22:過剰なスキンシップはもはやただのセクハラです
最初に訪れたのは、景色の変化だった。
静まり返った一室が掻き消えて、視界が白に染まる。
アルストは黙ったまま、イルディアを強く抱き寄せた。
もしも放り出されてしまったら、それこそすぐには見つけられない。
それも、女神を迷子にさせたなどと報告できるはずもなかった。
そのような事態は、絶対に避けなければならない。
次に音。
周囲には細波のような、あるいは風が流れる音が響くようになった。
そして、足元に広がっていた床の感触がなくなった。
浮遊感が生じたのは一瞬で、周囲が黒に染まり、
そして、一気に明るくなったと同時に足裏が地面について──
「──ッ!」
轟々と音を立てて風が突き抜けた。
反射的に目を閉じたアルストは、イルディアを抱えたまま真後ろへと転んでしまった。
アルストが見上げた先には空。夜空。ついでに金髪。
「……うわ」
アルストは勢いよく起き上がり、すぐさまイルディアから手を離した。
イルディアの方は、きょとんと目を丸くしている状態だ。
何が起きたのかもわかっていない。
「え、今のいいよ! ハグって好きっ」
「私は得意ではありませんので、結構です」
「ハグってストレス減るらしいよっ」
「増えそうなので、嫌です」
「遠慮しなくていいから」
「遠慮ではな──」
──い、です。
と、言い切るまでに押し倒された。
もとい、アルストはイルディアに抱きつかれて寝転がってしまった。
背中にはチクチクとした草の感触。
夜風を感じながら溜め息をついて視線をめぐらせて、
「よう、アルスト。それって、俺はどう解釈すればいい?」
見知った顔を見つけたアルストは、寝転がったまま片手で顔を覆った。
その胸板の上で、イルディアが不思議そうにしている。
「アルスト、こいつ誰?」
「……」
「アルスト?」
「はなれてくれ……」
アルストはとうとう言葉遣いも放り出して溜め息をついた。