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6. 本物

本物の冒険者を見るのは、それが初めてだった。今まで、ダンジョンで出会ってきた冒険者は、全員、闇冒険者だった。だから、闇には無い、明るいきらめきにタロウはたじろぐ。


「あれ? 人がいる」


 と言ったのは、白魔導士の格好をした少女だった。背は低いが、愛らしく、透明感のある顔つき。コスプレ感の強い恰好だったが、警察官や看護師みたいに、その衣装が雰囲気に馴染んでいた。


 他の人たちもタロウたちに気づき、目を向ける。明るい髪色の、気が強そうな少女。彼女は剣士の恰好をしていた。もう一人、髪にジェルをつけた黒髪で自信に満ちた顔つきの男剣士がいて、マントを羽織った黒魔導士の少年もいた。


 ジェルの男が訝しそうにタロウたちを観察し、「あぁ」と納得したように頷く。


「闇冒険者だ」


「へぇ。初めて見ました! 本当にいるんですね~」と白魔導士の少女は、物珍しそうにタロウたちを見た。「ってか、どうしたんですか? 怪我でもしたんですか?」


「ん? あぁ、まぁ」とジンが歯切れの悪い返事をする。


「ドクオオキノコの胞子を吸い込んじゃいまして」とアキトがへらへらしながら答える。


「なるほど! なら、私が治してあげますよ」


「おい、ノア」と黒魔導士の少年が言った。「わざわざ、お前がそんなことをしなくてもいいんじゃないか? それに、魔力は少しでも残しておいた方が」


「マー君は冷たいなぁ。イリーガルとは言え、同じ冒険者なんだから、助けてあげないと。そんなんじゃ、みーちゃんに嫌われちゃうぞ」


「何で私?」と少女の剣士が首をひねる。


「おい、ノア! 適当なことを言うな!」


「適当じゃないけどな~」


 にやにや笑うノアを見て、マー君は顔を赤くした。


 そんな彼らを見て、タロウの表情が曇る。内輪ノリが煩わしく感じた。


「カズさん。べつに助けても良いですよね?」と、ノアはジェルをつけた男に言った。


「ああ。いいんじゃないか。今日は、そんなに深くまで行くつもりはないからな」


「了解です!」


 ノアがジンの前に進み出て、持っていた大きな杖をジンに傾ける。杖が白い光をまとった。ノアが呪文を唱える。


「“治れ!”」


 ジンの体が、緑色のキラキラに包まれる。幻想的な光景に、タロウは目を奪われた。キラキラは数秒で消えた。


「はい。これで治ったと思うよ」


 ジンは、タロウとアキトに回していた手を離し、一人で立った。そして、屈伸などをして、驚いたように自分の手を見る。


「本当だ。治ってる」


「良かった」とノアが満面の笑みを浮かべる。


「あ、ありがとうございます!」とアキト。


 ジンも、歯切れの悪い表情で、頭を下げた。


 そのとき、茂みの方から音がして、全員の視線が茂みに向かう。毒々しい紫の傘を持つ、ドクオオキノコが現れた。


「マナブ!」


 カズの号令で、マー君改め、マナブが杖を構えて、呪文を唱えた。


「“燃えろ!”」


 杖先より放たれた火球が、ドクオオキノコに直撃し、ドクオオキノコの傘が炎に包まれる。


「ミオ!」


 みーちゃん改め、ミオがフェイスマスクで口元を隠し、素早くドクオオキノコと間合いを詰めた。抜刀。光の帯を描く剣筋。ドクオオキノコの体が上下で半分になった。


 タロウたちは息をのんだ。3人が、おそるおそる戦っていた相手を、2人で瞬殺したからだ。その圧倒的な光景に言葉を失った。


「調子はいいみたいだな」とカズ。


「さすが、みーちゃん!」


 ミオは、とくに喜ぶこともなく剣を収めた。


「この調子で、フロアを進んで行くぞ」


 カズが歩き始め、マナブとミオがその後に続く。ノアもついてこうとしたが、思い出したように、タロウたちを見た。


「じゃあね、闇の冒険者さん。悪いこと言わないから、このフロアには来ない方がいいんじゃないかな」


 アキトはへらへらした顔で、ジンはバツが悪そうな顔で、タロウはほのぐらい表情で、4人を見送った。


 4人の姿が見えなくなって、「いやぁ」とアキトが口を開く。


「あいつら、俺たちのこと、馬鹿にしていたな」


「ああ」とジンが頷く。


「タロウもそう思うだろう?」


「えぇ。まぁ……」と答えるが、タロウは、彼らは馬鹿にしていないと思った。最初から、タロウたちのことなど眼中にないように感じた。


「あぁ~。早く、魔法が使えるようになりてぇ。そしたら、あんなガキよりも、もっと強力な魔法を使ってやるのに」


「そうだな。俺も、もっと鍛えれば、ドクオオキノコくらい魔法の力を借りずとも、倒せるようになる」


 真面目な顔で語るアキトとジンを見て、タロウは2人が眩しく見えた。本物を見ても、2人の情熱は変わらない。それはすごいことだと思う。一方タロウは、完全にやる気を失った。


 タロウは、本物の冒険者を見て、理解した。自分がどれほど頑張っても冒険者にはなれないことを。彼らには、闇には無い、余裕と才能があって、それらが、キラキラした自信となって、あふれ出ていた。


 そして彼らには、その才能を伸ばすだけの環境もあった。フロア2で、本物の冒険者に遭遇しなかった理由がわかった。フロア2は、彼らにとって、ただの休憩地でしかないのだ。闇冒険者たちが、フロア2で、冒険者ごっこをしている間、彼らはより難易度の高いフロアで、実力を磨いている。ただでさえ、生まれたときから差が開いているのに、普段の環境でその差はより大きくなる。彼らの背中は遠すぎてよく見えない。そんな背中を追いかけることが虚しく思えた。


(井の中の蛙、大海を知らず。ってところか)


 そして、海の広さを知った時、動けなくなる。


 それが、タロウという男だった。

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