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みえているもの、みえてないもの

 春。若者にとっては門出の時期となり得るこの季節。

 場所は東京、街中でキャリーケースを引いて歩く10代の若者達は、例にもれず門出の真っ最中なのだろう。

 そんな若者から、立ち止まり空を仰ぎみる者が二人。

 一人は、先程から街の風景に圧倒され、その目はせわしなく辺りを彷徨っている。彼の足取りは頼りなく、手を離れない携帯端末から、この場所に慣れていないことが見て取れる。

 また一人は、落ち着きを持って辺りを眺めている。彼の歩幅は乱れることはなく、現代文明の助けも必要ないようだ。

 そんな対照的な二人の仰いだ先には空ではなく塔。電波塔が()()()

 それは比較的新しく、建設時には、ニュースでその姿を拝めなかった日はなかったように思う。


「「すげえなあ……」」


 今では当たり前のようにその場にあり、建設時の熱も冷め、話題ではなく定番のスポットとなったその電波塔に、二人は奇しくも同じ感嘆の声をあげた。

 互いに在る筈の無い、在る筈の無かった塔を見て。




「―――十五年前この地球に突如として降り注いだ隕石……<クリスタルメテオ>、それはこの東京にも下りてきました―――」


 偉い人の話とはどうしてこうも眠くて、単調で、退屈なのだろう。


「―――四年のも<ムスルミア>との戦い。勝利した我々人類でしたが―――」


 偉い人(おっさん)の話に飽きた俺は、周りの新入生兼同級生を眺め始める。

 眠気で姿勢が崩れてきている奴らが大半、流石に寝ている剛の者はいねえなぁ。シャキッと話を聴いてる奴なんざせいぜい二割か三割……ん?


「―――後も大きな被害が我々を苦しめました。その最たる例―――」


 壇上前の列だけ、妙に姿勢のいい生徒が多い。前の列だけいい子ちゃんが多いだけ、とは考えにくい。


「―――土地の破壊、それによる新タワー建設の延期は皆さんも覚えがある―――」


 長く、眠気誘うおっさんの長話の中、姿勢を崩さずによく見える後頭部に有る共通点が見えてきた。姿勢のいいのは男子が大半。傾向は見えてきたが。


「―――すが、皆さんも、この学園都市とあの<トウキョウグランドタワー>のように―――」


 結論の出ない疑問をよそに、おっさんの長話は幕が下りそうになっていた。

 クッソ長かったな。体感四十分あったな。

 時計を見れば十分ぐらいしか経っていないのだから不思議である。まさかあのおっさん、時間系の能力者か!

 昔は冗談でしかなかったこのセリフも、今や冗談ですらないのだから恐ろしいものである。いや、ほんとに十分しか喋ってないけどおっさん。


「―――様、ありがとうございました。続きまして、学園長―――」


 冗談半分でおっさんの能力を疑っていると、先程の前列の生徒達が静かに湧き上がっていた。そして、先程の疑問の答えがわかってきた。

 登壇しモニターに顔が映る。そこに現れたのは先程の肩書きからは想像もつかないような、若い女性だ。

 雪のような白く長い髪、雪洞から覗く青い光を思わせる瞳、整った顔立ちに色白の肌は今にも消えてしまいそうな儚さがある。

 思わず現れた超絶美人(たぶん美少女と言われても通用する)に見惚れてしまう。十五年前に出会えていたらなあ……

 周りの新入生はそれぞれ落ち着かない反応を見せている。絶世の美女の登場による動揺。または学園長が若い人間であることに訝しむ者。女子は後者の方が多い印象。頑張れ学園長。負けるな学園長。俺は応援しているぞ!

 落ち着きの足りない式場に喝を入れるように、彼女は厳かに口を開き始めた。


「学園長の北園雪音(きたぞのせつね)です。皆さんを本校に迎え入れる今日という日をーーー」


 彼女の凛としていて透き通るような美しい声が届いた瞬間、周囲の空気がガラリと変わった。思ったより威圧感のある声色に襟を正す者。動揺から抜け出せない者。訝しみを深める者。そして……


「美しい……」「女神だ……」「素敵……」


 恍惚に呟く者が数人……

 今の方向からしてクラスの奴もいるな……

 少し気になったのでその方向へと目を伸ばす。しかし、俺の目は意外にも隣の男子へと止まっていた。

 白い髪は雪のようで、眼は雪洞から見える青、色白の肌、そして何より、似ている……

 壇上に立っている学園長と、似ている。というか他人じゃないよな。歳の離れた姉弟か?

 それに、気になったのは容姿だけではない。彼が学園長を見る目、不安や心配が入り混じった視線。

 ぜってえ血縁者だろ。


 * * * * *


 入学式も終わり、各々の教室へと案内される。担任の話も早々に終え、しばらくの間教室で待機する時間となった。そして、入学初日からこんな時間があっても、恥ずかしがって誰もおしゃべりなんてしないのが常で―――


「すっっっげえ美人さんだったな!学園長さん!」


 ─――するんだ。

 どうやら後ろの席の元気そうな男子が、後ろにいるメガネの男子に話しかけているようだ。


「うるさい。静かにしろ。話しかけるな」

「えっーー!なんでだよ〜圭太郎(けいたろう)〜」

「……なんでまたコイツと一緒なんだ……」


 どうやら後ろの席二人は友達?なのかな?仲よしって感じじゃないけど。


「圭太郎も変わんねえな。そんなことより学園長だよ学園長!すげえよなあ、生で見ると神々しさすら感じるぜ!」

「そんなことってなんだ、そんなことって…………はぁ……それで?学園長?確かに美人だったけど、そんな騒ぐ事?」

「あたぼうよ!学園長目当てでここに来たと言っても過言じゃないぜ!」

「過言であってくれ」

「そんぐらい楽しみにしてたんだよ!なあなあ、前の席の、お前もそうだろ!」

「えっ!あっ、えーっと……」


 思いがけない呼びかけに言葉を詰まらせる。 だがそんな僕にはお構い無しに彼は興奮のまま言葉を紡ぐ。


「あの可憐な美貌!凛とした美しい声!お前も男ならあれに惹かれるよなぁ!」

木戸(きど)


 メガネの彼が机から身を乗り出し、元気な彼の背を叩く。


「ん?なんだよ圭太郎」

「落ち着いて、彼のことをよーく見ろ」


 メガネの彼から言われたとうりに彼は僕のことをじっくりと観察しだす。途中、「ん?んん!?」と唸りながら顔を驚きの表情へと変化させる。


「な、なあ。お前、名前は、なんて言うんだ」

「おいおい、名前を聞くときは、自分から名乗るものだろ?やあ、僕は小松圭太郎(こまつけいたろう)だ。よろしく」


 明らかに動揺したふるえる声で聞いてきた彼を、ここぞとばかりにメガネの彼、小松が揶揄い出す。


「お、おう。俺は、木戸(きど)(あきら)。よ、ヨロシク」


 名乗られれば名乗り返すのが挨拶の常識というもの。だが……

 元気そうな彼、木戸の反応からして、どうも言いずらいというかなんというか……ま、まあ。遅かれ早かれ名前は知られるだろうし、いいか……


「ええっと……僕は北園氷野(きたぞのひょうや)。お察しの通り姉さ……学園長の弟です……」

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