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45:まさかこんなところで不正を暴くことになるとは

「……サフィスト」

「やめてアルスト、何も言わないでくれ。

 もうどうか死んだと思ってくれ……後生だから」

「そんなに」


 アルストは、サフィストの傍らに屈み込んだ。

 しかし、触れることはできずに守るばかり。


 魅了されたことがないせいで、アルストとしては効果のほどはいまいちだが、

 どうやら魅了を食らってしまった場合は、いろんな意味で無力化されてしまうらしい。


 自分を守ろうとしていたはずの友の、あまりにも無残な姿を前に──



 ──アルストはちょっと笑っていた。



「いや、ふふ……なかなか、ああ、面白い」

「……お前ってそういうやつだよ……」


 顔を覆っていた手の隙間からアルストを見上げたサフィストは、

 友の無情さにこそ手を合わせたい気持ちになった。


 しかし、由々しき事態ではある。

 何せ、これで、同行してきた騎士は全滅という状態だ。


「アルスト……」


 足元に転がっているサフィストが呻くように声を上げた。


「俺のことはいいから、お前だけでも逃げろ」

「もっと格好付けられる場面で言ってほしいところですけどね」


 アルストはにべもない。

 どうしてだか腹部を押さえて転がっているサフィストは、

 もう既に、その態度にツッコミを入れるだけの体力もない様子だ。


(しかし、妙だな……)


 イルディアによれば、サフィストは魅了を無効化できていたはずだ。

 それも、無意識のうちに。

 だというのに、シエンの魅了は多少とはいえ効果が出ている。


 他の騎士達のように意識の喪失や混乱には至っていないが、

 地面に転がったままの姿からして、動けなくはなっているらしい。


 アルストは、未だにぎゃいぎゃいと、

 不毛すぎる言い合いを続けているイルディアとシエンを見た。


 魅了や魅惑の類の術は、魔力よりも愛が原動力である――はず、だが。

 愛の女神であるイルディアよりも、魔族の方が勝っているとは思えない。


 だとすれば。

 サフィストが魅了にかかった理由は、()()()()()()()()()()()()――とアルストには思えた。


「――なるほど」


 不意に声を放ったアルストへと、全員の視線が向いた。

 振り返ったイルディアは、対峙しているシエンのことなど歯牙にもかけていない。

 その態度からして、相手がそれほど強い愛の力を携えているわけではないことがわかった。


 それが判明すれば、アルストとしては十分だ。


 高々と片腕を掲げたアルストは、

 ゆっくりと息を吸い、そして、「リベレーション!」と声を上げながらパチンと指を弾いた。


 その瞬間、呻いて転がっていた騎士達がふと顔を持ち上げ、

 意識を失っていた者もまた、次々と鮮明な視界を取り戻し始めた。


 ざわめく彼らは状況を理解していないようだが、

 そこまでは、アルストが世話を焼いてやる義理もない。


 騎士達の様子に周囲を見回していたシエンは、

 何をされたのかを理解すると同時にアルストを睨みつけた。


「貴様……ッ」


 その鋭い視線にハッとしたイルディアが、

 アルストを庇うように、その細い身体で盾になる。


 が。

 華奢すぎて大して意味はない。


「おやおや、これはいけませんね。

 あたかも魅了を使ったような顔をしておきながら、これではまるでドーピングではありませんか」


 口許に手を当てたアルストは、

 こみ上げて来る笑いをこらえずに、口の端を薄く釣り上げた。

 どちらが悪者か、分かったものではない表情になっている。


「しかし、これではっきりしました。

 我が女神が負けることなど有り得ない――ということが」

「き、きっ、貴様ッ、言わせておけば!」

「おやぁ? 先ほどまでの余裕はどうなさいました?」


 明らかにうろたえているシエンを前にして、

 アルストの調子は普段よりも好調――いや、誰にも翻弄されていない分だけ絶好調だ。


 アルストは、人の弱みを握ってから交渉にあたるタイプだった。


「ア、アルスト……どういうことだ?」


 起き上がって剣を握り直していたサフィストが、

 アルストの隣に並んで、女神越しに敵を睨みつけた。

 周囲で次々と立ち上がる騎士達もまた、敵であるシエンを取り囲んでいる。


「どうもこうも……彼の魅了は単なる魔法でしたので、解除させていただきました」


 しれっと言い放つアルストに、イルディアが「あー!」と声を上げた。


「それでサディストにも効いちゃったの!?」

「そういうことでしょう」

「待って、俺はサフィストね」

「サディストまで倒れちゃったから、変だなって思ってたよ!」

「あの、サフィストです……」


 そして、変だと思ったら、少しくらい気にかけて欲しい。

 剣を構えたまま、サフィストはどんどん悲しくなって来た。


「とにかく――

 魔法が主戦力だというのであれば、我々の優勢は確実でしょう」


 サフィストのことなど構わずに、

 降ろした腕を腰に当てたアルストは薄らと微笑んだ。


「さて、では――女神様にあだなす者には、それ相応の制裁を受けていただきましょうか」

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