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8. 謎の場所

 目を開けると、薄暗い洞窟だった。タロウは横に目を移す。アキトとジンがいた。アキトとジンもお互いを認め、安心したように目を細める。


「とりあえず、無事に転移できたみたいだな」


「ああ」


「これからどうしますか?」


 3人は祭壇の上に立っていた。先ほどのものと形は似ているが、足元に魔方陣は無かった。


「とりあえず、タナベさんたちと連絡をとってみるか」


 アキトは、タナベからもらったスマホめいた通信機を取り出し、起動した。液晶画面にメニューが映し出される。電波を確認すると、一本だけアンテナが立っていたが、消えたり、立ったりを繰り返していた。タナベによると、ダンジョン専用の特殊な電波でやり取りをしているらしい。


「つながるのかな? とりあえず試してみるか」


 アキトは通話ボタンを押して、通話を試みる。コール音は鳴るものの、途中で切れた。メッセージアプリでメッセージを送ってみるが、通信エラーで送信できなかった。


「何回か試してみるか」


 アキトはメッセージを送り続ける。その間、タロウは周囲を改めて確認した。ゴツゴツとした岩肌がむき出しの場所。特筆するようなものはない。階段を降りたところに、穴があって、深い闇を湛えていた。何者かがこちらを見ているような気がして、ブルっと背筋が寒くなる。


(考えすぎだ)


 何でもない道でも、夜道というだけで怖くなる、あの現象と同じだ。


「送れたぞ!」


 アキトの声が響く。画面を見ると、確かに成功したらしい。


「これで連絡できるかも」


「もう一回、電話してみたらいいんじゃないか? もしかしたら、つながるかもしれんぞ」


「そうだな」


 アキトは再び電話した。数回コールが鳴って、相手が電話に出た。「おぉ」と一同から感嘆がもれる。アキトが耳に通信機を当てたので、タロウとジンも耳を近づける。ノイズがひどく、砂嵐のような音しか聞こえなかった。


「何も聞こえませんね」とタロウが言った直後、アキトが「しっ」と口元に手を当てる。


 アキトは気難しい顔で頷き、「わかりました」と言って、歩き出した。


 タロウは自分の耳を疑った。タロウにはノイズしか聞こえなかった。ジンも同じ気持ちらしく、訝し気な表情で2人は見合った。


「何か聞こえたか?」


「いや、何も」


「妙だな。追いかけよう」


 タロウとジンは、慌ててアキトを追いかけ、通信機に耳を近づけた。やはり、ノイズしか聞こえない。しかしアキトは、誰かと会話しているかのように頷いていた。


「おい、アキト。誰と話しているんだ?」


 アキトはジンを睨み、口元に手を当てる。会話中だから静かにしてほしい。そんな気迫があったので、タロウとジンはアキトが自分から話すまで、黙ってついていくことにした。


 道中、分かれ道が何回かあったが、アキトが自信をもって進むので、タロウとジンは不審に思いながらもアキトの後ろを歩く。


 歩きながら、タロウは洞窟の内部を観察した。岩肌がむき出しで、ひんやり肌寒い洞窟。最初の洞窟と似ていて、特別な感じはない。しかし、常に見られているような気配があった。辺りを見回すも、それらしい存在はいないが。


「どうした?」とジン。


「あ、いや、なんか、見られているような気がするんですけど、ジンさんも感じませんか?」


「いや、そんなことはないけど」


「……そうですか。なら、俺の考えすぎですかね」


「そもそも、ここにモンスターっているのか? 全然、現れないが」


「確かに、そうですね」


 スライムの一匹や二匹、現れてもおかしくないが、それらしい気配は全くない。敵に会わないことに越したことはないが、気にはなる。違和感を抱えたまま20分ほど歩き、開けた場所に出た。タロウは、その場所にある物を見て、息をのんだ。


 部屋の中央に石像があった。天井から差し込む月光に照らされている、女神のような石像。その手に、きらりと光る宝石があった。


「おいっ!」とひと際大きな声を出したのは、アキトだった。「見ろよ、あれ! お宝だぞ!」


「そうだな」とジンも興奮を露わにする。「それにしても、よくわかったな」


「ああ。$&#%&#様が教えてくれたからな」


「えっ?」


 タロウは聞き取れなかった。ジンも聞き取れなかったらしく、眉をひそめる。アキトに詳細を聞こうとしたら、アキトは走り出していた。


「あ、おい!」


 2人は慌ててアキトの背中を追いかけた。アキトが石像のそばに立ち、宝石を眺めた。タロウも、近くに立って観察する。石像は大きさが2メートルくらいで、宝石は手を伸ばせば届く距離にあった。紫色で野球ボールくらいの大きさ。中に深い闇を湛え、月光を吸収しているように見えた。


「すげぇ、これがあれば、%#$&%$様にお会いすることができる。これで俺も、魔法使いになれる!」


 アキトは鼻息を荒くして言った。タロウは、アキトが興奮している理由がわからず、戸惑った。


「あの、先ほどから言っている方は一体何も――」


 タロウが喋り終わる前に、アキトは手を伸ばして宝石を手にした。


「へへっ」とアキトは笑い、その瞳に紫の光を宿す。


 月光がふっと消え、タロウは胸のざわめきを覚える。


「それ、とっても大丈夫なんですか?」


「ああ。当たり前だ。%$#&%$様から許可は得ているからな」


「すみません。その、何とか様って誰なんですか?」


「おーい、ジン!」とアキトは宝石を高く掲げて、ジンに見せる。「見ろよ、これで俺も――」


 アキトが大きく目を見開いた。タロウもその視線を追いかけ、固まった。


 ジンの背後に、左目に傷の模様がある黒いクマが立っていた。ジンは気づいていないらしく、「ん?」と不思議そうにしている。


「ジン、逃げ――」


 アキトが叫ぶより先に、クマの剛腕が炸裂した。


 一瞬にして、ジンの頭部が無くなった。

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