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200 賊徒

ペレアスの古参派たちが企てた武道大会。本気でやるらしく、ペレアス国内の各拠点からの情報によると、ほぼ全ての貴族が子息をエントリーさせたらしい。ちなみに、魔法有り武器有りのかなりマジな戦いをするらしい。


てっぺんを決めるのはいいけどさ、それ、死人が出て大パニックとかに……ならないよね?


うう~ん…またやるか?内政干渉。


ちなみに、ライオネルはエントリーをしていない。既に破門も解除されているけど、奴らは着々と軍備を整えているらしい。


ウチから巻きあげたお金を使って。


まあ、こっちについては監視を続けているし、私もただ黙ってお金を渡したわけじゃない。別ルートから教会と交渉して、前金を支払った段階で既に異端認定の教書は破棄させた。つまり、残りの金を払うか否かの主導権は、既に私の手の中だ。びた一文渡してやる気はないね。


それに。奴らは商人の反則技を知らない。


一般的に商品は、注文があってから商人が職人に発注するなり、中古品を買い集めたりして揃える。つまり、受け取るまでにかなりの時間がかかるわけだ。無論、代金は商品の現物と引き換え。後払いだ。買い手が損をしないように運送時のリスクは売り手が引き受ける。


でもね、運送が遅れた挙げ句買い手に届く直前で、荷馬車が天変地異に見舞われて商品も全部ダメになった…ってこともできるわけよ。信用ガタ落ちを代償にね。

だから、ノエルがフル装備の軍隊を引き連れてペレアス王都へ向かう未来はない。潰すから。




一方。

ウィリスに滞在中のルドラ王女は、新興国家の視察に時間を費やしているようだ。新・ウィリス村エリア――商業地区へ、よく足を運んでいるらしい。何かにつけて私に例の交渉を持ちかけてくるが、その際にテナント制だとか、整然とした通りに驚いたとか、いろいろ感想を言ってくる。例の件はその都度断るけど、険悪になるわけでもなく、概ね平和に時は過ぎていたのだ。あの日までは。


報せを受けたのは、アルと一緒にぎっくり腰の父さんを見舞っていた時だった。

「ゴリアーン侯爵令嬢とケンカ?」


報告に来た隻腕の部下によると、きっかけはゴリアーン侯爵令嬢の暴言。はじめのうちは、ルドラ王女も無礼を窘めるなど冷静に対応していたらしい。しかし、ゴリアーン侯爵令嬢は、王女の控え目な応対にかえって傲慢な態度をエスカレートさせたとか…。アフォですか、そのゴリアーン侯爵令嬢とやらは。


「で?キレたルドラ王女にゴリアーン侯爵令嬢が護衛を(けしか)け、乱闘になったと」


「商業地区、また商人が増えたからな。ペレアス王都からこっちに流れてきたから…」


「ペレアスの貴族は、王都で買い物ができなくなってウチまで来ていると…はあ~、迂闊だった」


ウチはともかく、ルドラとペレアスは敵国同士だ。でもって、冬のこの時期は、春に向けたドレスの最終調整やらで貴族令嬢がわんさか来ている。


ここ数日、自分のことばっかりでその辺りの注意が行き届かなかった。私のミスだ…。

眉間の皺を揉む。


「アナベルは?」

仲裁に入れそうなのは彼女くらいだ。ペレアスとルドラのケンカ――私は部外者だし。


「今はニミュエに里帰りなさっておられます」


「マジか~」


仕方ない。私が出ていくしかないか。


けれど。


「ウィリスを発った?」


スケジュールを調整した頃には、既に王女はウィリスを旅立った後だった。


「よほどご気分を害されたのでしょうか」

彼女に張り付けていた持てなし役のメイドが気の毒そうに眉を下げる。彼女を労って下がらせた後、私はテキパキと指示をとばした。


「とりあえず、ゴリアーン侯爵令嬢をマーク。あと、ニミュエにも伝令を」

ルドラ王女は、あれでも打倒ペレアスを目論んでいる。警戒するに越したことはない。




「エレインが急襲された?!」

報せを受けたのは、深夜。


寝室に飛びこんできた使者の説明に、私は愕然とした。


「応戦したエレイン兵によれば、賊の首領は燃えるような赤毛の女だったとのことです!」


賊は、エレインの繁華街――貴族が多く集まる区域を複数の騎兵で強襲。街に火を放った。


「賊に魔法使いがいたようで、火の広がりが速く、多数の死傷者が出たと…」


「行くよ!」


夜着の上に外套を羽織り、すぐさまハチに跨がり――


辿り着いたエレインは、既に消火こそされていたが、それは酷い惨状だった。洒落た建物がひしめき、多くの人々で活気づいていた街は、全体が黒く煤け、道は水浸しだった。忙しなく行き交う兵士や、住人が瓦礫の片づけをしたり、今しも目の前で倒壊した家屋の下敷きになった屍が引きずり出される。骸へ縋り、すすり泣く声も方々から聞こえた。


ざわざわと、体内の魔力が蠢く。


憎い…こんな、地獄を作った奴らが。


私の大嫌いな光景――


ここには、私と知り合いの商人も貴族も大勢が住んでいる。亡くなった人も……


それは、ルドラ王女による凄惨な復讐だった。



「聞いて…。モルゲン・ウィリスはエレインの復興を全面的に支援するよ。それから、手近なペレアス貴族位を買う。そこそこデカい家で金に困ってるところ…そこから家名を買えばいい」


アンタが…殺したから。


だったら私も、もう汚い手を使うことを躊躇わないから。

この落とし前は、必ずつけてやる…!


「買った貴族位で武道大会にエントリーを。それから、ノエルが発注した武器の納品を急ぐ」


怒りに冷え切った瞳で命じられた部下は、すぐさま察して走り去った。


「さて」


改めて、街の惨状を観察する。街に火をかける――少ない手勢で敵に大きなダメージを与えようと思った。けれど、エレインの精鋭兵が出張ってきて、不利を悟って逃げた。そう考えるのが妥当かな。


木材が焼けた臭いに、微かな生臭さが鼻をつく。これは…


「獣脂……調達先は遠くないはず」


既に大陸中の商人と繋がりがあるといっても過言ではないウィリス。王女と繋がっている商人に辿り着くのに時間はかからないだろう。


「やってやろうじゃん。内政干渉ってヤツをさ」

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