表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
185/205

185 皇帝からの招待

マズいことになった。


ジェイクの襲撃でダンジョンの出口が崩落し、完全に埋まってしまったのだ。唯一の貿易ルートが使えない、即ち貿易の道が絶たれたワケだ。ヘロヘロになってウィリスに戻ったその足で、魔王様に復旧のお願いをしにいったところ。


「復旧してやりたいのはやまやまだがな。とある筋からタレコミが入ったんだ」


「タレコミ??」


「ダンジョン通行により、我らが天敵である正教会が肥え太っているというのだ。我らは世界に絶望を齎すのが務めだ。教会の支援に繋がってはならん」


「ッ」


タレコミって、間違いなくジェイクの…いや、むしろ契約しているリッチの仕業か?わからないけど、とにかく奴は私に敵対する気満々らしい。あーっ!もうっ!!


「ダンジョンに攻略対象か…。どうするの?サイラス君」

エヴァも頭を抱えている。


ダンジョンあっての貿易ルートだったからねぇ…。

と、私が思考に沈みかけた時。扉から意外な人物が姿を現した。


「サイラス殿…いや、今はサイラス殿下でしたね。お迎えにあがりましたよ」


「え?ディルクさん?」


執務室を訪れたのは、意外な人物――ディルクさんだった。


「ノーマンさんが、何か?」


ディルクさんはメドラウド公ノーマンさんの護衛。その彼が来るということは…


「公爵閣下の命ではございません。皇帝陛下より飛竜でサイラス殿下をお連れするよう仰せつかりまして」


げっ!

思い当たるものがあり過ぎる!


ディルクさんの言葉は、意訳するとこうだ。


呼んでやったんだからとっとと来やがれあ゛あ゛?!


や…やべぇ…。

男色皇帝がお怒りだ。迎えに来たって言うディルクさんが終始にこやかなのがまた恐ろしい。ガクブル…。


「ご安心下さい。そこまでお怒りではありませんよ」


やっぱ怒ってるしっ!

フリッツ…ここで聖詩篇唱えるのはやめようか。まだ死なない…うん。


「土下座してくるっ!」

そんなわけで、私は急遽ウィリスを発った。


◆◆◆


ディルクさんと飛竜で向かったのは、エルジェムという森林地帯だ。ディルクさんがかなりの重装備だったからダウンコート着てきたけど、これで正解だったようだ。南に向かっているのに寒さが身にしみる。上空から見下ろすと、蛇行する大きな川に白い霧がかかっていた。ビジュアル面でも寒そうだね。


つーか、こんなうら寂しいところに皇帝の別荘があるなんて。なんか意外。


「数代前の皇帝陛下がお建てになったそうです。自然を好まれる方だったようで」

と、ディルクさん。ほへ~。


寒々しい色の森の少し先に、ポツンと白い点のようなものが見える。あれ?


「いえ。もう少し先ですね」


ややもすると、ちゃんと『屋敷』が見えてきた。なんか全体的にオンボロ…ゴッホゴホ!歴史ある外観だ。屋敷というより、正しく『城』だね!





「待ちくたびれたぞ、サイラス」

『城』には、憮然とした男色皇帝がいた。


私は深々と頭を下げる。

「油断し、流行病にかかってしまいました。召喚に応じられず、申し訳ありませんでした」


平謝りだ。

相手は帝国皇帝。格上も格上だからね。仕方ない。


「流行病……などと言いながら、王都でフラフラ遊んでいたのではあるまいな」


ギクゥ!!


お…恐ろしい勘ぐりだ。頭下げてて…顔が見えなくてよかった!


「まあ、よい。ゆるりと過ごせ」


「あ…有難き幸せ…!」


と…とりあえず第一関門突破?うあ~…冷や汗出たぁ。



客室に通されると、メイドさんが数人やってきた。彼女たちが私の世話役らしい。ハッ!そういや皇帝陛下がお怒りだとか言われてビビって身一つで来ちゃったけど、よかったんだろうか…。普通、王配って単独行動しないよ。従者とか護衛とかメイドさんとかついてて当たり前っ!


やっちまった…。


早速化けの皮が剥がれてんやん。庶民の感覚がすっかり身に染みているから…嗚呼、私の阿呆…。

かくなる上は幻惑で従者とか…


「サイラス様、」

隠蔽工作を考えていたら、メイドさんが近づいてきた。その手には、ドレス。はへ?


