表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
157/205

157 ドラゴニュート女子

「邪竜女子とオマケの人間、ご案内するよっ!」


魔界――


あれから無理矢理人骨レイを首に装着させられた私とアルを前に、ツアコンよろしく旗を振るのは、レベッカさんというきゃぴきゃぴなドラゴニュートの女の子だ。上半身は人間と大差ないけど、お腹から下が爬虫…ゲッホゲッホ!竜です、ハイ。


私が人型のまんま身体を鱗で覆ったのと違うところは、まず色。レベッカさんの鱗は瑠璃色なのだ。綺麗。でもって、耳が爬ちゅ…水掻きみたいなドラゴンの耳。あと、背中にコウモリみたいな羽があって、際どい丈のワンピースからは、太くて長い尻尾が伸びている。


「ええ~、あちらに見えるのがぁ~、レイスクイーン、アマストレ様の城ですっ!」


レイスクイーン……サーキットにいる人かな?


「死者の国の女王だぞブー」


あ、そうなんだ。


「アマストレ様とのお茶会にしゅっぱーつ!」


レベッカさんが元気いっぱいに旗を掲げた。


◆◆◆


「ンフフ…逢いたかったわよ?邪竜の子猫ちゃ~ん」


…ヤベェ。


私とアルは、アマストレ様を見て固まった。


「(コイツ…破廉恥な格好で男を踏みつけたり叩きのめしてたヤツだよな?!)」


「(アル…目を合わせちゃダメだよ)」


…そう。

艶やかな黒髪を背に流し、ボンキュッボンのお色気ボディ……胸の大きさで私はまたしても敗北した……を漆黒のボンデージに包み、お茶会なのに鞭を装備したアマストレ様は、カルビ君が見せてくれた魔界CMに出てきたSMの女王様だったのだ!


となると当然…


「あ~ら。その人間は私への貢ぎ物かしら?」


鞭を弄びながら、アマストレ様がアルを見た。


「ちが」


「ハイ!オマケの人間ですっ!」


私を遮って、レベッカさんが元気いっぱいに答えた。

するとアマストレ様は、真っ赤な唇で妖艶にアルに向かって笑いかけた。


「あらぁ…オマケなんて可哀想ねぇ。お姉様が足置きの仕事をあげましょうか」


ねっとりと絡みつくような視線をアルに向けるアマストレ様…と、


「フッ…ぐぅっ…!か、身体が勝手にっ…!」


「アル?!」


な、なんか!アルが引っ張られてるんですが?!


「ンフフ…子猫ちゃん?私、貴女にはとっても感謝しているの。大罪魔法で下僕を大量にプレゼントしてくれたんだもの」


屈強な男たちの調教…楽しかったわぁ、と艶やかに笑う女王様。私が戦争で殺した兵士は、漏れなくアマストレ様の下僕になったらしい。


うあ~……手にかけといて言うのも変だけど、激しく申し訳ない。


隣に座ったレベッカさんが無邪気に、


「まあ~、人間死んだらみぃ~んな、アマストレ様の下僕になるんだしィ、早いか遅いかってだけだからぁ」


と、背をポンポン叩いて慰めてくれた。


え……じゃあ、アルも?

死んだら、アマストレ様の下僕…


「嫌だあ!!」


想像しちゃったよぅ!

椅子から崩れ落ち、私は地に両手をつけた。


「あら?絶望したの?フフ…魔王様がお喜びになるわぁ。ああ、これはほんの気持ちよ?受け取って♡」


手渡されたのは…




黒光りするボンデージと、鞭。




「要らな」


「名入れしといたわっ!」


…嗚呼。ウィリスが恋しい。


◆◆◆


アマストレ様のお茶会後。


「アル!アル!しっかりしてぇ!」



彼氏が停止しました…。



死んだ魚の目になったアルを揺すぶってみるけど、反応しない。

アレかな…。アマストレ様に引き寄せられたアルを取り戻そうと、「コレは私の胸置きですっ!」って、アルの顔を自分の谷間に押しこんだのがいけなかった?つーか胸置きって何だよ。


アマストレ様は、とち狂った私を「あら?嫉妬?」と評しただけで、余裕の笑みを浮かべた。ダメージゼロ。その後私は、泣きながら彼氏を胸置きだと訴え続けた……だから胸置きって何だよ…。


