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51 キラーシルクワーム再び

鍛錬を終えて寮に戻ると、ちょっとした騒ぎが起きていた。


「ないっ!財布が抜き取られているぞ!」


「俺もだ!」


騒いでいるのは、()()の皆さんだ。どうやら荷物から金目の物を盗み取られたらしい。たぶん、教官とか騎士学校関係者がやったんだろうね。


私?

私は平気だよ。無人の部屋に金目の物を置き去りにするほど平和ボケはしてない。他の身代わりたちも私同様、我関せずといったところ。

そこへ、少し遅れてクィンシーが戻ってきた。


「ん?盗み?下着ドロか?」


ニヤニヤして、また私の身体に目をやる不届き者に、私は冷めた眼差しを向けた。


「野郎の使用済みパンツでベッド山盛りにしてやろうか?」


ちなみに、コイツの寝台と部屋の扉に『パンツの洗濯承ります』って殴り書きしておけば実現できる。試しにやってみようか。


「おいおい、冗談だっての!もぉー、ユーモアがないなぁ」


何がユーモアだっ!


「なあ…おまえ狙われてんじゃね?男ばっかだし、男色もあるって聞いたぞ?」


別の身代わり君にコソッと注意された。


「ソレはないけどなんかムカ…」


「おい、」


私の声を遮って、真顔のクィンシーが寝台から顔を出した。


「誰だ?俺の寝台にこんなモン置いたのは…」


彼が抱えていたのは、白いサッカーボール――言わずもがな、キラーシルクワームの繭だ。

…ホント、よくよく縁があるよね。この魔物ちゃんと。


じゃなくて。


チラッとティナを見たら、彼女は上を見上げてニンマリ笑っていた。


「ふふ。もうすぐ羽化するの」


あ~、なるほど。クィンシー(セクハラ野郎)に制裁をと思ったんだね。もうすぐ羽化する。うん。


……え?!


コトの性急さを理解して、慌ててクィンシーを見れば、


「へぇ~、何か知らないがスベスベして肌触りがいいな。譲ってくれないか?」


「いや、これは俺の寝台に置いてあったんだ」


「一晩くらいいいだろう!貸してくれ!」


……危険物の醜い奪い合いが始まっていた。

しかも、彼らは気づいてないけど、穴が!繭に穴があきかけてるー!


「クィンシー!!!」


敵チームからボールを奪うバスケ選手のように、繭を下から突いてクィンシーの手から跳ね上げ、彼を床に押し倒す。その真上を懐かしい三筋のレーザービームが通過し、着弾した部屋の扉が吹き飛ばされた。


「キエエエッ!!」


「…固い」


屈辱的なコメントをしやがったクィンシーと、「やっぱ男色?!大胆な?!」とか言いやがった不届き者に一発ずつ蹴りを入れ、私はミニチュアモ〇ラ3(スリー)に目を移した。

流石に二度アレに襲われた経験があるので、対応は迷わない。


「窓開けて!外に光魔法!」


所詮蛾なので、光と自由を与えてやれば…


「阿呆!窓は鉄格子嵌まってんだぞ!」


……盲点があった。


ビーーー ちゅどーん!!


「「「「「わーーー!!!」」」」」


「と、とりあえず消火ァ!」


水魔法でめらめらと壁を舐める炎を消す。


「キエエエッ!!」


一方、狭いところに閉じこめられたモ〇ラは怒り狂っており…


ビーーー ちゅどどーん!!!


「あ゛ぁぁ~!!俺の寝台がぁ~!!」


部屋に白い火花が踊り、炎の花が咲く。魔物に慣れない貴族令息たち(ニセモノ含む)は大パニックである。


「おい!魔力残ってる奴!アイツを従属させろ!」


クィンシーの怒号が響くが、皆まだ魔力が回復していないし、逃げるのに必死でそれどころではない。誰もが無理だと目顔で訴える。


なら、仕方ない。

ティナの悪戯だもん、おねーさんが責任取ります!!


