67 VSアンデッド【中編】
主人公の口調が大変なことに…
(!)あの方の詩、二つ目登場。やっぱり内容がホラーです。苦手な方はご注意ください。
三筋のレーザービームがアンデッド・ナイトを貫かんと放たれる。アンデッドとは思えない華麗な身のこなしで避けたアンデッド・ナイトの脇を、フリッツ、ネイサン、ジーナの三人が素早くすり抜けて部屋に入った。すぐさまジーナがアンデッド・ナイト側に剣を構え、残る二人の盾となる。
「おい!アンタの相手はこっちだぜ!」
アレックス&ロイに代わり、クィンシーがアンデッド・ナイトを挑発する。アンデッド・ナイトは、クィンシーをまず倒そうと決めたらしい。私の背後から激しい剣戟の音が聞こえてきた。時折、チカッチカッと光が明滅する。
「喰らえ!《閃光》!」
声からして、アンデッド・ナイトを妨害しているのはフリッツかな。
私は後方のアンデッド集団を結界で弾く。
もお~!なんで涙が止まんないかな!
地下なのに花粉でも充満してるのか。
「魔方陣らしきもんはないぞー」
フリッツが叫んで報せてきた。
「ネイサン!解読できたとこから読み上げてくれ!」
クィンシーの呼びかけに、ネイサンが大声で古代語の訳文を読み上げる。
『アンタが死んで神サマに赦されようが劫罰を受けようが――その夜スカルボは、僕の耳に呟いた――アンタの屍衣はクモの巣さ。俺が蜘蛛と一緒に埋めてやろう!』
「アレックス!ロイ!チェンジだ!」
「「了解!!」」
もう五分経ったのか。さすがアンデッド、体力無尽蔵らしい。下がってきたクィンシーが肩で息をしている。
「おちゅかれ~」
労ったらまた頭をポンポンされた。
いや、泣いてる以外はマジで何ともないから!!
いや、こんなんでもできることはあるはず!考えるとか!……それくらいしかできないとも言う。
「にゃンデッド・にゃイトは、魂をちゅなぎとめていりゅかりゃあんにゃにちゅよいんだよにぇ?ニャンとかしてしょの魂、解放できニャいの?」
…ニャンニャン言ってるけど、そういうキャラじゃない。断じて!これは不可抗力だ!
「おまえ、普段からニャンニャン言ったらカワイイのに」
「真面目にはニャしを聞け!」
「ま、理屈上はそうなるんだろうが、禁術だからな。俺も詳しいことはわからないんだ。ただ…」
「たにゃ?」
「こんな凝った舞台装置を作ったのには、何か理由があると思うんだ。魔術……というより呪術か。空間を、例えば『この空間は地獄だ』と定義して術を発動させるモノもあるらしいからな」
確かに。
ただ怖がらせるためだけにここまで手間をかけてホラーな部屋を作ったりはしないよね。
「何でも試してみるべきよ!この部屋のオブジェちゃんたちを例の『ゴシックの部屋』から外れたものにしてみない?」
部屋の中からジーナが叫んだ。
「しゃんしぇ~い(賛成)!」
「うっし!やるぞ、ジーナ!」
フリッツとジーナがテキパキと部屋の配置替え作業を始めた。
そして…
「どお?『虫に喰われた額縁から抜け出して、聖水盤の聖水に籠手を浸す私の祖父』改め『額縁と見せかけた壁の穴を使って難易度の高い腹筋に挑むタンクトップ爺ちゃん』、よ!」
「……。」
何のことはない。額縁から身を乗り出すミイラの鎧を脱がせてひっくり返し、顔を天井へ向けただけだ。アンデッド・ナイトに変化なし。
「できた!『死んで産まれた赤子を、父の胴鎧を揺りかごに、単調な歌であやしている乳母』改め『父の胴鎧でドジョウすくいを披露して赤子をあやす乳母』!」
「……。」
……どうやってドジョウすくいのポーズにミイラを固定したんだ?
