122 お久しぶりロリエッタ侯爵
アメコミヒーローと同姓同名のキャラが登場します。※至ってフツーのモブです。
バレン領からまた馬をかっ飛ばしてウィリス村に戻ってきた私は、休む間もなく次の作業に取りかかった。
ロシナンテ傭兵団と、イライジャさんに呼んでもらった職人さんたちに作って欲しいものの形や仕様を説明し、その傍らせっせと手紙を書く。宛先は、ニミュエ公爵、ヴィヴィアンをはじめとした盟友、さらにはメドラウド公爵にも。
「一ヶ月後?!」
手紙をのぞき見たオフィーリアが素っ頓狂な声をあげた。
「オフィーリア、おもてなしの準備は任せていい?」
「え?ええっ?!」
オフィーリアは私の計画を聞き、目を白黒させた。
◆◆◆
お客様をお招きする前に、やらなければいけないことがある。
そう!街道の封鎖解除だ!
厄介なのはエレイン兵。何とか彼らに穏便にお引き取り願う方法……それはっ!
薄暗い寝室。
眠る男に跨がり、私はニコッと……いや妖艶に笑いかけた。
「フフッ。お、ひ、さ、し、ぶ、り♡ロリエッタおじ様?」
◆◆◆
さかのぼること数日前。
私は、エレイン兵に退いてもらうために使えそうな人脈をイライジャさんと話し合っていた。
「エレインってのは、王国の直轄地でなぁ。今の領主はクラーク様だな。ケント公爵家のご当主様で…」
「その人、ひょっとして空飛ぶの?」
あと超怪力で核爆発でもビクともしない…
「いや、空は飛べない」
イライジャさんは至極真面目な顔で答えた。
「空色のピッチピチの服着て赤いパンツとブーツ履いてて、胸にデカデカと『S』ってマークがあるムキムキマッチョマン…!」
「いや、服のセンスはフツーだな。あと体型は平均的な中年男性だよ」
イライジャさんの声は冷静そのものだ。
「普段はダテ眼鏡かけた野暮ったいオッサンだけど、それは世を忍ぶ仮の姿で…」
「ダテ眼鏡はかけてないし、野暮ったくもなかったよ?あと公爵家当主って世を忍ぶ仮の姿としてどうなの?」
イライジャさんの声に呆れが混じってきた。
「目!目からビームが出る?!」
「誰のことを言ってるのか知らないが、怪しさしかない奴とは付きあわない方がいいよ?」
年頃の女の子なんだから、とイライジャさんにジト目で注意された。ファンタジー世界だし、そーゆー人もいると期待したのに…。
「公爵様かぁ…」
てことは、王族の血縁者だよねぇ。力も権力もある。厄介でしかない。
「ご当主様は、王の従妹の入り婿で肝心の従妹の方は既に亡くなってる。ああ、ちなみにあの捕まった宮廷魔術師…ヴァンサンだっけ?……はケント公爵家の養子に入っててな」
「あー…なるほど」
聞くからに微妙な公爵家に養子に入ることで、ヴァンサンは王族に準ずる肩書きを手に入れたのか。王妃の横に立つに不足のない身分となるために。
「王族との血縁は正直ビミョーだからな。ロリエッタ侯爵をはじめとした王妃派貴族が侍ってるわけよ」
ちなみにロリエッタ侯爵家は、クラーク様の実家らしい。
ほへ~。さすがベテラン商人。イライジャさん、詳しいね。
「いやいや…褒められると照れちゃうけど。それもこれもサイラス君があの時頑張ってくれたおかげで、コネが作れたからだし」
ポリポリと頬をかくイライジャさん。
「……そっか」
…ロリドレス着た黒歴史を思い出してしまった。
「そのロリ侯爵に掛けあえばぁ、下っ端兵士はなんとかなるんじゃないの~?」
声に振り向けば、ミニエリンギが執務机の端から「トウッ」と飛び降りたところだった。
…たま~にまともなこと言うんだよね、コイツ。
「マスターがぁ、ロリロリしてお願いしたら聞いてくれるんじゃな~い?」
「フ~ゥセンタケ~♪」とか言いながらキノコの傘をパラグライダーみたいにして、部屋の中をフワフワ飛ぶミニエリンギ。少し離れたところからティナが猫のような目つきでそれをじーっと眺めている。
「…やるか」
イライジャさんが「マジかよ?!」と驚いたけれど、使えるモノは昔のコネでもなんでも使おう。ロリは……エヴァに相談しよう。
◆◆◆
病み上がりのオフィーリアには悪いが、ウィリスでの業務をすべて押しつけ、私はいそいそとハチに跨がった。
「こういうときは、正面からお願いしたって門前払い喰うだけだ…。ドラマチックに行くぜ!」
ミニエリンギのアドバイスに従い、刻限は真夜中。空には死神の鎌のような細い三日月が浮かび、私はクルクル巻いた髪をいつかのようにツインテールにして、あの時と似たようなデザインのセクシードレスを纏っている。
「ロリなのに胸がある……男の夢だ。口紅も背伸びして紅でいこう。成功間違いナシ!」
肩にはノリノリのミニエリンギ。
いざ征かん!真夜中の逢い引き(ミニエリンギ談)へ!
