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3.ベースキャンプ

 アキトたちと行動することにしたタロウ。彼らがベースキャンプに戻ると言うので、ついていくことにした。辺りを警戒しながら、タロウはアキトに質問する。


「ダンジョンには、複数のフロアがあると聞いているんですが、ここもフロアなんですか?」

「ああ。ここは第1フロア、『始まりの洞窟』と呼ばれている。ここを抜けると、第2フロアの『始まりの森』に行くことができる。俺たちのキャンプ地もそこにある」

「なるほど。今のところ、どれくらいのフロアが見つかってるんですか?」

「5なんじゃないかな。全部に行ったわけじゃないから、詳しいことはわからないけど」

「へぇ」

「しっ」とジンが口に手を当てた。前方にスライムがいた。ジンは剣を抜こうとしたが、振り返って、タロウを見た。

「お前が倒してみるか?」

「俺がですか?」

「ああ」

「わかりました」


 タロウは剣を抜いて、進み出た。先ほど、スライムを倒した。だから、落ち着いて対処すれば怖い相手ではない。そう自分に言い聞かせ、剣を構える。スライムが太郎に気づく。目のようなものは無かったが、自分を見ていることは、何となくわかった。だから、警戒しながら、じりじりと距離を詰める。

 そして――スライムが飛びかかってきた! タロウはすくうように剣を振り上げた。剣はスライムのコアを捉え、流れるようにコアを両断する。


「ひゅう」とアキトが口笛を鳴らす。「やるじゃん」

「うむ」とジンもうなる。「なかなかの腕前だな。経験があるのか?」

「スポーツチャンバラをやっていたので」

「ほぅ。俺もやっていたからわかる。かなりの実力者だったんじゃないか?」

「最高成績は、県大会のベスト16ですね」

「そうか? もう少しいけそうだけどな」

「相手が強かったので」

「ふぅん」

「このフロアには、スライムが多いんですか?」

「ああ。ここにはスライムしかいない。そして、このフロアのスライムはそんなに強くない。だから、慌てなければ、死ぬことはない」

「……なるほど」

「ダンジョンで必要なのは冷静さだ。冷静さを失えば、浅瀬でも溺れ死ぬ」


 タロウは、おっさんや若い男たちの顔を思い出し、肝に銘じた。

 それからしばらく歩くと、前方に出口と思しき穴が見え、外に出ることができた。タロウは、驚きをもって、辺りの風景を眺めた。満天の星空と森が広がっていた。


「ここが、第2フロアですか?」

「そうだ」とアキトが答える。「このダンジョンは、外の時間と連動している。だから今、外は夜だから、ここも夜なんだ」

「へぇ。そういえば、お二人は、どうしてあの場所にいたんですか?」

「新人がくるっていうから、そのお出迎え。結果的に、1人しか救えなかったが……」

「なるほど……」

「カミシマさんも連絡が急な上に雑なんだよな」とアキトは呆れる。


 不意にジンが足を止め、二人を手で制する。


「夜に動き出すモンスターもいるから、警戒は怠るな。あいつみたいにな」


 ジンの視線の先に、手足の生えたキノコがいた。キノコは木の陰から、じっと三人を見ているような感じがあった。


「あいつはオオキノコ。こちらから攻撃しない限り、襲ってくることはないが、気を抜くな」

「はい」


 タロウは、剣の柄に手をかけ、オオキノコを警戒しながら、離れていく。

 それから20分ほど、辺りを警戒しながら歩き、開けた場所に出た。そこには、キャンプ場みたいに複数のテントがあって、物見やぐらもあった。タロウは感心しながら眺める。ダンジョンの中に、冒険者用の街があることは知っていたが、こんな野営地も存在するとは思わなかった。


