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7. 挑戦

 冒険者としてのやる気は完全に失った。しかし、その日暮らしが許される環境は手放したくなかった。だからタロウは、やる気を失った後も、ダンジョンに残り、冒険者らしく振舞っていた。


 そんなある日、カミシマから号令が掛かり、ベースキャンプの集会場に集められる。


「珍しいな」とアキト。


「もしかしたら、クエストかもしれない」とジン。


「クエストですか?」


「たまにあるんだ。上からの依頼で、仕事をすることが。俺たちはそれをクエストと呼んでいる。最近は、あまり無かったんだが」


「へぇ」


 集会場には、30人ほどの闇冒険者たちが集まっていた。壇の上に立ったカミシマが、闇冒険者たちを見回す。


「お前らに、新フロアの調査依頼が来た」


 新フロア。その言葉に、闇冒険者たちがざわつく。


「数日前、エリア3の沼地にて、転移用の魔方陣が見つかった。その魔方陣が、どこのフロアにつながっているか確認したいらしい。最初は、冒険者たちで調べようとしたらしいが、その魔方陣を解析したところ、一方通行な上に、既存のフロアとは別の場所につながっていて、帰ってこれない可能性が出てきた。だから、お前たちの出番というわけだ」


「人柱ってことだな」


 アキトの呟きに、タロウの表情が硬くなる。


「報酬は1億円だ。やりたいやつはいるか?」


 金額の大きさに一同はどよめく。しかしながら、話を聞いた感じ、命の保証はない。


 タロウは、絶対に参加したくなかった。金額は魅力的だが、危険を冒してまで、手にしたい額ではない。


(こんなの誰も受けないだろう)


 しかし、タロウの隣で手が挙がる。アキトだ。


「カミシマさん! 俺、やるよ!」


「そうか」


「俺も」とジンも手を挙げた。


 タロウは、2人の決断が信じられなかった。


「やるんですか?」


「ああ」とアキトは言った。「この間、本物の冒険者に会っただろ? あのとき、思ったんだ。今までのやり方じゃ、絶対にあいつらに追いつけないって。だから、やることにした。あいつらよりも先に、良いお宝を見つけ、あいつらを超えるんだ」


「それにしても、危険すぎやしませんか?」


「虎穴に入らずんば虎子を得ず。叶えたい夢があるなら、それ相応の覚悟が必要ってわけさ」


「俺たちは、いつもそうしてきたしな」


 アキトとジンは爽やかな顔で語る。死ぬことや失敗することを恐れていない凛々しい表情。タロウは、彼らが本物の冒険者に見えた。


「タロウは、ついてこなくていいぞ」


「ああ、お前はまだ若い。俺たちの馬鹿に付き合う必要なんかない」


 正直、行きたくない。どう考えても危険すぎる。しかし、アキトやジンが行くなら、一緒に行きたい気持ちはある。この場所に、アキトやジン以外の仲間がいないから、2人がいないと、ぼっちになってしまう。それは避けたかった。


(そんな理由で行くとか、子供みたいだな……)


 人で仕事を選ぶ自分が情けなかった。しかし、友達がいないタロウにとって、2人の存在は貴重だったから、大事にしたかった。


「あの! 俺も行きます!」


 手を挙げたタロウを見て、アキトとジンが驚く。


「いいのか?」とアキト。


「はい。ここまでお二人とやってきて、これからもお二人と一緒に冒険を続けたいと思ったので」


「嬉しいことを言ってくれるじゃねぇか」


 へへっと笑うアキトを見て、タロウも気恥ずかしくなった。


「よし。他に行きたい者はいるか?」


 タロウたちの他に、手を挙げる者はいなかった。


「なら、決定だ。アキトたちに行ってもらう。日時は追って連絡する。解散!」


 集まっていた闇冒険者たちが、ぞろぞろと帰り始める。彼らは、帰り際に「頑張れよ」と声をかけ、去っていった。タロウも、あまり話したことが無い人たちから、激励の言葉をもらい、少しだけ頑張ろうと思った。


 しかし数時間後には、自分の行動を恥じた。もっと考えてから決断すべきだった。止めようかとも思ったが、やる気満々のアキトたちに、止めるとは言い出せず、時間だけが過ぎていった。


