表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰田くんと八人の切願  作者: 千咲
7/20

#07 灰田くんと爆発

 俺、灰田健太は悩んでいた。

 夜の自宅の自室。

 日課の筋トレも終わり、柳田先輩の力について考えていたのだ。


(どうする? 試合は二日後だってのに柳田先輩の力が分からない)


 いっそ試合開始と同時に『エアシュート』で速攻を狙うか?

 だが、それで決まらなかったら。もし予想外の能力で攻撃されたら……。


「…………」


 どう考えても情報が足りなかった。

 もう少し、確度の高い情報が無ければ、こちらの作戦も……。


「……あ」


 そうだ……確度の高い情報なら一つ心当たりがある。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




「頼む、柳田先輩との試合のことを教えてくれ!」


 翌日、水曜日の昼休み。

 俺は一年の楓の教室の入口で、深々と頭を下げていた。

 下げている相手は楓だ。

 楓は慌てた様子で俺に向かって口を開く。


「え、ええ? えと……あ、頭を上げてください……そ、そんな、改まって頼まれることじゃないですよ、灰口さん」

「灰田! 俺の名前は灰田だから! 口じゃなくて田だから!」


 楓は一層慌てた様子で取り繕う。


「あ、あわわわ……す、すみません……は、灰田さん」


 この子、わざと間違えてるんじゃないかと思ったが、この慌てようはまず間違いなく本気で間違えてる。前回、間違えていた灰が合っていただけ良しとしよう。


「そ、それで……一昨日の試合のこと、教えてくれるのか?」


 楓は周りをキョロキョロと見渡す。


「あ、あの……ここだと、目立っちゃうので……べ、別の場所なら……」


 クラスの中の生徒たちは好機の視線をこちらに向けている。

 楓はそれだけで、居心地が悪そうだ。


「あ、ああ。全然構わないよ。ありがとう!」


 お礼を言われた楓は、照れ臭さそうにはにかむ。

 俺たちはグラウンドの隅の芝生の上で話すことにした。

 グラウンドでは昼食を終えた生徒たちが遊んでいる。

 俺たちは芝生の上に横並びに座り、話をする。


「それで試合のことだけど……」

「は、はい……」


 楓は緊張しているのか、どこかぎこちなかった。


「……し、試合のことなんですけど……わ、私……開始直後に負けちゃって……だから……あんまり参考になるか……」

「あぁ、それでも良い」


 楓の試合がすぐに終わったのは昨日、金本から聞いていた。

 俺がそう言と、楓はほっとする。


「そ、その……柳田先輩なんですけど……ど、どんな能力かは分からなくて……力を使っていなかったみたいで……」

「うん……」

「わ、私の力は……」


 楓はそう言うと、両手を突き出す。

 すると楓の周囲に正方形の障壁が現れ、楓の前後左右と上部を囲んだ。


「こ、この障壁を張っていました……」

「…………」


 あまりに自然な流れで自分の心衣領域を使ったので、止める間も無かった。


(まぁ……よく考えたら、大勢の前で使ってるんだし、バレても今更か)


