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150 地上では

時を少し巻き戻して。


調子に乗って暴れる火竜のドラゴンブレスから、討伐隊は必死に地上を守っていた。そこへ突然、真っ黒な細長いドラゴンが現れ、火竜に噛みついて首に巻きついて絞めあげたのだから、彼らは大いに驚いた。


「なっ?!ドラゴンがもう一体だと?!」


「あれは…我々の味方をしているのか?!」 


ドラゴン――この世界に竜種は数多く生息しているが、いずれも小型な亜種だ。巨体且つ厄災級の力を振るう純粋な竜種は、それこそ伝説上の魔物だ。あの猛威を振るう火竜は言うに及ばず、その火竜に比べれば数段小さいものの、食らいついている細長い竜も亜種よりも遥かに大きい――つまり、純粋な竜種に限りなく近い存在。


「偶然かもしれないが、こちら側についてくれるなら心強い!」


実際、かの黒竜から感じられる魔力は、並の魔物より遥かに強大だ。それに、黒竜が首に巻きついたためか、火竜はドラゴンブレスを吐けなくなったらしい。攻撃が止んだことに、討伐隊は大いに安堵したのだが。


「《聖なる光》!!」


背後から放たれた光魔法。目を潰すほどの強烈な輝きが頭上を通過し、黒竜を打ちつけたのだ。光の鎖に囚われた黒竜が血を流し、苦悶の声をあげる。討伐隊はギョッとした。


「何をやっている!」


「黒竜を攻撃してどうする!」


口々に術者――年齢に似つかわしくないピンクのケバケバしいドレスの女を非難した。しかし女はどこ吹く風だ。


「ウフフッ。私、反則的にレベルマックスなヒロインだもの。続編のラスボスだってチョロいもんよ!」


ウキウキと光の鎖を絞めあげる女。討伐隊は呆れを通り越して戦慄した。


「アンタ…状況が見えていないのか…?」


兵の一人――冒険者の男が呆然と呟いた、その刹那、


ギュオオオオオッ!!!


耳を(つんざ)く咆哮と、熱波の強風が地上を叩きつけた。爆風のような熱風に、討伐隊の先頭にいた部隊が吹き飛ばされてゴロゴロと地面を転がった。


「クソッ!負傷者を救助しろ!」


「森が!森が燃えています!!」


「水魔法使い急げ!消火しろ!」


「家に燃え移るぞ!」


悲鳴とも怒号ともつかない叫び声が飛び交う。ドレスのイカレ女が黒竜を攻撃したせいで、火竜が勢いを盛り返してしまった。


「あっ!」


熱波を耐えた討伐兵達が見上げた先――黒竜が火に包まれていた。咆哮を上げるからまだ生きているのだろうが、動きは鈍く鳴き声も小さい。


「…なんて、ことだ」


誰かが呟いた。


せっかく戦況が好転したのに、女の暴挙で…


誰もが死を近くに感じた時。


黒竜が不意に頭をもたげた。その口元に、あろうことかアルフレッドが身を踊らせた。それを素早く黒竜が咥え、長い体躯を鞭のようにしならせた。


バチン!!


「え…?」

目撃していた兵の目が限界まで開かれた。


黒竜の牙に掴まったアルフレッドの手からキラキラと光の糸が見える。その先には、火竜の体の割に小さな四枚の翼があって。光の糸を引かれたことで、羽ばたいていたそれらがパチンとピッタリくっついてしまった。


羽ばたけなくなった火竜は、巻きついた黒竜ごと森の木々を薙ぎ倒し、轟音と地響きをたてて墜落した。落下した瞬間、凄まじい衝撃波と砂煙が巻き上がり、討伐隊はしばし、視界を奪われた。



やがて砂煙がおさまって。


「なあ、」


一人の兵がよろよろと立ち上がった。


「竜の気配が消えたぞ…!」


彼に続いて数人の兵が恐々と立ち上がる。


「確かに、消えた…」


急に体が軽くなった感覚――強大な魔物を斃した後に感じるそれ。つまり…


「まさか…討伐、したのか?!」


皆が顔を見合わせる。互いに信じられないという顔をしていた。伝説上の竜種、それも火竜は最強クラスだ。人間如きが討伐……有り得ない。


「ここは『魔の森』ゆえ…、何か特別なモノが作用したのかもしれぬな」


「あの黒竜、もしや『魔の森』の…?」


口々に囁く兵士達の鼻を、その時、強烈な芳香が突き刺した。


「そうよ!」


キンキンした声――兵士達のど真ん中にあのピンクのイカレ女が立っていた。


「そうよ!アレこそが『邪竜』!負の感情を糧に生まれたバケモノよ!」


討伐したわ!ゲームクリアよ!


訳のわからないワードを喜色満面に叫ぶイカレ女。兵士達はそれを見てドン引きした。シーンと静まり返る中、イカレ女の高笑いがこだました。


「…馬鹿な。アレのどこが邪竜だというのだ!我々を助けてくれたではないか!」


反駁(はんばく)した声は誰のものであったか。


「違いねぇ!黒い竜は俺たちに味方した!邪竜?ふざけんな!」


「あの竜は黒かったが、邪悪な感じはせず、美しかった。そうだよな?」


「そうだ!」


彼の一声を力に、次々と声をあげる兵士達。


「むしろ俺は、黒竜を殺そうとした女こそ、裁くべき悪だと思うがな」

軟派で甘い声音がそんなことを言いだした。


「確かに。あのタイミングで攻撃など、結果は火を見るより明らかだ。意図的に火竜に(くみ)したと?」


「恐らく」


ざわめく兵士達。

そう言えば、とまた別の誰かが言いだした。


「私見たわ!あの火竜が攻撃してくる前、誰かが火竜と話していたの!」


「なに?!」


「何者かが呼び出したというのか?火竜を?!」


「本当なのか?それは?」


人々の間に動揺が広がった。


「おい!誰か光魔法を!イカレ女を探せ!」


しかし、派手なイカレ女は薄闇の中、いつの間にか姿を消していた。


◆◆◆


二体の竜種が姿を消した森。

その濃い闇に、フードを被った何者かが身を隠していた。フードの陰から、微かに白い肌が仄見える。


「…ほぉ。これは面白いモノを見た」


口元を歪め、何者かは魔の森の奥に視線を投げた。

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