17:弱いなどと決め付けるでないわ!
──煌々と輝く月が空を飾る夜。
そびえ立つのは、夜の闇に溶け込む黒壁の城。
普段は静けさに包まれている城内に、ざわめきが起こった。
月明かりに照らし出された廊下を駆ける一人の足音。
足音はホールを駆け抜け、
二股に分かれた階段を駆け上がり、
静まり返った廊下を抜けて最上階へ。
敬礼する兵には目も暮れず、長い黒髪を背で弾ませながら
「──陛下ッ! 」
その人物は、玉座の間へとたどり着いた。
「人間共により、トワイライトが呼び覚まされたと」
黒髪の人物が放った言葉に、扉の両脇を守る兵士達がざわついた。
壇上にある玉座に座る人物は動かない。
代わりに、壇上へ繋がる階段に座っていた銀髪の男が首をかしげた。
「あら、ホントぉ? ようやくって感じねェ……」
「──クイリィ」
「分かってるわよ、怖い顔しないで。シエン」
銀髪の男は、艶かしく唇を歪ませた。
女性的な言葉を操る彼──クイリィは、魔王の足元を守る四天王の一人。
対する黒髪の青年──シエンもまた、四天王の座を飾る一人だ。
「みんなを呼び戻すわ。準備してあげなきゃね? ──ねェ? 陛下」
クイリィが玉座を見上げた。
月明かりを受け、逆光になっている玉座に座る人物の表情は読めない。
シエンは「早急に準備を」と告げる。
前線に位置する土地に人間達の移送陣があることは確認されていた。
兵糧攻めを狙い、物資の補給を絶つために狙いをつけていたが、
とんだ副産物があったものだ。
「──ほほう、あのトワイライトが来たる、か……」
玉座の人物が軽く手を挙げれば、兵達はみな頭を下げて膝をついた。
甲冑の音が止まったとき、クイリィとシエンが隣に並び合った。
「是非もなし。先代の仇、必ずや討ってみせようぞ」
玉座より立ち上がるのは、小さな影。
薄桃色の長い髪。
左右のこめかみから伸びた小振りの赤い角。
真っ白な肌。
ちょこんと覗く牙。
ふっくらとした小さな唇。
薔薇のような赤い瞳。
蝙蝠を思わせる羽。
そして、フリルをふんだんにあしらった黒基調のドレス。
「わらわが最も美しいと! 人間どもに知らしめるのじゃっ!」
おぞましい魔族を率いると恐れられている魔王は、
──愛らしい小柄な幼女であった。