相変わらず「ね~んねん…」と子守歌を絞り出す乳母ミイラ……シュールだ。アンデッド・ナイト、ビクともしてない。
「なっ…!じゃあコレならどうよ!『板張の中に閉じ込められ、額や肘や膝をぶつけている異国兵の骸骨』改め『板張りの中で腕立て伏せをやるフリをしながら覗きに勤しむ異国兵の骸骨』!!」
「……。」
…数が多いからね。板張りの中にいる骸骨さん方は、配置替えすらされてない。言い方を変えただけだ。もちろんアンデッド・ナイトに変化ナッシング!
……。
……。
「最初からこうすればよかったな…」
最後の一体――横たえた乳母のミイラに死者を送る聖詩篇を詠みあげたフリッツが嘆息混じりに呟いた。壁にはまっている骸骨を除くミイラたちを横たえ、死者を埋葬するときに詠む聖詩篇を捧げたところ、少なくとも乳母ミイラは子守歌を歌うのをやめた。
アンデッド・ナイトは変わらないが、オブジェたちは部屋の隅に並んで横たえられ、胸の上で両手を組んである。
「フリッツ、聖詩篇なんかよくスラスラと出てくるなぁ」
「ホント、司祭様みたいだったわよ」
ネイサンとジーナが、意外そうな顔をしながらも仲間を讃えた。
「行商って常に死と隣り合わせだし、実際死人が出るのもしょっちゅうだからさ」
街道のな~んもないところでお亡くなりになっても、司祭様なんか呼べないじゃん?自分らで弔うしかないんだよ、と、フリッツは苦笑した。
「ところでネイサン、解読は…ハッ!」
部屋の入口でアンデッド・ナイトの相手をするクィンシーが叫んだ。あまりのんびりしてはいられない。相手は体力無尽蔵だが、こっちは確実に消耗している。
「そうだ!読み上げるから聞いてくれ!」
ネイサンが紙切れの文字を追った。
アンタが死んで神サマに赦されようが劫罰を受けようが――その夜スカルボは、僕の耳に呟いた――アンタの屍衣はクモの巣さ。俺が蜘蛛と一緒に埋めてやろう!
――嗚呼!せめて屍衣には…
僕は泣き腫らした赤い目でスカルボに言い返した
――あの震えるハコヤナギの葉をおくれ。きっと僕の苦しみを湖の息吹きで和らげてくれる
――いいや!
冷やかし屋の小人は嘲笑った
――アンタはエサになるんだ!夕陽に目が眩んだ羽虫どもを漁る黄金虫たちのな!
――そんな…君は、
尚も僕は涙ながらに言い返した
僕が毒蜘蛛に、あの象みたいな吻に吸い尽くされた方が良いって
そう言うのかい?
――おお、よしよし
スカルボは言い足した
元気を出せ!アンタの屍衣にゃ、金の斑模様の蛇皮を
そいつでミイラみたいにアンタを包んでやろう
そして聖教会の真っ暗な地下納骨堂で
アンタを壁に立てかけておこう
アンタは心ゆくまで
神も見れぬ間の地で
小さな子らが泣く声を聞くだろうよ
「あくまでおおよそだが…」
と、ネイサン。
アンデッド・ナイトを抑える三人は、そろそろ体力の限界が近い。けど、この詩はもしかしたら…!
アンデッド・ナイトの呪術の解除法?!
◆◆◆
この詩は、二つの死の対比だ。一つは安らかな死。もう一つは、地獄に囚われる死。
勘だけど、元騎士団長の魂を縛っているのが後者で、前者に改めれば囚われた魂を解放できる……そういうことじゃない?
