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109 新たな使い魔

ル〇ン三世みたいな喋り方をするエリンギをご想像下さい

ある日、身体からキノコが生えました。


違うっ!庶民だからお風呂には入れないけど、毎日水浴びしてたしっ!清潔にしてたっ!間違ってもキノコの苗床になるような汚いジメジメを身体に持ってなんかいないィ!!




ちゃんと現実を見よう…。


今、私の左腕には、水玉模様のいかにも毒キノコですって見た目のヤツが三本生えている。場所は手の甲。うあ~…ナニコレ。


身体にキノコが生えるなんてショックだ。


しかもこのキノコ、目視できるスピードで成長してるしっ!


「ギャアアッ!また一つ生えたぁ!」


あれよあれよという間にポコポコと手の上で増殖するキノコ。恐怖だ。毒々しいビビッドな色味に水玉や縞模様の怪しげなキノコ畑……なんか退化したエリンギマンの毒キノコ畑が手に顕現したというかっ!


「ん?じゃあコレ、ほっとくとスクイッグになるのかな」

遥か昔の記憶を掘り返す。確か…



「燃やすと大っきくなっちゃうんだからぁ」

どっかのコソ泥が言っていたね。




……深呼吸。


「《火炎(ファイヤー)》!」


ゴオッと火に包まれる毒キノコは、ぐずぐず溶けてくっついて…エリンギっぽいシルエットが形成されていく。間違いないわ。コレ、エリンギマンの元だ。


「えっと…名前つけたら私の使い魔になるんだよね」


グニュニュ…と手の上で蠢くスクイッグの原型を観察しながら、ふと思った。


エリンギマン、この状況で役に立つか?


胞子を垂れ流さなければ、知能の低い身の丈二メートルの巨大エリンギで不死身。けど、少ない魔力で二十四時間稼働させることができる――紙作りでは頼りになる戦力だけど、結界を破るには役に立たなさそうだ。【ぶつかる→毒キノコ畑に退化】の無限ループしか作れないわ。


ダメじゃん。


「あ、でも…」


普段、ティナが傍にくっついているから、つい思ったことを口に出す癖がついた。魔除けの影響か、ティナの姿は見当たらない。さっさと片付けてあの子の所へ戻ってあげないと。きっと寂しがっている。


「でも…レオみたいに『枕詞』をつけると、何か変わるのかな」


レオはキラーシルクワームだけど、名付けの時に『極彩色の怪獣にして、大地と自然の守護神獣』って厨二ワードをくっつけたら、通常のキラーシルクワームより遥かにデカい翼長五メートル越えの巨大蛾怪獣になったし。見た目もモ〇ラそっくりになった。


「くっそぉ…熱っぽいしだるいし痛いし、集中できな~い」

どーせなら、傷薬とか痛み止めとか頼めば生成してくれるヤツとか…いるわけ無いか、そんな都合のいい魔物。



とりあえず名前だ。何にしよう?

枕詞もつけなきゃ。せめてもうちょっと知能がある感じに… 


迷ってる間にも、私の腕の上で三十センチくらいのスクイッグがヨイショッと立ちあがった。考えが纏まらないのに、時間がない。結果私の捻り出した名前は…


「湖の王より名を与える。君の名は…っ!…………スクイッグの賢者、エリンギマン・アドバンスジェネレーション!!」


……略して『エリンギマンAG』。どっかで聞いたことのある名前だ。


ともかく…


「ういっす~!おいら、エリンギマン・アドバンスジェネレーション!略してエリンギマンAG!ばっくた~ん♪」


身の丈三十センチのちっさいエリンギが、「トウッ」とか言って、左腕からバック転して私の胸にダイブしてきた。


「ん~、ジャストCカッぶぎゃあ!?」


え?もちろんぶっ飛ばしましたが何か。


ボヨン、とベッドの下に墜落したエリンギマンAGは「うわちちち!」と悲鳴をあげながら、よちよちとベッドに這い上がってきた。そして断りもなく私の膝に乗っかった。


「マスター酷いよ、ちょっと触ってみただけじゃん?減るモンじゃないのにもぉーケチだな~」

言い訳にもならない言い訳に余計なひと言も付けて、短い手でお尻の横をポリポリ掻くミニエリンギ。オッサンか?


