「や、やめろぉ!? 我らは女と言えどロトカス家の仕える重鎮の従騎士だ!…お願いだ。傷物にされては家に帰れなくなる!我らにはそれぞれ許嫁も…」


 僕はもうそれ以上言葉を聞きたくなくて遮る。


「なんの目的があって冒険者と一緒にここまで来たのかは知らない。だが、恨むんなら生まれた家と使える主君を恨むんだな。命は保障してやるし、後でお前らの家に文を書いてやる。満足する身代金が払えれば開放することもやぶさかじゃない。早く連れて行け」


 この部屋に残った山賊以外が4人を担いで部屋から出て行った。それと同時に別の通路から大男がヌルリと出てきた。


「どうだった。エルフと獣人から何か聞けたか? 後、この場には古株と俺しか居ない。いい加減に頭巾を取れ」

「はい。……最初は口を割りませんでしたが、コレ(・・)を見せたら素直になりましたよ」


 山賊Bは顔を覆っていた頭巾を脱ぐ。するとピョコンと傷だらけの顔の男の頭から獣の耳が生えていた。山賊Bは獣人との混血だった。


「やはり、エルフと獣人は奴隷でした。二人とも奴隷にされている仲間の為に嫌々冒険者ギルドの傭兵紛いの事をやっているそうです」

「…人間族の街じゃあ他種族の奴隷は禁止されているだろう」

「ええ。表向きは…」


 山賊Bは自傷染みた笑みを浮かべて顔の傷を触る。山賊Bはロトカスの子飼いの貴族が秘密裏に飼っていた獣人の奴隷に遊びで産ませた子供だった。だが、ここに同席する山賊の父親である善意ある者によって明るみに出そうになると親子ともども殺されそうになってこの山へと逃れて先代である僕の父親に拾われたそうだ。


「……お前ら。ロトカスに目にもの見せてやりたいか?」

「「………っ!!」」

「わ、若…!確かにロトカスの打倒は、かつて卑劣な手で正当な領主の座を追われた先々代からの悲願でもありました…!ですがロトカスの兵は数千…余りにも現在の我らでは多勢に無勢で…」


 ……え。そうなの?


「なら取り敢えずは今は我慢しろ。上手くやればロトカスに一泡吹かせてやれるかもしれん。どちらにしても…あのロトカスの娘が鍵だ。ここが正念場だぞ」

「「…………」」

「悪いが、そうとなれば疲れているだろうが直ぐに動いて貰う。ロトカスに恨みを持つ者は多いだろうさ。特にエルフと獣人の国はな…おれは今から何枚も手紙を書かねばならない。麓に書士だった奴が居たはずだ。連れて来てくれないか?」


 何せ僕はこの世界の文字が書けなきゃ読めもしないんでね。取り敢えず、こう言っておけば山賊A達が今すぐにあの4人を殺すことはないだろう。


 気付けばもう山賊Bの姿は無かった。



 ※※※※



 冒険者の襲来からあっという間に3日経った。手紙を書く為に麓から呼んだ書士はだいぶ高齢のお爺さんだった。正直、もう真夜中だったし…無理はさせられないよなと思っていた。

 が、その老人はロトカスに対して嫌がらをする為だと素直に教えたら小躍りして手紙を書いてくれた。というか、エルフの国で使われているエルフ文字とか平気で書けるあたり、相当な博識者に違いない。ロトカスに追い出された口だろうか?

 だが老人は帰らなかった。何故か下女達と無残な姿になったあの護衛3人と牢の掃除をしていたエルフとバッタリ出くわした際に互いに号泣して抱き合っていた。

 何でも老人はエルフの祖父…でもなく父親…でもなく、なんと息子だったからだ。何で?

 エルフは基本不老不死。だが極端に男が少ない上に同種族同士だと子供ができにくい。なので、他種族の男から子種を貰うのだそうだが、一定の確率でエルフではない種族で生を受ける者が存在し、それがこの老人なのだそうだ。老人はエルフの里で暮らしていたが、人間族の街で消息を絶った母親を探して長年放浪していたそうだ。エルフからの嘆願もあり、老人はアジトで書士として余生を過ごすことになった。そして、それと共にエルフの実年齢が露呈し、部下の山賊達が彼女を性的な眼で見る機会が極端に減ったというオチも付いた。


「3日経ちました…」

「仲良くやれてると思うんですが…もう今夜当たり」

「そう焦るな。男はそうやっていつも失敗する」


 女の事なんて全然知らない僕が白けた顔で目の前の二人にそう返す。女冒険者とひとつ屋根の下で過ごして3日。最初は勿論ファーストコンタクトが最悪だったこともあって互いにぎこちない感じだったが、小屋を覗き見する限り仲良くやっているようだね。特に斧使いの方は結構家庭的だったらしく山賊Cが狩ってきた鳥でシチューを作って振る舞ってくれたと連日自慢話が続いて正直ウザイ。


「次のステージに進む。次はズバリ!…デートだ」

「で、でえと!?」

「お頭…そりゃあエルフ語ですか?」

「違う…多分。お前達は今後、女を家から好きな場所へと連れていくことを許可する。ただし、襲ったら玉抜きの刑だ」

「ええっ!? まだお預けっ!!しかも十日以上も!?」

「も、もう無理だ…麓の女に頼んで」

「浮気も玉抜きだから」

「ひいっ」


 こうしてまた2週間のデート期間を二人に命じて生き地獄…おおっと!一人前の男になって貰う修行を続けて貰う。上司命令でね。


「お頭」


 ヌルリと山賊Bが当然のように僕の背後に立つ。前と違うのはムスリとした顔の獣人が彼の傍らに控えていることだろう。彼女は紆余曲折の末、山賊Bの補佐になった。


「どうした?」

「お頭が出された文の返事が来ました。カストロ家の次男坊が数日以内に直接身代金を持参して近くまで来るとのことでした。…それと、コチラはカストロの娘の護衛達の家からのものでした」


 山賊Bは懐から3枚の粗悪な羊皮紙を取り出して僕に手渡す。


「ふうむ……」


 …………読めない。そうだった、だから麓からエルフの息子だった爺さんを呼び寄せたんだった。


 チラリと山賊Bの顔を伺えば暗い表情をしている。


「…お前はコレを読んだのか?」

「はい。ですが…同情はしませんよ。カストロとそれに与する腐った連中とはそういう輩です。あの女達が未だに家から救いの手が差し伸べられると信じているのは不憫に思えはしますが…」


 な~る。コレは身代金を断った的な内容かな?


