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44:こんなのがあと三人、いや四人いるんですか?嫌すぎるんですけど

「――いえ、お気になさらず」


 アルストは即座に話題の中心から逃れようとした。


「アルストはちょっと変わっているだけだよ!」

「そ、そうだそうだ! 女神様の魅力がわかっていないわけじゃないぞ!」


 イルディアに続いてサフィストまで声を上げた。

 しかし、シエンは鼻でせせら笑った。そりゃそうだ、と、アルストですら思う。


「付き人の神官ひとり魅了できずに、我が魔王陛下と張り合おうなどとは笑止!」


 踏み台にされている分際で、何を偉そうにしているのか。

 アルストはツッコミを入れる気にもなれずに、少しばかり遠くへと視線を向けた。


「くうぅぅぅ、むっかつくんだけど! 笑止千万っていうか、失礼千万なんだけど!?」


 イルディアに同意しないでもなかったが、

 アルストは自分に矛先が向かないよう、ひたすら沈黙に徹した。


 保身第一である。



「ふん。魔王陛下のお手を煩わせるほどでもない。我が力で魔王軍に引き入れてやろう」

「いいえ、結構です」


「アルストは僕が落とすんだから! 余計なことはしないでくれる?」

「そちらも結構です」


 相手方の目的がずれていることもそうだが、

 アルストは、ムキになって騒いでいるイルディアにも呆れていた。


 挙句にその矛先がまた自分に向くというのだから、踏んだり蹴ったりどころか、

 すべったり転んだり、落ちたり落とされたりといった気分である。


 この世はたんなる物理的な戦力よりも魔法の力が勝る。

 しかし、魔法の力よりもずっと、愛の力の方が強い。


 それはあらゆる愛の力が、全ての武力よりも勝ることを意味している。


「――ふん。魔王軍四天王の瞳に逆らえる者などおらん。たとえそれが、神官であろうともな!」


 勝手にハッスルしている魔族もといシエンと名乗った青年が、おもむろに仮面を外した。


 なるほど、確かに仮面の下に隠れていたのは端正な顔立ちだ。

 美しく通った鼻筋。涼しげな目元。

 氷を連想させる双眸は、透き通った美しい色合いをしている。


 これで騎士達もやられたということか。

 絵画の中にいたとしても違和感がないほどに美しい。まるで彫刻のようですらある。


 その瞳を見つめ続けていれば魅入られそうだ。

 だが。


「はあ、もうよろしいでしょうか」


 アルストには全く響かなかった。


「馬鹿な!? これほど至近距離で何ともないのか!?」


 愕然としている男は、確かに美しい。

 あの瞳、あの顔に、魅了されたのだと言われたならば、納得するであろうほどに。


 だが、それとこれとは話が違う。少なくとも、アルストにとっては。


「あーははははっ、ばーか! ばーか!!

 どんなに顔だけ良くってもね、アルストは男なんか対象外なんだよーだ!」

「巨大ブーメランってご存知ですか?」


 腹を抱えて大笑いをしていたイルディアが、

 悔しがっているシエンを更に馬鹿にして笑うと、思わずアルストは真顔で言葉を叩きつけてしまった。


 しかし、聞かれてもいない。


「く、くそっ! 我が魔王軍を甘く見るなッ!

 このシエンを倒したとて、他にも三人……魔王陛下に手出しをさせないぞ、鉄仮面神官め!」

「面倒なので一気に来ていただいてよろしいでしょうか」

「き、貴様ぁああ……言わせておけば、舐めたことを!」


 悔しそうに地面を蹴っているシエンから視線を外したアルストは、

 ふと、視界にサフィストの姿がないことに気が付いた。


 視線を降ろせば、剣を手放している様子が見えた。


「……うわ」


 どうやら魅了にかかってしまったらしい。

 両手が顔を覆って転がっているサフィストは、ひどく悔しそうだった。

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