「ここがベースキャンプですか?」

「そうだ」とアキトが答える。「すげぇだろ? ダンジョンの中にこんな場所があるんだぜ」

「はい。でも、これくらいの規模だと、警察とかにバレるのでは?」

「バレてるよ。でも、黙認されている。俺たちの存在は、使い捨ての駒にちょうどいいからな」

「……なるほど」

「おい、アキト」と声をかけてきた人物を見て、タロウはギョッとする。長身で体格の良い、厳つい見た目の男だった。歳は30代くらいか。「こいつが、今日の補充か?」

「はい」

「5人いると聞いたんだが?」

「俺たちと合流する前に、スライムに襲われ、パニックになったみたいです。それで……」

「ちっ」と男は舌打ちする。「あのスライムごときに負けるとは情けない。まぁ、その程度のやつらなら、どのみち使えなかっただろう。お前、名前は?」

「タロウです」

「そうか。俺の名前は、カミシマだ。ここを仕切っている。この場所では、俺がルールだ。覚えておけ」

「はい」

「ここでの暮らし方なんかは、アキトたちに聞け」


 カミシマは、そう言い残し、去っていった。


「怖いだろ、あの人」とアキトが耳打ちする。「ただ、見た目ほど、凶暴じゃないから、ルールを守れば、目を付けられることはない」

「なるほど」

「こっちだ」


 アキトたちに連れられ、テントの間を歩く。見かける人からは、荒くれ者のような武骨な印象を受け、その目には、ギラギラした鋭い光があった。狼の群れ――そんな風に感じてしまう。

 アキトが足を止める。そこに屋台があった。


「タロウの歓迎会でもしようか」


 アキトの提案に、ジンが頷く。


「まぁ、今日くらいはいいだろう」


 屋台の近くに設置されたテーブル席に座る。ニット帽子をかぶり、頬に入れ墨のある青年がやってきた。


「いらっしゃい。おんやぁ、今日は見慣れない人がいますね」と青年。

「タロウだ。今日から一緒にここで生活する」とアキト。

「そうなんすね。スズキです。よろしくです」

「よろしくお願いします」

「うちは、このダンジョンでとれた食材を使った料理を提供しているので、どうぞ、ごひいきにしてください」

「はい」

「で、今日はどうします?」

「生を3つ。あとは、今日のつまみを頼む」

「はい。ちょいとお待ちを」


 青年が屋台に戻っていく。タロウは疑うような目で、アキトとジンを見た。


「ダンジョンでとれた食材って、何ですか?」

「モンスターとか、その辺でとれる野草かな」

「え、モンスターを食べるんですか?」

「おぅ。安心しろ。ちゃんと動物実験で、食べられることは確認しているかな」

「……なるほど」


 不安に思っているタロウの前に、ビールと料理が運ばれてくる。


「モリウサギのチャーシューとオオキノコのバター醤油炒めです」


 オオキノコと聞いて、タロウは先ほどのモンスターを思い出した。あれを食べるのか? タロウの警戒の色は濃くなる。

 乾杯して、ビールで喉を潤す。


「どうだ? ダンジョンで飲むビールはうまいだろ?」

「えぇ、まぁ」


 確かに、いつもよりおいしい気がする。しかし、モンスターの食材が気になりすぎて、楽しむ余裕まではなかった。

「ほら、食って食って」とアキトに促されるが、タロウはためらってしまう。やはり、モンスターを食べることに抵抗がある。

 しかし、アキトやジンがおいしそうに食べているので、覚悟を決めた。

 まずは、モリウサギのチャーシューから。モリウサギはこの森に住むモンスターらしい。チャーシューを口に入れる。醤油の風味。肉質は柔らかく、味が染みていて、噛むたびに香りが広がった。


「うまい」


 タロウの評価に、アキトはにやりと笑う。


「その調子で、オオキノコもいってみよう!」


 アキトに言われるがまま、オオキノコにも挑戦する。キノコは肉厚で噛み応えがあった。噛むたびに、バター醤油の風味とオオキノコの香りが広がる。オオキノコの香りをうまく表現できないが、少なくとも、土臭いなんてことはなかった。

 満足そうなタロウの顔を見て、アキトはにやりと笑う。


「どうだ? おいしいだろう?」

「はい」


 気づいたら、チャーシューとオオキノコは無くなっていた。


「次のやつは俺が注文してこよう」


 ジンが席を立って、屋台の方へ行った。


「ダンジョンには、こういう楽しみがある」とアキトは言う。「ここには、まだ、誰も知らない宝物がたくさん眠っている。それを誰よりも先に発見できると考えたら、すげぇ、ワクワクするだろう?」


 アキトは、子供のように目を輝かせて語る。タロウもその気持ちが分かった。だから、秘密基地にいるみたいな気持ちで頷き、これからの生活に期待で胸を膨らませた。

 こうしてタロウの冒険者としての日々が始まった。

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