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現代病床雨月物語   第二十話  「民とマリア観音 (その一) はじまりは河内(かわち)から」 秋山 雪舟(作)

作者: 秋山 雪舟

私が二度目の入院をした二〇一六年の秋ごろからよく見る夢がありました。戦国時代のサムライの奥方が幾度となく現われました。私に何かを訴えているのですが聞きとれませんでした。私は彼女が夢から消える時、胸に手を当てている事に気が付きました。彼女は胸の十字架に手を当てていたのです。彼女はキリシタンでありました。私は初めての入院時のマリアの出現と何か関係があると思いました。また、新聞で二〇一六年に高山右近が「福者」になったのを知っていた私は何か見えない力が働いているのではないかと不思議に思いました。それと同時に少年時代の記憶が蘇って来ました。少年時代から二〇歳になるまで大阪府四條畷市に住んでいました。私の住んでいた場所は静かな所でしたが一年に一度だけ華やかになる日がありました。それは八月十二日です。その日は夕方から縁日が始まります。その縁日の名前は、今では使われませんが目の不自由な方を表す言葉でした。「私たちは○○○いち」と呼んでいました。古くからの言い伝えでは昔、囚人が目隠しをされ縄で繋がれて処刑場まで歩かされた道でありその人たちの魂を鎮魂するためにこのいちが始まったと聞いています。またその縁日には必ず近くに住む伯父さんが私の家に来てお小遣いをくれました。いつもは恐い伯父さんでしたがその日はいつもと違うのです。

 私の住んでいた市は河内かわち地方であり四條畷の戦いで歴史の本にのっている所であり、太平記に登場する楠正成(大楠公)の息子である楠正行(小楠公)が活躍した土地であります。その後、キリシタン(=西洋文明)との出会いにより信長・秀吉は天下を掌中に治めました。この河内かわちは信長・秀吉の時代は全国のキリシタンの中心的位置を占め一大勢力圏でありました。日本のキリスト教のサンクチュアリでありました。しかしその後の家康は大阪夏の陣(一六一五年)の時にこの四條畷に本陣を置き大阪方(豊臣秀頼・淀君)のキリシタンの抵抗を抑え込もうとしました。家康は次の年(一六一六年)に亡くなります。

一説では野崎の観音まいりは大阪夏の陣と同じ五月に行われ殉教したキリシタンの鎮魂のためであると聞いた事があります。また大阪夏の陣で生き残ったキリシタンの子孫の一部が九州で天草四郎(益田四朗時貞)と一六三八年に殉教しました。今から三八○年前の事でした。

 また日本は神仏習合の国と言いますが。仏教を導入した「厩戸皇子」である聖徳太子は、ギリシャ・ローマの文明である景教(キリスト教)も知っていました。その当時は女帝である推古天皇の時代であります。私は、「和を以て貴しと為す」の考えの中には景教(キリスト教)の考えにも影響されていると思っています。

河内かわち摂津せっつは大阪人の気質を創った源であり、神・仏・基(キリスト教)であり徳川時代の大弾圧により基(キリスト教)が完全に隠されて溶け込んでいるので解からなくなっているのです。大阪の人と京都の人とが仲の悪い本当の理由は、京都の仏教勢力が大阪の開けた考えである基(キリスト教)を弾圧したからであります。また良く言われる「大阪に世界遺産がない」は、別に気にする事はないと考えます。例えば四天王寺の寺と鳥居こそ日本の成り立ちを伝えている象徴だと思っています。しかしそう言う事よりも大阪の世界遺産は物ではないからです。大阪の世界遺産は、生きとし生ける大阪人そのものだからです。

私の前に出現したマリアはもしかすると河地かわちの「野崎の観音様」かもしれません。今年の本日(八月十二日)も私の育った四條畷ではキリシタンを鎮魂する縁日が行なわれている事でしょう。苦難の生涯を送った人達に永遠の同伴者のアガペー(愛)がありますように。


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