 丁度いい所にその3人の元へ向かおうとしている山賊達が目端に入る。


「おい。お前達、今からあの騎士3人娘のところに遊びに行くところか?」

「え。へ、へい…お頭…なにかありやしたか? それとも今日はお頭がお使いに?」


 僕はあの3人の●イプ目を見てから軽くトラウマになってるんだよね~。


「いいや。当分の間はお前達が好きに使いな。…ついでにこの文をその3人に届けてくれるか?」

「当分の間って……お頭。この文を見せて貰ってもいいですかい?」

「構わねえよ。というか、お前文字が読めたんだな?」

「へい。俺の爺さんは修道院の出だったんで…俺も難しい文字以外なら……」


 そう言って手紙を読み出した山賊の表情があからさまに曇っていく。


「…おい、なんて書いてあったんだよ?」


 お。ナイスだぞ!僕も詳しい内容が知りたいとこだった。 


「山賊の俺が言えた義理じゃあねえけど酷え真似しやがるぜ。…お頭!この前に密輸商から分捕った上物のエール樽があったじゃねえですか。…今日、アイツらに持ってって飲ましてやってもいいですかい?」

「好きにしな。ありゃあそもそもお前達の取り分だ」

「ありがとうございやす!!」


 山賊達は足早に去っていってしまった。…結局手紙の内容は解らなかったが、きっとろくでもない内容だったんだろう。


「取り敢えずロトカスからの使者の対応を考えるか。まあ、先ずは頭の俺が出迎えるのは当然としてもだ…どうせ卑怯な連中だ。伏兵を置くべきか…弓の腕に自信がある奴を連れて行く。それと同時に訓練も積ませる」


 僕の作戦に山賊Bがニヤリと目端を歪め、獣人の彼女が神妙に頷き返した。



 ※※※※※



 そして数日後、アジトと街の丁度中間辺りだという林道でロトカスからの使者を待ち構えることになった。

 その場に僕達が構えてから数時間。馬の蹄の音と共に全20騎の騎士の軍勢がやって来た。


「貴様が噂に聞く、我らロトカスにたてつく薄汚い山賊共の使いか!」


 戦闘の一番豪奢な装飾鎧に身を包んだ者が兜を脱いで馬上から僕に話し掛けてきた。卵型の顔にキノコのような髪型。派手な金髪なのはあの少女と同じなのに顔に張り付いた下種な貌は似ても似つかないね。


「いいや? 俺がその山賊の頭だよ。キノコ(・・・)様」

「んぐっ…!? フ、フン。流石は山賊だ!栄えあるロトカス家の次男である俺に対して口の訊き方を知らん、まさに獣よ!だが、愚物の大将自ら出張るのだけは褒めてやる…」

「育ちが悪いんでな。ホラ、なにせ山賊だから。…ところで随分と大所帯じゃないか。お姫さんを連れ帰るにして物騒だな?」

「お姫様? あの化け物がか。笑えん……おい!」

「はっ!」


 キノコが部下らしき騎士に顎をしゃくると、騎士が僕の足元に鉄製の蓋つきバケツのようなものを放りだした。


「なんだコレは?」

「そら。前金だ」


 キノコが懐から取り出した皮袋がその上に投げられ金属質な音を立てる。僕は取り敢えず皮袋を拾い上げて中を覗く。


「おい…銀貨がたった二、三十枚しか入ってないんだが? これじゃあワインの一本も買えやしない。アンタらが呑んだ身代金は金貨千枚だ。前金にしたって酷い。それに…これはどう見ても金貨の詰まったバスケットじゃなくて首桶に見えるが?」

「見ての通りだ。…薄汚い山賊が金貨だとう? 図に乗るなっ!見逃して貰えるだけでもありがたく思え。それにだ…返して欲しいのは妹の首だけだ。さっさと持ってくればその倍ほどは追加でくれてやる。あ~あとその首桶は特殊な金属と技法を用いた特注品だ。魔力で首を判別するから代わりの首を入れてきてもバレる。余計な事は考えるだけ無駄だ!」

「……首だけ?」

「獣に人の道理を説いても時間の無駄だが答えてやる。妹…いやアイツは我がロトカス家の抱える化け物よ。冒険者共々この森でモンスターか貴様ら山賊共の餌食になれば万々歳だったのだが、貴様が余計な真似をしよったせいでこうして俺に余計な仕事が回ってきたのだからな!どうした!早くあの化け物の首を持ってこい!」


 成程。つまりあの少女を死なせる為に僕達の討伐依頼を無理矢理強制した冒険者である彼女らに随行させたわけか。あの斧使いと弓使いの冒険者からその裏は既に山賊Cと山賊Dが聞き出している。最悪、少女を置き去り。護衛の3人が邪魔になるようなら始末するようにまで言いつけれていたいう。…あの3人はあの手紙見てからかなり荒れたっていうけど、こればかりは彼女に近しい部下達がフォローしてくれる事を願うばかりだ。


「断る。お引き取り願おう」

「何ぃ~?」

「貴様らに恨みを持つ我が団がロトカスであるお前らを見逃してやるんだ。ありがたく思え」

「俺の好意を無下にしよってこの馬鹿が!! ……と言いたいところだが、実は今回はお前に感謝しているのだ。あの化け物の首を持って帰ることが叶うだけでなく、長年我が領を苛む癌である貴様ら山賊の頭首を持って帰れば…っ!俺が無能な兄を抑えて次期ロトカス領主となれるからだあああああぁ!!」


 キノコは邪悪な笑みを受かべると腰に佩いた装飾サーベルを引き抜いて突撃してきた。


 僕はどこか冷めた様子で溜め息を吐くと数歩距離を取った。


「今更逃げても無駄ぞ!貴様らの塒の目途もついているのだ!ついでに税を払わぬ無法者共も粛清してやるわ!!」

「…どこまでも救いの無いキノコだ。ホラ、返すぞ?」


 僕はそう言って皮袋を放り上げる。


「ハン!要らんわ!貴様がヘカトンの谷で渡し賃にでもするが良いわ!!」


 キノコのサーベルが皮袋を割いて銀貨が空中に散らばる。数舜の後にその銀貨が地面に落ちて音を立てたが、その中のひとつがやたら鈍い音を出して地面に転がる。僕は平然とそれを掴み上げる。その他の騎士達は呆然とそれを見つめていた。


「ちゃんと忠告までしてやったのに…馬鹿なヤツだなあ」


 それは金髪キノコだった。キノコは信じれないといった表情で口をパクパクさせていた。きっとキノコは自分のサーベルで皮袋を斬ったと思ったんだろうけど、残念ながら皮袋を切断したのは僕の魔法、エアカッターだ。剣の間合い程度しか範囲は無いが下手な剣よりも鋭いし、何より剣を持ってないからこのキノコみたいに相手を油断させやすい。

