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94 消えた少年と王女様のお茶会

目を開けると、そこは寮の自室だった。


「アナベル様…!」


「…リア?」


私の手を握り、ルビーのような紅目を潤ませた友人――オフィーリア・フォン・モルゲンをぼんやりと見上げて。


「私…どうしたのでしょう」


まるで他人に起こった出来事のように、昨夜の記憶が脳裏を駆ける。夜会で、突然婚約破棄を突きつけられたかと思ったら、サイラスが脱ぎ始めて、国王から謝罪をと呼び出されてみれば森へ連れて行かれて――


「?!伏せろ!!ア…」


途切れた声。驚愕に見開かれた瞳。迸った紅は、誰のものだったか…。


「ロイ…様、は…?」


絶望的だと、わかってはいる。でも、聞かずにはいられなかった。彼は、私を庇って…


「わかりません…」


しかし、返ってきた答は予想外に曖昧なものだった。わからないとはどういうことだろう。


「手の者を向かわせたのですが、既に王国騎士団と魔術師団が到着していて。現場を見ることができなかったのですわ。サイラスが…使い魔に調べさせようとしたのですけど、結界に阻まれた、と」

沈痛な面持ちでオフィーリアは俯いた。



聞けば、自分を救出しここに運んだのは駆けつけた王国騎士で、なぜあの場にアナベルがいたかについてはアルフレッドが上手く言い訳をしてくれたらしい。


「アナベル様は、体調を崩されて寮に戻られたのです。けれど、森の焔に驚いて護衛のロイ様と様子を見にいったところ、何故かあそこにいた王太子の魔力の暴走に巻きこまれた、と」


ああ…。アレはライオネルの魔力の暴走だったのか。


精神に異常を来すと、魔力の暴走を起こしやすい。ライオネルは光の聖女と名高い王妃の息子だ。保有する高い魔力が暴れた、ということか。


「サイラスと、アルフレッド様にお怪我は?」


「あの二人は無事でしたわ。使い魔たちも」


友人の答えに少しだけホッとして。


「もし叶えば。会って話を聞くことはできないかしら」


◆◆◆


「ロイの安否はわかっていない」

暗い面持ちで、アルが切りだした。


「王国騎士団には、俺の名で問い合わせたが。『いない』の一点張りだ。現場はまだ結界が張られている。魔物が暴れていて、手がつけられんらしい」


今のところ、アルが引き出した情報以上のことはわかっていない。いや、正確にはあの森の調査ができていないのだ。森と魔法学園を隔てるように張られた強固な結界の向こうでは、今もこの国の魔術師団と魔物との戦闘が続いているらしいから。


魔物が、どの魔物かもわからない。私たちの戦ったゴリラなヤツなのか、降って湧いたように出てきた強力なヤツなのか。恐らく、後者だろう。姿を見ていないけど、そいつが森を火の海にしたのだし。


「殿下はどうなったのでしょう」

寝間着にガウンを羽織ったアナベル様が青白い顔で問うてきた。


「アナベル様、ご無理をなさらず」


危うく魔獣のエサにされかけたどころか、私たちが離れている間にイカレた王子サマを相手取り、挙げ句ロイを目の前で喪ったのだ。寝込んだって、泣き暮らしたっておかしくないのに。


心配そうな面々を、アナベル様は微かな笑んで制した。


「私は、知らなければ。いいえ、知りたいの」


アナベル様に目顔で促されて、アルが苦み走った顔で答えた。 

「王国騎士が保護したと聞いている。それ以上の情報はないが…だが、奴が討ちとったのはどうやらグワルフ兵らしい」


「…グワルフ兵」


考えこむアナベル様。


「殿下は…」


青白い顔をさらに強張らせ、アナベル様はブルーグレーの瞳を曇らせた。


「私に言ったのです。『森をコソコソしていた者共の頭よ』、と」


私とアルは顔を見合わせた。

私たちも魔物とやり合ってる時、まわりに多くの兵士がいたのを記憶している。私たちはてっきり王国兵だと思ったんだけどね。暗かったし、細かく観察するほど余裕もなかったけど、けっこうな人数だった。


今となっては確認のしようもない。

でも、もしあれが、王国兵ではなくグワルフ兵だとしたら…彼らは何をしようとしていたのだろう。


◆◆◆


どうにも暗い雰囲気になってしまったので、話題を変えた。


「ところでアナベル様、第一王女サマってどんな方ですか?」


「イヴァンジェリン殿下?」


突然の話題転換に目をパチパチと瞬かせたものの、アナベル様はしばし視線を上にあげ、


「その…今は、変わった方としか」

と、言葉を濁した。


「今は…ってことは、前は違ったんですか?」


アナベル様が逡巡するように視線を泳がせる。


「殿下は、十二年前に大病をなさったのよ。それまでは、ごく普通の…というより、かなりの才媛と呼び声高かったわね」


代わりに答えてくれたのは、お嬢様。

え?十二年前??赤ちゃんじゃね?それじゃ。


「その…小柄でいらっしゃるけど、殿下は私と一つしか違いませんわよ?」


と、いうことは年上?!嘘ォ?!