 俺はそう思って、突っ込むの止めた。


「そ、それで、試合が始まったんですけど……柳田先輩は動かなくて……わ、私も攻めて良いのか迷ったけど……や、やるしかないって思って……仕掛けようとしたら」


 楓はぎゅっと両手を握る。何かつらい事を思い出しているようだ。


「と、突然……胸が……苦しくなって……倒れちゃったんです……あ、後のことは覚えてません」


 楓は心衣領域を消す。語り終えた楓はどこがほっとしている様子だ。


「胸が……?」

「え、えと……はい」


 俺は考える。胸が苦しくなった……もしかして。


「ちなみに胸が苦しくなった時に呼吸は出来てた?」

「え、ええと……出来て……なかった、と思います」


 やはりか。

 もし俺の想像通りなら、柳田先輩の力の一つははっきりした。


「ありがとう、参考になったよ」


 俺は立ち上がる。それを見た楓も慌てた様子で立ち上がる。


「さ、参考になったのなら……良かったです」


 俺はやや考えてから『ビック・ハンマー』を出した。

 巨大なハンマーが俺の手の中に現れる。


「これが俺の心衣領域。一昨日の試合について教えてくれたお礼だよ」

「お礼……?」


 楓はきょとんとして首を傾ける。

 俺は構わずに続ける。


「それから一昨日の俺の試合の内容だけど――」


 俺は楓に椿との試合のことを話す。

 楓はなんで自分に話すのか理解できないという顔で、俺の話を聞いていた。


「――というわけだ」

「は、はぁ……」


 話し終えた俺は、心衣領域を消す。

 楓はぼんやりした雰囲気で答える。


「…………」


 俺はその楓の顔を見て、このままでは駄目だと確信した。


「楓……君には交渉事に関する知識が足りない」

「交渉事……?」


 俺は力説した。


「そうだ。俺に試合のことを話したり、自分の心衣領域を見せたり……それは俺にとってメリットだけど、君にとってはデメリットなんだ。その分、君は俺に何かを要求することができる。普段の君がどうあれ、この八人の試合では、もっと君は狡猾になるべきなんだ。でないと、いつか君はずる賢い奴に出し抜かれるぞ! それは嫌だろ!」

「い、嫌……です」


 楓はふと思いついたように、俺に聞いてくる。


「な、なんで灰田先輩は心衣領域を見せて、一昨日の試合のことを話したんですか? だ、黙ってれば、私は何も気付かなかったと思うんですけど」

「それは……俺がそうしたいと思ったからだ」


 母が亡くなってからの八年ちかく、俺は良いお兄ちゃんであろうと努めてきた。例え妹でなくても年下に対する虐めは許さなかったし、年下の子が何か困っていれば相談に乗った。その俺のプライドが、楓をこのままにしておくことを許さなかった。


「そ、そう……ですか」


 楓は分かったような分からないような表情だ。


「とにかく……試合の話は参考になった。ありがとな」


 楓の頭をポンポンと撫でる。


「…………」


 楓は黙って、撫でられている。


「じゃあな」

「……あっ……はい……じゃあ」


 楓はハッとした様子で、慌てて返事をしてくる。

 俺は後ろ手に手を振り、その場を後にした。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




「おーい、灰田」


 その日の放課後、俺は金本に呼び止められた。

 いつものように妹の病院に見舞いに行こうとしていた俺は、早く帰りたいという衝動を抑えて返事をした。


「なんだ?」


 金本は興奮気味に話す。


「今日の放課後、囲碁将棋部のみんなで集まろうって話になっててさ。ほら、桜田先生が言ってたろ、部活の承認に一週間くらい掛かるって。やっと承認おりたんだよ。それで記念すべき第一回目の部活動をしようってことになってさ!」


 金本は嬉しそうに話す。

 そうか……もうそんなに経ってたか。

 

(妹の見舞いには部活の後で行けば良いか……)