私は空中からこちらを睨むモ〇ラをまっすぐ睨み返した。脳裏に浮かぶのは某有名特撮映画の名シーンの数々。


「君こそは極彩色の怪獣にして、大地と自然の守護神獣!レオォー!!!」


ミニチュアモ〇ラだから『フェアリー』と迷ったけど、この強烈なレーザービームは分身には出せないでしょう!!


(ほとばし)る厨二フォースに天を仰ぎ宣言した私の目に映ったのは、モ〇ラを取り巻くように現れた黒雲と稲妻。それらがみるみるモ〇ラもといキラーシルクワームを覆い隠し……


「ギエエエェ!!!」


心なしか力強くなった奇声を最後に、魔力切れを起こした私はそのまま後ろへひっくり返った。


◆◆◆


魔力切れで意識がぶっ飛んだのは久しぶりだった。普通は大人になるにつれ、魔力切れを起こしても意識を保っていられるようになるらしいのだけど…


「おまえが『守護神獣』などと、厄介な枕詞をつけるからだ、馬鹿者」


翌日の昼過ぎ、起き抜けにクィンシーから叱責された。


「それから!胸が固い!露出(サービス精神)に欠け…ぐふぉっ」

懲りないセクハラ野郎を黙らせ、室内に視線をやれば、どうしてか部屋の面子が全員揃っている。


あれ?授業という名の鬼畜鍛錬は??


「入口にアレがべったり張りついててな」


「教官威嚇して追い払ってくれた」


「俺達も缶詰なんだ。頼む…早く…!か、(かわや)ァ…!」


「……アレ?厠??」


そう言えば、部屋がいつもより薄暗い気がする。言われるがままに部屋の入口――扉が吹き飛ばされてすっかり見通しが良くなったはず――が、


え?真っ黒??なんで??


と。


「ギィエエエェ!!!」


力強い奇声と共に。真っ黒な何かが靄のように揺らいだかと思うと、私の前に収束し、一匹のえも言われぬ美しい()が姿を現した。

その翅は、揚羽蝶のような青とも緑ともつかない不思議な光沢を纏う漆黒。そして、あのモ〇ラさながらに真紅と黄金色の鮮やかな色彩がのり、目玉とも渦巻きとも言えるあのグルグル模様が…


「モ〇ラ~~!!レオぉ~~!!」


君の名を呼んだ瞬間の、あの迸った厨二フォースは確かに仕事をしたのだ!素晴らしい仕事を!


感動した私は、こちらを見つめる愛嬌のある丸顔に抱きついた。


「レオぉ~~!愛してるぞ~~!!」


使い魔との再会を喜ぶ私の横を、数人の少年が我先に厠へと走っていったが、感動のあまりまったく目に入らなかった。


◆◆◆


キラーシルクワームの使い魔、レオは大変便利な子だった。なんと、周囲の景色に溶けこむ擬態という珍しい魔法を使える。よって、レオは寮の部屋にいても教官に難癖つけられることもなく、且つ、金目の物を狙って忍び込む輩を追い払う番蛾(?)の役割も果たしてくれる。


同室のメンバーからも「安心して部屋に荷物を置けるようになった」と、感謝されたよ。


まあ、部屋の中で大きくてド派手な蛾がワッサワッサと飛んでいたら、大半の人はその部屋に入るのを諦めるよね。ちなみに数度、それでも部屋に入った猛者が、レオの吐いた糸でぐるぐる巻きにされて転がっていたことがあるけど。ちゃんと捕縛してくれる、ウチの子はお利口さんです。


「なあ、コイツ…流石におまえの魔力だけじゃエサにならないだろ。どうしてるんだ?」


何日かして、クィンシーに聞かれた。


夜、近くの森へと飛んでいくから、蛾らしく樹液でも舐めているんじゃない?


「いや……森の近くに王国は戦闘用魔獣を飼っているんだが、ここ数日、魔獣の魔力が吸い尽くされる謎の被害が出ているらしいんだ。まさか…」


「ふ~ん。まあ、ウチの子は無関係でしょ!」


「………。」


何よ、その疑わしげな目は!

お利口なウチの子がそんな凶行?に及ぶはずない……よね?

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