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43:馬鹿に何を掛け合わせても馬鹿でしょうね

(トワイライト……?)


 アルストは眉を顰めた。


 声の主が少しずつ近付いていることは、足音でわかった。

 ゆっくりと地面を踏みしめて、少しずつ距離を詰めてきている。


「そこにいるのはわかっているぞ、トワイライト。

 此度こそ、先の戦いで散った同胞たちの無念を晴らさせてもらおう!」


 声の主が足を止めたと同時、馬車内にまばゆい光が溢れた。

 アルストとサフィストが、何事かと事態を把握するような暇もない。


 あまりの眩しさに二人が目を閉じて身構えた数秒後、

 乗っていたはずの馬車が消え、荒野へと放り出された。


 咄嗟に受身を取ったサフィストの傍で尻餅をついたアルストは、

 尾てい骨を強かに打ちつけた痛みに眉を寄せながら目を開き、そして顔を持ち上げた。


「――あーあっ、良かったよ。退屈したんだぁー。

 そっちからお迎えに来てくれるなら、僕たちの方も手間が省けてラッキーだよ」


 ひらり、と。

 舞い降りてきたのは、光を纏ったイルディアだ。


 アルスト達を背に庇うようにしながら、声の主と対峙している。


「イルディア様――」

「アルスト……!」


 アルストが動くよりも先に、剣を握り締めたサフィストがその前へと立ちふさがる。


 イルディア、そしてサフィストにまで庇われた状態になったアルストは、

 何が起きているのか理解できないまま、じんじんと痛む部分をさすりながら立ち上がった。


 きめ細かな白い肌が描く輪郭。

 無垢な純白に染まったなめらかな布地から覗くほっそりとした手足。

 長い睫毛に縁取られた大きな金の双眸。

 華奢な身体が纏う長い金の髪。


 神官と騎士を庇ってその前に舞い降りてきたイルディアを前に、声の主は軽く胸を押さえた。

 まるで心臓が痛むかのように、布地を握り締めて長い指が食い込んでいる。

 鼻先から目元までは仮面で覆われている。そのせいで、表情はうかがえない。

 だが、苛立ちとも憎悪とも言い知れない感情に、牙を剥き出しにしていた。




「貴様ッ、なんと卑劣な! なんたる可愛さッ!!!」




(はい?)


 アルストは耳を疑った。



「ええい、忌々しいッ! 愛らしさを武器に今まで幾人の男を食いものにした!

 いったい今までどれほどの者達を屈服させて来たのだ、卑怯だぞ! トワイライト!」


 アルストはもう一度、耳を疑った。

 しかしすぐに、疑うべきは自分の聴覚ではなく、眼前の敵だと気が付いた。


 ふっとイルディアが鼻で笑う。


 緊張感も緊迫感もへったくれもなくなったアルストは、思わず前に進み出たが、

 未だに剣を構えて敵を警戒しているサフィストによって、動きを阻まれてしまった。


 すう。

 イルディアがゆっくりと深く、息を吸った。


「――僕をそんなダサい名前で呼ばないでくれる!?

 言っとくけど、僕の可愛さは男女問わないんだから! 男にしか通用しないみたいな言い方しないで!」


(そうじゃないだろ)


 詠唱でもするのかと構えたというのに、

 イルディアの愛らしいピンクの唇から飛び出したのは、クソがつくほど馬鹿馬鹿しい反論だった。


 思わず心の底からどうでもいい気持ちがにじみ出たアルストは、

 この状況下で真面目に警戒を続けているサフィストがどんどん哀れになってきた。


 というかお前はこの馬鹿なやり取りが聞こえていないのかよ、と思わないでもない。


 よくよく見れば、周囲に倒れている騎士たちは、

 それぞれ何らかブツクサと言いながら、悶えているだけのようだ。


(魅了を使った、のか?)


 アルストは周囲を気にしながら眉を寄せた。

 一流の騎士達が剣を握ったまま倒れている状況が、どうにも気持ちが悪い。

 完全に戦意を喪失しているらしいことも不気味な話だった。


「く、怒った顔も可愛い……だが、屈しないぞトワイライト! 我が名はシエン!

 魔王陛下の側近にして、そのおみ足の台たる役割をこなす回数が最も多い男である!」


(どういう自己紹介だ)


「はあ? なにそれ、きもちわる!」


(今ばかりは同意だ)


 声の主――シエンと、

 トワイライト――もといイルディアとのやり取りに、

 アルストはだんだん胃が痛くなってくる心地に襲われていた。


「貴様ッ! 魔王陛下を侮辱するか!」


 シエンと名乗った男は怒りに顔を赤くして怒鳴った。

 全く情緒の安定しない男である。


「気持ち悪いって言ったのはアンタだよ!!」

「貴様ッ、少し可愛いからとて、言わせておけば!」

「少しじゃないもん、僕がこの世で一番可愛いだよ!」

「何だと!? 魔王陛下が最も愛らしいに決まっているだろうが!」

「はー?? 配下がこの程度なら、魔王さまのルックスもだいたいお察しなんじゃないのー?」


(阿呆すぎる……)


 呆れ返ったアルストは、

 今すぐ聖都に帰り、自室で昼寝でもしてやりたい衝動に襲われた。


 ぎゃんぎゃんと言い合いを繰り広げている二人の声が少し遠くなる。

 いや、遠くなっているのはアルストの意識の方だった。


 しかし、ほどなくしてアルストは、強制的に話題の中心へと引っ張り込まれることとなる。


「神官ひとり魅了にかけられずして、何が頂点か!」


 シエンの言葉に、イルディア、そしてサフィストまでもがアルストを振り返った。


 アルストは正直、全力で勘弁してほしかった。


(ブクマ、評価、感想、すごく嬉しいです。ぜひぜひお願いします!)

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