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灰田くんと八人の切願  作者: 千咲
8/20

#08 灰田くんVS柳田くん1

 深夜。自宅の自室。

 俺はベットの上に座っていた。


(俺の考え通りなら、柳田先輩の力の一つは分かった……でも一つだけ。他にも能力がある可能性はある……)


 俺の『ビック・ハンマー』にも能力を三つ付与しているように、柳田先輩の能力も一つとは限らない。

 その能力いかんでは、楓のように完封負けを喫するかもしれない。

 だが、どれだけ考えてもキリが無かった。


「くそっ……考えても仕方ないか……出たとこ勝負だ」


 俺はそう毒付くと、部屋の電気を消した。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 翌日、木曜日の明和中学校。

 昼休み、俺は図書室で囲碁将棋部の面々と、テーブルの一つを陣取って座っていた。


「じゃあ、俺が枝野先輩と双葉さんの試合、望月先輩が黒崎先輩と楓さんの試合、倉田が椿と御堂の試合、そして――」


 司会役を務める金本が話をする。


「私が灰田と柳田先輩の試合ね」


 川原が金本の話を遮り、得意気に語る。


「あぁ……それぞれ、担当する試合を見てくるんだ」


 金本は気をそがれたようだが、そのまま続ける。


「特に川原の役目は重要だぞ」

「分ーかってるってばー」


 川原は気楽な様子でそう言う。


「柳田先輩の能力を解き明かすんでしょ? これで……」


 川原はそう言って懐からカバンを取り出す。


「壊さないでくださいよ……」


 倉田が小声でそう呟く。


「分かってるなら良いけど……灰田のこと、頼んだぞ」

「まーかせなさーい」


 心配そうな金本に、あくまで軽い態度の川本。


「みんな……その……すまない」


 俺は何だか申し訳なくなって、謝った。


「なんで謝るのよ? そこは感謝の気持ちを伝えて欲しいわね」


 川原がやれやれと呟く。


「……ありがとう」


 俺は感謝の言葉の述べて、頭を下げる。

 囲碁将棋部の面々は、楽しそうな笑顔を見せた。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 放課後。俺は自席で時計を見ていた。


(十六時……十五分前……そろそろ行くか……)


 俺は席を立つと、校舎の四階に向かって歩いていく。

 階段を上に上った最上階が四階だ。

 俺は階段の踊り場まで来ると、ぎょっとした。


「な……」


 階段の踊り場には生徒たちでひしめいていた。

 ほとんどが三年生、恐らく四階に居た生徒たちだ。


「す、すみません……通ります」


 三年生の人込みをかき分けて、俺は階段を登っていく。

 やっとの思いで四階に出ると、そこは一転して誰も居ない、静まり帰った廊下が広がっていた。廊下の左右には教室があり、左側は三年生の教室が、右側には図書室や特別教室などがある。


「なんか……ひとっこ一人居ないのも変な感じだな……」


 恐らくミオンが人払いしているのだろう。

 階段の踊り場に生徒がいるところを見ると、階段までの全て四階として使うのか?


「おーい」


 その声の主は、すぐ先に居た。

 四階の廊下の中央。


「こっちこっち」


 ミオンは手招きしている。

 俺はミオンの方に歩いていく。途中、手前のクラスを覗いてみる。教室の中にも誰もいないようだ。


「四階全部を使うのか?」


 俺はミオンに尋ねる。


「ああ、教室の中には誰も居ないから、存分にやってくれたまえ」


 ミオンは両手を広げなら、そう話す。

 俺は四階を改めて見渡す。この間の体育館とは違う意味で広かった。各教室を使えるということは、それだけ視界を切りやすいということだ。『エアシュート』を封じやすそうだ。


