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46:どっちがサディストだか

「ほわぁあ……かっこいい……」

「女神様は、ああいうのが好みなの?」


 相手の魅了術が魔力によるものだとわかれば、

 いくらかけられたところで、何度でも解除ができる――。


 アルストは高位神官。しかもエリートだ。

 補助から回復に至るまで、そちら方面の魔法は得意以外のなにものでもない。

 むしろ必須科目ですらあった。


 騎士達の結束力――もとい数の暴力によってシエンを総攻撃した挙句、

 がっつりと縛り上げたアルストを眺めて、イルディアはうっとりしている。


 どっちがサディストだよ、と、サフィストは少し呆れていた。


「戦う男ってかっこいいじゃない。君も見習ってよ」

「俺って一応騎士なんですよー……」

「訂正する! 強い男ってかっこいい!」

「まあ、はー、はい、そっすね……」


 サフィストは鞘に戻した剣を腰に下げたまま、

 ふよふよと浮かんだまま空中に座る女神の隣で、ただ神官の暴走――もとい活躍を眺めていた。


 魔族をあっさり捕まえたアルストは、

 彼がつけていた仮面を手にして、しげしげと観察している。


「か、かえせ!」

「返しません。そもそもあなた、自分で外したじゃないですか」

「そ、そうだが、いいだろうっ! 返してくれッ」

「何か特殊な効力などはありますか?」

「貴様ごときに答えるわけないだろうが!」

「答えてくださらないのなら、返せませんね」

「ある! 効力があるんだ! 返せよ!」

「ありますか。でしたら、返せませんよね」

「このペテン師め! 恥を知れ!」

「おや、私がいつお返しするとお約束しました? むしろ返しませんと言いました」


 シエンもなかなかの阿呆ではあるが、

 アルストの方はそこそこの性格の悪さだった。


 魔王の踏み台として名乗る男と女神召喚に成功した男である。

 格が違う。というべきか。


 そもそも、成功したといって良かったのだったか。

 ちらりと隣の女神――イルディアを見遣ったサフィストは、

 その横顔の愛らしさに、すぐさまどうでもよくなった。


 可愛いは正義である。


「女神様は、魔王ってやつを知ってる感じですか?」

「そういう話し方は好きじゃないって言ったじゃん」

「あ、はい……」


 これでもだいぶ砕いているのにな、と。

 サフィストは困ったように笑って頭を掻いた。


「知ってるけど、知ってるかどうかはわかんないなー」

「そんな適当な」

「テキトーじゃないもん。跡継ぎだったら、魔王だとしても知らないかもじゃない?」


 イルディアの主張は確かにもっともではあるが、

 サフィストが抱いた"テキトー女神"の印象はなかなか拭えないところだ。


 そうこうしている間に、シエンを騎士達に引き渡したアルストが、二人のもとへと戻ってきた。


「だ、大丈夫なのか? アイツを任せて」

「大丈夫です。魅了とはいえ、所詮は魔法ですので」


 サフィストが仲間達を気にして視線を向けると、

 騎士達は大丈夫だと言わんばかりにそれぞれ手を持ち上げた。

 答えるアルストは、しれっとしたものだ。


「どういうことー?」


 二人の間に割って入ったイルディアは、

 そろそろ構ってほしくて仕方がなくなっていた。


「あの縄は特殊な縄ですからね。騎士達には抗魔の剣もあるようですから、大丈夫でしょう」

「でも、あの騎士たちって負けちゃってたんだよ?」

「不意打ちでしたから仕方がないでしょう。誰も目で魔法をかけてくるとは思いませんとも」


 実際はそこまで警戒するべきところだろうが。

 魔法に疎い騎士であれば、やむをえないといったところか。

 抗魔の剣も、使い手があれでは宝の持ち腐れだとすら思ったが、

 さすがのアルストも、わざわざそこまでは言わなかった。


 物理的には敵わない者達を相手にするつもりなど、全くないからだ。

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