闇に紛れてエレインの街に入りこみ、どっかの宮殿かと見紛う豪奢な屋敷の前に立つ。
「いいか?侵入は窓からがいい。夜風に目を覚ませば部屋にロリ美少女。『な?!どこから?!』…でもドアは閉まってる。見れば窓が開け放たれててカーテンが揺れている、最高だろ?」
…渋い顔した(気持ち悪い)ミニエリンギ談。
深く考えるのはやめた。
ロリエッタ侯爵は…
いた。ベッドでいびきをかいてお休み中…。
「とりあえず膝立ちで跨がろう」
「……。」
言われたとおり私が跨がると、ミニエリンギは何やら怪しげな白い粉を眠るロリエッタ侯爵に…
「ぶふぇっくしょぃ!!」
…小麦粉だったっぽい。
「(アクション!)」
ミニエリンギの合図で、私はにっこりとベッドのロリエッタ侯爵に笑いかけた。
「フフッ。お、ひ、さ、し、ぶ、り♡ロリエッタおじ様?」
「き…きみは?!」
ヘッドボードでミニエリンギが『ドッキリ成功!』と書かれた札を持って踊り狂っているけど、笑っちゃいけない…。
「おじ様…私をお忘れなの?マリー、悲しいっ!」
打ち合わせ通り、ロリを意識して泣き真似をする。
「マリーちゃん…ツンデレのマリーちゃんか?!ああっ!神よ!!わしはもう死んでもいいっ!!」
私の太腿を涙ながらにナデナデしながらシャウトするロリエッタ侯爵。…いや、まだ死なないで?あとツンデレのマリーちゃんって何だよ…。
…気を取り直して。
「おじ様…お願いがありますの」
早速本題いってみよう!
さり気なく太腿を撫でさする手を取って両手で包みこみ…
「(お願いするときは上目遣い+高速瞬き三回!)」
キランキランキラン☆
…アイシャドウの粉が目に入って涙出そう。
少なくとも、目はウルウルになりました。
「なんと!マリーちゃんは、ウィリス村のサイラス・ウィリスの妹となっ?!」
…そういう設定にしてありマス。だってミニエリンギが「妹設定は無敵かつ永久に不滅」とかなんとか力説するから…。
「ツンデレ妹なマリーちゃん……最高じゃあーっ!!」
シャウトするロリエッタ侯爵。この人、全っ然変わってないね。ミニエリンギよ、『ツンはデレた時最強!』ってボードはいったい何を求めているの…。
「街道を兵隊さんが通せんぼしてるでしょ?…べ、別にここ、怖くなんかないんだからねっ!で…でも、その…困るっていうか」
…キャラがコロコロ変わってる自覚はアリマス。
「おじ様なら…なんとか、してくれるんじゃないかと、思って」
膝立ちで跨がった体勢のまま、そっぽを向いて言うのが、イイらしい。で、その時さり気なく胸を寄せろと……
ワタシハ『ツンデレ』トイウナノロボット。シジドオリニミッション、ヤル。ソレダケ。
…この任務終わったら、浴びるほど蒸留酒を飲んで記憶から抹消しよう。
「マリーちゃんが恥ずかしがってるっ!!わしはもう死んでも…」
…だから死なないでね?
結果から言うと、この直談判は成功した。
ロリエッタ侯爵のひと言で、領境のエレイン兵は速やかに撤退、通行可能となった。ミニエリンギの指示通り、後日マリーの名前でキスマーク付きのお礼の手紙と、イベントへの招待状を送っておいた。ミッション、コンプリートッ!