 僕はそれ以上キノコを持っているのがキモかったのでさっさと首桶に放り込んで蓋をした。仮にも始めて人間を処してしまったわけだが…不思議と心は苦しまないものだな。まあ、相手によるのか? コレでこの後、キノコの趣味は実はボランティアです。なんてことがあったた流石に僕も何か後ろめたいものを感じるかも…いや、ないな!キノコだし。


「て、撤収…っ!?」


 恐らく騎士たちの副官だったんだろうが号令を掛けられる前に殆ど騎士が左右から降る矢の雨に貫かれて絶命する。後列の何騎かが逃げてしまったが問題ない。


「お頭ぁ~。雑魚騎士共が幾らか逃げちまいやしたが…いいんで?」

「ああ。欲しいのは穴の開いてない鎧(・・・・・・・・)だからな」

「は、はあ」

「どれどれ…山賊らしく装備を剥ぐか。って何だやっぱり金貨を隠し持ってやがった。流石キノコ」


 だがその金袋を振った重みに金貨千枚には遠く及ばないと僕は顔を顰めた。


 その時、森のどこかで数名の悲鳴が聞こえたような気がした。



 ※※※※※※



 僕は水瓶の近くで剃刀を持っていた。


「イテっ…!痛っ…!」


 髭を剃ろうとしたが剃刀の切れ味がすこぶる悪い。おかしいなあ~砥石借りて研いだのに。

 お陰でもう数十分、鏡代わりの水瓶の前で悪戦苦闘している。

 遠くの竈場で女達が僕を見て笑っている。


「……はあ。見ておれん。貸さんか」

「え。あ、はい…」


 いつの間にかダークエルフが水瓶を挟んで僕の前に立っていた。…もしかして女達は僕が彼女に気付かないから笑っていたのか?彼女が僕の手から剃刀をヒョイと取り上げると何か香油のようなものを取り出して僕の髭に満遍なく塗って髭を剃り始めた。


「相変わらず不器用だ。さぞ先代はお主の情けない姿をみて涙しておるだろう」

「……う、うん」

「なんだ? 今日のお主はやけに素直だな…」


 いや。気になるのはねえ…むしろ君なんだけどね? なんで僕の膝の上に座ってるの? …コレって完全に対面座位だよね…。わからない。彼女との距離感が…!


「そもお主は自分で髭を剃れん癖して何をしておったのだ? いつもは余に頼むではないか…」


 そうだったのか…というか自分で髭剃れないってヤバくね? まあ、実際に僕も剃れなかった訳だけども。僕は主に電動シェーバーだったんだよねえ。剃刀負けするから。


「終わったぞ…で? 珍しく髭など剃ってどうするんだ」

「ああ、これから領主の娘の顔を見に、な。山賊然とした髭面だと怯えられると思ってな…ってどうした?」


 何故か頬を膨らませたダークエルフが僕の胴体に脚を回してしがみついてきた。


「……まあ、お前も…もう十六になった。…そろそろダークエルフ以外の女を抱きたくなったか?」

「え゛!?」


 思考が停止する。


 先ず一つ。僕の年齢が若干十六歳であったこと。って少年じゃん!? 

 髭もモサモサ生やしてたし、まあ鏡も無いし…勝手に三十くらいかなとか思ってた。というかあからさまに山賊Cと山賊Dの方が年上だ。どう見ても大学生くらいだったし。


 そしてもう一つ。潤んだ彼女の瞳…どう見てもガチのヤツ。

 まさか、こういう仲だったのか。思えば彼女はこんなにも美しいのに唯一山賊達が一定の距離を取る存在だ。種族的な問題化と思ったが…そりゃあボスの女に手を出すのは命を捨てる覚悟が必要だな。


 が、冗談という線もありえる。異世界特有のジョークかもしれない。しかも、ダークエルフ限定の。


「…こ、こうして触れ合うようになってからどれだけ経った?」

「なんだ…揶揄(からか)っているのか? フフフ…お前が男になったのはもう6年も前の事ではないか。こうやって髭を剃ればまだまだ余にとっては可愛い坊やだがな…」

「ん゛うっ」


 どうなってんだこの世界の倫理は!仕事してないんじゃないの!? 倫理さん!!

 だが、僕の顔を愛おし気に撫でる彼女の顔は恍惚としていた。

 というかコッチの僕は妖艶な青肌エルフ相手に小3か小4で童貞を捨てていた…!事案でしかない…。


「……最近は全く余を寝室へと誘ってくれるでもなく。かといって余の瞑想部屋で魔法の修練だと言って押し倒してくれることもないではないか。本来…女には淫らに自分から男を誘ってはいけないという鉄の掟があるのだと、アレほど教えたのに…!なのにお主は余にこんな事をさせて!!」

「ま、待て!待ってくれ…!」


 何とか僕は強引に彼女を引っぺがすと真っ直ぐに視線を合わせ脳を高速回転させる。


「ど、どうした…? 本当に余が疎ましくなったのか? 確かに余は命乞いするお主の父親から、お主をやるから助けてくれと請われてこの場に留まっているが…」

「何してくれてんだよ…俺の親父は!? ってそうじゃなくて今後の事だ!」

「今後…?」


 上目遣いの彼女の破壊力はかなりのものだった。後、密着して判ったが彼女はスリム体形にも関わらず胸攻撃力が非常に高い。あとグニュンとなってほどよい弾力が…という感じで僕の思考力を奪う付与効果まである。


「俺は今回の件でロトカスにある程度ケジメをつけさせたい。じゃなきゃあ、うちの団はこの先もロトカスの領と張り合うことになっちまう…。そこでロトカスの娘とお前の力を借りたい」

「ふむ…あの愚か者共を誅した後はどうする。山賊を辞めて街で暮らすか? 元はお主達の土地であったどうではないか…それともあの小娘を娶ってあの街を乗っ取るのか?」


 僕は迷いなく素で答えてしまった。


「嫌だよ面倒くさい。それにきっと親父達もロトカスを恨んではいるが、俺に新たに領主に返り咲けとまでは言わないはずだ。仮にロトカスを倒せたら、適当な奴にその席を譲るさ。俺はお前と老いて死ぬまでこの場で暮らしていった方がマシだ」