◆◆◆


「馬子にも衣装、とはよく言ったものだな」


ワイングラスを傾け、皇帝陛下が満足げに唇を歪めた。


「お褒めに預かり、光栄です」


モーヴピンクの濃淡が美しい貴族ドレス――マリーアントワネットあたりが着てそうなヤツ。つまり女の格好で、私は今、皇帝陛下とサシでご飯の最中なのだ。


これ、なんの罰ゲーム?


ドレスを着る機会はありましたよ?でもさ、パーティーに出るのと座って食事するのじゃ難度がえらい違うんだよ。袖のフリフリがスープにペチョッといきそうで怖い…。でもって男色皇帝が、カチコチの私を見ては笑うんだ。


「どうした。食が進まぬか?」


メインディッシュは貝料理だ。


巻き貝、二枚貝から、え?フジツボ?!あとこの細長いヤツ何?!

各種取り揃えやがって嫌がらせだよな?!

どーすりゃいいんだよこれっ!


あ、ダメだ。無駄に凝った髪型にされたせいで、俯いたら雪崩が起きる。要は手許が見えねぇ畜生っ!


クッ…唯一食べられそうなのは二枚貝か…。でも、私は前世も今世も庶民。お上品な食べ方なんか知らない。


「……。」


「……。」


困り果てる私を肴に、皇帝はワインを堪能している。敵に隙はない。うう~…


「サイラスにも葡萄酒を…」

あ!よそ見した。チャーンス!


皿の二枚貝を両手にそれぞれ毟りつかみ、片方の貝をピンセットみたいにして、もう片方の貝の身を引きずり出す。

パクッ!モグモグ…


…敵を斃した!


「…フッ」


「!!」


…フェイントだった。ぐぅ。


◆◆◆


サシでご飯の次はダンスに付き合えと言われた。ええ、コレだって嫌がらせでしょうとも。何せ私は、レナリア様からマイナス三十点と評価されたダメ男だ。女のパートなんて、アルと一度踊ったきり。ザ・うろ覚え!


ぎゅるる~~


くぅ。例の貝料理の嫌がらせのおかげで、ロクに食べられないまま食事は終わってしまった。ちなみに私がクリアできたのは二枚貝とよくわからない細長いヤツ。蟹の脚を食べる要領でベキッとへし折って食べた。味は微妙だった。


「腹が鳴っているぞ」


華麗なステップを踏みながら、皇帝が揶揄ってくる。嫌味の一つでも返したいけど、さすが帝国のトップ、ダンス一つ取っても非の打ち所がない。私は忸怩(じくじ)たる思いを押し隠し、にっこり笑うに留めた。


……。


……。


ダンス、終わらない。曲が延々リピートしてる。D.C(ダカーポ).D.C.(ダカーポ) D.C(ダカーポ)……いつになったらFinなんだよ!あと、なんとな~くだけど、スピードアップしているような……やっぱ罰ゲームか?


散々振り回されてようやく解放された。ちなみにその後、「貴様は男だろう?一緒に風呂に入るか」などと戯言を言ってきたが、貝料理に中ったフリをして逃げきった。


そして…


「ティナ、森に行くよ!」


私はこっそり屋敷の裏手の森へ。なんでかって?お腹減ったんだもん!木の実やキノコに食べられる気の根っこ、夜行性の獣もいる。冬でも森は食材の宝庫だ。ウィリス村民のサバイバル能力舐めんなよ?


◆◆◆


翌日は、朝食から皇帝陛下とご一緒だ。まだ何も食べていないのに、朝から胃がキリキリする。あと何日この人のお相手しなきゃいけないんだろう。考えたら憂鬱になってきた。


「貴様の国は今、窮地に立たされているのではないか?」


今日も今日とて皇帝陛下はご機嫌だ。ニヤニヤしながら、上品な手つきでパンをちぎって食べている。


「ペレアスは荒れておろう」


ふざけた眼差しではない。エメラルドグリーンの瞳が逃げを許さない鋭さを帯びる。


「素直に王女を差し出しておけば、まだマシだったのだ」


王女は、国の富をいたずらに消費するだけの馬鹿ではない。おまえの持ち前の狡賢さで王女を上手く操り、ペレアスを多少なりとも富ませることはできたろうよ。


「……。」


皇帝は続けた。


「ペレアスは飢えた狼よ。飢えさせた貴様は狼に追い回されている。いずれ逃げ場はなくなる」


もしくは…


「もう狼に囲まれてしまったか?」


まるで私たちの現状から未来まで、全て見透かしているかのような眼差しを向けて。


もう詰んでいるのではないか?


そう、確信を持って。皇帝は問うた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