「ねぇねぇ、邪竜ちゃ~ん?予定にはないけど、淫魔(サキュバス)愛ランド♡行くゥ?その人間、一瞬だけならちょ~ぉ元気になるよ?」


レベッカさんがアルを突っついて、そんな提案をくれたけど。


「嫌だぁ!アルは私のっ!私の胸置きなんだからぁ!」


…私は混乱していた。


「ウィリスに帰るっ!」


「ええ~…でも魔王様が会いたいって」


「アル~!生き返ってぇ~!」


「……。」


……。


……。


「ねぇ、邪竜ちゃん」


しばらくして。


レベッカさんが私の横にしゃがみこんだ。下から顔をジィーッとのぞきこんでくる――レベッカさん、瞳の色が澄んだマゼンダ。宝石みたい。


「一緒に温泉入ってくれたらぁ、お家に帰してあげるよっ」


ニコッ♡


「レベッカさん…」


希望の光を与えられた私は、縋るようにレベッカさんを見上げた。


「さん付けは余所余所しいなぁ~」


「…レベッカ?」


「もう一声っ」


「え…と、ベッキー?」


「そぉ!サアラ、お友達っ!」


キュッと私の手を取るレベッ……ベッキー。めっちゃ嬉しそう。魔界にドラゴニュートの友達ができた。


◆◆◆


「温泉♪温泉♪」


ノリノリなベッキーに連れてこられたのは…




真っ黒な……沼。


「………黒いんですけど」


「だって濃縮瘴気だもん♪魔力が漲るよぉ!」





真っ赤な……川。


「………赤いんですけど」


「血の川温泉♪足は鱗にしてっ!蛭がいるからっ!」





お湯は透明だけど、問題は前衛的な造形……


「骨……」


「コレがホントの白骨温泉♪カルシウムたっぷり!美鱗の湯だよっ!」



どれにしますか?


「オゥ!ジーザス!!」

私は頭を抱えた。





十分後。


ウジウジしてても始まらないと、覚悟を決めて鬼畜な選択肢に挑むことにした。


……。


……。


うん…黒と赤はないな。片や沼だし。片や血と蛭だし。

白骨温泉にしよう。目瞑って入れば怖くない。アルのためだ。


一番奥まったところにある白骨温泉。

ドレスを脱ぎ、それを丸めて枕代わりにアルを寝かせ。念のため身体を鱗で覆って、前衛的な造形美に近づく。恐る恐る入ったお湯は……よかった、普通の無害なお湯だ。ホッ。


「邪竜ちゃんは黒竜なんだねぇ」


私の中途半端な竜体を見て、ベッキーは「尻尾がな~い」と自分との違いを見つけては楽しそうに笑う。


「ベッキーは?水竜なの?」


瑠璃色の鱗だけど…あ、翼があるから水竜ではないのかな。


「私はねぇ、ご先祖様が古竜なの。あ、私は先祖帰りだから竜体になれるよぉ」


見る?と聞かれると見たくなる。

頷くと、「じゃあサアラの竜体も見せて」と言われた。


白骨温泉は湖並に広い。ベッキーの竜体が私と同じくらいの大きさなら余裕だろう。火竜並だと溢れちゃうけど。


「「せーのっ」」


光の粒子が舞い、二人の少女の姿が掻き消える。代わりに宝石のように輝く瑠璃色の竜と、東洋風の漆黒の竜が現れた。

ベッキーは、西洋風の竜だったけど、火竜ほどずんぐりとはしておらず、細く長い首と尻尾が全身をスレンダーに見せている。


『ベッキーは美人(?)さんだね』


『フフッ。そぉ?』


褒められて、まんざらでもなさそうなベッキー。背の羽を嬉しそうにパタパタと動かす。私は羽がないから……蛇みたいに全身をバネにしてジャンプはできるけど、空は飛べない。


『サアラは水竜かな…泳ぐの得意?』


そういや、湖の呪いが解けてから水魔法も使えるようになったね。この格好で泳いだことはない……けど。


温泉で泳ぐ……行儀悪いけどやってみるか。


『おおっ!泳げた!速い!』


小型クルーザー並のスピードは出てるんじゃないかな。スイスイと骨の湖ならぬ巨大温泉を泳ぐと、対岸の少し向こうにもう一つ湖らしきものがあるのを見つけた。


『?』


見たところ、白い湖(?)

……いや、水がない。真っ白でキラキラ輝く砂みたいなもの…。え…あれってまさか…。


対岸まで泳いで、ニュッと首を伸ばす。白くてキラキラした砂をちろりと舐めて。


『塩だ…』


私は目を丸くした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