「……っ!?」


 彼女の瞳が溢れんばかりにに開かれる。何故だか素直に口から出てしまった。


「その言葉に嘘偽りはあるまいな」

「お、おう…」

「天と地に誓ってもか?」

「う、うん」


 いつの間にか彼女の顔が俺とゼロ距離の位置にあり、僕は反射的に頷くことしかできなかった。

 が、それが良くなかったかもしれない。


 僕は気付けば彼女の口で自身の唇を貪られてた。


 その後の事は覚えていない。気付けば既に数時間が経過しており、僕は全裸でゴザの上に寝かされていた。気怠い身体を起こして伺えば全身にキスマークがビッシリとついていた。


 それを目の当たりして呆けていた僕の顔に濡れた布がビシャリと投げつけられたので思わず悲鳴を上げてしまう。


「冷てえっ!?」

「フフフ…久々ゆえつい盛り上がり過ぎてしまったな? 余は少し準備がある故に先に小娘の元へ行くが良い。 ……では、また後でな。ダーリン(・・・・)❤」



 一糸まとわない彼女が自分のローブを肩に引っ掛けて堂々と去っていった。



「……おいおい。丸出しだよ」


 そう言う僕も丸出しだった。



 ※※※※※※※



 僕は身を清めて着替えると少女の牢…と言っても抵抗は一切しないので単純に部屋を宛がって半軟禁状態にしているだけだが。


「こうやって顔を合わせるのはもう一週間振りか。…調子はどうだい?」

「ええ、本来ならばあり得ない好待遇ですから…」


 そう言ってはにかむ彼女は笑顔であるが顔色は非常に悪い。別に食事を抜いたり毒を混ぜているわけではない。…やはり、あの異常な魔力量が関係している?


 僕は分かりやすく手に持った首桶を彼女の前に置く。彼女はビクリと震えるが、やがて諦めたかのような笑顔を俺に向ける。


「やはり…ロトカス家は私の死を確実に確認せねば安堵しない。私の首を持ってこいと言われましたか?」

「ああ。この首桶を寄越したのは君の兄貴だった。奴は君を化け物と呼んでいたがね」

「クスッ…化け物ですか…実際はそんなに可愛いものではないのですが」


 少女は真っ直ぐに俺を見つめる。


「放っておいても私は遠からずに死にます。自身に宿した呪いの魔力によって」

「呪い? 誰に呪われた。まさかロトカス家にか」

「いいえ…私を産んで下さった母様にです…」


 自分の母親に呪われた? どうして?


「私の母様は父である現ロトカス領主に無理矢理召し上げられて私を身籠りましたが…実は私はロトカス家に滅ぼされたとある呪術師の末裔なのです。図らずとも貴方様と似た因縁を持っているのです」

「それで…? どうして君を呪う事になる。君がロトカスの血を引くからか?」

「正解、と言った方が悲しいですが正しいでしょう。母様は呪術師の最後の生き残りとして自身の命と引き換えにして私を呪いの爆弾(・・)としてこの世に生み落としました。無念だったのは…それがギリギリでロトカスの犠牲にされた占星術師によって暴かれてしまったことでしょう」

「…爆弾」

「ええ。ご存知ありませんか? 戦で使う火薬玉の事ですが…その導火線は私の命だと言うことと。爆弾に仕掛けれた呪いは今までにロトカスに犠牲にされた者達の無数の怨念で出来ています。領主に連なる者全てを呪い殺せる強力な代物…」

「なら、君の爆弾が弾ける前に殺されてしまうのでは?」

「この爆弾は攻撃対象であるロトカスの者が直接、間接的に攻撃や毒殺、触れるだけでも作動します。なので、私は今までロトカスの者達から指一本触れられた事はありませんが。恐らく此度は冒険者達の視察だと無理矢理こじ付けて私を何も知らない貴方達に始末させる気だったのでしょう。そんな方法を取ってもいずれこの呪いは必ず自分達に向ってくるのに…」


 少女は自分の胸をギュっと両手で押し付ける。この世界は呪いでも魂でも可視化が難しいものは全て心臓に宿るとされている。


 僕はもう片方に持っていた金袋をテーブルに置いた。


「金貨で五十枚。ロトカスが寄越した君の代金(・・)だ。まあ、コッチの請求額には点で足りない。だから、君にやろう。女ひとりで旅をするには十分な路銀だ。何なら護衛も見繕ってやってもいい」

「そう、ですか…。お気持ちは嬉しいのですが、どうぞ私の首を家の者にお渡し下さい。これ以上はもう…」

「心配するな。もう代わりは入ってるんだ。まあ、キノコだけどな」

「き、キノコ…? ……。………ああ。兄上、でしたか。素直じゃない方でしたから…馬鹿な人」


 僕はそう言って首桶を小突く。

 少女は泣いているのか笑っているのかよく分からない顔で応える。

 素直じゃない…じゃあ本当の彼の意思はどうだったんだろうか。


「ならば、やり返せばよいではないか。奴らが欲しいのはその爆弾とやらなのだろう? ならばそのままそっくりくれてやれ」

「え…」


 振り向くとダークエルフがドヤ顔と謎のポーズで扉の前に立っていた。

 …まさかずっとタイミングを計ってたわけじゃないよね?


「そんな事が本当に可能なのですか!?」

「小娘。誰に口を聞いておるのだ? あらゆる種族の中で最も全知全能に近いと謳われるダークエルフたる余の目の前にいるのだぞ」


 そうしてなぜか僕の肩にしな垂れかかる。


「だがどうやって? まさか彼女の心臓を送り付けるとか言うんじゃ…」

「手っ取り早いならそれだ。延命効果のある魔法を掛けた心臓を適当に城に着くタイミングで切れる様に調節して送り付ける。…だが、それで良いのか?」

「…真面目に」

「なあんじゃあ~いけずじゃなあ~? お主はぁ~」

「…………」


 止めて。そんな不安そうな視線を僕達に向けないで!


