第八話 ラト
シナリアの顔は苦渋に満ちていた。
自分の過去を知るものが敵だったのだ。
そしてその名を知るものはたとえ王国暗部だとしても少ないはずである。
なぜならその名を知っている者のほとんどがあの帝都陥落の日に死んだのだ。夫と共に…
だが目の前の敵は私の事を知っている。
「あなたはどなた?いいえ……お前は誰だ?」
声を低くし、黒装束の男に威圧を込めて尋ねる。
「忘れてしまったというのですか?それはひどい」
黒装束の男はそう言うと顔を見せた。
その素顔にシナリアは絶句する。
「ラト」
一言だけだった。同時に激情に心を飲まれたシナリアはラトの心臓に剣を突き刺しに飛ぶ。
「らしくないですよ?シナリア」
心臓にただ真っ直ぐ伸ばした剣は無情にも左に避けられ、
逆に左肩を斬られてしまう。
「くっ!?」
シナリアはその場にしゃがみ込んでしまうが、ラトは追撃してこない。
不思議に思ったが、体制を立て直し再びラトに向き直り剣を構える。
「安心してください。僕は敵ではありませんよ」
それを聞いたシナリアは、「どの口が言うか!!」と声を荒げる。
やれやれといったようにラトは首を振ると、
「あなたがいたのは想定外でしたが、僕がここにいるのもこちらとしては想定の範囲内ですしね。今頃彼女達の方にはこの部隊の隊長が向かっている頃ですから」
ラトは言葉を告げた後になぜか剣を収める。
シナリアには戦闘中であるはずなのに剣を収める意味が全くわからなかった。
やがて本当に味方なのか?とゆう考えが浮かんでくるが
「なぜ剣を収めた?」
「あなたと戦う理由は無いからですよ?どのみち目的はあのお姫様ですし」
その考えは残念ながら間違っていた。
「どうしましたか?早く行かないと彼女達…死んでしまいますよ?あの人普段クールなふりしてるくせに意外と短気ですから」
苛立ちを覚えるシナリアだったが、ラトの言うことは間違っていない。
シナリアは後ろを警戒しながらもティル達を追いかけたのだった。
その後一人残ったラトは悲しそうな寂しそうな顔をしながら、ポツリと独り言を漏らす。
「御身に対してこの狼藉…お許し下さい皇女殿下」
森の中その声はどこにも響き渡らない。
森の中を南に走る俺とティルだが、崖に道を阻まれていた。
「どうしようか?」
ティルは何も思いつかないのかそう聞いてくるけど…正直わからないんだよな~
「飛び降りた後にティルの火の魔法で落下の衝撃を緩和させるとかどう?」
それに対しティルは
「この高さからの衝撃をカバーするってなると、私は大丈夫だけど黎斗は火の魔法で燃え尽きるかも」
そうか…俺燃え尽きるのか………
「無しだな」
プランAはこうして廃案となった。
「楽しそうな会話をしている中で悪いんだけどね?君は死んでもらえるかな?」
不意に俺の耳元で男の声が響いたその瞬間胸はでかい鉄の塊…剣に貫かれていた。
剣を胸から引き抜かれ、黎斗は声も上げることなく崖の下へと落ちて行く。
その光景を隣で見ていたティルは最初一体何が起きたのか
全く分かっていなかった。
だが崖の上から落ちて行く黎斗を見たと同時に正気を取り戻す。
「黎斗ーーーー!!」
悲痛な叫び声だけが森に響き渡る。
どうもこんばんわ!楽道です。
今回ちょっと短いです。
次回は多く書けるように頑張りますのでご容赦を
それではまたよろしくお願いします。