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166 ごたごた

「サイラス!早速だが我が南部に金を融通してくれ。戦で銀山の働き手が減って、民を養う金が不足しているのだ!イヴァンジェリンよ!そなたは俺を支持すると言ったな。つまりは臣下だ。俺の下で働いてもらうぞ!」


開口一番、金寄こせ……しかも自領の内情までペラペラと…。さすがバカ王子と言うべきか。頭痛がしてきた。


「何を勘違いしているのかな?」


さり気なくエヴァを背に庇い、私は無表情にライオネルを見上げた。


「私はアンタを助けるとは、ひと言も言っていない。すべて王女殿下を不本意な未来から守るためにやったことだ。アンタは、そのお釣りで王太子に戻るチャンスを得られた。そこから先は自力で頑張ってもらいたいね」


エヴァを南部に?行かせるわけないでしょ。

友達を毒殺の前科がある兄の元へやる?有り得ないね。


「しかし俺を支持すると…」


面食らうライオネル。


はぁ…おめでたい脳ミソしてるね、コイツは。


「議席に座る資格を聞いていなかったのかな?『王族()()()()()()()()()()()()()且つ将軍経験のある男子に限る』…アンタ限定じゃない。あくまでも王女殿下とアンタを比べたら、アンタの方が条件に当てはまると言っただけだ。私は王女殿下の考えは支持するとは言ったけど、アンタを支持すると言った覚えこれっぽっちもないんだがね」


むしろ危機感を持って欲しい。

王族と限定していないことに。


自分の身分が保障されるのは、古参派貴族が『代わり』を担ぎ出して来るまでだ。ライオネルには、ほんの少しの猶予しかない。


エヴァの王太女立太は、兄の陣営についたと表明したことで、御輿には使えないと印象づけた。後は…頃合いを見計らって、エヴァには病気になってもらう。兄に近づいて毒殺されたことにしてもいいね。彼女にとってペレアス王女の身分は、もう不要なものだから。新しい名前と身分で、ウィリスで生きる――それが昨夜確認したエヴァ自身の意思だから。


「サイラス!貴様!俺を(たばか)ったのか!」


そーやってすぐキレる。ダメだコイツ。


「アンタの認識が甘いだけだろ」


第一、ライオネルは『ロイ』を殺害してあの汚いクソ野郎(『ロザリー』)を彼の亡骸に宿らせたのだ。これで助けてもらえるとか、どんだけ脳ミソお花畑なんだよ。


「なんで!なんでだ!なんでこんな何もない辺境が栄えて、銀山のある南部は困窮する!なんで!」


挙げ句、セヴランたち各国の目もある会議室の入口で大声で喚く。あまりにもお粗末な王子様だ。


「なんで?そんなの自分で考えろ」


南部が困窮する?そりゃアンタが何もしないからだ。

言っとくけど、私たちはここまでウィリスを発展させるのに、苦労の連続だった。失敗しまくって、泣きを見て、足掻いて足掻いてようやく手に入れた発展なんだ。簡単に手に入ると思うなよ?


「考えても、わかんないんだよ!」


泣き喚くライオネル。


「じゃ、勉強しろ」


真っ当に帝王学なり経営学なり修めれば、歴史を紐解けば。あるいは知識ある誰かと対等に話し合える知識を身につければ、知恵を借りられる。努力もなしに、得られるものなんか何もないんだよ。まあ、努力しても失敗するし、報われないことも多々あるけどね。


(にぃ)、残念だけど今の貴方に、助ける価値を見出せないの。兄を助けてウィリスにも何らかのメリットがあるなら私たちも…」


「メリットだ?!なら銀だ!銀を融通する!」


エヴァが皆まで言い終わらないうちに言葉を被せるライオネル…。エヴァが額に手を当てた。


「兄…、その銀山、採掘始まって何年経つか知ってる?」


「なに?」


虚を突かれたライオネルにエヴァは嘆息した。


「四十五年だよ。意味、わかる?」


なっがいな~。それ、既に枯渇してんじゃない?


「反乱が起こる前…もう十年くらいは前にね、私、鉱山の採掘報告書を見たんだけど。見事なまでにキリのいい数字だったよ。虚偽の数字だって一目でわかった」


「虚偽…?」


呆然とするライオネル。


「後は兄が自分で考えて」


エヴァがライオネルに背を向け、ポソッと「ゼロじゃないけどね」と私にだけ聞こえるように呟いた。ああ、枯渇はしてないんだ。この国、しょっちゅう戦争やってたし、慢性的な働き手不足だったんだろう。だから四十五年なんて長い間採掘ができていた。そういうことかな。