「コレだ」

「おまっ!コレ…!!」


 それは小振りのリンゴほどの大きさのある黒水晶だ。非常に高純度の魔法物質で黄金の比ではない程の価値があると聞いた。


「悪魔の眼玉…!コレ、お前が故郷から持ち逃げした大事な宝だって…この前部屋で…」

「む!お主も人聞きの悪い。骨董品のように眺めていたアホ共から実用性のある余が手にしただけのこと。そして5百ゴニョゴニョ…を経てこうして日の目を見る事となったのだ!道具は賢者に使われてこそ意味があるのだ!」

「え? 今途中なんて? ってまあ…そんな事はどうでも良いか。 で? どう使うんだ」


 ダークエルフは咳払いして少女を指差す。


「なに、呪いなどと言っても所詮は可変した魔力よ。量こそは膨大だが、この悪魔の目玉はあらゆる生き物から全ての魔力を抜き出して固定する。魔力を抜かれれば生き物はそう長くは本来生きられまい。だが小娘は淀んだ魔力が本来の魔力を生命力を奪うくらい圧殺している状態だ。上手く呪いさえ吸い込めればまあ助かるやもしれん。コレもまた一種の賭けだな」

「やります!」

「…いいのか?」

「はい…!どうせ死ぬなら呪いじゃなく、自分の生を持ってして終わりたいんです」

「フン。人間族の小娘にしては良い度胸だ。ならば悪魔の眼玉を握りしめて余の呪文が終わるまで決して手を離すではないぞ!」

「はい!!」


 少女の重なった両手から赤い閃光が溢れ出し、狭い個室が一瞬で膨大な魔力の波濤に満たされる。



 その日、山賊のアジトではまるで地響きのような衝撃が数秒続いたという。



 ※※※※※※※※

  


「領主様っ!!」

「どうであった!」

「は、はい!魔力鑑定の結果…」


 とある街とは不釣り合いなほど立派な城の豪奢な居室でまるで潰れたカエルような男。彼こそが悪の権化。ロトカスの領主であった。


 だが、そんな彼でも恐ろしいものはある。私兵の次の言葉をゴクリと唾を呑み込んで待っていた。


「…三女様のもので間違い無しとの結果でございます」

「ま、真かぁぁ…!?」


 肉の塊のような男が天に両腕を突き上げ歓声を上げた。彼の取り巻きである周囲の者からも拍手喝采を浴びる。それは喜ばしい事であろう。何故ならその者達もまた腐敗したロトカスの糞をつつく害鳥達なのだから。その呪いが炸裂すれば間違いなく標的となる者だった。


「祝いの宴を開けぇ~!これでこの世にこのロトカスに逆らえる者などおらん!!」

「では、今日一日だけは使用人達に暇を出しても?」

「無論だ。ここで余計な事を目にし耳にした者が居ればまたそいつらを始末せねばならん。今宵は我らだけの宴の無礼講だ。皆、手酒で良いわ!がっはははっはは!!」

「かしこまりました…」


 こうしてその日だけは本来城に居るはずのロトカスの奴隷、もしくは被害者か家畜か…常に涙を裏で流す使用人達に今日は特別と小銭を握らせ全員城から追い出してしまった。


 聡い誰かがふと気付いた。この城に留まって暫く経つがあの者の顔を今日初めて見た気がしたな…と。だが、直ぐにあり得ないと疑念を消した。


 残るのはロトカスに与する悪徳の者ばかり。


「だが、こうなると隣国のエルフや獣人共が目障りですな…」

「いかにも。事実、こうして我らは最近街に出入りするというエルフや獣人達からの暗殺を畏れてロトカス様の居城へと逃げ込んでおりますゆえ」

「まあ、奴らには我らの飼う同族の楯もある。迂闊には攻めてこないだろう」

「フン…!いずれどちらも滅ぼして全ての民を奴隷として儂の前に跪かせてやるわ! だが…だが…本当に腹立たしいのは儂の息子の無能振りよっ!」


 ロトカスが怒り露わに激しく肉をバウンドさせる。その汗が飛び散った悪党貴族が呻き声を上げる。実際にこの城にはロトカスの兵の殆どを集めてしまっていた。故にこの城の守りは鉄壁だが、街外の守り…特に例えばエルフや獣人の国境は非常に手薄になっていたのだが、身勝手に振る舞う者達がその愚かに気付く事は無かった。


「首を運び入れた騎士が申すには…三女様の首を受け取る際に払いを渋ったせいで内乱となり森で散り散りになった…とか」

「なんという無能っ!小銭欲しさに身を滅ぼしよって…どうせ打ち取られたか、今頃はモンスターの腹の中であろうよ。何せ金遣いの荒いヤツだったからな…どうせ渡した金貨も捨てる様に使い果たしておったのだろう」

「ですがよろしかったのですか? その次男様を置いて逃げ帰って者を捨て置いて。すぐさまに城から逃げ出してしまったようですが…」

「なにむしろ褒美をやりたいくらいだ。無能と違って儂の下にちゃんと首を運んできたのだからな。むしろ帰ってくれば無罪で騎士に戻してやるわ」

「父上っ!」


 そこへ首桶を持った私兵を連れた領主の長男が中央の大扉を開けて入ってくる。一見精悍な顔をした美丈夫だが、父親譲りのドス黒く腐敗したものが瞳に宿っていた。そこへ同じく長女、次女も豪華なドレスを着て入室する。


「おお!待っておったぞ!遂に来たか!!」


 ロトカスが喜んだのは勿論、息子や娘に会えたことではない。むしろ、この男に愛などという人間らしい情など無い。その視線は件の首桶に注がれていた。


「全く手こずらせてくれたものよ…儂は自分に仇を成せるものなどないと思っておったが…コイツばかりには頭が下がる思いだ。良し!では儂に見せてくれ!儂にはもう敵は無いと心の底から安堵させてくれ!!」

「勿論ですとも父上! さっさと首を出して父上に披露しろ!」

「はっ!」

「フフフ…あの子ったら最期はこんな姿になってしまって。あの性悪女の残した我が家の癌だったけれども…あっけないものだったわね」

「そうだ!お姉さま!最後くらいこの子と遊んであげましょうよ? 蹴鞠なんてどうかしら。きっと喜ぶわ」

「ウフ!いいわねえ~」


 まるで姉妹とは思えない邪悪なやり取りには流石に取り巻きの者も顔をヒクつかせていた。


「オイ!まだなのか!?」

「い、いえ…それが、何故か桶の蓋の鍵が何度やっても元に戻るのです!その…なにか、とんでもないものが中にあるかのように…っ」


 だがその私兵は激昂した長男に斬り捨てられ上半身を蹴り飛ばされた。


「愚か者めがっ!父上の前で私に恥をかかせおって…」

「もう良いわ!退けっ!!」

「ち、父上!?」


 辛抱堪らなくなったロトカスがドスンドスンと歩みより哀れな私兵の亡骸を踏み潰す。豪奢な服が返り血で血みどろになるが気にする素振りもなく桶に手を駆ける。

 

 と、そこへ慌てて数名の私兵が飛び込んできた。


「た、大変です!!」

「今度は何事だ!つまらぬようなら切り捨てるぞ!!」

「それが…余興で用意していた奴隷達が誰一人地下に残って居ないので…ぎゃあ!」

「馬鹿者っ!何をしている!!早く捕まえてこんかあ!?」


 長男は怯える私兵に再度剣を振るおうとするが、「黙れえっ!!」というロトカスの怒声で動きを止める。


「奴隷ならまた捕まえてこれば良い!それよりも…おっ!?」


 あれだけ私兵が難儀していたのにも関わらず首桶の鍵はロトカスが触れるだけでスルリと外れたではないか。


「なんだなんだなんだぁ!!いとも簡単に外れたではないか…いや、最初から儂が自ら取るべきであったのだ。呪わしい存在であったが…こうして無事解決してみれば、あの毒婦に儂の命を奪うべく呪われた哀れな娘だっ… なあ!? げああああっ!?」