「あ、柳田くん。おーい、こっちこっち!」


 柳田先輩は俺が来たのとは、反対にある階段から現れた。

 長身、細身……なぜか白衣を着ている柳田先輩はゆっくりとミオンの方へと歩いて来た。


「…………」


 俺はポケットから濡れたハンカチを出して、それを頭に巻いた。口を隠すためだ。

 それから通信機のスピーカーを耳につける。スピーカーはマイクと一体型のタイプだ。


「……ほぉ?」


 柳田先輩は興味深そうに、そう呟く。

 ミオンは嬉しそう笑う。

 俺はミオンの笑みで確信した。


(やっぱり……柳田先輩の能力は……『空気』だ。目に見えない空気状に心衣領域を展開してるんだ。楓はそれにやられた……恐らく楓が心衣領域を展開した時には既に周囲を空気で囲んでいたんだ)


 効果時間は分からないが……楓の倒れた時間から見て数秒から十数秒。それだけの時間吸い続けると気絶してしまうのだ。

 俺は『ビック・ハンマー』を展開する。

 柳田先輩は何も出さない……だが、恐らく既に空気状の心衣領域を展開しているのだろう。


「ふむ、二人とも準備は良さそうだね……」


 ミオンが呟く。

 柳田先輩は薄ら笑いを浮かべて話す。


「吾輩の能力、お見せしよう……見えればね?」


 ミオンは手を振る。


「試合開始!」


 同時、俺の姿が消える。

 俺は真後ろに飛びつつ、『エアシュート』で柳田先輩を狙い撃った。

 柳田先輩は薄ら笑いを浮かべたまま、その場から動いていない。


(喰らえ……!)


 ハンマーの衝撃が柳田先輩を直撃した。

 次の瞬間、柳田先輩の姿がぐにゃりと曲がった。


「なっ!?」


 ハンマーの衝撃が直撃した胴体部分から柳田先輩の姿が煙のようにかき消え、足首と頭だけを残すのみとなった。

 やがて足首と頭も消え、柳田先輩の姿はどこにも見えなくなった。


「川原、柳田先輩は……!?」


 俺は耳元のマイクに怒鳴った。


「待って……ダメ、どこにも居ない!」


 川原の声が耳元のスピーカーから響く。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 川原優枝は一階の調理室でノートパソコンを見つめながら、マイクに向かって怒鳴っていた。


「ともかく、あんたは動き回って! 相手に狙いをつけさせないで!」


 ノートパソコンには、校舎の四階の映像が映っていた。映像は八カ所に分かれており、その内の一カ所に灰田の姿が映っている。


「ああ、分かってる!」


 灰田の姿がノートパソコンから消える。


(各クラスにも……居ない……特別教室は……ダメ、いない)


 ノートパソコンの映像は、校舎の四階に設置された隠しカメラの映像だ。

 昨日、囲碁将棋部で灰田を助けると決めた後で、倉田が四階に隠しカメラを仕掛けたのだ。おまけにそれをノートパソコンで見られるようにした。倉田はこの時点で取り返しのつかない校則違反だが、使えるものはありがたく使う。それに、いざとなれば囲碁将棋部の全員でやったことにするつもりだ。罪を被るのも全員でだ。


(それにしても……まさか柳田先輩の姿が煙みたい消えるなんて……どういうトリック!?)


 川原は耳元のスピーカーをぎゅっと握る。

 このスピーカーも倉田が用意したものだ。スピーカーとマイクが一体型になっているタイプで感度は良好。


(煙になる能力? それとも幻影?)


 可能性が高いのはどっちだ……?