私は無言で調子こいてるミニエリンギの足を掴んで、逆さにぶら下げた。


「ワーッ!わかったよ!めんごったらめんごー!頼むから落とさないでよ!魔除けにあたるとおいら消えちゃうんだーぃ!」


短い手足をばたつかせて、ミニエリンギが早口で喚いた。


「魔除け無理!だからマスターの身体の上!できれば胸の谷間きぼ、ブベフッ!言ってみただけー!」


懲りないエリンギだ。


◆◆◆


エリンギマンAGのせいで倦怠感と痛みが酷くなった。魔力もかなり使ったみたいだ。座っていられなくなって、私はバタンとベッドに沈みこんだ。あー……しんどい。


「あ…あれ?マスター!大丈夫ッスか~?」


私のお腹の上でオロオロと足踏みするミニエリンギ……

つーか、マスターを労るなら腹の上で足踏みすんなっ!阿呆!


そうこうしていたら、ドアが開いて魔術師が戻ってきた。マズいっ!私は咄嗟にミニエリンギを毟り掴むと身体の下に押しこんだ。


「うわっパ~ラダ~イス」


「(黙れボケっ!)」


幸い、魔術師にミニエリンギの存在はバレなかったらしい。乱れた敷布とグロッキーな私を見つけた魔術師は、呆れた顔で見下ろしてきた。


「だ~か~ら、無駄って言ったじゃん?死なないようにはするけどさ~、色々片づくまで元気いっぱいになっても困るから、治療とか最低限なんだって」


面倒だなぁ~、とか言いながら、何と魔術師が結界の中まで入ってきた!


「や…ろう…!」


朦朧とするけど、チャンスだ!


鉛のように重い腕を持ち上げ、ヤツの襟首に伸ばす…


「ったく、無理だって」

私の腕をポイッと払って、魔術師がネグリジェの袖を広げて、肩の包帯を取り除けた。


「ほら、傷が開いてる。大人しくしとけって~」


傷口の血を拭い取り、薬を広げた新しい布を当て、包帯を巻き直して、ついでとばかり額に浮いた汗を拭い、魔術師は結界から出ていった。


汚れた包帯を置きに魔術師が出ていくと、ミニエリンギが身体の下から這い出してきた。


「ンもぅ、ちょ~っと蒸れるし汗臭いんだもん」


私がグロッキーなのをいいことに、また身体の上に乗っかるミニエリンギ。


「あ~~、空気がうま~い」


呑気に伸びなんかしてやがる。


「あの結界は三層構造だな。光・精霊・魔除け!間に精霊魔法の強固な壁があるしぃ、外側に魔除け層作っちゃってるから魔物は近寄れない!破るのまず無理だ!困ったな~っと」


トテトテ歩きながら、一人で喋るミニエリンギ。


「へぇ…見ただけで…わかるの?」


息も絶え絶えに聞き返した――喋ってないと意識が持っていかれそうなんだ――ら、ミニエリンギはテテテッと私の顔の方に走ってきた。そして、負傷した肩に片手を引っ掛けてぶら下がり、人差し指を立てて「チッチッチッ」ってやった。


「ぐあぁっ!!イッッ!!」


おまえ、後でマジ殺す…!


「だ~っておいら、エリンギマンの賢者、エリンギマン・アドバンスジェネレーション、略してエリンギマンAGだぜー?か~しこいんだ!俺サマにかかれば、結界の構造もこの傷を治す薬も一発よん。ハーッハッハッハ!」


……今、なん、て?


私は残る気力を振り絞って、人の怪我を痛めつけるミニエリンギを毟り掴んだ。


「寄越せ…その、傷薬っての…」





三十分後。


使い魔謹製の傷薬を四苦八苦してつけて、やっと痛みから解放された。魔術師が戻ってこなくて本当によかったよ。窓から見える空が茜色だから、ご飯にでも行ったのかな。


とりあえず。


身体が少し楽になったから、起き上がって遊んでいたミニエリンギを捕まえた。


「気になってたんだけど。どうしてアンタってこの空間にいられるのよ?魔物でしょ?」


私の疑問に、ミニエリンギは「あ~、それね~」と、お尻の横をポリポリしながら(かゆいの?)こう言った。


「マスターがぁ、おいらの先輩たちに胞子飛ばす許可出したじゃん?おいらその時、マスターのまだ竜化してない左手にくっついたわけよ。んで!マスターが肩に矢ぁ喰らって血が出たじゃん?従魔にとってマスターの血はすっげぇ力になるんだ!その血と竜化の魔力吸って、おいらってば最っっ強ー!!」


なるほど。鱗の下にいたから、魔除けから護られたと。


「そーゆーこと!ちなみにっ!マスターの腕はおいらの苗床になってるー」


…聞かなかったことにしよう。

ヤダよ、自分の手がキノコの苗床なんて…。


気を取り直して尋ねた。


「他にも薬って作れるの?」


少し、考えたことがある。

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