「父上!お気を付け…お?」


 酷く動揺したロトカスが首桶から取り出したものを手から滑らせ大理石の床に落ちて転がった。


「なっ…!何故コイツの首が!!魔力鑑定では確かに…うん!?」


 最期に長男だけが気付いた。微かに苦悶から笑みに変わったような気がした次男の口の中からゴロリと赤く明滅する黒い水晶玉がまろび出て床に触れたのを。



 ※※※※※※※※※



 その日、街の中央にあるロトカスの民の血税で塗り固められた居城は赤い光の柱によって飲まれて跡形もなく消え去った。


「綺麗…」


 街の住民の誰かがそう言い、幾人もが理由もなく涙した。


「敵襲!敵襲~!!」

「西からエルフ!東から獣人が攻めてきただとお!?」

「無理だっ! あの光を見ただろう!? 城の連中は全滅だぞ!」

「ちょっと待てよ…じゃあロトカス様、いいや糞貴族共は皆死んだって事じゃねーのか!?」

「キタコレ!」

「こんな仕事やってられっかあ!」

「武器を捨てろ!門を開くんだよお!!」

「「おお!」」

「馬鹿者っ!何をしている!街を守らんかあ!」


 そこへ城の騎士が剣を抜き放って民兵に脅しを掛ける。彼はあの光に巻き込まれて消滅を免れた数少ない生き残った騎士だった。だが、彼は近くの民兵に泣きながら殴り飛ばされて剣を落とす。


「馬鹿野郎はアンタだよ!あんな人を人も思わねえ酷い領主の味方なんてすんじゃあねえよ!」

「そうだ!エルフや獣人は捕まった仲間を助けにやって来ただけだ!」

「この街に奴隷は…!」

「いるよっ!」


 声の主はまだ容姿の幼い若い民兵だった。


「もう…俺達があの領主の奴隷じゃあないか。金が無いからって病気で親父もオフクロも医者はいるのに死んぢまったよ…。俺達はどこにも逃げ場所の無い、鎖の無い奴隷さ…。でもやっと自由になれるんだ。もう…止めようよ…!」

「自由に……」



 四方全ての街の門が開かれた。エルフと獣人の軍が街に進軍すると、そこには武器を手放し泣き崩れる民兵と街の住民達が居た。

 その先頭には鎧下だけの男が居た。


「俺は領主ロトカスの騎士だ。エルフや獣人に剣を向けたこともある…。だから、俺の命はくれてやる。そんな価値もないかもしれんが…どうか、他の連中は助けてやってくれないか!頼む、頼むよ…!民兵達は領主に逆らえずに無理矢理…っ」


 だがその騎士の肩に無言で獣人の戦士が手を置いた。


「辛かったな…だが、それもやっと終わる」


 それ以上の言葉は無い。しかし、エルフ、獣人、そして騎士の眼には溢れんばかりの涙が浮かんでいた。


 街へと侵入したエルフと獣人達は決して街の住民へ手は出さなかった。

 程なく、住民や善意の騎士の協力を得て何とか城との心中を逃れた悪党達も全て捕縛された。



(大穴と化した城の跡地の上空で)



 そこには無数の魂が地上の者達の様子を伺って笑みを浮かべると、それぞれが一筋の白い光の筋になって星の間を流れていく。


 彼らはあの呪いの爆弾に封じられたロトカスの犠牲者の魂だった。


 殆どの者がロトカスという害悪が消え去った後、人間族・エルフ・獣人が種族関係なく額を突き合わせてこの街…そしていずれ築かれる新しい国。新しい世界に向けて話し合い、不安に顔を歪めるも希望によって笑顔を見せる様子に満足して光となっていく。


 そこにそれらの者とは少し変わった集団が居た。彼らは他の者と比べて明確に人間で会った頃の姿を保持していた。


『遂に成し遂げたな…娘よ…』

『……いいえ。私は娘を犠牲してしまった愚かな母親です』

『…我ら呪術師一族の報復。そして今まで犠牲者となった者達の供養の為とはいえ、お前達母娘には酷過ぎるものを背負わせてしまった。本来であれば、我らはヘカトンの谷へと堕ちるべきなのであろうな…』


 遠くの山を見る女は軽く首を振った。


『いいえ。父さん…結局あの子を復讐の道具にしたのは私ですもの…アラ?』


 女は徐々に消えつつある魂の中にポツンと残っている者を見つけて近づく。


『……ん? おお!これは義母殿ではないか!どうやら一族総出で息災(・・)のようですな? 此度は見事に本懐を成し遂げられたようで、おめでとうございます…』

『…………』


 器用に空中で体育座りをしていたのはキノコ頭の男だった。女の存在に気付くと嫌味たらしくお辞儀して見せる。


『…ところで義母殿にお聞きしたいのだが』

『なにかしら?』

『どうして俺はヘカトンの谷へと堕とされない?』


 男は笑みを消して、脚の先にある大穴を睨む。


『俺は正真正銘ロトカスの人間だ。なのに親父達や馬鹿兄弟と一緒に連れて行かれなかった…何故だ? 下の大穴がもしや谷への入り口かと思い待っているが、待てども待てどもこの身体?は沈みもしないのだ』

『…それは貴方がヘカトンの谷へと行く理由が無いからよ』

『義母殿も意地が悪い。俺はロトカスだ。なにせ妹を手に…』

『本当に殺そうとしていたのかしら? 御金遣いが荒い貴方が金貨一枚すら使わずに? それにあのドブ男が渡したのはたった金貨十枚だったはずでしょう…貴方は山賊からあの子を助け出して他所の国に逃がす気だったんでしょ』


 男はピタリと動きを止めて遥か遠くの山を見やる。


『それは義母殿の思い違いだろう。俺はくすねた金貨を自分の財布にしまっただけだ…』

『偉大なる天は全てお見通しよ…。冒険者にも息が掛かってると知った貴方は急いで子飼いの貴族からあの護衛3人に手を回した。しかも敢えて事情も伝えずに、ね。…思えば、貴方はあの悪の権化のような男の血を引いた男の中で唯一の善人(・・)だった…だから死後も喜んであの子の呪いの身代わりになってくれたんでしょう。ちなみに、あの爆弾が作動しても貴方だけは死ななかったわ。だって、貴方を恨む者はひとりたりともいなかったんだもの…その時点で気付いてたわよ』