「この部屋のどこかに、蜘蛛の糸でぐるぐる巻きのミイラはいないか?!もしくは金の蛇皮でぐるぐる巻きのミイラ!」
「探せ!」
ジーナ、フリッツ、ネイサンがそれぞれに部屋を漁る。剣戟の音に混じり、ガタンバタンと物を乱暴に動かす音が響き、埃が舞う。寝台をひっくり返し、長櫃の中身をぶちまけ、カーテンや額縁を剥ぎ取る――さながら賊による一斉家探しのようだ。
そして、
「おい!見て見ろよ、これ!」
模擬剣で天井板をつついていたフリッツが大声を出した。
「天井板の裏側に……絵?」
「何枚かで一幅の絵になってるわ」
「おい!わかんないなら声出して!」
アンデッド・ナイトとやり合う三人の動きが鈍くなってきている。悲鳴じみた声で私は中の三人に呼びかけた。
「あ…ああ。星空と、建物の絵だ!他の天井板も落とすぞ!」
ネイサンの指示で三人は手当たり次第に天井板を模擬剣で突いては床に落とし始めた。もうもうと舞った埃が部屋の外にいる私の所までやってきた。
「ゴッホ!ゲホッゲホッ!!」
ただでさえ涙が止まらずしゃくり上げている所に埃が来たのだから堪らない。気管に入った異物に、嗚咽を漏らしていられず、私は激しく咳きこんだ。
「ゴホゴホゴホ!!ゲッホンゲッホン!」
「……え?」
後ろで誰かの頓狂な声が聞こえたけど、それどころじゃない。苦しい!
「アンデッド・ナイトの動きが止まった…」
アレックスの呆然とした声を耳が拾うけど…いかんせん咳が止まらない。
「ハッ!そうか!
『そして聖教会の真っ暗な地下納骨堂で
アンタを壁に立てかけておこう
アンタは心ゆくまで
神も見れぬ間の地で
小さな子らが泣く声を聞くだろうよ』
小さな子って…サアラのことか?!」
いや私、小さな子供じゃないし。成人してるし……
と思って気がついた。
あれ?私、本当に成人してるんだっけ?
私の誕生日は、あくまでも私を拾った父さんが設定したものだ。もしかして…私の本当の誕生日はまだってこと?!成人してない=子供?!まさか…呪術の発動条件に私も含まれてるの?!
……でも、『小さな子ら』って複数形だ。あれ?
「よし!サアラ、そのまま咳しとけ!」
…私=子供が泣いてないうちは、アンデッド・ナイトは動けない。アレックスとロイが停止したアンデッド・ナイトの手から武器である魔力付与の剣を外そうとしている。
「くっそ…!外れねぇ!」
頑張って!根性でわざと咳を続けるから!……地味に辛い。
「レオ!コイツを糸でぐるぐる巻きにできるか?ボール並に厳重に頼む!」
「ギッ!」
レオの吐いた糸でアンデッド・ナイトは剣も含めて雁字搦めの過剰なほどのぐるぐる巻きになった。私は泣きそうな衝動を咳で抑え込む……ぐるじぃ…
アンデッド・ナイトが止まった隙に、アレックス、ロイ、クィンシーに私は、部屋の中へ移動する。結界はアンデッド・ナイトの背後まで後退させた。こうしたら、アンデッド・ナイトはその他大勢のアンデッドにもみくちゃにされる。そう簡単に身動きは取れないはずだ。
「苦しいわよね…もうちょっとの辛抱よ」
ジーナが背中をさすってくれた。
「手伝う…これは?!」
床には絵の描かれた天井板パズル。丸い月と満天の星空のもとで眠る街――
「『おお!地上は…
詩人は囁くように夜に詠った
香しい萼だ――
雌蕊たる唯一の月
数多の雄蕊たる星を戴く』
そうか…。なんで気づかなかったんだ!『ゴシックの部屋』も対比なんだ!冒頭は平穏な美しい夜、その後に悪夢が詠われているんだ!」
フリッツが叫ぶ。
「絵を完成させるぞ!何か変わるかもしれん!それから、窓を探せ!どこかにあるはずだ!」
言うが早いかクィンシーが壁を調べ始める。壁にはめ込まれた骸骨を片っ端から引っ張りだし、奥を探る。
「あったぞ!この奥だ!」
木枠だけになった壁の向こうに『窓』が隠されているらしい。
「…野郎、やらしいところに!」
「手伝うわよ…ウオオオラァアアア!!!」
ジーナの男丸出しな気合の直後、バターン!!と大きな音を立てて、木枠が外れた。
「あった。窓だ…!」
『眠気で重くなった目で、私は窓を閉めた
黒々とした救世主の磔刑像が、黄色い後光を背に
ステンドグラスの中から、私を見下ろしていた』
詩で詠われているものと同じ、黄色いガラスに救世主像を嵌めた窓が、姿を現した。




