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198 糾弾 妖怪 懊悩

遅くなりましたm(_ _)m

ルドラ王女をあしらったすぐ後に、私は教会の発表した教書を見た。



モルゲン・ウィリス王国王配サイラス・ウィリスは洗礼を受けていない異端であり、それを夫としたオフィーリアもまた異端である。

モルゲン・ウィリス王族及び異端に額づく全ての者は神の羊ではない。罪深き異端には神の裁きを…



要は、私は誕生時に洗礼を受けていないから異端、滅ぼすべき悪だと訴えているわけだ。なんだよこれ。


確かに私は孤児だったし、『サイラス・ウィリス』は父さんが推定五歳児の私につけた名前だから、洗礼記録なんかあるわけない。洗礼って生まれてすぐに受けるものだからさ。


「今更だよなぁ~」


ほんっと…今更だよ。

ぶっちゃけた話、地方の農村部なんか洗礼ナシなんかフツーだよ?教会ないもん。それに洗礼はタダじゃない。それなりのお金を払わなきゃいけない有料サービスなのだ。


「呑気なこと言ってる場合じゃないわよ。盲点だったわねぇ…」

私の横でこめかみを押さえるのは、オフィーリア。彼女もオマケで『異端』呼ばわりされてるからね。


「教会がタダでアンタの悪口発表するとは思えないな。目当ては金か?」

と、フリッツ。


「出所は何となく想像がつくけど。目当てはそうだろうね」


恐らく、急に通行料を落とさなくなったウチに不満を覚えたってところじゃないかな。甘い汁を吸ってた上層部…


「陛下!教会から手紙が!」


いいタイミングで、教皇様からオフィーリア宛に手紙と言う名の金の無心状が届いたね。

早速見てみるとしよう。


…なになに?

手紙の文面に目を走らせた私は、盛大な顰め面をした。


「アンタらもかよ…」


◆◆◆


私たちの異端認定を取り下げさせるための、教会との交渉は難航した。彼らの要求は、平たく『金寄こせ』なのだが。


目的が、聖戦の支援――多額の寄付、食糧支援からウチの領内通行許可と…いろいろ盛ってきたよなぁ。


「ノエルだな。糸を引いているのは」


「…うん」


ターゲットをペレアスにしているからして、唆したのはアイツだろう。やられたら十倍返しだ、とか言いそう。


エヴァと二人で、教会からの脅迫状を睨む。


要求では、莫大な金の寄付先は南部。贖罪に、困窮する南部に金を送れというのだ。


「でも…ダンジョンで塩が採れるようになっから、南部の経済はマシになったはずなんだよ…」

エヴァが困ったように眉をハの字にする。


…そう。幸か不幸かライオネルたちのいる南部には、小規模なダンジョンが数多く点在していたのだ。小規模な浅いダンジョン――数で攻めれば、プロの冒険者でなくても塩は取ってこれる。そもそも、宣伝のために最初に塩を仕込んだもの南部だし。


「にしても?いきなり五万フロリンとか。阿呆かアイツら」


払えないこともないけどさ。それはさすがに永世中立とは言えなくなるし、国のメンツにも関わるから。


「頭金を一万五千、これが限度だね」

本当は五千でも多すぎだと思うけど。教会を敵に回すのは厄介だ。私、魔物だし。


手紙を書き終えて、ひと息つこうと私は椅子から立ち上がった。


「?サイラス君?」


「ちょっと、息抜き。変装して、町の様子を見てくるよ」


宗教って、人の心に深く根っこを張っているから侮れない。『サイラス・ウィリス』についての妙な噂とかがないかどうか、ちょくちょく調べた方がいいだろう。それから…


……。


……。


「お…お嬢様、こ、こちらのお召しものはいかがでしょうか」


モルゲンの高級店。

応対に出たマダムの顔が引き攣っている。


…やり過ぎた。


「よ、よくお似合いでいらっしゃるわぁ。おほほほほ…」


マダム、目が明後日の方向を向いているぞ。


…うん。原形がわからないように、顔と体型を変えたんだ。それはいい。サイラス・ウィリスと気づかれたら調査にならないし。


「あら。なかなか似合うんじゃなくて?」


姿見に映るのは、ピンクのフリフリドレスを着て、身体をくねらせるチビデブス。設定的には、お金持ちな我が儘お嬢様、なんだけど……


ゴワゴワとうねるくすんだ金髪、あばただらけの顔に、細くて小さな目に団子鼻、厚ぼったりした唇、極めつけの二重あご。


ダメだな、これ。作りこみが過ぎて、めっちゃ警戒されておる。う~む。


実を言うと、この調査には個人的なもう一つの目的があって。


そう!服!