『…あの護衛達には悪い事してしまった。まあ、離縁や家との断絶は俺が圧力を掛けてやらせたものだ。実際、あの者達の家の者も婚約していた貴族達もこうして綺麗サッパリ消えてしまったからな…。義母殿。巻き込まれてしまった俺の部下や他のただ忠義を尽くしてくれた騎士はどうなったんだ。何処にもいないんだ…』

『ああ…それなら、ホラ。あそこ。あ、あそこにも』


 女が地上で働く男達の為に野外で煮炊きする女達を指差す。その女達のも元へ小さな光の玉のようなものが女達の周りを愛おし気に飛んだ後に女達の下腹部へと吸い込まれていく。


『…アレは、もしや妖精か!』

『ええ。まあ、よっぽど貴族の悪事に染まって悪辣な事をしていない者は皆ああして妖精になって世界に散っていったわ。勿論、記憶とかは保持できないけど…これからを生きる新しい命としてね』

『新しい、か…いいな。義母殿、俺も部下の騎士と同じく妖精にはなれまいか?』

『それもいいけど…良かったら私達と一緒に来ない。まあ、生まれ変わるとはちょっと違うステージに行くことになるんだけど…誰も反対はしないわよ』

『何処へ?』

『うーん。口で言うのには難しいわね…ただ、他の皆は星屑の光になって別の世界へと旅立っていったけど、私達はその星よりも高い場所へと行くのよ。どう? ワクワクしてこない?』

『ワクワクとは…些か不謹慎ではないのか義母殿よ。だが、折角の誘いだ。断るの忍びない。お供させてくれ』

『オッケー!じゃあ皆に伝えてくるわね!』

『お、桶? なんだ義母殿はエルフ語が使えたのであろうか…』


 男は女とその一族の魂と共にどんどん高く空へと昇っていき、やがて完全に空は黒い闇となり、自身の居た大地の全てを見渡せるようになった。


『じゃあ…これからだいぶ時間が掛かるらしいから私達は光なってしまって暫くは意識もなくなっちゃうらしいから。もう元の世界は見納めになるわね…多分戻ってこれないわ』

『…義母殿』


 男は徐々に光と化す中でポツリと呟いた。


『あの護衛の3人。それに…妹は幸せになれるだろうか…』

『……それは彼女達次第ね。母親として最後まで冷たいと思われても仕方がないけど、世界に生きる者はその世界で生きていくことだけに必死になっていればいいっ! …なんてね。でも、もう私達があの子にしてあげれることなんてないから。私だって幸せに生き抜いて欲しいわよ!』


 暗闇の中に光る雫が浮かぶが、男は女の方を見なかった。


『さ…もう時間ね。いつになるか判らないけど、光の向う先のその果てで…また会いましょう!』


 そして光は果てしなく続く旅路へとついた。


 男はふと意識を…もっと原質的ものが光へと分解される前に思った。その女の言葉は自分に対して言ったのだろうか……それとも。



 ※※※※※※※※※※



 僕がこの世界に来て早3年が過ぎた。


 僕はと言えば未だに山賊をやっていた。と言っても襲うのはもう街を行き来するロトカスの者では無い。エルフと獣人、そして人間族が手を取り合って起こした新生国家を牽制すべく領へと侵入してくる竜族と半馬族と牝鳥族だ。

 竜族は喧嘩っ早い上に空を飛んで火を噴く。数こそ少ないが下手なモンスターより非常に厄介だ。しかも他種族に惚れ易い。人間族の女を理由をこじつけて攫おうとする変態共だ。

 半馬族は下半身が馬の者と下半身が人間族だが上半身が馬の者が居る変態種族だ。しかもベジタリアンという宗教を独自に持っており、エルフとは友好的だが主に肉食の獣人との相性は最悪だ。他種族会議を開けば先ず喧嘩が起きる。ちなみに竜族は極めて雑食なので対象外となっている。

 そして一番困ったのが牝鳥族。飛行能力を持った女しかいない盗賊種族で各地で男を攫うとんでもない奴らだ。ちなみに、うちの団からもひとり攫われた。二年後に生還したが、その時は牝鳥族の嫁を五人と娘と知らない子供を合わせて十一人ほど連れて帰ってきた。


「…ダーリン。何を考えているのだ……あ~さては赤ん坊(ややこ)の名前だな? 気が早いの~。生まれるまで後二年は掛かるぞ?」

「…………」


 隣のダークエルフの彼女は妖精避けの呪いとやらを外して僕の子供を速攻で妊娠した…が、人間族と違ってえらい妊娠期間が長い。最長で5年掛かるらしい。だが、彼女のお腹は既に臨月手前くらいまでの大きさになっている。…もしかして生まれた時にはもう成人体形、なんてことはなかろーな。いや、エルフなら有りうる…?


「子供と言えば、増えたな…うちの団も」

「そうだの。まあ、賑やかでいいではないか?」


 あの騒動から3年。先ずは俺の嫌がらせ…もとい愛の試練を乗り越えた元冒険者と山賊Cと山賊Dの夫婦に子供が産まれた。しかも今年で山賊Cは3人目。山賊Dはつい先日2人目が産まれた。さらに、あの少女の護衛だった3人も一時期は自棄になっていたものの実はかなりの性豪の部類だったらしく、山賊達をものの数か月で圧倒。しかも常に妊娠している状態で既に全員が3人以上産んでいる。子供達は皆の子供ということになっているが…それで良いのか?今では3人はアジトで下女に混じって仕事をしながら夜は僕の山賊達の相手をし続けてくれている。そして駄目押しとばかりに牝鳥族を連れて帰ってきた部下。

 というかそれ以外にも単純に人数が増えた。戦闘員は五百をとうに超え、非戦闘員に至っては既に2千近いのだ。しかも、エルフや獣人も普通に参加している。他の住民も合わせるとほぼ5千。増えすぎだよ!?


