あとがき
「まず光があった」
のように言うのなら、『罪状は【零】』というタイトルが一番先にありました。
物語を完成させた後にタイトルをつけるのではなく、タイトルが先にあってから中身を埋めた感じです。
そのせいというか、そのおかげというか、つじつまをなんとか合わせようとすると色々な方向に話を広げる必要があって、とんでもなく長くなってしまいました。
絵を描いているとき、七つの大罪というものモチーフにするのにWIKIか何かを見ていて、『虚飾』と『憂鬱』が過去にあったことを知りました。
絵のバランス的に「どうしても9つじゃ足りない! バランスが悪い!」となって「10なら絵のバランスが取れる」となったときに、人間の罪というのはもう一つ足すとしたらなんだろうと考えました。
そのときに、作中のご主人様のモデルになった人に対して聞いてみた。
「人間の罪をもうひとつ足すとしたら、なんだと思いますか?」
「無」
と、たった一言だけ返事がありました。
「なるほど。わからん」
そう思いながらも、多くは語らない彼の返事を元にして、私は自分なりにその答えに対して思いを巡らせ“無”を最後の罪として絵を完成させました。
ご主人様のモデルになった人は気が強い上に女好きで、尚且つ身体が弱いとまさにご主人様そのもの。
「身体の弱いご主人様に遣える最強の魔女が世界を滅ぼす話にしよう」
と、初めは思ってました。
病でご主人様を失った最強の魔女は、その悲しみに世界を滅ぼすことにした。という話の大筋ができました(なんだかどっかで聞いたような話ですね)。
が、全部読んでくれたなら解ると思いますけど、最強の魔女ノエルは世界を滅ぼしませんでした。
多分、ご主人様に出逢わずにずっと魔女の支配を受け続けていたら、ノエルはゲルダからなんとか翼を奪い返して世界を滅ぼしたのかもしれません。
よくある少年漫画の展開として、弱い者が強くなって行って強敵を打ち滅ぼす……という構図があると思いますが、私はその展開は好きではありません。
“弱ければ死ぬ”というのが世の常です。
“強くても負けることはある”というのは、私には許容できる内容なのでそれを採用。
それも、泥臭い試合をいつまでも続けた挙句に最後は主人公が怒りで覚醒して勝つ……みたいな展開は「なんでだよ!?」と思ってしまいます。
魔術の才能はずば抜けていても、精神的に不安定・未熟なノエルが成長していく話といいますか、そういう方向にしました。
自分で書いていて滑稽に聞こえるかもしれませんが、
セージが死の見えざる手でノエルと再会し、別れを告げるところ、ガーネットが死んでしまって返事をしないところは書いていて悲しすぎてきつかったです。
セージについては前半、名前すら考えていなかったのと、それほどの大義を背負わせる存在ではなかったので突然出てきました。自分の中で。
「翼人に拾われて育てられた」という話をさらっとして、ノエルの過去については一切触れないまま行こうとしていましたが、何を思ったのか突然セージが出てきます。
「なんか出てきたぞ!」と、自分でも思いました。
書いていて気を遣ったのは、物語の背景を考えて日本語英語は極力使わないようにしたということと、できるだけリアルを意識したということです。
外国語圏の海外というものはこの世界にありません。全部過去の争いで沈みました。
それでも、どうしても日本語にすると何が何だか分からなくなってしまう部分だけは、日本語英語を使わざるを得なかったので、それは悔しいなぁ……日本語力が足りないのが悔やまれますね。
それから、例えばですけどアニメとか見ていて硬いものを剣で一刀両断したりとか、身体に酷い傷を受けているのに割と動けたり「それはないでしょ」って思う描写はしませんでした。
互いに打ち合って両側に背を向けて立って、片方が「うっ……」ってなるのは定番のシーンですが、いやいやいや、時間差でそんなことあり得ないでしょうって思う訳です。物理的に考えて。
“魔法”というと、物理法則を無視しているような気がするので“魔術”としました。
魔法は何でも物理法則を無視して、無から有を生み出すのが当然のような、なんというか、本当になんでもかんでも有りになって私が物語の制御ができないので
有るものを使って化学反応のように色々な変化をもたらす、錬金術のような、そんな感じにしました。
とはいえ、話の根底から覆ることを言うのはどうかと思いますが、魔術も十分ファンタジーです。
「え? なんで魔道孔っていうのがあると魔術っていうのを使えるの?」
と聞かれると、それはさっぱりわからない訳です。
宇宙がなんで誕生したのか。それはさっぱりわからないわけです。
それと同じです。
それを言い出すと話が始まらないので、そこは目を瞑って下さい。私も目を瞑りました。はい。
あと、濡れ場的描写ですが、あまり書く気が進まないなりに
生き物は食欲、睡眠欲、性欲というものからは逃れられないものだと思っています。
性欲もなしにプラトニックラブ的な物を貫き通す恋愛というのは、それこそ珍しいものだと思います。
少年漫画のそういう描写が全くないストーリーというのは、強制的に割愛しているだけで本当は見せられない裏でどうにか登場人物たちは処理してるんでしょうね。
某有名少年漫画でも、ナイスなバディの女性を見て鼻を伸ばす男性の図が描写されても、泥臭い男女の描写はないじゃないですか。
そういうのが全くないのも、変な話だと思うんですよ。人間の戦争の歴史の背景には大罪と言わしめた欲求があるわけです。
魔女を迫害する人間も、逆転して人間を奴隷にする魔女も、やっぱりドロドロした怨恨とかが延々とある訳じゃないですか。あまり政治的な問題に対してどうのこうの言いませんけど、慰安婦問題とか。
過激にならない程度に、濡れ場描写は書きました。
恋のABC的に言うと、Cまで行ってもおかしくないのになと思う部分も話の都合上、抑えておきました。はい。そこはファンタジーなので。
ギャグシーンはあえて書きませんでした。
シリアスの中にギャグがあると萎えてしまう派なので、こんなにみんな暗い面持ちで泣くのに笑わないというもの変ですよね。もっと冗談とか言ってもいいのに。
ただ、リゾンのきつめの冗談はノエルにとってはかなりツボだったようです。
暗い顔ばっかりしてないで、時には笑うことも大切です。つらいときは笑えないですけどね。
とはいえ、人間と魔族は魔女の恐怖におびえながら、魔女はノエルの復讐に怯えながら暮らしているのでとてもじゃないですが笑える状況ではありません。
最後の最後、人々は談笑して教会を後にしますよね? それは漸く笑えるような世界になったからです。
まぁ、説明するだけ野暮でしょうけど、そういうことです。
魔族と言葉が違うというのも、まぁ現実的に考えてそうだよねということで言語を別にしました。
高位魔族は賢いので魔女のいる世界の言葉はすぐに理解しましたということにしました。ほら、赤ん坊が教えられるでもなく喋れるようになるような。あんな感じです。
というか、言葉が一切通じないようだったら話が進みませんから。
色々な漫画でも、別の国に行ってるのに全員日本語で話しているっていうのは変な感じしませんか?