 煙みたいに自身を変えられるなら探すのは困難だが……。

 そこで昨日の出来事が思い出される。

 理科室の爆発だ。あの時、柳田先輩の姿はどうだった? その姿はボロボロになっていた。煙みたいになれるなら、あんなことにはならないはず。


「灰田、柳田先輩は多分、透明になってる!」




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




「透明!?」


 灰田健太は走りながら、耳元のスピーカーに叫ぶ。


「そうよ、周囲の空気を操作して……こう……なんやかんやで透明になってるの!」


 スピーカーから川原の声が響く。

 アニメで見た記憶がある……確か……光学迷彩とかいう奴だ。アレみたいなものか。


「そういうことなら……話は早い」


 俺は廊下の突き当りまで行くと、走るの止めた。


「ふぅ……」


 俺は深呼吸すると、ハンマーを構える。

 そして走り出した。

 ハンマーを振り回しながら。


「廊下全部、叩き潰す!」


 次の瞬間、廊下中を衝撃が襲う。

 俺のハンマーが廊下を叩いた衝撃だ。

 衝撃で校舎が震える。

 ミオンの姿はいつの間にかない。どこかへ行ってしまったようだ。

 やがて廊下の突き当りまで到着する。


「はあ……これだけ叩いて手応えなしか」


 俺は振り返る。

 廊下は燦々たる有様だった。

 俺のハンマーで叩かれた箇所は衝撃でクレーターが出来ており、廊下は凸凹になっている。


(これだけ叩いて手応えが無いってことは……教室の中か……)


 俺は教室を睨む。


(どの教室にいる?)


 すると数十メートル向こうの教室のドアが突然開く。

 次の瞬間、俺は『エアシュート』で教室のドアを叩いた

 衝撃が響く。

 教室のドアは粉々になっている。


「……外したか?」


 俺は呟く。


「どうする?」


 スピーカーから川原の声が響く。

 俺は考えた。

 どう考えても誘いだ。だが……他に手掛かりが無いなら……行くしかない。


「行こう」


 俺は覚悟を決めて呟く。


「あの教室にはカメラはない……気を付けてね」

「あぁ」


 スピーカーから響く川原の声に答えると、俺は前に進む。

 教室のドアの残骸が近づいてくる。

 俺は教室の中を覗く。


「…………」


 中を覗く。教室の中には誰も居ない。居ないように見える。

 俺は『エアシュート』で室内を打ち付けた。

 机やイスが衝撃で飛ぶ。

 俺は構わずに打ち続けた。

 やがて燦々たる有様になった室内に俺は入っていく。

 俺が教室の中央付近に来たときだった。

 突如、衝撃が俺を襲った。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 ミオンは校舎の四階の外、宙に浮いていた。

 すぐ隣では煙を上げる教室がある。


「はぁ……」


 ミオンは溜息をつく。

 私が学校全体を心衣領域で覆ってるから良いものの……これは普通なら警察とかが来ても良い事態だ。

 ミオンの心衣領域によって、この学校は外から見るとなんの異変も起きていないように見える。


「まったく派手にやってくれるな……」


 柳田くんの心衣領域の力だ。


「勝負ありかな……?」




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 灰田健太は教室の中で横たわっていた。

 教室は酷い有様だった。

 爆炎がもうもうと炊き込み、窓はすべて割れている。


「――だ――灰田!」


 耳元で川原が呼ぶ声が聞こえる。


「……生きてるよ」


 俺は呟く。


「良かった! 何が起こったの!? こっちからじゃ教室の中まで見えなくて……」


 俺は身を起こす。

 咄嗟に『ビック・ハンマー』の打撃部分を盾にしたのが良かったか、何とか無事だ。


「……痛っ!」


 痛みが俺の腕を襲う。

 机の破片が腕に刺さっている。


「……ふんっ」


 俺は痛みを我慢して、破片を腕から引き抜く。


「爆発だ……教室を爆破しやがった……」

「爆発!? それで大丈夫なの!?」


 俺は周囲を確認する。


「あぁ……くそっ……これも柳田先輩の力か」


 思えば昨日の理科室の爆破。

 あれも心衣領域のテストだったのではないかと思えてくる。

 俺は入口から出ようとして止まる。


(入口は……待ち伏せされているか?)


 俺は踵を返すと『ビック・ハンマー』で壁を叩いた。

 『錬成』で壁を変形させて扉を作る。


「……これで良し」


 俺はドアを潜って、隣の教室へと移動する。

 そこは前の教室と同じ作りで、黒板に向かって机が同じ感覚で並んでいる。

 俺は教室の中を先へ進んだ。

 そこで――再び、俺を衝撃が襲った。

 今度の爆発は先程の比ではなかった。

 凄まじい爆発は机を吹き飛ばし、窓ガラスを割り、衝撃は校舎全体を揺らす。

 俺は咄嗟に『錬成』で壁を作り、爆発の直撃を避けたが、それでも壁は粉々に砕けて俺は吹き飛ばされた。

 俺は爆発で聴覚がやられていることに気付く。


「あー……あー……」


 ダメだ。しばらくは耳鳴りで使えない。

 それにしても……タイミングが良すぎる。

 俺が隣の教室に入ってすぐじゃないか……これは柳田先輩は教室のドアから見ていた? いやドアから見ていたにしては爆発の規模が大きすぎる。これじゃ自分まで巻き込みかねなかった。


(くそ……いったいどうなってる……?)


