19:退屈退屈退屈退屈ッ!退屈でしんじゃう!!!
イルディアは退屈していた。
それはもう、これ以上にないほど退屈していた。
今宵は満月。出立を定められた日。
儀式の名を持つ宴を前に、イルディアの退屈は深まるばかりだ。
壇上に置かれた椅子は柔らかく、座り心地も良い。
だが、その程度がどうしたというのか。
イルディアは、とにかく退屈していた。
「──これってさぁ、いつ終わるの?」
一人。二人。三人。四人。そして、五人目。
お決まりの口上を述べる神官達の声など、もう既に全く届いていない。
傍らに立っているアルストに向けた問いは、ひそやかなものではなかった。
「七人で終わります。その後、杯の儀を経て祈りの時間となります」
一方のアルストはささやき程度の声量だ。
馬鹿げている、くだらない、などと思ってはいても儀式の妨げを良しとはしていない。
アルストは真面目な男ではあるのだ。
「これって食べてもいいの?」
イルディアは、自分の前に並べられた果物たちを見た。
台の上にはところ狭しと、イルディアには名前もわからない料理や飲み物が並ぶ。
「どうぞ。女神様への捧げ物ですので」
「アルストは食べないの?」
「本来、私はあちら側にいる身ですので」
何を言ってもアルストは素っ気ない。
イルディアは、つまんないの、と唇を尖らせて椅子に深く凭れ掛かった。
長椅子の隣に呼んだときも、アルストには断られてしまった。
座っていいと言ったのに、それでも彼は傍らに立っている。
呼びつけることには成功したが、言えば、呼びつけることにしか成功していない。
イルディアは、アルストがちっとも構ってくれないことが不満だった。
「ねー、僕って女神さまなんだよ?」
「おや、ご自身で否定しておられましたが」
「みんなが僕を呼んだんだよ?」
「ええ、そうですとも。あなたは救いの女神ですので」
「もうちょっと大切にしない?」
「丁重に扱っているではありませんか」
アルストは素っ気ない。
実に素っ気ない。
どうにも素っ気ない。
この上なく素っ気ない。
とはいえ、アルスト自身も退屈していた。
儀式の口上は前置きが長い。
要約していえば
"女神さま、来てくださってありがとうございます。
戦の場は危険ですから、気をつけて行ってください。
我々には、もう貴女しかおりません。頼りにしています。
ついでに付き人の神官も、どうか守ってやってくださいませ"
くらいなものだ。
それを七人もの人数を割いて、たっぷりと無駄な文言に装飾させて読み上げる。
形式的なもの、儀式とはそういうものだとわかっている身であっても退屈だった。
どうにも、そういったことが苦手らしい女神──イルディアが不満げにする意味はわかる。
アルストとて、無理解ではない。察することには長けているタイプではあった。
(……まぁ、ちょっとした仕返しだ)
アルストは内心、ふっと笑った。
自分をわざわざ巻き込み──もとい同行する付き人に選んだイルディアへの意趣返し。
アルストは真面目な男ではあるが、大人げがなかった。