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170 不景気の理由

場所は変わって、ウィリス、新設されたギルド支部。


「ここ二十年の冒険者のことが知りたい??サイラス殿が??」


突然の来訪に、ギルドマスターは目をぱちくりさせた。


「彼女は私の友人でして。彼女の家は代々ダンジョンの傍で冒険者相手の店をやっていましてね。ここ二十年、客足が遠のいて困っていると聞きまして、なんとかお知恵を借りたいと思った次第です」


私がそんなウソ設定をペラペラと説明すると、ギルドマスターは「そういうことでしたか」と納得の顔をした。


「ダンジョンへ行く冒険者が減ったのは、戦が原因ですな」


ズバリ、ギルドマスターは断じた。


「冒険者としての仕事より、戦で傭兵稼業の方が需要がある。魔法使いは待遇も良く、ダンジョンで稼ぐよりもいい給金を貰えるというわけで、皆そちらに流れた。まあ…お嬢さんには気の毒だが、これも時代の流れですなぁ」


眉を下げるギルドマスター。

聞けば、このウソ設定のような話は珍しくないらしく、冒険者相手の宿屋が潰れたり、ダンジョン付近の集落が寂れたりと、不景気をばら撒いているらしかった。


「サアラちゃん、私は喜ぶべきなの?魔王様がね、倒産と破産は絶望を齎す、フィランソロピーだって…」


「…それさ、巡り巡って魔界も絶望してない?」


ダンジョンで働く魔物に給与があるのか知らないけどさ。閑古鳥は同じでしょうに。大丈夫なの?


「美味しいものが食べられなくって、ファッションのバリエーションが減ってぇ…ゴブリンが着た切り雀で臭くなる??」


なんだよ、その『ゴブリンが着た切り雀』って。


「下っ端のゴブリンが、一番に服不足に陥ったの」


「……そっか」


見上げた空は今日も雲一つない秋晴れだ。


「世知辛いなぁ…」


思わずそんな台詞が口をついたのであった。





ダンジョンの不景気は、戦争続きだから。


しかもペレアスは王妃様(投獄された)が最強魔法使いとして活躍し、彼女を称える『戦乙女』の絵画が貴族から庶民にまであがめ奉られていた。そりゃ魔法使いは引っ張りだこだし、待遇も良かったんだろう。一方冒険者は収入が安定せず、一攫千金な部分もあるけどハイリスクローリターンなことも多々あり…。そうだね。どちらかを選べって言われたら、安定収入を得られる傭兵稼業だろう。よって、ダンジョンは寂れた。不景気。


「え…でも、今はペレアスも政権が代わったし戦争が減るんじゃ…?」


ふと思いついた考えを、ギルドマスターさんは、


「いやいや、どうもルドラ王国へ侵攻を決めたらしくてですな。傭兵募集は引きもきらず」


バッサリ切り捨てた。


ちなみにルドラ王国というのは、海の向こうにある小国の一つだ。ヴィクター先生の授業でも教わったけど、小国であることと国名以外は知らない。


まあそれは置いておいて。


「ペレアスは、何もグワルフとだけやりあっていたわけではないのです。サイラス殿はお若いのでご存知ないかもしれませんが…」


どうもペレアスは、グワルフの他にもしょっちゅう戦争を吹っ掛けていたそうだ。その吹っ掛ける国の中にルドラ王国もあり。小国に攻めこんでは、向こうで略奪を働き奴隷を仕入れ…つまりは、一方的に勝てる相手を食いものにしていたのだ。で、賠償だとか言って金貨をもぎ取り、向こうの国の住人を奴隷として売り払う。


…そうか。それも、ペレアスの資金源だったんだね。だから、鉱山の数字が誤魔化しでも、なんとかやってこれたのだ。そして、恐らく、勝てる戦争を押し進めていたのは王妃派だけじゃない。


思ったより根が深いぞ、ダンジョン不景気。


ん?ちょっと待て。


そのルドラ王国に侵攻する、ということは、近い将来ペレアス海軍がこの近海に溢れるってことか??