 俺は『エアシュート』で教室のドア……ドアの残骸を吹き飛ばした。

 何か分からないが教室の中はまずい気がした。

 俺は廊下に出る。


(柳田先輩は……どこに居る……?)


 俺はふら付きながら、廊下を進む。

 やがて廊下の奥について、一息つく。

 俺は耳を叩く。

 まだ駄目だ。けど耳鳴りは少しずつ治ってきている。


「――……っ!?」


 俺の視界が二重にぼやける。

 意識が飛びそうになる。


(……柳田先輩の心衣領域!?)


 頭に巻いているハンカチのおかげで、楓のように気絶はしなかったが……マズイ!

 俺は思わず全力で走り出した。

 足がおぼつかず、真っすぐに走れない。

 途中で壁に激突しながら、俺は廊下の反対の突き当りまで来た。


(……ち、力が抜ける)


 俺は唇を噛み切り、痛みで意識を保つ。


「――だ――灰田!」


 耳元で叫ぶ声が聞こえる。川原だ。


「……川原か」


 俺は寝ぼけた声でそう呟く。

 川原は溜息をつく音が聞こえる。


「無事だったなら、すぐに返事よこしなさいよ!」


 川原が怒鳴る声がやけに遠くに聞こえる。


「あぁ……爆発で、耳が……やられてた……んだ……隣の教室に、入ったとたんに……どかんて……」


 俺ははっきりと喋ったつもりだったが、口からこぼれたのは、寝ぼけたような口調の声だった。


「ちょっと、あんた大丈夫なの!? 口調が変よ!」


 川原が耳元で騒ぐのが聞こえる。


「柳田先輩の……能力だ……ちょっと、喰らっちまった」


 俺は思考の定まらない声でそううめく。

 やぱい……考えがまとまらない……柳田先輩の力は麻酔に似た効果があるのか。

 だんだんと頭がぱぁになってくるようだ。


「しっかりしなさいよ、妹を助けるんでしょ!」


 そうだ……妹……助ける。


「あぁ……妹のパンツは俺が守る……」


 ん? なんか違うような……?


「……聞かなかったことにしてあげる」


 なんだ、何か変なことを言ったか?

 川原の声が聞こえなくなる。

 俺はまた聞き逃したかと思い、スピーカーに耳をすませる。


「……走って」


 川原の声がそう告げる。


「……え?」

「走って! 走ってる間は相手も狙いが付けられないから!」


 俺は川原の声に従って走り始める。

 考えがまとまらない状態の俺は、スピーカーから聞こえる声が頼りだった。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 調理室の中、川原優枝は考えていた。


(どうなってるの……教室の爆破……どう考えてもタイミングが良すぎる)


 教室の入口から見ていた? いやそれにしては爆破が強すぎる。

 ノートパソコンに映る廊下の映像には、爆破の瞬間、教室の外まで爆破の衝撃と爆炎が映っていた。


(どうやって教室を移動したのを察知した?)


 爆発の直前に教室の前から走って逃げたとか……。

 いや、近くの廊下を走っていれば足音が聞こえるはず。

 やはりどう考えても妙だ。まるで教室の中の様子が見えていたとしか思えない。


「……ん?」


 ノートパソコンを見る。

 そこには今も律儀に四階の廊下の様子を映す映像があった。


(……私と同じことを……相手もしていたとしたら?)


 いや……同じことじゃなくても良い。

 教室の中を他の生徒に覗かせていたとしたら……?