 俺は内心でそう呟くと、金本に返事をした。


「分かった、行こう」

「あぁ……!」


 その日の部活動は理科準備室で行うそうだ。

 先行して廊下を歩く金本の後に、俺は続く。


「部室はまだ桜田先生が調整中らしいんだ。今日のところは以前と同じ理科準備室で行うよ。部活は週三回を目途に考えてて、月、水、金にやる予定なんだ」

「へえ……」


 やがて理科準備室につくと、他の三人はもう中に居た。


「やっほー、金本、灰田」


 川原が気楽そうに手を振る。


「こんにちは~」


 望月先輩が笑顔で手を振る。

 俺は笑顔で理科準備室に入った。

 ふと話し声が聞こえるの気が付き、俺は足を止める。


「……?」


 話し声は隣の教室、理科室から聞こえてくる。

 理科準備室の奥には扉があり、そこから理科室へ繋がっている。

 話し声はそこから聞こえてくる。


「理科室、誰か来てるのか?」


 疑問に思った俺は質問した。


「あぁ、活動停止中だった化学部よ。今日から活動再開して良いんだって」


 川原が何か嫌そうにそう言う。


「化学部……」


 確か柳田先輩が部長をしている部活だ。

 その時、理科室から大声で叫ぶ声が聞こえる。一泊遅れて理科室のドアを開けて廊下に走っていく音も聞こえてくる。

 理科準備室の囲碁将棋部の面々もぎょっとする。


「なんだ……?」


 俺は気になって理科準備室の奥にあるドアを開けた。

 次の瞬間――衝撃が俺を襲った。


「――っ!?」


 何が起きたのか分からなかった。

 俺はどうなった。

 自分の体の状態を確認する。手足は動く……どうやら生きているようだ。

 俺は理科準備室のドアの前で横になっていた。


「な……なんだ……?」


 理科室と理科準備室をつなぐドアはひしゃげており、理科準備室の室内は煙が充満していた。


「ケホケホケホ……なんなのよもう!」


 川原の声が聞こえる。

 見ると、川原は煙を避けてかがんでおり、煙で咳込んでいた。


「ば、爆発……?」


 同じようにかがんでいる金本が、眼鏡を拭きながらそう言う。

 俺は爆発で吹き飛ばされたのか……。

 俺はよろよろと起き上がる。


「理科室の方から……?」


 俺は理科室の方へと歩いていく。


「けほっ……凄い煙……」


 理科室の中はさらに凄惨だった。

 窓ガラスはすべて割れており、机は逆さまにひっくり返っている。

 ビーカーや試験管は床に落ちて割れているし、理科室全体には煙が充満している。

 その時、高笑いが聞こえてくる。


「ははははははははははケホケホっはははは!」


 俺は高笑いの声の主を探す。それはすぐに見つかった。

 理科室の中央、煙の中に仁王立ちしている人物が居る。


「成功けほっだ! どうだ見たか、このけほっ威力を!」


 その人物は咳き込みながら、堂々とした様子で語る。長身に細身、白衣を着ているが、白衣は爆発の影響かボロボロになっている。


「素晴らしいケホっ爆発だろ! 吾輩の辞書にけほっ準備不足の四文字はないのだ! はははははははけほっけほっ」


 その人物は柳田先輩だった。

 爆発を起こした犯人は……柳田先輩か。


「すみません……柳田先輩」


 俺は柳田先輩へと声をかける。


「ん?」


 柳田先輩はこっちを見る。


「これはなんですか?」

「……おお!」


 尋ねる俺に、柳田先輩は近づいてくる。


「灰田ではないか!」


 がしっと両肩を掴んでくる。


「……なっ!?」

「どうしてここに! そうか吾輩の実験を見学しに来たのか! そうと分かれば心行くまで見ていくといい! ちょうど今、新しい実験を始めようとしているところだ! おい!」


 俺の肩を抱きかかえ、理科室の奥へと声を掛ける。

 声に答えるように理科室の残骸の中から生徒たちが三人這い出して来る。


「呼ばれて飛び出て、赤井! ここに!」


 細身で眼鏡を掛けた男子生徒が、壊れたイスの下から出てくる。


「爆発暴発なんのその、生きております、青井! ここに!」


 眼鏡が割れ欠けた女子生徒が、物陰から出てくる。


「地の果てまでお供します、緑谷! ここに!」


 長身で眼鏡をかけた男子生徒が、机の下から出てくる。


「ああ、素晴らしきかな! お前たち生きていたか! 吾輩は生きていると信じていたぞ!」


 這い出して来た三人を嬉しそうに迎える柳田先輩。

 三人は恰好は爆発でボロボロだったが、それでも意気揚々と柳田先輩の元に集った。

 柳田先輩はきょとんとした顔をして、周囲を観察している。


「……他の部員はどうした?」

「はい! 先輩が爆発を起こす前に全員逃げました!」


 赤井が答えると、柳田先輩は嘆かわしそうにうめく。


「そうか……」


 だがすぐに笑顔になる。


「なら彼らは無事だな、良かった良かった!」

「良くないわよ! けほっ」


 川原がそう言いながら理科室に入ってくる。


「何あの爆発! どういうつもりよ、ええ? 見てよ、制服煤だらけよ! それに理科準備室も! 煙だらけだし! ドアも壊れているし! それになにこれ、理科室メチャクチャじゃない! あんたどう責任とるつもりよ! ええ!」


