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97 火竜爆誕

ゴゴゴゴゴ……


ドッカーーン!!!


荒野の何の変哲もない丘が大噴火しました。噴き上がる巨大な火柱、流れ出るマグマ、空に広がる噴煙――


「「「「「うわーー!!!」」」」」


そして、降り注ぐ噴石。

結界に弾かれてごろりんと転がる直径一メートル越えの巨大噴石。普通に怖い。


「おまえ、何しやがった?!」


「なんにもなんにも!!」


「嘘つけぇ!!」


クィンシーがマジギレしてる!!

怒りの波動がビリビリ…怖いよォ~!!


何の気なしに!言われるがままっ!封印を解呪しちゃったんだ!私悪くないもん!!


『ハハハハッ!!矮小(わいしょう)な人間共よ!!』


空から魔王サマかっちゅうくらいの威圧感のある低音ボイスが降ってきた。


『歓び跪くがいい!!』


太陽を巨大な影が覆い隠し、辺りが暗くなる。


『我は火竜(フレイムドラゴン)!!千年ちょっと振りにシャバに復活したぞぉ!!』


空中に、燦めく真っ赤な鱗の巨大な…西洋ファンタジーな竜が悠然と羽ばたいていた。


◆◆◆


一方その頃。

アルフレッドと王女イヴァンジェリンは、王都を馬で駆けていた。


「ほががががー!(訳:息が苦しいんですけどー!)」


「誘拐しろって言ったから、らしくしているだけだ」


現在、アルフレッドは馬に跨がり、イヴァンジェリンを麻袋に詰めて俵担ぎしていた。悪役を袋詰めして俵担ぎし、王都を駆ける攻略対象――ニュータイプだ。道行く人が「ナニアレ?」と二度見する。


「ほががががー!(訳:めっちゃ目立ってない?視線が痛いんだけど!)」


「誘拐しろって作戦がマズかったな。立案者の責任だ」


「ほがー!!(訳:オマエも鬼畜かー!)」


「置いていくか?」


「ほが…(訳:スミマセンデシター)」


◆◆◆


目を開けると、私はまたあの場所にいた。


無人の列柱の回廊――。


灰色一色の不思議な空間。まっすぐな回廊を進むと、時折台座のようなものとか、水盤みたいなものとかが、時が停まったかのように打ち捨てられている。

とても静謐(せいひつ)で、飾り気がなくて、そしてどこか懐かしいような――


また、あの湖に辿り着いた。



聞いて!お聞きなさい!



また、あの声が…



どうかこの指輪を受けて、湖の王になって…



私は…




ハッと我にかえった。


白い湯煙の中、空を見上げる。

「い~い湯だな♪」


焦土に突如、温泉が湧きました。空中に浮かんでる火竜が魔王ボイスで『人間共よ、温泉を作ってやったぞ。浸かるが良い』とか言うので、勧められるがまま服を脱いで温泉に入ったのだ。逆らえなかった、とも言う。


「ああー。癒されるなー」


ちなみにエルフ軍団とクィンシーも入ってる。クィンシーは、私が温泉の真ん中に色付きの結界を張った向こう側にいる。

……。

……。

誰もひと言も喋らない。現実逃避中ともいう。


何度も言うけど、ここ焦土。そして頭上には巨大な竜。ある意味斬新な温泉地だ。なんでこーなったかな~。

左手の鱗は、さっき湖の力を使ったせいか、少しだけ範囲が広がっていた。


◆◆◆


「着いたぞ」

鬼畜な攻略対象から言われて、私は我にかえった。慎重に麻袋から這い出す。


道中何度か、「兄さん、麻袋に人間詰めちゃいけないよ」と窘められる度、「人間ではありません。毛色の珍しいブタの魔物(※ペット)ですよ」と、アル君が笑顔で答えて切り抜けてきた。やっと解放されたよ覚えてろ!


はて。ここはどこ?


「モルゲン男爵のタウンハウスだ。アイツの先生がいる」


…なるほど。


推しはモルゲン領出身。ここに、カレの恩師がいると。

私が心のメモ帳に推しの情報を書き留めていると、階段を降りてくる音がして、エントランスに三十代くらいのおにーさんが出てきた。ゲームでは見たことのない人だ。使用人だろうか。


「アルフレッド様…?その子は?」


なんか優しそうな人だ。ワインレッド色の髪を後ろで三つ編みにして、眼鏡をかけたおにーさん。


「ヴィクター殿、彼女はイヴァンジェリン様。家出中の第一王女殿下でして、こちらで匿っていただけますか?サイラスの恋人だそうです」


アル君がおにーさんに私を紹介した。

平然とド直球で言ったな!


「あの子の恋人…?」


目を見開き驚くおにーさん。あ、王女ってとこには突っ込まないんだ。


「あ。イヴァンジェリンと申します。よろしくお願いします」

とりあえずご挨拶する。これからお世話になるし、第一印象って大事。すると…


「ちょっと待っていて下さい」

ササッと椅子を持ってきて、おにーさんは姿を消した。





三十分後…。


おにーさんが戻ってきた。

手に真新しい松葉杖を持って。


「おおよそで作ったので、使い勝手が悪かったら言って下さいね」


え?松葉杖手作りしたの?たった三十分で??


…確かに木が倒れる音に続いて、トントンカンカンゴシゴシゴシゴシ…って物音はしたけど…!



(モブなのに)スペック高ぇ!!



ちなみに松葉杖はジャストサイズだった。すげぇ…。


「明日の朝までに車椅子も作っておきますよ」

にっこり優しく微笑んで、おにーさんは言った。


作れるの?え?車椅子って半日で手作りできるものだっけ?



(モブなのに)スペックくっっそ高ぇ!!



何だろ…このおにーさん。レベルマックスの村人??


「可哀相に。俵担ぎにでもされたのですか?顔色が悪いですよ。さあ、お茶を淹れましたので、飲みながらお話しましょう」


「…はい」


惚れてまうやろ…!!


◆◆◆


王都から遠く離れた街道。数台の馬車が連なり走っていた。その周りを王国騎士団の護衛が騎乗して取り囲み、馬車を護っている。


「ご気分はいかがですか?」

低く控え目な声が問いかけた。


「いや、このまま進めよ」


「御意」


目の前で執事服を着た黄土色の髪の少年が、胸に手を当て礼をする。

奇妙な光景だ。つい先日断罪した相手と同じ車内にいるなど…


「おまえ、女なんだよな?」


ライオネルの問いに、少年は微かに笑って答えた。


「ええ」


「ロザリー?」


「左様でございます」


「そうか…」


実直そうな顔に似合わぬぞくりとするような艶めいた笑みが浮かぶ。これ以上踏みこむのは危険だ、とライオネルは本能的に察した。代わりに隣で微睡む恋人に目をやった。目が覚めたら彼女がいて、あれよあれよという間に馬車に乗せられ…


今俺たちはどこに何しに行ってるんだっけ…?


「蜂起した南部の民に安寧をもたらしに」


「そ…そうだったな。忘れてなどいないぞ」


「さすが、殿下にございます」


やはりこの従者――ロザリーは不気味であった。

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