海軍の船は敵だけを撃破するのではない。


特に今のペレアスの内情を考えれば。

王妃の横暴で、国内は反乱が起きるくらいに荒れている。南部の鉱山も、涸渇はしていないけど恐らくジリ貧。だからこそ、財貨を求めて他国に戦争を吹っ掛けたのだ。


今、ウチの湾で睨みをきかす海賊船。そう…海軍の船はいつでもペレアス国旗を降ろして海賊船……つまり私掠船になれるのだ。


ウチだけじゃない。余所の船も襲いたい放題だぞ?!だって、ペレアス国旗さえ降ろしていればただの海賊船だし。さらに悪いことに先日、魔法使いを主力にした部隊が、ウィリスから本国に帰還した。つまり、今から海に出てくるのはその精鋭部隊に他ならない。


「うがぁーっ!!」


奇声をあげた私にギルドマスターとベッキーがギョッとする。


「サイラス殿?!大丈夫ですか?!」


大丈夫じゃないよ!なんでホイホイ精鋭部隊を帰したんだ私のド阿呆!!


そして、そんなとんでもない状況がわかっても時間は停まってはくれない。


「サイラス!ベイリンからグワルフに出荷するダウンコート、届いたぜ!」


応接室に、フリッツからの無情なお知らせが届いた。


◆◆◆


グワルフまで陸路で商品を運ぶ――


すぐさま人を集めて、会議室で地図を広げた。モルゲンからグワルフに行く陸路の最短ルートは、ニミュエ領の街道をまっすぐペレアス王都まで行き、懐かしの魔法学園裏手の森から崖下りをしてグワルフ国内に入る……無理や。


「崖下りは論外だな。できれば王都も避けるべきだ。なら少し遠回りだが、ここの分岐点を南に行けば教会領だ。それで…」

フリッツが地図をなぞる。


「あ…フリッツ君ダメだよそのルート。この森は危険」


エヴァが言った。私にコソッと、


「(ゲームのルートの一つでね、サイクロプスのボスがいる洞窟に直通なんだぁ)」

耳打ちした。


そうなの?


「あ…まあ、行商は通らないルートだが…そっか。ヤバいのか」


フリッツはさっさと切り替えて他のルートを探し始めた。


「(ゲームは、魔法のバトルでレベルを上げながら進めるの。レベル上げの洞窟だけど…ボスがめちゃくちゃ強くて)」


通称、『プレーヤー殺しの魔窟』というスポットらしい。却下だね。こちとら隊列組んだ馬車である。強大な魔物とバトルなんかできないよ。


「もぉいっそ~、マスターが海水浴してグワルフまで行けばいいじゃ~ん」

エリンギマンAGが茶々を入れてきた。


その手も考えたけどね…。ペレアス主力部隊が相手だと、黒竜でも分が悪い。アイツらチームワーク抜群だし。それに、モルゲン近海で竜が暴れたとなると、それはそれで事案だし。気軽に使える手じゃないよ。


「…となると、お?リスティス領を通るのは?リスティス領経由なら、王都の南は田園地帯だしな。バレないんじゃないか?」


フリッツのなぞったルートは…


「ぐぬぅ…けっこう遠回り」


確かにそのルートなら、王都をグルッと迂回してグワルフとの国境に…


「ん?ねぇ…このバツは何?領境?」


目的の国境線の手前に、意味ありげな記号がある。何?これ。


「え…」


「何だ見せてみろ」


割って入ってきたフィルさんが地図をのぞきこみ、「ああ」とそのバツを指でトントンと叩いた。


「砦のマーク」


「「「………。」」」


ゴール手前に障害物があった。


「その砦って…ひょっとして切り立った岩壁の隙間に煉瓦積み上げて作ってある?」


「…エヴァ?」


砦も乙女ゲームに出てくるの?


「なんていうか…切り通しに通せんぼしたような…」


言うが早いか、エヴァが反故紙にサラサラと絵を描く。


「おお…そうそう、そういうやつだ。行ったことあるのかい?」


フィルさんの問いには答えず、エヴァは強張った顔で私を見た。


「サイラス君…『魔窟』を通り抜けよう?」

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