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41:ジジイの話はとにかく長い

(――長い)


 天然の洞窟を生かして作り上げられた要塞。

 アルスト達が騎士達に連れられて入り込んだのは、岩を切り出して作られた建物の中だった。


 イデア騎士団の団長とやらが、つらつらと何か口上を述べているものの、

 アルストの耳には入っていても、頭の中にまでは届いていなかった。


 さらには、イルディアに至ってはすっかり飽きている。


 そして、そんな二人の様子にサフィストがひやひやと肝を冷やしている――そんな按配だった。


「アルスト・ヴァミング殿、そしてサフィスト・エルメット」

「はい」

「は、はい」


 長々とした話を聞かされた後であっても、

 アルストは姿勢を崩すこともなく前を向いている。


 その姿は、確かに間違いなく模範的な神官の姿だった。


 対して、二人の様子が気になって落ち着きがなくなっていたサフィストは、

 傍目からは妙に緊張しているようにも見えるほどだろう。不運な男である。


「此度は、無事に――」


(だからなげえよ)


 無事に女神を送り届けたことを幾度も幾度も、

 言葉を変えて丁寧に、苛立つほど丹念に感謝を重ねられて、アルストはうんざりしていた。


 どれほど言葉を飾り立てたとしても、結局は女神を戦に参加させるというだけの話だ。


 イルディア当人に至っては、退屈を極め過ぎて半分寝ている。


「これより先は我がイデア騎士団が女神様のお傍に――」

「――ダメだよ」


 不意に、声が落ちてきた。


 騎士団長は、甘い声に言葉を遮られたことに驚きを隠せないでいる。

 アルストの方は、むしろ既に慣れたものだった。

 背後で椅子に座っているはずのイルディアを振り返るまでもない。


 立派な髭を蓄えた騎士団長が、驚きを含んだ視線を向けるまでの間に

 イルディアは、さっと姿勢を整えた。


「補佐はアルスト・ヴァミングが務めなさい。

 さすれば余りなく天のご慈悲を運び、甘やかな安寧とゆりかごの如き平穏を約束しましょう」


 その言葉を、アルストが聴いたのは二度目だ。

 一度目は神官長と司祭の前で。今は、ここで。

 本来であれば、移送陣に放り込んで終わるはずだったというのに。


 全くもって。予想外だ。

 だが今ここで、イルディアがそうやって我侭を口にすることは想定内だった。


「し、しかし、女神様。女神様には天啓を受けた騎士をつけよと……」


 狼狽した様子の騎士団長が食い下がる。

 これも、アルストにとっては想定内だ。

 決まりきった文句を読み上げていただけに過ぎないのだ。

 台本にない言動は、形式ばかりを気にする者にとってパニックのもとでしかない。


「それは私の言葉よりも重要であると?」

「い、いえ、そ、そのようなことは……」


 今しがたまでは明瞭にハキハキと威厳を保って話していた騎士団長は、

 すっかり萎縮してしまっていて、これはこれで不運なことだとアルストは思った。


 当の女神の決定を覆すことなどできるはずもない。

 例えそれが、残された伝承と異なっていても、儀式の流れに反していたとしても、だ。


 だから、アルストにとって、この状況自体は想定できる範囲内だった。


(女神ぶっているな……)


 馬車内で言い聞かせたとおり、

 イルディアは女神として振る舞ってくれている。


 それならば、アルストはそれに乗って、我侭を受け入れるより他になかった。



 がんばって女神として扱われてくれているイルデイアのため――ではない。

 全ては自らの保身のため、無事に平穏な日々を取り戻すためである。


 アルストは基本的に自分の平穏が一番だった。

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