40:ほしいものは奪うのみ!
「水晶をよこせ!」
魔王がその可憐なドレスを翻して声を上げれば、
兵士達の列が一気に割れた。
進み出た一名が魔王の前に膝をつき、しずしずと水晶を捧げる。
そこに映し出されたのは、女神イルディア――もとい、トワイライトの姿だ。
更には、イルディアに付き添うアルストとサフィストの姿も映り込んでいた。
「なっ!?」
魔王が急に声を上げた。
そのことに水晶を掲げていた兵士が、ビクッと肩を跳ね上げる。
一拍のあと、シエンの膝上から下りた魔王は小さな両手で水晶を掴み取った。
そして、食い入るように水晶を覗き込む。
くりくりとした金の瞳が捉えたのは、心底つまらなさそうにしている神官――アルストの姿だった。
「これが、こやつがトワイライトの神官か!?」
「そ、そのはずでございます」
「なんと……」
ゴクリ。
緊張感に包まれた空気の中、兵士達が息を飲む。
誰もがじっと魔王が放つ次の言葉を待っていた、そのとき。
「――忌々しいトワイライトめ!
わらわも欲しいぞっ、この神官を狙え!」
トワイライト――ではなく。
その傍らにいる神官の男を示す言葉が響き渡り、ホール中に困惑と動揺が広がった。
静まり返った一同を前に、魔王は水晶を放り出した。
「何をしておる! 早う準備しろ!」
「し、しかし魔王様、お言葉ですが、なにゆえ、その、そのような神官如きを……」
「如きだと?」
可憐な唇をきゅっと噤んで、めいっぱいに睨みをきかせる魔王を前に、
水晶を拾いに行っていた兵士は、胸がぐっと締め付けられる心地に襲われた。
恐怖ではない。可愛さゆえに。
「阿呆め! 見てみよ! こやつ、魅了の耐性を持っておろう!
挙句に高い魔力を秘めながら、まるで感知されぬよう巧妙に隠し通しておるわっ!」
ダンッ!
床を蹴った魔王は、動悸に襲われている兵士から水晶を奪い取った。
「トワイライトに武器を渡すでない!
戦う術のすべてを奪い取れ! 我ら念願の勝利のために!」
魔王は片手を腰に当て、もう片方の手で水晶を掲げた。
「わらわが最も美しいと! 今こそ、人間どもに知らしめるのじゃっ!」
「魔王様!」「魔王陛下ッ、おかわいらしい!」「お美しい!」
「陛下ッ! なんと麗しいお姿!」「愛らしいです!」「可愛い!」
「無論、陛下が一番ですとも!」「魔王様っ、こちらを向いてください!」
「陛下ッ、こちらにも視線を!」「ああ、魔王様、魔王様!」
「魔王陛下っ、陛下ッ! 一生ついていきます!」
────玉座の間に響き渡る兵士達の大喝采。
水晶を高々と掲げた魔王は、ない胸を大きく張った。
「トワイライトになんぞ負けるものか!
あやつの腕になろう神官と、――ついでに騎士もわらわの前に連れてくるのじゃ!」