静かになったライオネルを置いて、私たちはさっさと会議室を後にした。バカ王子と遊んでいる暇はない。




ライオネルは私たちにフラれた腹いせか、私が女だと言いふらしてまわった。


「まったく相手にされていなかったな」


セヴランがニヤニヤして教えてくれた。逆に私が男という認識が強化されたらしい。さすがバカ王子…。信用されてないって恐いねー(棒読み)。


ライオネルはその後早々に、ノエルと『ロザリー』に引き摺られるようにして南部へ帰っていった。



同じ頃、エヴァに痴漢した脂ギッシュ司祭様もウィリスから出ていった。聖鳥フレスベルクが魔物に喰われた(実際は公爵令嬢に喰われたんだけど)責任を問われて、本部に送還されたらしい。ウィリスの教会には、別のちゃんとした司祭様が派遣されてきた。めでたしめでたし。


◆◆◆


王子会談の翌日。


私宛に大量の荷物が贈られてきた。送り主は、メドラウド公ノーマンさん。


「なんじゃこりゃあっ?!」


私室を埋める長櫃に、私は悲鳴をあげた。長櫃の中身は…


ドレス、ドレス、ドレス、ドレス…


そして…


ベビードレス。


「……。」


添えられていたカードには、『すぐ必要になると思うよ』との直筆メッセージ。おいっ!


「アル!」


モルゲンの宿で寛いでいた元凶に、私は掴みかかって、


「ふおぅ?!」


秒で押さえこまれた。

うぐぅ…やっぱ格闘技だとアルに全然敵わない。


「…ノーマンさんにチクったでしょ」


組み敷かれたまま半眼でアルを睨むと、「ん?」とアルは首を傾げた。その顔…確信犯だな!


「部屋がドレスで埋まったんだからぁ!あと、ベビードレスとかどういうつもり?!」


長櫃開けたらどういう仕組みか、ドレスが膨らんで溢れ出た。圧縮機能付きか?!部屋の惨状を見たオフィーリアにしこたま怒られ、山のようなベビードレスを見た父さんからは「返してきなさい!」って怒鳴られた。…理不尽だ。


「なっ?!ちょ…アル!」


首筋に顔を埋めてくるアルの頭を引っつかむ。そういう目的で来たんじゃないからっ!


「ああ…ベッドに行くか?」


「そーゆー問題じゃな…ふにゃあ?!」


セクハラだよ!アルフレッドさん!


「この後も仕事か?」


「いや…予定は入れてないけど…?」


「ん」


いや、「ん」って何だよ、「ん」って!ちょ…!どこ触ってんですかアルフレッドさん?!


……。


……。


濃厚に愛された後、解放された。

アルに逢うのは危険だ。しばらく控えよう。



文明が中世並みのこの世界に、便利な避妊具などあるはずもない。中絶は死ぬ確率の方が高いし、出産だって医療水準の低さ故に命懸けなのだ。それに…前世の『私』の友人は、悪阻で水も飲めなくなって入院したんだよね…。妊娠なんかできないよ。今、動けなくなるわけにはいかないんだ。


ドレスはオフィーリアに、宝飾品はエヴァにあげよう。

ベビードレスは…


「嫌だっ!こんっっなフリフリヒラヒラな人間の服なんか着れるかぁ!ブッヒー!!」


「やっぱ着ぐるみはテッパンだよねぇ」


ほ~ら、この牛柄のフード付きなんか牛魔王らしくて…


「いや~ん♡カワイイッ♡♡」


「ブヒヒッ…陰険だぞ邪竜の娘ブゥ…」


カルビ君にあげた。


◆◆◆


「フッ…ハハハハハ!」


新たな報告を読んで、つい笑ってしまった。やはりアレは面白いことをしでかす。


別荘への途上。

パチパチと温かな音を響かせる暖炉の前で、皇帝は新たな報告書を読んでいた。


報告書曰く、また王子会談なるものを開いたという。あのメドラウド公子息をどう考えているのか知らないが、ギルドや教会の代表者も交えての会議だという。そこで決めたことがまた笑える。



議席に着く代表者を、王族もしくはそれに相当する身分且つ将軍経験のある()()に限る



「貴様は男ではなかろう!」


それどころか、人間でさえないと言うではないか。魔物が魔物封印のための会議を開き、尚かつ議席に座る資格を男限定にすると抜かす。実に滑稽だ。滑稽が過ぎていっそ清々しささえ覚える。


「しかし、」


笑いを堪え、皇帝は目を細めた。


「あのどうしようもないライオネルを支持する、か。これは、貴様自身の首を絞めることになるぞ?」


貴族…それも由緒正しき老害どもほど『血筋』至上主義。その癖、一度捨てた駒は拾わない。


ペレアス王女とやらは、随分甘い考えの持ち主のようだ。議決で却って包囲が狭まったのではないか?『王配』ほど、美味い汁が吸える役職などない。新参国と手を組んだところで、王族の(くびき)から逃れられるとは思えぬ。


「貴様が王女の肩を持つ、となると…」


国はいよいよまとまりが危うくなる。


懐から出したのは、一冊の薄っぺらな本だ。『貴族の品格』などと銘打ってある。こんな毒物が蔓延し、内腑から壊死が始まった国だ。後継問題がトドメにならねばよいがな。


帝国側としては、海域の警備を強化した方がよいだろう。中央が衰えれば、台頭するのは有無を言わせぬ『力』だ。

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