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西洋魔導研究会  作者: 戸賀内藤
7/15

クダギツネ 2/10

 1時間ほど走った車は国道を離れ、林の中に入る。雑木林ではなく、きちんと管理されたものだと矢淵は直感的に理解した。倒れている木もなくしっかりと枝が払われ、地面に葉っぱが堆積して低木が乱立していることもない。生えている木々の種類にも統一感がある。人の手が入っていることは明らかだ。


「意外ですね、気づきましたか。このあたりは全て依頼者の土地です」とベルタが言う。

「雑木林は見慣れてましたから、なんとなく気づきました。それにしても、これだけの土地をしっかり管理できるのはすごいですね」

「それくらい力のある人物と話をするのだと胸に刻んでおいてください。四十万様はかなり手厳しい方です」


 会話を聞いていた木鳩がスモークウィンドウ越しに林を眺めて首をかしげる。見分けがつかないのだろう。

「木鳩も」ベルタがぴしりとつけたした。

「はいはーい。わかりました」


 やがて長い白塗りの囲いが現れ、その端の駐車場に車を止めた。車から降りた4人は、加賀崎の後についていく。エアコンの効いた車内から出たにも関わらず、清涼とした空気が漂っている。


 そのうち漆喰が途切れ、裏口らしき小さな門を見つける。そこを加賀崎がノックすると、裏から閂を外す音と鍵を開ける音が響いた。ずいぶん厳重なようだ。


 門の中から現れたのは、紺色の作務衣をまとった中年の上品な女性だった。柔和にこちらに笑いかけ、しなやかに礼をする。加賀崎もベルタもそれに負けない上品さで腰を曲げ、後からつられて矢淵と木鳩は礼を返す。


 囲いの中は竹林が立ち並び、円を描くように道が作られている。


「一直線に道を作ればいいのに」

「狙撃対策じゃないかなあ」


 矢淵のつぶやきに、木鳩がそう返す。


「狙撃なんて……」と矢淵は笑った。


 やがてたどり着いたのは、純和風の平屋だった。裏口と思われる引き戸から中に入ると、台所の土間に出た。複数人で料理ができそうな広さで、ここだけで矢淵のアパートの一室より遥かに広い。竈がいくつも並べられ、薪を入れる穴が空いている。長年使われていないようだが、そのまま残してあるところに歴史を感じる。


 そこで靴を脱ぎ、磨かれた木の床にあがる。ひんやりとした涼しさが足先から伝わる。矢淵はなんとなく靴を揃えたが、木鳩はばらばらに脱ぎ散らかしていた。女中は先導するように、長く続く廊下を歩いていく。


 部屋は廊下の片側に集中している。日当たりの問題だろう。障子戸一つとっても必ず手作りであることを示すように細工が入れられており、ガラス戸には現代でも十分通用しそうな飾りガラスがはめられている。絵柄は狐が多く、矢淵は鋭さのあるその顔に時おり見入った。


 女中が襖を開け、立派な一室に4人を通した。柔らかでふわりとした座布団が4つ並べられ、それぞれに座る。


 広い畳敷きの部屋で、奥の壁には掛け軸がかかっている。読めないほどの達筆だ。その上には歴代の当主と思われる人々のモノクロ写真とカラー写真が左から古い順に飾られ、時代の進歩を感じさせた。どの人も警察の制服を着込んでいる。ここが警察のお偉いさんの家ならば、たしかに狙撃対策というのはありえる話だ。


 さして間を置かずに、嫌味のない上品な和服を着こなした老婆が入ってきた。銀縁の丸いメガネをかけており、髪は白髪だらけだが気品がある。加賀崎が洋の気品だとすれば、この老婆は日本刀のような鋭い和の気品を放っている。


 正座するには膝が辛いのだろう。背の低い箱のような椅子に腰掛けつつ、老婆は正座して矢淵達に相対した。戸を通る空気の音すら聞き取れそうな静寂さが、ぴんとした緊張感を伴って矢淵を包み込む。同じように緊張していそうな木鳩の顔を見ようと思うのだが、首を動かすのもためらう。


「お久しぶり、沙都利さん。昨年お会いした時以来ですね。あれからお変わりありませんか」


 皺だらけの顔を老婆はほころばせる。その笑顔には不思議な安心感があり、矢淵は心底ほっとした。加賀崎が言うほど怖い人間にはとても思えない。


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