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36:そんな話、ここで振ります?

 そもそも、移送陣が使用できなくなった詳細な情報がない。

 だが、大方敵勢の策略だろうとアルストには想像がついた。

 むしろ、そうではない可能性を考える方が難しい。


「移送陣が使えないらしくて――」

「――でしょうね」


 だから、サフィストの報告に対する態度は、まさしく塩対応そのものだった。


「お前な、ちょっとはさぁ……まぁ、もういいけど。

 どうする? 少し休憩とか、挟んだ方がいいかとか――」


「寄り道をしている余裕はないでしょう」


 サフィストの提案をさえぎって、アルストはぴしゃりと答えた。


「現場では、一刻も早い女神の到着を待っているはずでしょうから」

「それはそうだが……あまり急ぐ旅路だと、お前も堪えるだろ?」

「お気遣いなく。残り一日半程度の行程ですし、私達は運ばれているだけですから」


 相変わらずといった調子のアルストの態度に、

 サフィストはやや苦笑いを浮かべながら了承を返した。


 馬車の扉がゆっくりと閉じられる。

 すると、今度はイルディアが声を出した。


「戦地に急ぎたいなんて、アルストってマジメだよね」

「それが私の役目ですからね」


 座席に座り直しても数秒ほどで、馬車は再び動き出した。

 粗末な造りではないからか。伝わってくる振動は、それほど強くない。


「ねーねー」


 アルストにとってうるさいのは、馬車よりもイルディアだった。


「ねえったら!」

「何ですか。あちらに到着すれば忙しくなるでしょう。少しは休んではいかがですか」

「サフィストが休憩をって言ったら、いらないって返したクセにぃ」

「ええ。ですが、移動中はするべきこともありませんし、休む方が良いかと思いますが」


 座席の後方。

 寝台部分に寝転がっているイルディアは、ぷくっと頬を膨らませた。


「ちょっとくらい構ってくれてもいいじゃん」


 不貞腐れた。

 というべきか。

 とにかく機嫌を損ねたらしいイルディアを振り返り、

 アルストは、溜め息を堪えながらこめかみを軽く揉んだ。


 相手をしたいわけではなかったが。

 完全にヘソを曲げられても困る。


「……では、話くらいはお付き合いいたしましょう」

「話し相手になってくれるの?」

「ええ、そう言いました」


 途端、イルディアはぱぁっと表情を明るくした。


(チョロいな)


 アルストは多少面倒に思いながらも、座り直してイルディアと向き合った。

 向き合うといっても、イルディアはうつ伏せに寝転んでいる。

 両手で頬杖をつきながら、にこにこと笑みを浮かべてアルストを見ていた。


「んー、それじゃあねぇ」


 勝手にしゃべらせておけばいいだろう。


 そんな考えは、一瞬にして崩される。


「あっ、じゃあさ! アルストのコイバナしてよ」


 それは予想外すぎる、まさかの一言だった。

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