32:魅了を罰ゲーム扱いしないでよね!
女神の寝所は広い。
そして、大理石の床は固い。
気がつけば、その硬い床の上に転がっていたサフィストは困惑を極めていた。
「サフィストに魅了が効かない訳ではない。
――この事実は、なかなかの収穫といえるでしょう」
愛とは漠然としたものだ。
聖職についているアルストですら、そう思うのだから、
騎士であるサフィストにいたっては、どう理解しているのか定かではない。
アルストは、学のないものに教えを与えるほど善人ではなかった。
つまり、サフィストに対して何の説明もする気がない。
「前から思ってたけど、アルストってかなりドライだよね」
「お褒めに預かり光栄に存じます」
「ちょっと待って、これ、どういう状況……」
サフィストは困惑していた。
何せ、自分の上には女神が乗っている。
ただ乗っているだけではない。
馬乗りになっている。
しかも、自分の下半身に。
傍らには友人であるアルストが立っているが、女神を守るでもなければ制止するでもない。
アルストの態度は、極めてニュートラルだった。
「愛の手駒になり得るかどうか、実験しました」
「俺の意思は!?」
しれっと言い放つアルストに、サフィストは反射的に声を上げた。
だってやわらかい。
何が。
そう、自分の上に乗っている女神の脚だ。
ほどよくぷにっとした太ももが。
すらりと伸びた長い脚が。
なだらかな曲線を描く腰に続いて。
くびれのない胴体も、いっそ可愛い。
胸もないが、華奢な体だとよくわかる。
サフィストは、この数分で自分の体に何が起きたのかよりも、
これから自分の体がどうなってしまうのか――そちらに気が気ではなかった。
「そんなもの、女神様の前では些細なものでしょう?」
床の上に転がっている友人よりも、
アルストは、自分の実験の方が大切だと言わんばかりだった。
「しかし、もういいでしょう。
通常運転の魅了では、せいぜい信仰者が引っかかる程度。
威力を上げた場合には、信仰心の低いならず者でも引っかかるということで」
相変わらずのしれっと振りを発揮するアルストに、
イルディアとサフィストが、二人で同時に言葉を放った。
「やだ、ねぇ、待ってよ。威力って言わないで、愛って言って」
「いや、ちょっと待てよ。今、ならず者って言ったよな?」
しかし、アルストは意に介さない。
「手駒にしているうちは、トランス状態に近いことが問題点でしょうか。
その点に関しては要改善といったところでしょう。私の管轄ではありませんが」
とはいえ。
通常の魅了で女神絶賛の嵐を巻き起こしていた神官達も、トランス状態に近かった。
記憶や認識の有無に差はありそうだが、魅了中の状態は極めて類似している。
女神の力は愛の力。
魔力よりも桁違いに強いとされる力。
その尖兵を担うのは騎士。
(考え直すべきか……?)
愛の手駒は、女神にとって手足であり盾と剣でもある。
アルストは、友人の体が高揚で危機的状況に陥っていることよりも、
これから先で任務に支障が出るか否かの算段を気にしていた。