「ご本人に言ったらダメよ?」


いや、小柄過ぎでしょ?いくらなんでも。

大病…なんだろう、キナ臭い。だって、あの子、頭は正常だよ?足元がちょっと覚束無くって、体力もなさそうだったけど。


「殿下がどうかしたの?サイラス」


怪訝な顔のお嬢様に、私は笑い返した。


「んー…『男』としてお誘いをいただきまして?」


約束の刻限は午後。

今朝届けられた手紙には『うさパ』とデカデカと書かれ、その下に小さく私一人で来るように、と注意書きがあった。

…『うさパ』って何だよ?またぬいぐるみをファイヤーするんですか??


「初耳だな。俺も同行する」

アルが招待状を奪い取って読み、「うさパ…?」と首を傾げた。


◆◆◆


一人で行くと言い張ったのに、結局アルは強引についてきた。


私はいつもの男装…ただし、アルの謎の要望で、胸は潰さずそのままで。髪も後ろで縛ってはあるものの、リボンを結んで……要はパンツスタイルの女の子である。別に…いつもの男装でいいんじゃないかな?首を捻りながらも、どこか引き気味のメイドさんの案内で、王宮のイヴァンジェリン殿下の宮へ入った。


……。


……。


今のところ、フツーの宮殿だ。


庭を彩る植栽が全部ウ〇コ型に整えてあったり、ブヨブヨに肥った豚や変顔した羊の置物が廊下のど真ん中にドヤァって鎮座していたり、どう見ても焼き鳥(※ネギマ)を(かたど)った謎の彫像が回廊に等間隔に置かれているのに目を瞑ればフツーだ。…うん。




やっぱ帰ろうかな…。頭痛いとか言って。


「こちらが殿下のお部屋でございます」

恭しくメイドさんが示した王女の居室の扉。


ドアノブが黒曜石のGだった。


「「「………。」」」


これをどーしろというのだね、王女サマよ。


触覚までリアルに再現され、何か塗ってあるのかテカテカと輝く、特大G。


メイドさんは、引き攣った顔で微動だにしない。…開けてくれる気はないようだ。


「ッ!失礼する、約束の『うさパ』に招待された者だが…」

アルが眉間を揉んだ後、その黒曜石製特大ゴ〇ブリをむんずと掴んだ。


きゃああっ!アルフレッド様、カッコイイぃ!!

……君はヒーローだ。後で手を洗ってね。


「いらっしゃー…ふおおぅ!アル君がなんでぇ?!」


ドアの向こうから、狼狽えまくる王女サマの声と、ガッシャーンと何か…音からして茶器じゃなくてタライが落ちたような耳障りな音が聞こえて、私は無意識に一歩下がったのだった。


◆◆◆


「んもぉ~!一人でって言ったのにぃ~」

ティーテーブルで、イヴァンジェリン殿下が膨れている。


ちなみに、彼女の室内には、何らとち狂ったインテリアは無かった。本人曰く、あれらは『威嚇用』なのだそうだ。


「来客の九割は、この部屋に来る前に回れ右するよ」


「…なるほど」


特にドアノブはすっげぇ威力だったよ。


「ブライベート空間くらいは、快適にしたいじゃん?」


こくり、とお茶を飲んだイヴァンジェリン殿下は、アルにニコッとわざとらしく微笑むと、こう言った。


「じゃ、アル君。私たちはこれから()()()で内緒話するから、お茶とお菓子を楽しんでてねぇ~」


「………は?」


うちゅうご?なんだそれ?、と首を傾げるアルをよそに、頻りに咳払いするイヴァンジェリン殿下。


「ンンッ!久しく使ってないから発音最悪だけど、イケるよね?」



『この世界のことは知ってる?』



おうっ!!日本語喋ったよ。やっぱ転生者だね。

アルは…ポカーンとしている。


『前にゲームの世界だとか。知らない……ヨ?』

なんとか喋れた。


アルは……もういいや、ごめん。お菓子食べて待ってて。


『単刀直入に言うよ。アルフレッドとは離れて。ノエルって女にも関わっちゃダメ。死ぬよ?』


転生王女サマの忠告に、私は思わず飲みかけたお茶を噴きそうになった。



アルと、一緒にいたら…死ぬ?

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