秋になったあたりから、ズボンのベルトがキツくなり、ついに前が留められなくなってしまったのだ!妊娠したことは、私と魔王様以外には言ってないし、言えないし。


とりあえず幻惑魔法で『スッキリ体型のサイラス』は保っているけど、そろそろ、体型に合った快適な服が欲しくなってきたのだ。だから腹囲と身長に合わせてチビデブスに変装したんだけど。大失敗だな、こりゃ。


◆◆◆


とはいえ。


せっかく来たので、妖怪チビデブス嬢の格好のまま、モルゲンのメインストリートを闊歩する。こんな成りでも、聞き耳を立てるくらいはできるでしょ。おバカな我が儘娘になりきりながら、人々の話に集中していると。


(ん?)


人々に紛れて、銀朱の髪がちら見える。


ノエル?!いたのかよ?!


庶民風の地味な服を着ているが、間違いなくノエル本人だ。いつの間に入りこんだのやら…。


ここは…うん、テキトーに媚び売って接触しよう。彼女の目的が知りたい。早速、私は変装もろくにしていないノエルに近づいた。




十分後。


「ふふ…それでね、ライオネル様ったら」

モルゲンのとある高級料理屋にて。


なんでノエル(コイツ)のノロケ話を聞いてるのよ!ご飯奢ってまで聞くことか?これ。


私は延々と、幸せいっぱいなノエルのお惚気を聞かされていた。


原因はわかっている。この格好――妖怪チビデブスだ。ノエルのヤツ、ノロケ話と言う名の自慢話で、マウント取ろうとしているのだ。聞き役にまわったのは失敗だったらしい。


「それでね、どこまで話したかしら?」

愛らしい顔でこてんと首を傾けるノエル。無邪気にしか見えないところが恐ろしい。


「ライオネル様とカフェでケーキを頼んだところよ」


そしてコイツ、時折わざとお惚気話を復唱させる。実にいい性格だ。


「そう!それでね、ライオネル様ったら私の目を見つめて言うのよ?『食べさせてくれないか?』って!」


「きゃああっ!」


唯一、溜飲を下げられることと言ったら、妖怪チビデブスがクネクネしながら黄色い悲鳴を上げると、ほんっっの少しだけノエルがビクッとすること。なんか悲しい。


ノエルの話は続く。


やれ、ライオネルが口についたクリームを拭ってくれたとか、手を繫いで街中を歩いたとか、丘の上から夕陽が沈むのを二人きりで見たとか。


「この服もね、ライオネル様が選んでくれたの」




私は、どうだろうか。


目をキラキラさせて恋バナに聞き入るフリをしながら、ふとそんな疑問が脳裏を過った。


アルと、デートしたことはある?

一緒に服を選んだことは?

恋人として、私は――


テーブルの向かいで頬を染める『敵』を見つめる。


なんで…羨ましいとか、思うんだろ。


コイツに政治の才はない。目先のことしか考えていないし、綱渡り……いや、浮き草かな。復讐と快楽だけを求めてひたすら突っ走っている。

私みたいにいろいろ抱えていないから、コイツは自由だ。


違う。ダメだ。私には護るべきモノが――


ウィリスの家族、たくさんの仲間たち、そして、ようやく手に入れた平和、安寧――


『ねぇ、貴女倖せ?』


一番目を背けたかった問いを投げかけるのは、意地悪で無責任な『私』だ。


『アル君は貴女の大事な恋人なのに、「私は男です」とか言っちゃって』


だって…。


『アル君との未来、貴女は生まれてくる子の認知だってさせてあげないつもりでしょ?火種になるからって』


『そんな貴女を、アル君はどう思うかしらね』


だって…。私は、もう…ただの女ではいられないんだよ。責任があるから、


『にしても、酷いわ。貴女は、アル君の想いも貴女の倖せもどうなってもかまわないのね?』


そんな…つもりじゃ…

でも…


私は、アルからどんな風に見えているんだろう。恋人らしいことも、思えばほとんどしてあげていない。それどころか、せっかくアルは私との未来を考えてくれたのに、私は…私は…


「それでね、ライオネル様が…ええっ?!貴女、急に何?!」

ノエルが素っ頓狂な声をあげる。


目の前の不細工が急にぼろぼろ泣き始めたら、そりゃあ引く。


「ご…ッ、ごめんなさい、ね…ッ、私、用事がッ…」

必死にそれだけ言って、私は脱兎のごとく駆け出した。

なけなしの理性で、食事代を置いて、そのままダッシュでウィリス方向へ街道を走った。

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