シェリル・ライスリードという少女
シェリル・ライスリードに転生すると決めたアリアは『ドキドキ☆マジカル学園』の世界について細かいことを集めさせた。
仕事はいいのかと考えるかもしれないが、彼女は宇宙概念に存在していることが仕事の大部分だと言っても過言ではないので、問題ない。
他にあるとしても、それはごく稀に彼女の配下が完遂できなかった仕事の後始末くらいであり、身も蓋もないことを言えば彼女の仕事など存在しないことと同義である。
彼女が星霊になってからした事と言えば母親の友人に喧嘩を売ったり神霊に喧嘩を売ったり、可愛くて将来有望な少女を拉致したりなど、ろくなことがない。
話を戻すが、何故彼女が乙女ゲームのことについて調べているかというと、それはシェリル・ライスリードに転生する為の下準備である。
当然のことだが、この『ドキドキ☆マジカル学園』は人間が創り出した創作物。つまり、その世界は存在していない。その中の人物に転生するとなると、存在しない世界を一から造らないといけないのだ。如何に絶大な力を有する星霊とて、その作業は一夕一朝で終わるものではない。
世界に人間を生み出した創造神、原作の5000年前ほどに世界を滅ぼしかけた魔王、それに立ち向かった勇者などなど。原作を忠実に再現するにはそれだけ時間がかかる。いくらアリアが時間を進める術を持っていたとしても、ゲームのように発展していなければ意味が無い。
これはだめ、あれもだめとこだわり続けて23度目ようやく満足できる世界が出来たのだ。
***
そして、無事シェリル・ライスリードに転生出来たわけなのだが、早速嬉しいハプニングが起きた。
目の前にいるこの濃紺の少年はこの国の王子、つまりはシェリルの婚約者であることをアリアは知っている。
彼女はこの少年が10年後シェリルとの婚約破棄をした時に、びっくり仰天大どんでん返しをし、『ざまあ』を言うためだけにこの『ドキドキ☆マジカル学園』の世界を創り、転生したのだ。
しかし、愛らしい顔をしてシェリルのような美しい少女を振るなど恐ろしいことをするな少年。とアリアはまじまじと王子、ルイを見つめ思った。
それほどまでに、シェリル・ライスリードは美しいのだ。
雪のように白い肌、夜の空のような黒い髪、穢れなど知らないとでも言うような無垢な青い瞳は見るもの全てを魅了するだろう。
アリアは彼女の夜空の星々のように太陽に当たりキラキラと所々光を反射させる髪が一番好きなのだ。あと、顔の造形も好みどストライクである。
原作ではいちいちそんな所まで描かれていないが、デザイン画にはそう記述されていたのだから問題ない。
今はほんの8歳の幼子の姿だが、充分魅力的で、先程もお茶会に来ていた有力貴族の子息達の視線を釘付けにしていた。
「ねえ、君……」
アリアが色々と脳内で考えていると、ルイはシェリルに話しかけてきた。そこでアリアは思い返す。
そういえば、見ず知らずの人間が部屋にいたのに何もリアクションしないのは失礼にあたるな、と。
さすがに王子を無視するのはアウトである。「なんでしょうか」と返答し、次に来る王子の言葉を待つ。
彼はふんわりと笑い、シェリルの手を取りこう言った。
「君が僕の婚約者、シェリル・ライスリード嬢なのかい?」
あ、王子っていうこと隠そうとしないんですね。なるほど分かりました。
つまり、両親に話はしているからあとは若いお二人で的な展開なのだろう。お見合いではよくあることだ。
「ご存知でしたか。如何にも、私はライスリード公爵家長女、シェリル・ライスリードでございます」
「君の話はフェルナンから聞いてる。この世の者とは思えないほど美しい少女と聞いたときには耳を疑ったけど、見れば納得だね。まさか本当に一目惚れするとは思わなかったよ」
なるほど、ルイはシェリルに一目惚れしたらしい。しかし、残念ながら彼の心は18歳になったらヒロインに傾いて婚約者を捨てるという運命にある。
故に、シェリルが彼に惹かれることなどない。浮気者は成敗、最後に『ざまあ』を言うのは彼女である。
ならば、どうやってびっくり仰天大どんでん返しをするのかを今から考えなければいけない。
アリアは彼の話を聞き流し、適当に相槌を打ちながらそれを考えた。