 川原はそう言うと、柳田先輩を問い詰める。

 するとそこへ思いがけない声が響く。


「……やれやれ、これはまた派手にやったもんだね」


 その声が響くと同時、周囲の煙が理科室の一点に向けて収束していく。

 やがてその一点が光が溢れ、それは人の形をとる。

 現れたのはミオンだった。


「まさか試合でもない日に、ここまで派手にやらかすとはね」


 ミオンはそう言うと、理科室の様子を見渡す。

 先程まで怒鳴っていた川原はミオンが来たとたん、緊張した様子で黙ってしまった。


「柳田くん」


 ミオンは柳田先輩に話しかける。


「なんだい?」

「こういうのは困るんだよ。これじゃ君、また停学処分になっちゃうよ」


 ミオンは理科室の様子を手を広げて示す。


「……それは困った」


 柳田先輩は改めて思い至った、という風に答える。

 ミオンは溜息をつく。


「本当はやりたくないんだけどね……まぁ君の場合は仕方ないか」


 ミオンは柳田先輩に向けて、右手を伸ばす。次の瞬間に柳田先輩は何かに掴まれたように背筋を伸ばす。ミオンは右手を握った。


「これで良し。君は八人の試合が終わるまでは実験禁止だ」

「……はあ? ちょっと待て、ちょっと待ちたまえ! 君は吾輩から実験を取り上げる気か! 正気か! 狂気の沙汰だぞ、これは! 吾輩は実験を通して――」


 ミオンは柳田先輩の口に人差し指を当てると呟く。


「うるさい」

「むぐ」


 柳田先輩は黙り込む。


「それと教室も直しておかないとね……」


 ミオンは両手を上げる。すると理科室はみるみる元通りなっていく。割れた窓も治り、ひっくり返っていた机や、床に散らかっていたビーカーや試験管も、すべて元通りだ。


「これでよし……教師陣には私から説明するよ。やれやれ、教師って苦手なんだよな」


 ミオンはそう言うと、理科室の入口から出ていく。

 取り残された俺たちは数瞬、沈黙が包む。


「…………」


 突然、柳田先輩が膝から崩れ落ちる。


「……吾輩の実験が……出来ない?」


 どうやらショックを受けているらしい。


「クスクス……ねえ、ちょっと見てよ、アレ。実験狂いが実験出来ないんじゃ、ただの狂い、狂人よ。まぁミオン様に言われちゃ仕方ないわよね。これで少しはこの学校も静かになるってもんじゃない」


 川原はそんな柳田先輩に容赦のない追い打ちをかける。

 そんな川原に柳田先輩の周囲に居た三人が反論する。


「なにを言うか! 柳田先輩は実験が出来なくても凄いんだぞ!」


 赤井が声を荒げる。


「そうよ、先輩には知識がある!」


 青井が続く。


「先輩が理科のテストの結果を知っているか! 学年一位だぞ! それ以外の点数は酷いけどな!」


 緑谷も続く。

 最後のは追い打ちじゃないのか。


「やめるんだ、お前たち……」


 柳田先輩がふらりと立ち上がる。

 川原はなにやら構えをとって『アチョー』とか言っている。


「ミオンに言われたのでは仕方ない……それに言われてみれば、確かにミオンが居なければ吾輩は停学処分になっていただろう。いい機会だ……化学部を止めるときが来たのかもしれない……あとのことは頼んだぞ」

「柳田先輩……」

「そんな……」

「うぅ……」


 赤井、青井、緑谷の三人は泣き出す。


「泣くな……吾輩は八人の戦いを生き残り、願いで電子生命体となり諸君を見守っているぞ」

「電子生命体……」


 俺は呟く。


「はぁ、電子生命体? なに言ってのよ、こいつ。頭おかしいんじゃないの?」


 川原は不快そうに呟く。

 どうやらミオンの試合で叶えたい願いまでは、生徒には知らされていないようだ。


「なぜそう思う?」


 柳田先輩は片目を吊り上げてそう尋ねる。


「人の身を捨てて、新たに電子生命体として生まれ変わるのだ。これは……そう進化だ。人間の限界を超えていく、新しい生命の姿だ! 人間のように寿命もない、ケガもない、病気もだ!」


 柳田先輩はそう力説する。


「病気……」


 俺は妹の病気を思い出してそう呟く。


「……そういえば、君の願いは妹の病気を治すことだったな」


 柳田先輩はそう言う。


「え?」


 金本が俺に怪訝な顔を見せる。


(ちっ……)


 俺は内心で毒付きながら、金本から顔を逸らす。


「ん? 言ってはマズかったか?」


 柳田先輩はそう言うと、両手をパンと打ち付ける。


「君の妹のように病気に困っている人々も、電子生命体になれれば解決する。そうだ吾輩が電子生命体になってからやることに、他者の電子生命体化を入れよう! 何せ時間は余る程あるのだから! 何年かかっても実現させよう! ははははははははは!」

