表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/54

48:戦を好むのは商人くらいなものでしょう

「――意外だよねぇー、騎士団って思ってたより耐性ないんだね」


 前線を守っていた騎士達を合流後、

 待機場所とした与えられたのは、ひとつのテントであった。


 広々と張られたテントの中、

 地面には敷物までしっかりと敷かれており、ふかふかの寝台まで用意されていた。

 女神様のための寝所として粗相がないように用意されたものだろう。


 野営地ゆえの不便と非礼を詫びられたものの、

 アルストからすれば、もっとちゃんと用意するとこあるだろ、といったところである。


「意外というほどではありませんが」


 女神の寝台はテントの天井部分に張り巡らされた細い支柱から

 天幕が下ろされていて、テントに入ってすぐには見えないように工夫されていた。


 その天幕の外側で椅子に腰掛けているアルストは、

 揺らぐランプの光を見つめながら、退屈そうに頬杖をついている。


「えー? 意外だよー、騎士だよ? 騎士」

「騎士ですので、意外ではないのです」

「どーゆーこと?」


 寝台に寝転がっているイルディアは、目をぱちくりと瞬かせた。


「彼らに魔法や魅了に対する耐性などあろうはずがありません」

「そーゆー訓練はしない、ってこと?」

「シンプルに言いますと、そういうことになります」


 更に言えば、何かが起きても女神に頼ることが前提だ。

 この場所の状況を知れば知るほど、アルストは騎士団の準備不足を責めたくなっていた。


 サフィストは今頃、外でここを守っているのだろう。

 あるいは、他の誰かと交代しているのかもしれないが、わざわざ様子を見に行く気にはなれない。


「ところでイルディア様。どのように対処するおつもりですか」

「対処って?」

「魔王軍のことです」


 アルストは、ゆっくりと天幕を振り返った。

 立ち上がったアルストの姿は、天幕越しにイルディア側へと映し出されている。

 ランプの火が揺らぐのに合わせて、その影もまた揺らいでいる。


「魔王軍は知らないよ。けど、魔王は僕が仕留めるよ」

「知らないというわけにはいかないのですが」


 確かにイルディアからすれば、魔王軍自体に興味はないだろう。

 しかし、戦を終わらせるためにわざわざ同行しているのだ。

 魔王さえ潰してしまえば確かに勝利ではあるが、被害は最小限に抑えたい。


 保身の鬼であるアルストも、さすがに鬼畜にはなれない。

 戦のために騎士団を壊滅させても良いとまでは、思えなかった。


 イデア騎士団は王都が抱える騎士団の中でも最高峰の実力者が揃っている。

 女神イルディアの名前が由来となった単語を名前として背負う騎士団には、信仰心の厚い者が多い。

 つまり、イルディアが魅了をかけやすい上、戦力を考えても使えるレベルが揃っているということだ。


(……愛の力は循環する。女神の愛で強化された者達が戦い、傷つけば女神が愛をもって癒す――か)


 それは女神に関する文献にも書かれていた内容だ。

 女神に捧げられる愛が強く多ければ、女神の力もそれらに比例して強くなる。

 女神が受け取った愛の力は戦う者達を癒し、そして守る力ともなる。

 戦う者達が女神を愛して守れば、女神もまた彼らを愛し、守り、傷を癒して強さを与える。


 イルディアが騎士に力を与えることで、彼らは圧倒的な強さを手に入れるはずだ。

 しかし、魔王軍と対峙して全くの無傷で帰還できると思えるほど、アルストは楽観的ではなかった。


「……アルストってさぁ」


 思考に没頭していたアルストの意識を、

 イルディアのゆったりとした声が引き戻した。


「割といい人タイプだよね」

「どういった意味ですか」

「そのままの意味だよ」


 脚を大きく持ち上げて、仰向けに寝転がっていた姿勢から起き上がったイルディアは、

 天幕の向こうで不可解だと言いたげに眉を寄せているであろうアルストに視線を向けて笑った。


「戦で誰も傷付かなければいいと思ってるでしょ?」

「いいえ。思っておりません。ただ――」


 戦に犠牲はつきものだ。

 女神がついているとはいえ、全く犠牲を払わずに済むとは思えなかった。

 騎士団に幼馴染がいるとしても、アルスト自身にできることは少ない。


 いつどこで、どのように、どうなるのか。

 わかったものではない。


「――好ましくないだけです」


 そう言い放つと、アルストはさっさとテントの外へと出て行った。

 背中にイルディアの声は届いたものの、振り返る気にもなりはしない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