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30:寝かせろと言いましたが?

「寝かせろって言ってるでしょうがァアッ!!」


 サフィストの絶叫が響き渡った直後、

 荒々しい声と共にドアが勢いよく開かれた。


 飛び込んできたアルストは、ズカズカと部屋に踏み込んだ。

 そして寝台に近づくなり、イルディアをサフィストから引っぺがした。

 それはもう、ベリッと。お構いなしだ。


 ついでに気遣いも何もなく、サフィストの身体を床に放り出した。


「いい加減になさってください。あなたにはあなたの寝所があるでしょう!」

「えー、だってぇ」


 怒鳴りつけられたイルディアは、うるうると目に涙をためた。

 ぐっとダメージを受けたのは、サフィストだった。

 愛らしい乙女が目を潤ませている。

 この状況で平然としていられる男などいるだろうか。


「言い訳は聞きません」


 いた。

 アルストは無情であった。


「さっさと戻ってください。私が迎えに行きますので、文句はないでしょう?」


 さも、自分が構えば問題は起こらないだろうと言わんばかりの

 アルストの言い分と態度に、さすがのサフィストも眉をひそめた。


「ほんとう? やった! ちゃんと来てよー?」


 しかし、当のイルディアは喜んでいた。

 手まで組んで、嬉しそうに頬を緩めてアルストを見ている。


「ええ、はい。ご理解いただけたようでしたら、お戻りください」


 だが、アルストは素っ気ない。


 うきうきとした様子で寝台から降りるイルディアは、

 少なくともサフィストには、まるでデート前の少女に見えた。


「絶対ねっ」と言い放って宙に舞い上がったイルディアが光と共に消える。


 次の瞬間、アルストは深々とため息をついた。


「……ったく、何度も何度も……」


 挙句に漏らす言葉が愚痴っぽい。


「あ、あのさ、アルスト……」

「何だ」

「来るの速くない……?」


 悲鳴を上げてものの数秒程度で扉が開かれた。

 この部屋とサフィストの私室の距離を考えれば、物理的に不可能だった。


 困惑するサフィストを尻目に、アルストは素っ気なく「うるさいからだ」などと言う。


「いや、うるさいにしても……って、待てよ。聞こえてたのか?」

「聞こえるに決まってるだろ」

「いや、いやいや、聞こえないだろ。部屋、どれだけ離れてると思ってるんだよ」

「うるさいな」


 眠たげにしているアルストは不機嫌丸出しで、

 今から説明をしてくれそうにはないと、サフィストでも判断できた。


 よろよろと寝台に向かったアルストが寝転がった瞬間、

 サフィストの鼻を、甘い香りが掠めた。


「……な、なぁ、そこ、さっき――」


 女神様が、と。

 言いかけて、サフィストは諦めた。


 もう寝息が聞こえていた。

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