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魔王だけど「もし俺の味方になるなら世界の半分をお前にやろう」って言ったら勇者が思いのほか乗り気で困ってる

作者: 日暮キルハ

 ほんの気の迷い。

 ほんの一時の気の迷いだった。

 たまたま偶然その時ちょっとだけ機嫌が悪くて自分の運命に納得がいかなくて子供みたいに駄々でもこねてやりたくなるような気分だった。


【もし俺の味方になるなら世界の半分をお前にやろう】


 そのたまたまの偶然がこんないかにもなセリフを吐かせた。

 もちろん本気ではなかった。


 必要悪を押し付けておいて何も知らずに楽しく生きている人間へのちょっとした嫌がらせ。

 何も知らず、魔王を殺せば世界は平和になると信じ込んでいる愚かで勇敢な勇者への嫌がらせ。


 そのつもりだった。


「で、魔王。いつにするの? いつ人間滅ぼして世界の半分私にくれるの? 私は何を手伝えばいい? 王の首とか持ってこようか?」



























 ……めっちゃ、勇者くいついちゃった。 



◇◆◇◆◇


「おはよう、魔王。それで? いつにする? いつ人間滅ぼす? 今日? 今すぐ?」


 瞳孔の開いた目で、心臓の鼓動すら聞こえてくるほどの近距離で、寝台の上で眠る俺に馬乗りになって勇者はそう言った。

 近いし眠いし怖い。そもそも扉カギ閉めたのに、どうなってんの魔王城(うち)のセキュリティ。


「……勇者」


「なに?」


「とりあえずあと五分寝てから考えよう」


「五分前にも同じことを言っていた」


「…………というか、カギ閉めたよね俺」


「壊した。扉ごと。魔王、約束を守らないのはよくない。お前は五分前に私に五分寝てから考えようと言った。そして、その五分はもう過ぎた。私は待った。なら、次はお前が約束を果たすべき」


 勇者が正論で殴ってくる。誰か助けて。


「……勇者」


「なに?」


「そもそもさ、俺は人間滅ぼすとか言ってないよね?」


「うん。でも、世界の半分を私にくれるとは言った。今、世界を支配しているのは人間だから私に世界の半分を渡すために魔王には人間を滅ぼす義務がある」


「……俺、人間が平和な世界を築くための必要悪なんだけど。それが人間滅ぼすとか洒落にもなってないでしょ」


「それは魔王の事情。私には関係ない。私は自分が好きにできる世界が欲しい」


「……ちなみに自由にできる世界が手に入ったらどうするおつもりで?」


「まず、イケメンを集めて逆ハーレムを築く。それから美味しい料理とお酒で毎日豪遊する。たまに町を歩いて目に留まったイケメンを攫うのもやりたい。最初は嫌がってもらいたい。それを徐々に魔法とか使って調教したい」


「発想が悪党。しかも小物なんだよなぁ……」


 真顔で淡々と顔色一つ変えることなく勇者はゴミみたいな理想の未来を語る。

 なんでこんなんが勇者に選ばれちゃったんだろ。

 そして、なんで俺はこんな欲まみれの勇者を魔王城に住まわせてしまっているのだろうか。


 ……いや、まぁ元を正せば全部俺が悪いんだけどね。

 一時の気の迷いとは言え、あんなこと言うべきじゃなかった。あんなのは全くもって自分勝手で無責任な発言だ。あんなことを言わなければ、今頃俺はこの能面みたいな無表情勇者に殺されて、世界は十年くらいは仮初めの平和に満たされていたはずだ。

 それから十年か二十年か、下手をすれば一年も経たずに平和に満足できなくなったアホ共が私利私欲を満たすために暴れ出す。そして、人間同士の争いを止めるために共通の敵、「魔王」は甦る。というか次のふさわしい魔王が選ばれて甦ったという体で人類の敵となる。


 そうして平和は守られ続ける。


「……いっそ人間同士で潰し合って滅んだ方が良さそうなくらいに腐ってんなぁこの世界」


「なら潰そう。今すぐ潰そう。世界は私のもの。イケメンも私のもの」


「勇者ですらこの有様だもんなぁ……」


 しかもなんかしれっと半分どころか世界全部持っていこうとしてるし。もう次の魔王こいつでいいだろ。めっちゃ適任だぞ。無表情のまま鼻血出てるけど。


「それで? いつにするの? いい加減決めて」


「……とりあえず朝飯にしない?」


「そう言ってまた話をうやむやにするつもり? それとも朝ご飯は魔王? 美味しくいただく?」


「今日はパンの気分だなぁ……」


 貞操の危機を感じたので、がばりと身を起こしてそのまま馬乗りになったままの勇者を担ぎ上げる。それから所謂お米様だっこの状態でダイニングへと運んでいく。

 途中、俺が魔法で生み出した質量のある幻影、世間一般で言う「魔族」が何体か頭を下げた。それから担がれたままの勇者にフレンドリーに手を振る。俺の生み出した幻影なのに俺より仲良いってどうなん?


「魔王、私はご飯の気分。具体的にはおにぎりの気分」


「……作れと?」


「別にそうは言ってない。でも、作らないなら私は空腹のあまり世界を滅ぼしてしまうかもしれない」


「最低の脅し」


「魔王は立場を弁えるべき。世界を救いたいなら、私に殺して欲しいなら、魔王は私をその気にしなくちゃいけない」


「……」


 世界を救いたい魔王と世界を滅ぼしたい勇者とか普通逆じゃね?

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