「もはやこれは山賊のアジトでは…ない?」

「何を今更。千人を超えたところでもう都市計画は進んでおったろうに」


 そう人口増大に伴い、この山周辺の開拓が急激に進んだ。この山の中腹からの眺めは実に壮大だ。三年前まで森しかなかったのに…眼下には既に大都市への土台が出来上がりつつある。


「お頭ぁー。この建材は何処に運びやしょう? エルフからの特注品らしくて詳細が…」

「あー…何処だっけ?」

「ふむ。これはアジト新地区のイの41の3のものだな」

「ありがとうございやす姐さん!じゃ、もうひとっ飛び頼まあ~」

「マカセロオ」


 非戦闘員の建築班の団員と牝鳥族の運搬係が僕達に手を振りながら現場へと飛び去っていく。


「……何処まで大きくなるんだろうなあ」

「致し方ない。計画では街への街道を拡張しつつ、最終的にはこの都市にあの街を組み込むらしいからな。まあ、横にも後ろにも延びるのが恐らくエルフの森との折半もあるからなあ~」


 街って馬の脚でも下手したら2日掛かっちゃう距離じゃなかったけ? その距離を都市で繋ぐの? ヤバくね?


「まあ、街の連中もそれを望んでいるし。代行も当初からその一点張りだしな」

「なんで城を再建しないんだ?」

「もう此処が在るんだから要らんだろう? それにあの大穴は歴史的な遺物として保管すると小娘…ああ領主代行がこの前も街で演説して皆が賛同に拍手の嵐だったぞ。なかなか大したものよなあ」

「…………」


 少女は肉体から呪いの源である全ての魔力を悪魔の眼玉に抜き取られて金髪から白髪となったが生きていた。いや、生き返ったと言った方が正しい。あの光の柱騒動の直後、街へダッシュで駆け付け街の住民達に土下座して詫びている。魔力を失った代わりにかなり人間離れした身体能力を手にした彼女だが領主には復帰しなかった。住民から反対された訳ではない、むしろ正しいものがこの街を責任を持って正すべきせあると彼女を推した。しかし、彼女はあろうことか住民だけでなく、その場に居合わせたエルフと獣人達にもこの領の正当に引き継ぐ者は僕だと宣言したのだ!なんて余計な事をしてくれるんだ!彼女が話したのは僕のおおよその過去とロトカスとの争いの歴史だった。だが、「流石に山賊が領主とは…」という戸惑いの声から僕の名前は流れるはずだったのに…。

 彼女を追って行った山賊Aがここで暴走した。怒り狂った山賊Aが壇上に上がり声を上げてしまったのだ。


『若様こそ…あの御方こそがこの領の正しい継承者なのだ!先々代の頃から卑劣なロトカスによってこの街をいわれなき罪で追われ、山賊として身を隠し…ロトスカの者のみを襲い力を削いで来たのだ!今日のこの奇跡とてあの御方が無き先代の意思を引き継ぎ見事っ!巨悪たるロトスカを打倒されたのだ!』

『あ、あの御方はドム衛兵隊長ではあるまいか!?』

『なんと奥方と子供をロトスカに遊び半分に殺された上に追放された…!』

『そうだ!俺がドムだ。だが、俺はこの日だけを信じて山賊に身をやつしてまで生きて来たんだ…』


 山賊Aの名前がやっと判ったが全然嬉しくはなかった。

何故なら彼の数時間に及ぶ熱弁にすっかり民衆は涙を流して虜になり、いたく感銘したエルフと獣人達も揃って僕が新領主になることに同意してしまった。

 

 こうして俺はこの領の新領主になってしまったが、街に行くことは断った。何故なら部下の山賊達とこの山の周辺に住む者達を放ってはおけないと最もらしい言い訳をしたら逆に感心されてしまった。街はロトスカの名を捨てた少女が領主代行。僕の怒りを買った山賊Aがその補佐として街に駐屯し、復興や他種族との交流にその身を割いて貰うことになった。

 同じひとつ屋根の下に住むことになった二人だが、山賊Aはどうやら少女を娘のように思っているようでとても仲が良いらしい。だが、どうやら噂によると少女はやたら挑発的な下着を買い付けているらしく。時折、焦って家から飛び出す山賊Aの姿が見受けられるようになったらしい。…ほーん。


 え。山賊Aじゃなくて、ドム?

 いいよもう、山賊Aで。僕を領主なんて面倒くさい立場を押し付けたんだ。絶対に名前で呼んでやんない。



 だが、肩書きで多少堅苦しいことになってしまったが…これで少しは好きな事が皆できるようになったんじゃないか? そう思ってないと僕がやってられない。


「なあ…お前はさあこれから先何がした…ってなに怒ってんの?」

「……約束しただろう? 二人っきりの時は余を名前で呼ぶって…」


 やだ。僕のダークエルフ嫁、可愛過ぎ!?


「えー…あ~……悪い。なんだっけ?」

「おまっ! …はああ~。魔法の覚えだけは良いのにどうして自分の女の名も憶えてられないんだ。呪いか? その分だと余との子供の名すらマトモに憶えていられないのではないか。まあ、いざとなったら肌に名を彫るも良いかもしれんな。痛みで覚える方法だ」

「怖いな!…流石に冗談だろう?」


 彼女はクスリと微笑んで顔を僕に向ける。片手が優しく握られるので思わず握り返してしまう。


「冗談だが…次に覚えてない場合は近しい方法を試すやめしれんぞ…フフッ」


 僕は腕を引かれて抱き寄せられ、彼女の口が僕の耳元に当たる。



「いいか? お主の妻の名は…」




ここ最近、集中力が続かず連載作品の更新が滞ってます(^_^;)

今回はリハビリも兼ねてちょっとだけ頑張りました。

短編の概念がイマイチ判りませんが、楽しんで読んで頂けたら幸いです。

短編自体は何回か書いて消しての繰り返しなんですが、今回は一応最後まで書けました。

どうしても連載作品にしたくなってしまうんですが、どうせ没ネタでメモ書きを肥えさせるくらいならと思って短編にまとめました!…まとまってたか?

相変わらずの山賊ネタでしたが、ヒーローしない主人公を書くのはとても私にとって我慢と根性が必要です。いつかダーティな主人公で作品を書きたいなあ~。

※以降ネタバレ

恐らく本編を読んでいると途中で主人公って誰だ? って思う瞬間があるかもしれませんが、それは元々この作品の主人公がそれぞれ山賊に転移してしまった一般人。山賊A・B・C・D他に加えて嫁ダークエルフにエルフと獣人、女冒険者と少女や敵役を装う次男と言った風に多数のキャラクターを主軸にしたオムニバス形式で書こうとしていた作品だったからです。

最後に本編では一番陰惨で暗い話であったので山賊Bと女獣人との話はカットしています。悪役を非道で残酷な者から単なるアホに軽減する為ですね(笑)

 ちなみに、カットした都合で最後の節で書けませんでしたが、山賊Bと女獣人は街へと行軍した獣人達と共に故郷である獣人の国へと帰国して結ばれ、子沢山で幸せに暮らしています。安心して下さい。


では、佐の輔でした<(_ _)>

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