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1. 闇冒険者

 毎日が退屈だった。決まった時間に起きて、決まった仕事をして、決まった時間に眠る。友達や彼女がいないから、休日は映画やラーメンを食べて時間を消費するだけ。やりがいも生きがいも無い毎日。これがあと数十年も続くと思うと、気が重い。しかし、自殺する勇気もないから、惰性で生きていく。それが、タロウの人生だった。

 だからある日、繁華街の裏路地にある怪しげな店で、タロウは占い師に相談した。


「俺の人生が面白くなるためにはどうしたらいいですか?」

「新しいことに挑戦することをお勧めする」と占い師の老婆は言った。

「新しいことですか……。俺、飽きっぽいから長続きしないんですよね、そういうの。何かお勧めのモノはありますか?」

「お前は、死ぬ勇気はないが、死んでもいいと思っているんだろう?」

「ええ、まぁ」

「なら、ダンジョンに挑戦してみてはどうか」


 ダンジョンは、20年ほど前、地上に現れた、未だに謎の多い場所だ。ダンジョンには、危険なモンスターや罠が存在するため、冒険大学校という特殊な学校を卒業した者――冒険者しか入ることができない。


「俺、冒険者の資格を持っていませんけど」

「うむ。だから、お前にその気があるなら、ダンジョンに入る方法を教えてやる」

「わかりました。教えてください」

「決断が早いな」

「ダンジョンに興味があるので。実は俺、冒険大学校を受けたことがあるんです。でも、2回受けて2回とも落とされた。だから、入れるなら、入ってみたいです」


 その言葉に噓偽りはない。小さいころからダンジョンに入ることが夢だった。ダンジョンの非現実感に憧れていたのだ。しかし、魔力適性や才能が無い上に、筆記試験の結果も悪かったので、冒険大学校に入学できず、冒険者になれなかった。


「……そうか。なら、ちょっと待ってろ」


 そう言って、老婆はどこかに電話をかけた。

 数分後、厳つい男たちが店に現れた。一目見て、わかった。彼らは堅気の人間じゃない。


「こいつが、例の男か?」とパンチパーマの男が言った。

「そうだ」

「おい、お前。名前は?」

「タロウです」

「歳は?」

「25です」

「ダンジョンに行きたいそうだな? 本気か?」

「はい」

「死ぬかもしれないぞ」

「それでも行きたいです」

「どうして?」

「小さいころからの夢だったので」

「なるほど。よくある話だ。よし、なら、この契約書にサインしろ!」


 男が机に書類を置く。目を通すと、命の保証はしないし、一切の責任を負うつもりはない。ダンジョンに入ったことは秘密にしろといった感じのことが書かれていた。タロウは迷わず、サインを書いた。書きながら、とある噂を思い出した。


「もしかして、これって、闇冒険者ですか?」

「そうだ」


 闇冒険者とは、違法な方法でダンジョンの探索を行う冒険者のことだ。


「実在したんですね」


 タロウは、驚きを露わに、契約書を男に渡した。男は契約書を確認し、頷く。問題はなかった。


「お前、仕事は?」

「してます。辞めた方がいいですか?」

「ああ。そっちの方が、いろいろと都合がいいからな」

「承知しました。なら、辞めてきます」

「〇月×日の□時に、△△△に来い。そこが集合場所だ」

「わかりました」


 店を出る際、老婆と男の会話が聞こえた。


「早く報酬をよこせ」

「やつがちゃんと来たら渡す」


 老婆は紹介料がもらえるらしい。タロウは推測する。普段から、占いと言いつつ、裏の仕事を手伝っているのだろうか。まぁ、どちらでもいいかと結論付ける。老婆と会うことは、もうないだろうから。

 翌日、タロウは会社に退社の意思を伝えた。会社からはすんなりOKが出た。社内ニートだったので、引き留める理由が無かったのだ。あっさり辞めることができたので、流石のタロウも少し戸惑う。社内で、誰に言うでもなく、つぶやいた。


「仕事ができないんじゃなくて、やる気がないだけだからなぁ。これ以上、ここにいてもしょうがないし」


 そしてタロウは、約束の日時に、約束の場所を訪れた。そこには、タロウ以外に4人の男がいた。おっさんが1人に、若い男が3人。おっさんは、瞳が濁り、気怠い雰囲気を漂わせていた。雰囲気はタロウに似ている。一方若い男たちは、地元のヤンキーといった感じで、おらついていた。おやじ狩りの場面に遭遇したと言っても納得できてしまう面子だ。


 パンチパーマの男を待っていると、不意に聞こえた。


「おいおい、おっさんと陰キャには、冒険者なんて無理だろ」


 タロウが目を向けると、若い男たちが、タロウとおっさんを見て、ニヤニヤしていた。若い男の1人に睨まれたので、目を逸らす。「弱っ」というつぶやきが聞こえ、イラっとした。


(ほざけ。ダンジョンに入れば、どっちが優秀か、わかるんだから)


 時間になって、一台のボックス車がやってきた。


「ちゃんと、来たなぁ!」とパンチパーマの男とともに、彼の仲間と思しき男たちが現れ、タロウたちの背後に回った。

「これから、お前らをダンジョンに連れていく。ただ、その場所は秘密にしないといけねぇから、お前らにはこれから、アイマスクとヘッドホンをつけさせてもらう」


 男たちにされるがまま、タロウはアイマスクとヘッドホンをつけて、車に乗った。ヘッドホンからはラップが聞こえた。

 タロウは、目をつむっているうちに、眠っていた。

 頬を軽くはたかれて、目覚める。

 パンチパーマの仲間がタロウのヘッドホンを外す。


「こんなときによく眠れるな」


 呆れているのが、声音からわかった。

 アイマスクも外され、タロウは車から降りる。夜の森だった。目の前に古井戸があって、パンチパーマが言った。


「井戸を降りると、ダンジョンの入り口がある。そこから中に進め。そして、中の様子を撮影しつつ、宝があったら、それを持って、戻ってこい。中にお前らの先輩がいる。詳しいことは、そいつらから聞け」


 パンチパーマから懐中電灯とカメラが装着されたヘルメットを渡され、タロウは被る。


「ついでにこれも持っていけ」と剣を渡された。ずっしりと重い。鞘から少しだけ抜いてみる。刃の返す光が、『本物』であることを示し、タロウは息をのんだ。


「ほら、さっさと行け」


 パンチパーマに促され、若い男たちがロープを伝って、古井戸を降りた。タロウは最後に降りる。井戸の壁面に、大人が1人、通れるくらいの穴があった。中に入る。若い男たちはすでに進んでいるらしく気配がない。タロウの懐中電灯は、おっさんの疲れた背中を照らす。

 おっさんが邪魔で先に進めない。だから渋々、おっさんの後ろを歩いた。その背中を眺めながらタロウは思った。


(おっさんに話しかけた方がいいのかな……)


 パーティーを組んだ方が、ダンジョンは攻略しやすいだろう。だから声をかけてみることにした。


「あの、すみません!」


 しかし、おっさんからの反応が無い。聞こえていないのかな? とも思ったが、おっさんをよく観察してみると、ぶつぶつと何かを言っていた。タロウは関わらないことにした。

 しばらく歩くと、道幅が広くなった。おっさんを追い抜くことができそうだ。

 タロウが追い抜こうとしたとき、「ぎゃあああああああ!」と悲鳴がこだました。

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