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神崎槙和は追い詰め(られ)る。1

[壁ドン]

 ①マンションなどの集合住宅において、隣室に対し壁を叩くことで相手に意思疎通を働く行い。主に不満を伝える場合に使われる。

 ②一人は壁を背にして、もう一人は相手の背を向けた壁に手や足をつき距離を詰め相手に物事を迫るさま。主に少女漫画や恋愛ドラマなどにおいて様々な用途で使われてる。



 たった今、僕の脳裏に浮かんだその言葉を基に、今置かれている状況を再度確認したい。

 舞台は人気の無い放課後の教室、王道の壁ドンスポットだと思う。次に相手だが、僕の背後にある壁に勢いよく……良すぎるぐらいに手をつけ、こちらをまっすぐ見つめて……今にも突き刺しそうな力強さで見つめている。

 そして極め付けに彼が吐いたセリフはこれ 「君は、何も、見ていない。そうだよな?」 だ!


 いや。いやいやいや!!!!!おかしい!おかしいよこれ!?!?相手目ェ怖いし!さっきの手はそのまま殴るスピードだったし!そもそも僕は男だしで!!!

 お、おかしい。なんで壁ドンなんて言葉が出て来たんだ。いやでもこれも立派な壁ドンと言えなくも……


「おい」

「ヒュッ」


 思わず息を吸って返事になってしまった。うん、違う。これ壁ドン違う!

 一言だけの威圧感に、ありもしない後ろに後ずさりしそうになる。それを察してか、彼はどんどん詰め寄ってくるっ!


「オイオイ、返事が無いが。何も、見てない。そうだろう?」


 彼が言葉を紡ぐたびに送られてくる圧が強くなる。「お前の意思は求めていない」と、瞳が先程の言葉よりも雄弁に語っていた。

 こっわ。いや怖い怖い!目が殺しにかっかて来る三秒前なんだよ!

 うぅ……なんで?なんでだ!?なんで僕がこんな目に……



 * * * * *



 数分前



 人の気配が薄くなった放課後。下ろしたての制服が馴染むくらいの涼しさ。喧騒の染み付いてない教室。その中で俺、神崎槙和(かんざきまきな)は……


「だぁ〜〜!クソがッ!」


 ここ一番で機嫌が悪かった。


 思えば朝から散々な日だった。目覚ましを無意識のうちに止めて遅刻しかけるし。学食でカツカレーが目の前で売り切れるし。さっさと帰りたいのに腹が痛くなってトイレに籠るし。おまけに教室に一人でいると、教師から「明日の授業で使うプリントたちなんだけど、ホッチキスで綴じといてパンフレットみたいにしておいてくれない?」と言われ今の今まで黙々と作業に時間を費やす始末。

 おまけにプリントが一枚足りないときた。こうして、穏やかで琵琶湖のように深い心を持つ俺ですら、空に向かって悪態を吐かずにはいられないのである。


「めんどくせえ……」


 何がめんどくさいって、これを先生に言いに行く必要があることだ。教室(ここ)から職員室まで往復しなければならないが……というか報告に行くことすらダルい、「置いといて、そのまま帰っていいから」とか言ってたのにこれだよ。

 …………よし、アレ使おう。手段は選ばん、さっさと帰ってゴロゴロしたい。


 周囲に誰もいない事を確認し、大きく息を吐いて、意識を集中する。そのまま自分の中にある不思議な感覚……第六感とも呼べる感覚へと意識を延ばす。俺は、未だに慣れない感覚を手繰り寄せながら、さっきから飽きるほど見たプリントを思い浮かべる。


<ガイスト>十数年前人類が突如発現させた超能力や特殊能力の総称。火球を放つ派手な能力から、一瞬だけ握力が強くなる一見地味な能力までさまざま。


 宙に、四角い影が浮き出る。それは徐々に色が――白黒だけど――浮かび上がる。形と色を得たそれは、上から吊り上げていたワイヤーが切れたように重力に従いだす。それは、紛れもなくそこにあるプリントと全く同じものだ。

 幻術やテレポートなんてもんじゃあない<物質生成>、これが俺の<ガイスト能力>。とまあ、どう考えてもヤバい能力なので、人前じゃあ絶っっっ対に使えない。

 まあ、こんな時間の教室に誰か来るわけも無い。とっとと終わらせて―――――

 ―――ガタッ

 突如、背後から物音が聞こえた。


 ―――――フゥッーーーお、落ち着け、どうせ物がずり落ちたとか、立て掛けていた物が倒れたとか、その辺に決まってる。さっき周囲は確認した。こっちに近づく足音も無かった。先生か?いや、雑用を任せて十分と経っていない。そもそも誰がこんな何もない教室に?

 そ、そうだ、あり得ない。だからこそ、だからこそ恐ろしい!振り向きたくない!怖い!

 しかし、このまま背後をシュレディンガー状態にしておくわけにはいかない。誰もいない、そんな当たり前のことを確認するだけだ。ナニモオソレルコトハナイ。

 息を整え、意を決して扉へと振り向く。頼む!誰もいないでくれ!


 祈った、とにかく祈った。信仰する神などいないが祈っていた。

 そんな祈りは届かなかった。今日は散々な日だ、最初っから悪ければ、最後まで悪くなければ据わりが悪い。今日の俺はそんな運命(さだめ)だったのかもしれない。

 さらに、今日の悪運はとことん俺を追い詰めたいらしい。よりにもよって最悪の人選をしてきた。

 彼は学園長の姉を持ち大人たちにも話は通りやすいだろう。

 北園氷野(きたぞのひょうや)、クラスで一番見られたらめんどくさい奴だった。

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