「まさか……」




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 柳田飛雄は薄ら笑いを浮かべていた。

 こちらの攻撃は順調に向こうの体力を奪っている。

 先程はもう数秒あれば完全に気絶させられたが、それでも十分フラフラにはできた。


「こちら赤井! ターゲットは教室にはいません!」

「こちら青井! ターゲットは特別教室にもいません!」

「こちら緑谷! ターゲットは廊下を走っているようです!」


 耳元のスピーカーから連絡が入る。

 赤井、青井、緑谷には学校の周囲から双眼鏡で見た光景を、無線で伝える役割を持たせている。

 教室の中を移動したのも赤井からの通信でまる見えだった。


(吾輩の勝利は目前だ……)


 だが、勝利が目前だからと言って油断したはいけない。

 灰田はまだ走り回っている。動きが止まらないうちは近つかない。

 そう……吾輩は脆い肉体に縛られているのだから。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 柳田飛雄は子供ころから実験好きだった。

 幼少期にお爺ちゃんのくれた大百科を隅から隅まで読みつくし、知識をつけると、今度は実際に実験して、その知識を試すようになる。

 幼稚園のときだった。トンボの羽を毟って遊ぶ同級生をよそに、水素と火で爆発が起きるのは本当だろうかと、水の電気分解をして水素を作ろうとした。結果は幼稚園のボヤ騒ぎで終わった。

 母にこっぴどく怒られた。


「なんであんなことしたの?」


 母に水素は本当に燃えるのか知りたかった、と言うと、母は呆れていた。

 吾輩は呆れる母に申し訳なさを覚え、今後は呆れられないようにしようと決めた。

 小学校低学年のときだった。女子のスカート捲りに没頭する同級生をよそに、消火器の構造が気になり、クラス中を消火器の煙まみれにした。

 母にこっぴどく怒られた。


「ほんとにどうしてあんなことしたの?」


 母に消火器の構造を知りたかった、と言うと、母は呆れていた。

 吾輩は呆れる母に疑問を持った。母はわからずやだ。

 吾輩は母に期待するのをやめた。

 小学校高学年のときだった。ピンポンダッシュして遊ぶ同級生をよそに、地球の重力を確かめるために屋上から飛び降りた。茂みに落ち、全治三か月の骨折だった。

 母にこっぴどく怒られた。


「もうあんたはどうしてこう……普通にできないの!」


 吾輩は無視した。

 吾輩はベットの上で考えた。人間はなんてもろい生き物なんだと。

 屋上から飛び降りただけでこれか。

 これでは試したい実験も碌に出来ず、死を迎える。

 準備。そう準備だ。吾輩はここに来てようやく人並みの危機感を持った。

 危ない実験を行うときには事前に死なない程度の準備がいるのだ。

 それからの吾輩は、ボヤを起こせど死なない範囲で実験を続けた。


「……足りない」


 実験を続けるうち、肉体の限界に強い不満感を感じるようになった。

 己の肉体の弱さが、脆さが、あまりに脆弱に過ぎる。

 これではやりたい実験の半分も出来ずに吾輩はその生涯を終える。

 そうだ……肉体を捨てれば良い。

 自らの肉体は実験に耐えられないならば耐えられるように、肉体を捨てれば良い。

 それから吾輩は調べた。肉体を捨てる術を。

 そしてたどり着いた答え場……電子生命体だった。


「はははは素晴らしきかな電子生命体!」


 それは吾輩の求める理想の肉体だった。

 ケガも、病気も、死すら超越した肉体!

 だが……惜しむらくは、現代科学がその領域に足を踏み入れるには年月が足りない。

 吾輩は絶望した。

 このまま吾輩の野望は潰えるしかないのか。

 そんなとき……神が現れた。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




(八人の戦い……勝てばミオンに願いを叶えてもらえる)


 柳田飛雄は薄ら笑いを浮かべる


(そんなことで吾輩の夢が叶う……)


 廊下では未だ灰田が走り回っているのが音で分かる。

 無駄なことを……吾輩はそこには居ない。


(もうすぐだ……あと六人……いや、もうすぐ五人か……全員まとめて吹き飛ばす)


 柳田飛雄は冷たい笑みを浮かべた。

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