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神様の草むしり

作者: 瓶覗

 世界では、魔族と人間の長きにわたる戦いが行われていた。

 百年、二百年と続いてきた長い長い戦いだが、徐々に人間が優勢になっていき戦いの終わりも近付いてきていた。

 そんな世界の、はるか上空。神々の島、と呼ばれるその島では、実際に神々が地上を見守っていた。






 穏やかな陽気、整えられた地形、柔らかな風が吹く草原、さらさらと流れる小川、厳格さに溢れる建物。それらで作られたのが、この神界である。

 神々は地上で奮戦する人間たちを見守り、その勇敢さに微笑んでいた。

 人は魔物より力も弱く、寿命も短く、魔法の才すら劣る。

 それでもなお戦い続けた人間を、神々は庇護し、導いていた。


 庇護し、導いていた。大体の、神々は。


 プチ。プチ。

 穏やかな時の流れる神界の片隅。誰も来ないようなただの草原の端っこで、その神は体育座りで雑草をむしっていた。

 ちなみに、神界の大地は壊れたとしても神感覚一日で元に戻るのでこの行動は全くの無意味であった。

 プチ。プチ。

 雑草をむしる音以外は何も聞こえない静かな空間で、神はぼそぼそと声を漏らす。


「何だよ。みんなしてさぁ。魔物ばーっかり悪者にしてさぁ」


 プチ。プチ。

 口をとがらせ、ぼそぼそと呟くのは他の神々への文句であるらしい。


「魔物だって自分たちで作ったくせにさぁ。人間ばっかに手ぇ貸してさぁ」


 プチ。プチ。

 プチ。プチ。


「そりゃ人間勝ちますよーだ。あんだけ手ぇ貸したら勝ちますよーだ」


 プチ。プチ。

 プチ。プチ。

 無限に続きそうな文句と、草を抜かれ過ぎて全体的に土が見えている大地。

 そんな光景を止めたのは、寄ってきた別の神だった。

 異様な光景にも驚くことはなくため息を漏らし、その神は草をむしっている神の前にしゃがみ込む。


「またここに居たのか。お前、ここの草抜き過ぎてちょっと剥げて来てるんだぞ?神の力で抜いたら流石に自動修復も追いつかないって」

「へんっ。どうせお前も人間ばっかり贔屓するんだろー」

「だったらここには来てないよ。ほら、草むしるのやめて」


 ……プチ。プチ。

 プチ。プチ。

 声をかけてきた相手をちらっと見た後に、また草むしりは再開された。

 その行動に意味はないはずなのに、ここの草を根絶やしにしようという執着が見えたような気すらした。


「魔物の本能を調整したのだって自分たちのくせしてさぁ。人間襲うからーって今更じゃん」

「うん、そうね」

「何でもかんでも襲うようにーって自分たちでやったくせにさぁ。人間が助けて―って言ったらすーぐ手ぇ貸してさぁー」

「はいはい、まあそれなりにがっつり祈り届いてるからね」

「けっ」


 プチ。プチ。

 プチ。プチ。


「こっちとしては、なんでお前がそんなに魔物贔屓なのかが謎なんだけど」

「……だって」

「うん?」

「だって、誰も見向きもしないから」

「自分くらいは、って?」

「いや、俺みたいだなって」

「そこなんだ……」


 魔物に加護を与える神はいない。

 魔物は神に祈らないから、加護も守護も与えることはない。

 どこまでも世界の敵になるようにと作られた存在なのだが、この草むしり神は謎のシンパシーを感じているらしい。


「なに、魔物に加護を、とか思ってる?」

「出来るわけねーじゃん。俺らみたいな創生に関わったわけじゃない低級神がさぁ」

「まあそうね。じゃあどうするの?」

「どうもしねーよぉ」


 プチ。プチ。

 プチ。プチ。

 どうにも出来ないけど文句は言いたい。

 つまりはただごねているだけなのがこの草むしり神である。

 自分ではどうにもならないのが分かっているけれど、だからと言ってはいそうですかと見ぬふりをするのも腹が立つ。

 その結果、なぜか草むしりに精を出すのがこの神である。


 プチ。プチ。

 プチ。プチ。

 美しかった草原は草むしり神の執拗な草むしりによってところどころ土が見え、なんだかあんまり美しくなくなっていた。

 しばらく放置すれば治るだろうが、それより早くまた草をむしりに来るのがこの神である。


「ほら、もう抜くなって」


 プチ。プチ。

 プチ。プチ。

 友神の言葉も無視して草をむしる神に、友人はため息をついた。

 そして、じゃあこのまま持っていこうと体育座りをそのまま後ろからかかえて荷物か何かかのように草むしり神を持ち上げた。


「おま、この状況でも草をむしろうとするな!なんでそんなに執着するの!?」

「うるせーやい」


 地面から身体が浮いてもなお草をむしろうと手を伸ばす草むしり神を抱え、友神は草原を後にする。

 何をするわけでもないが、美しい草原が禿げた丘になるのは避けたいところである。

 ついでに言うと、友神も今の神界の人間贔屓は少しばかり行き過ぎではないかと思っているのだ。

 草むしり神のように魔物に同情するわけではないが、中立派としては数名の神は魔物側についてもいいのではないだろうか、と思っている。


 なので草むしり神にはそのぼそぼそとした愚痴を神界端の草原ではなく、もう少し他の神が来そうなところで呟いてもらおうと思うのだ。

 もちろん、草原保護の意味もあるが。

 そんなわけで草原から少し歩いた先にある小川にやってきて、そこに大人しく抱えられていた草むしり神を下ろした。

 そのまま川に足を浸けて水面を揺らしつつぶつぶつ言い始めた草むしり神に相槌を打つのだった。




 神界では穏やかな時が流れている。神々は人間を庇護し、見守っているが、いまだ人間と魔族の戦いは終結しない。

 もしかしたら、どこかでこっそり魔物に手を貸す神がいたりするのかもしれない。

息抜きに勢いだけで書いたけど、なんだろうこれ。

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