「…………」


 俺は黙って柳田先輩の言うことを聞いていた。

 柳田先輩の高笑いが理科室に響く。赤井、青井、緑谷の三人がその周りで拍手をしている。やがて柳田先輩は高笑いを止めた。


「……はぁ……帰ろう」


 急にテンションが下がった柳田先輩は、そう言うと両肩をガックリおろして理科室から出ていく。赤井、青井、緑谷の三人も慌ててそれに続く。

 後には囲碁将棋部の面々だけが残された。


「なんなのよ、もう……!」


 川原はそう言うと地団駄を踏む。

 金本は言いにくそうに俺に話しかけてくる。


「なぁ、さっき言ってた妹さんの病気って……」


 俺はどうしたものかと悩んだが、やがて話そうと決めた。


「ホントだよ。実は――」




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 夕方、駅前の病院。

 その五階、廊下の奥の病室のドアが開く。


「あ、お兄ちゃん、今日は遅かった……あれ?」


 妹が声を掛けてくれる。が、その声が途中で止まる。

 ドアを開けたのは俺でなく、川原だったからだ。


「お邪魔します」


 川原はそう言って部屋に入る。


「ちょ、ちょっと、先に入っちゃマズイよ。こういうのは普通、灰田くんから……」


 そう言いながら、望月先輩が後に続く。

 倉田も無言で後に続く。


「こんにちは」


 金本も挨拶しながら室内に入る。

 最後に俺も続く。

 妹はきょとんとした顔をしたいた。


「え……? えっと……どちら様?」


 妹はそう俺に尋ねる。


「囲碁将棋部の連中だよ……お前のことを話したら見舞いに来るって……」


 俺はバツが悪そうに、そう呟く。


「そ、そうだったんですね」


 妹はそう言うと、ペコリとお辞儀をする。

 川原は嬉しそうに名乗る。


「私は川原よ。よろしくね」


 続いて望月先輩と倉田も自己紹介する。


「金本です。よろしく」


 最後に金本が自己紹介する。


「みなさん、兄がいつもお世話になってます」


 佐代子はそう言って、頭を下げる。


「そんなお世話なんてしてないわよ」


 川原がそう言って、手を振る。

 金本は人数分のイスを持ってきて、ベットの周りに置く。


「これ使って……」


 金本の差し出したイスに座り、みんなでベットの周りを囲う形になる。


「病気のこと聞いたよ、あと半年ってことも……」


 金本がそう切り出す。


「そうですか……」


 妹はそう言って笑う。

 笑ってはいるが、目は笑っていない。


「それでさ……俺たち……頑張るから」

「……は?」


 金本の言葉に、佐代子は訳が分からないという顔をする。

 囲碁将棋部の面々もうなずく。


「はぁ……」


 佐代子は俺を見てくる。


「それより、今日の学校でちょっと事件があってさ……化学部でボヤ騒ぎがあったんだよ。まぁ大したことなかったんだけどな」


 俺は話を変えようと、今日の学校であったことを話した。そのまま話すと大事になるので少し話の内容は抑えたものにして。


「ボヤ? それでお兄ちゃんは大丈夫だったの?」

「あぁ、何ともなかったよ」


 俺は妹と談笑する。

 囲碁将棋部の面々は、笑顔でそれを見守っている。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 時は少し遡り、学校の理科室。

 柳田先輩が出て行ってすぐあと。

 囲碁将棋部の面々は俺の願い、妹の病気を治すことだと聞いて、なぜ言わなかったの問い詰めた。

 俺がなんとなくと答えると、彼らは一層俺を責めた。


「なんで言わなかった」


 金本が珍しく怒った。金本とは中一からの付き合いだったが、こんなに怒った金本を見るのは初めてだった。


「そんな願いなら協力せざるを得ないわねえ」


 川原がそう言って、俺の肩に手を掛ける。


「もう……早く言ってよ、そんな大事なこと」


 望月先輩がそう言ってため息をつく。


「まぁ……同じ部活をやってるわけですし……同じ部活って言っても、まだ碌に活動してないですが……」


 倉田も続く。


「ともかく……そういうことなら俺たちも、ミオン様の八人の戦いで、灰田が勝つことに協力させてもらう」


 金本はそう言うと、他の三人へと聞く。


「他の三人は?」

「異議なーし」


 川原が手を上げて答える。

 他二人もうなずく。


「……なんで?」


 俺は意外だった。囲碁将棋部の面々がこんなにあっさりと協力してくれるとは。


「は? だってあんたの妹の命が掛かってるんでしょ? そりゃ、協力するわよ」


 川原がそう言う。


「俺ら、そんなに信用ないか?」


 金本はそう言って、肩を落とす。


「友達が困ってたら助ける……当然だろ。そんなこといちいち聞くなよ」


 俺は目を背ける。


(……なんだこれ)


 俺はちょっと泣きそうになっているのを自覚していた。

 川原は俺の顔を覗き込んでくる。


「泣いてる?」

「泣いてねーよ!」


 俺は目をこすり、川原に突っ込みを入れる。

 そんなやり取りを見て、金本が笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