私は現地の人とどう話しているのかなって疑問に思います。
レインがノエルをお嫁さんにすると言ったところも、レインは正しくどういう意味なのか解っていません。
それに伴侶と伴侶というのは魔族とはとらえ方が違う訳ですね。
ノエルとご主人様がすれ違っていたように、ノエルとガーネットがすれ違っていたように、言葉の一つ、態度の一つで誤解が生まれるわけです。
なかなか、対人関係って言うのは難しいですね。
リゾンは更生させない方向で当初は進んでました。
「魔族に愛情なんてない」という方向にしたい一方で、「本当はあったんだ」という流れは月並みな気がします。
現実の犯罪者の更生しない人のように、人格障害というのは簡単には治らないわけです。
一度形成された人格というのは、よほどのことがあっても変わったりしないのが普通だと思うんですよ。
愛情を与えたら変わるのかと言われたら、それは甚だ疑問です。
愛情を与えようとする者は、愛情を与えている自分が好きなわけです。その愛情のようなものを受け取る側も、受ける器が無ければ零れてしまうのは当然です。
そこには最初から成り立たない一方的なものがあると思うんですよね。
「俺の人生を変えてくれた」なんて、本当によほどのことがない限りないと思うんですよ。死にかけたりとか。
そこのところでリゾンはノエルに負けて死にかけてる、あるいは詳細には書きませんでしたが自殺願望があるリゾンはノエルに変化を与えられるのに十分能うかなと。
最初、ガーネットがやけに聞き分けが良かったのは、偏に彼が上位魔族で状況把握能力が高かったということがあります。
すんなり契約を受け入れたように見えますが、かなり葛藤が彼の中にありました。
それでも彼は魔女を皆殺しにできる機会を与えられ、強い魔力のあるノエルを利用しようとしている訳ですね。
したたかですね。
しかし、好意というものを感じた事のないガーネットは好意というものに振り回されてしたたかさというものが鈍化していきます。
恋というものは恐ろしいですね。
今までの自分を総べて失くしてしまうくらい、何を犠牲にしてもいいと本気で思わせてしまうのですから。脳の中では脳内麻薬的なものが出まくってるんでしょうね。怖い怖い。
ゲルダの過去こそ、書いている途中で思いついたものを採用しました。
なんだか、悪役なりに色々あったのを考えると、私は完全に憎むことは出来ませんでした。だからか、ノエルの怨恨の度合いというのもそれほど強くは描写していません。
ノエルもゲルダのこと、本当は可哀想だと思ってるところもあるんですね。自分の翼が原因で激痛に苛まれているゲルダに対して、全面的には憎しみを出さないわけです。
ノエルは憎しみを抱かないようにしている部分でもあります。憎しみに囚われるよりも、ノエルは恐怖を先に感じるようになっているんですね。
目の前の幸せを失うことが、ノエルにとって何よりも怖いと感じている。だから、ゲルダに復讐しにいかない。
まぁ、それに相まってノエルは魔女に徹底的に痛めつけられている期間があるので、酷い嫌悪感があって近寄りたくないわけです。差別を受けているノエル自身も、魔女というものに酷い嫌悪感があるのは皮肉ですね。
『THE LAST OF US 2』というゲームは相当に低評価を受けているようですが、私にとっては「あぁ……色々葛藤とか心の移り変わりがあったのか」くらいにしか考えていませんでした。
あのとてつもなく後味の悪い感じは私は好きですけどね。
人間の気持ちは移りやすいものですから「そこでなんでそうなるの!?」みたいなこともよくある訳です。
いきなり性欲が爆発して誰でもいいから襲っちゃおうなんていう輩は現実にいくらでもいるわけですから。なんでそんなことするのかなぁ……と、現実にいる人の行動の不思議さに頭をかしげることもありますけど、現実は小説よりも奇なりっていうとおり、現実の方がわけが解らないんですね。
なんとなく一般人にも解るような部分だけ抜粋されて、説明もあって物語になっているだけで、わけが解らないのが普通なんです。
それでいいじゃないですか。
みんな違うんだから。
自分とは違うものを受け入れるっていうのが、この話の重大なテーマにもなってます。
身体障害者も、精神疾患者も、好きでそうなってるわけじゃないですから。大半は。
さて、長くなりましたが読んでくれた方、ありがとうございました。
これからもゼロのいた世界も、異界も、そして新しい世界も、争いのない事を祈っていてください。
それでは。