 だから、明日が来ないことを願った。


 しかし、その日は来てしまった。


 明朝の薄暗い時間帯。アキトのテントの前に3人は集合した。


「ついに来たな」とアキト。いつにも増して、神妙な顔つきだった。


「ああ」と頷くジンの顔も、いつもより硬い。


 タロウも、緊張で顔が強張っていた。


 そんなタロウを見て、アキトが気遣うように言った。


「タロウ。無理して、ついてこなくてもいいんだぜ?」


「……大丈夫です。行けます」


「そうか」


 アキトがテントに手を掛ける。が、その手をジンが掴んだ。


「何するんだ?」


「テントを片付けようと思ってな」


「そんなの必要ない。俺たちは、また、戻ってくるんだから」


「……そうだな」


 微笑むアキトを見て、タロウは心が少しだけ軽くなった。怖いのは自分だけではない。だからこそ、協力して頑張れそうな気がした。


 3人のもとに、カミシマとその部下がやってきた。


「準備はできたか?」


 3人は互いの顔を見合い、頷く。


「そうか。なら、ついてこい」


 カミシマに案内され、フロア3に通じる洞窟のところまでやってきた。そこに、冒険者の一行がいた。装備を整えた、手練れな感じのする冒険者たちだ。


 オールバックで渋い顔つきの男剣士がカミシマの前に立つ。40代くらいだろうか。カミシマを前にしても、物怖じしない。


「彼らが、今回、我々に協力してくれる人たちですか?」


「そうです」


 男は、3人を眺め、口を開いた。


「タナベです。今回のプロジェクトのリーダーをしています」


「あ、えっと、アキトです」とアキトが答えた。「こいつがジンで、こっちの若いのは、タロウです」


「よろしくお願いします。それでは、早速、移動しましょう」


 タナベを先頭に、一行が動き出した。アキトたちもそれに続こうとする。そのとき、「おい、お前ら」とカミシマに呼び止められる。


「何ですか?」とアキト。


「戻ってきたら、好きだけ食べさせてやる。だから、帰って来いよ」


「……はいっ!」


 アキトとジンが深々とお辞儀する。タロウも、それに倣って深く頭を下げる。厳つい雰囲気をまとっていたが、悪い人ではなかった。


 タナベたちとともに洞窟を抜け、フロア3に移動する。数日ぶりの沼地。朝方ということを抜きにしても、相変わらず暗い場所だった。目的地に行く道中で、モンスターに遭遇したが、同行する冒険者が、魔法などを使って、一掃した。


(それくらいできるなら、自分たちで行けばいいのに)


 と思ったが、貴重な人材だからこそ、簡単に失うわけにはいかないのだろう。だから、安い命を使って、確かめてみる。タロウは、自分たちがただの実験動物でしかないことを苦く思った。


 新たな洞窟までやってきた。中に入って、タロウたちは息をのむ。そこに大きな祭壇があった。地上から持ち込んだライトに照らされ、荘厳な雰囲気を漂わせている。パソコンなどもあって、冒険者たちが忙しく作業をしていた。


 タナベは、祭壇の階段の前に立って、言った。


「今から皆さんには、この階段を上ったところにある魔方陣の上に載ってもらいます。準備ができたら合図してください。こちらで魔方陣に魔力を流します。そしたら皆さんは、別のフロアへ転移されると思います。いいですか?」


「はい」とアキトが頷く。


「そして、転移先でやって欲しいことがあります」と言って、タナベは説明を始めた。転移先のフロアから連絡がとれることや、周りの様子を確認して欲しいとのことだった。必要な装備を渡され、タロウたちは準備を始める。


「こんなヘルメットを着けるのも久しぶりだな」とアキトは懐かしむようにヘルメットを被った。そのヘルメットには、カメラとライトが装着されていた。


「確かに、そうですね」とタロウは頷く。パンチパーマの男にも、中の様子を撮影するようお願いされた。しかし、ベースキャンプに行ってからは、一度も起動していなかった。


 準備が終わったので、3人は階段を上ろうとした。そこで、タナベに答えを掛けられる。


「すみません。最後の確認になりますが、本当にいいんですね?」


「ああ」とアキトは力強く頷く。「俺たちに二言はねぇ」


 ジンが頷き、タロウも頷く。最初は嫌だったが、ここまで来たらやるしかないとタロウも腹をくくった。


「ありがとうございます」とタナベは淡々と言った。


 そして3人は、階段を上り、台座の上に立った。そこに魔方陣が描かれていて、魔力を流すためのチューブが設置されていた。


 魔方陣の上に立つと、自分たちを見上げる冒険者の姿が見えた。本物が自分たちに注目している状況が、タロウは心地よかった。


「そうだ。手を重ねねぇか。試合の開始前みたいにさ」


「いいな、それ」


 アキトが右手を差し出したので、ジンがその手に右手を重ねる。さらにタロウも自分の右手を重ねた。


「俺たちは絶対に帰ってくる。何十倍も強くなって」


「ああ」


「絶対に帰ってきましょう」


 3人は互いの顔を見合い、頷いた。


 アキトが合図を送ると、タナベがパソコンのエンターキーを押した。モーターの動く音がした。魔方陣が光り始め、3人は白い光に包まれた。

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